ケヴィン・スペイシーのセクハラは、公然の秘密だった

    情報筋によると、ネットフリックスのダークな政治ドラマ「ハウス・オブ・カード」を背負って立っていたケヴィン・スペイシーは、その影響力を利用して、撮影現場でプロとして不適切な破廉恥行為をしていたという。BuzzFeed Newsが、一大スクープであるスペイシーのセクハラ疑惑について最初に報じた後、同ドラマの関係者数人がインタビューに応じた。

    「ハウス・オブ・カード」は、常に一か八かのドラマだった。ネットフリックスが初めて手がけたオリジナルコンテンツで、どっぷり入れ込み、巨額の資金を投じた。エンターテインメントの世界が変化する兆しが見えていた2011年以降、ネットフリックスは躊躇なく、パイロット版も見ずに、ライバル数社を上回る条件を提示して、「ハウス・オブ・カード」のシーズン1とシーズン2(計26話)の制作を発注した。Deadlineは当時、「TV番組の視聴方法を変える可能性がある」契約だと書いたが、その通りになった。

    番組への期待が最初から大きかったため、撮影現場にはピリピリした空気が漂っていた。大物が起用されたのでなおさらだった。1990年放送のBBCのミニシリーズをスペイシーを主役にしてリメイクするのは、映画監督デヴィッド・フィンチャーのアイデアだった。スペイシーは、殺人もいとわず、やがて大統領就任をもくろむことになる腹黒い政治家フランシス・アンダーウッド(通称:フランク)を演じ、制作総指揮(エクゼクティブ・プロデューサー)も務めた。

    最近浮上した話から、プロが働く環境でもお咎めなしに性的行為をしてきたスペイシーの実態が露わになった。「ハウス・オブ・カード」の撮影中、スペイシーは同シリーズの要だったので、非難できない相手と見られていたようだ。そのため、出演俳優や制作に携わるチームの前で、若い男性スタッフと堂々といちゃつくことができると本人は感じていたらしい。

    だが今、「ハウス・オブ・カード」の将来と、同シリーズに依存する大勢の生活が、スペイシーの行動のせいで危機にさらされている

    BuzzFeed Newsは10月29日(米国時間)、14歳だった1985年にスペイシーから性的な誘いかけを受けたとされる俳優アンソニー・ラップとのインタビューを公開した。その後の1週間に、多くの男性たちが、不適切な性的行為に関してスペイシーを告発した。米大手エージェンシーのCAA(クリエイティブ・アーティスツ・エージェンシー)とスペイシーの広報担当者は、スペイシーとの関係を絶った。ネットフリックスは11月3日、スペイシーと縁を切り、スペイシーが今後も関わるなら「ハウス・オブ・カード」の制作は続けないと発表した。同社の声明の言い回しは、フランク・アンダーウッドを殺して彼なしで同シリーズを続行する設定を検討中というヴァラエティ紙の記事を裏付けているように思われた。ネットフリックスの広報担当者は、同シリーズの将来についてそれ以上コメントしていない。

    スペイシーの広報担当者は、辞任前の11月1日に、スペイシーは「必要な時間をかけて診断と治療を受けている」と発表したが、どこで診断と治療を受けているのかは明らかにされなかった。ラップの告白に関する記事が公開された後、スペイシーは、そういうことがあったのかどうか覚えていないとツイートし、「だが、言われているような振る舞いをしていたなら、酔った上で非常に不適切な振る舞いをしたことに対して、心から謝罪しなければならない」と付け加えた。被害を受けたと名乗り出る者が増えてきたあと、スペイシーの弁護士は、暴行疑惑をすべて否定した。BuzzFeed Newsは、スペイシーの弁護士に2度コンタクトを取り、今回の記事で取り上げている疑惑について話そうとしたが、返答はなかった。

    BuzzFeed Newsは今回の記事のために、「ハウス・オブ・カード」の関係者6人以上にインタビューした。そのうち3人は、それぞれ異なる役割で番組に関わったことがあり、仕事への影響を恐れて匿名を条件に話した。

    情報筋の3人全員と、撮影現場にいた他の2人は、スペイシーが若い男性スタッフに対して性的に不適切だった雰囲気を説明した。初期の段階から「ハウス・オブ・カード」に携わっていた上級スタッフの情報筋は、次のように述べた。「撮影現場で若い男性に、誘いかけるように、よくからかっていた。注意を引きたかったのだとしても、150人がいる前で誘いかけるような発言をしているのだから、やはり不適切だ。ゲイの男性だけでなく、ハンサムな若い男性にも、『私の膝の上に座って。座りたいんだろう?』と言っていた。そういうことが日常茶飯事だった」

    CNNは11月2日、「ハウス・オブ・カード」の初期シーズン中に、スペイシーが制作アシスタントを性的に暴行したと告発されていると報じた。アシスタントの「下着の中に手を突っ込み」、その後も嫌がらせや「不適切な接触」を続けたという。

