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「娘の命の叫びをきいてください」電通事件・高橋まつりさんの母が訴えた「過労死対策」

相次ぐ過労死事件を受け……

過労死問題に取り組む弁護士たちと、全国過労死を考える家族の会が2月10日、長時間労働の規制を求めて衆議院議員会館で集会を開いた。「電通事件」で過労自殺した高橋まつりさんの母・幸美さんは「娘の死から学んでください」とビデオメッセージで訴えた。与野党の議員が参加し、過労死遺族や専門家たちの話に耳を傾けた。

「高橋さんは、毎日徹夜続きでした」

高橋さんの遺族代理人である川人博弁護士が、連日朝〜深夜に及ぶ高橋さんの勤務状況を報告すると、会場はざわめきだった。

「電通事件は、このような状況を放置した労働行政側の問題も露呈した」「労働時間の厳重な規制が求められる。過労死を発生させないレベルまで、残業時間を削減すべきだ」

川人弁護士の発言は、政府が進めようとしている「働き方改革」をふまえたものだ。労働時間は原則、週40時間までだが、労働者と使用者が「36協定」を結ぶと事実上無制限で残業させることができる。そのため、上限規制が話し合われている。

政府の「働き方改革実現会議」では、上限残業時間を年720時間、月平均60時間、ただし繁忙期は月100時間、2カ月平均で月80時間まで残業を認めるという政府案が示された。

この上限は「過労死ライン」と言われている水準とほぼ同じだ。

川人弁護士は「上限100時間、80時間はあってはならない。もっと低いレベルでないといけない。これが、電通事件であきらかになった教訓だ」と批判。

そのうえで、過労死対策の決定打として、勤務と勤務の間に一定の「休息時間」を義務付ける、インターバル規制の導入を訴えた。

「娘の命の叫びをきいてください」

会場に集まった多くの参加者が、静かに耳を傾けたのが、高橋幸美さんのビデオメッセージだ。

「母である私は、会社から娘を守ることができませんでした。口惜しくてなりません。娘は1週間に10時間しか寝られないような長時間労働の連続で、うつ病になり命を絶ちました」

幸美さんは、長時間労働をさせないルールの必要性を強く訴えた。

「長時間労働を規制するための法律が絶対に必要だと思います。日本でも一日も早く、インターバル規制の制度をつくり、労働者が睡眠時間を確保できるようにしてください。残業隠しや36協定違反には、厳しい罰則を定めるのが大事だと思います。労働時間規制を無くす法律は大変危険だと思います。時間規制の例外を拡大しないでください」

「24時間365日休息をとらず、病気にならない特別な人間などどこにもいません。人間はコンピューターでもロボットでもマシンでもありません。仕事が原因でなくなった人たちが沢山いるのが日本の現実です。娘は戻りません。娘の命の叫びをきいてください。娘の死から学んでください。人間は死んでからでは取り返しが付かないのです。働く者の命が犠牲になる法律は、絶対に作らないでください」

「過労死防止法案ができたのに、過労死にいっこうに歯止めがかからない」

全国過労死を考える家族の会の寺西笑子さんは、そんな悲痛な声を上げた。寺西さんは21年前に夫を過労自殺で亡くし、その経験から家族の会を立ち上げた。

「私たちは、働き過ぎで大切な家族を失いました。社宅を追い出され、パートの安い賃金で家族を養い、労災申請をする。でも、労災の証拠がつかめない。会社に口止めされ、証言者も誰も本当のことを言ってくれない。そういう人が圧倒的に多い。会社のために一生懸命がんばってきたのに、労災申請や裁判になると『勝手にたらたら残業していた』『命令もしていない』『適当に寝ていたんだ』などといわれてしまう。家族はたまりません」

「長時間労働を美徳とする働き方はもうやめようじゃありませんか。長時間労働を強いるのは犯罪です。過労死は人災です。働き方をかえれば必ず防げます。私たちのような遺族をもうつくらないでください」

寺西さんは、そう訴えかけていた。

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