    「ハウス・オブ・カード」の制作会社であるMRC(メディア・ライツ・キャピタル)がCNNに語ったところでは、複数の幹部が、2012年の第1シーズン制作中に「ケヴィン・スペイシーが行った特定の発言や仕草に関する苦情」があった一件について知っていたという。MRCはCNNに対して以下の声明を出した。「状況を調査後に即座に対処し、関係者全員が満足するかたちで問題はすぐに解決したと確信しています。スペイシーは進んで研修を受け、その後、スペイシーに関する苦情は一切寄せられていません」

    MRCの広報担当者はBuzzFeed Newsに対して、シーズン1でのスペイシーの不適切な行為は、制作アシスタントへの暴行疑惑ではなく、スペイシーが行った別の「仕草や発言」だったことを明らかにした。CNNの記事では、ネットフリックスは、「5年前に、ある件について説明を受け、速やかに解決されたと知らされた」と述べている。

    だが、撮影現場のスタッフの間では、スペイシーのプロとして不適切な行為が話題になり、どんな措置が執られるのだろうと考えられていた。チームの長年のメンバーは次のように述べている。「スタッフは、撮影現場での特に若い男性に対するスペイシーの態度について知っていた。ビデオビレッジを見ていた皆が(TV番組や映画の撮影現場では、「ビデオビレッジ」とは、監督やプロデューサー、チームのメンバーが撮影中の映像を見ることができるモニター群を指す)、撮影中やカメラが回っていないときのプロにあるまじき不快な行為を目にしている。正直言って、撮影現場のプロにふさわしくない行為だ」

    第2シーズン撮影時に20代半ばだったある情報筋は、スペイシーについて友人から警告されたと述べている。「彼のトレーラーハウスでビデオゲームをしようと誘われたら、誰かを一緒に連れて行かなければならない、と言われた。それ以上尋ねる必要もなかった」

    「彼は、誰にでもなれなれしくさわっていた」と上級スタッフは語る。

    スペイシーに逆らうと、事態が複雑になる恐れがあった。4人目の人物によると、ある制作アシスタントは、スペイシーに言い寄られて断わった後、シーズン2の途中で解雇されたという。この4人目の人物は、「ハウス・オブ・カード」の仕事をしたのは配信中の数日だけだが、撮影チームのメンバーを代表する組合であるIATSE(国際演劇被雇用者映画機器技術者同盟)を通じて、撮影現場での出来事について知ったという。情報筋はBuzzFeed Newsに対して、解雇された男性は「何度もセクハラを受けた」と語った。スペイシーが所有するヨットに来るよう言われて、誘いを断わった後、制作アシスタントは突然、番組の仕事を辞めたという。この元制作アシスタントに対して、退職の一件について話を聞くために、11月1日に連絡を取ったところ、次のようなメッセージが届いた。「弁護士から、誰かに話す前に、彼らからの連絡を待つよう言われました。申し訳ありませんが、たぶん明日になるでしょう」。その後、元制作アシスタントから返事はない。

    「ハウス・オブ・カード」のクリエイター兼エクゼクティブ・プロデューサーで、数シーズンにわたって番組を取り仕切ったボー・ウィリモンは、BuzzFeed Newsでラップがスペイシーを告発したのを受け、10月30日に以下の声明を出した。「アンソニー・ラップの話に非常に心を痛めています。『ハウス・オブ・カード』でケヴィン・スペイシーと一緒に仕事をしていたときに、撮影中やそれ以外のときに不適切な行為を目撃したり、気づいたりしたことはありませんでした。それでも、こうした行為に関する報告を真剣に受け止めており、これも例外ではありません。ラップ氏に同情し、彼の勇気に共感します」

    BuzzFeed Newsのインタビューに応じた3人の情報筋はいずれも、ウィリモンの説明に異議を唱えた。「嘘だ。まったくのでたらめだ」。ウィリモンがスペイシーの行為を目撃するのを目にしたという上級スタッフの情報筋は、そう述べている。

    「ウィリモンがまったく知らなかったと言っているのを見たが、まったくのでたらめなのはわかっている。チームと出演者に対するスペイシーの浮わついた態度について制作ミーティングが開かれたが、それ以上のことは何もされなかった。冗談みたいだった」とチームのメンバーは語る。

    シーズン2の制作に関わった情報筋は、次のように語る。「彼らは皆、何が起きているのか知っていた。暴行を受けた制作アシスタントのことだって、誰もが知っていた。だから、ウィリモンや他の人間が皆その事実を否定するのを見ると、とても腹立たしい」

    ウィリモンは、代理人と長い間交渉したあと、この記事のために記録についてコメントするのを控えた。CNNの報道後、Deadlineに対してウィリモンは、スペイシーが戒告を受けたシーズン1の出来事については聞かされていなかったと語っており、MRCはBuzzFeed Newsに対してそれを認めている。ウィリモンはさらに、Deadlineにこう語っている。「チームの誰かが、こうした行為を我慢しなければならなかったことに胸が痛みます。明らかに、われわれは業界として、私自身を含め、力を持つ立場にある者は特に、もっと敏感に先を見越す必要があります」

    スペイシーは長年にわたって「ハウス・オブ・カード」の中心人物だったが、今はその強引な行為が数百人の雇用を脅かしている。スペイシー抜きでの制作を続ける方法を何とか見いだせるとしたら、フランク・アンダーウッドでも予測できないような意外な展開になるかもしれない。

    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan