コロナワクチンを拒否して亡くなる人々。「避けられた死」に苦しむ遺族たち

    新型コロナウイルスのワクチン接種が広がるアメリカで、5人に1人が接種を踏みとどまっている。ワクチンを受けずにコロナに感染して亡くなった人の遺族は、「死を防げたかもしれない手段があったのに」と胸中を明かした。

    その人たちは、典型的な「反ワクチン派」だと思えるようなタイプではなかった。フロリダ在住の80代の夫婦で、男性はエンジニアとして、女性は看護師としてかつて働いていた。

    2人は新型コロナウイルスのワクチン接種を拒否し、男性は死亡した。

    マリーさんは、夫婦の義理の娘だ。義父の死から1カ月以上たった今もマリーさんは、この痛ましい事実――2人が科学を無視したために起きた悲劇――を受け入れようと必死にもがいている。

    「(夫にとって)ショックはもっと大きいものでした。実の父ですから」とマリーさんはBuzzFeed Newsに打ち明けた。

    「私が抱いている感情は主に、2人への怒りです。起きる必要のないことでしたから」(マリーさんを含め本記事に登場する人たちは、プライバシーの観点から、家族の特定につながる詳細な情報や苗字を公開しないよう希望している)

    「アメリカでは今、新型コロナは『避けられる死』」

    男性の死は、起きる必要のないことだった。しかし実際には今も起きており、おそらく今後も起き続けるだろう。アメリカ人の5人に約1人は、新型コロナのワクチン接種を受けないと考えているからだ。

    2021年4月19日以降、アメリカ在住の全成人がワクチン接種の対象となっており、高齢者層に関してはその数カ月前から対象になっていた。にもかかわらず、ワクチン接種を受ける資格があった人たちが感染し、亡くなっている。

    接種を受けに行けない人がいるという問題に当局が取り組み、免疫を獲得する国民がますます増える中、楽観的な思いや半ば日常を取り戻したような感覚が、アメリカ国内に戻りつつある。

    かつては厳しいレベルに達していた死者数は、低水準の記録を更新し続けている。しかし新型コロナが存在する限り、そしてワクチン接種を受けない人がいる限り、新型コロナで命を落とすケースは続き、遺族は避けられた死を悲しむことになる。

    「アメリカでは今、新型コロナは『避けられる死』です。この点が、親しい人を亡くした人にとっては非常につらいものになると、私は思います」

    グリーフ・セラピストであり著述家でもあるクレア・ビッドウェル・スミス氏はこう話す。グリーフ・セラピーとは、愛する人やペットなどとの死別を経験したことによる悲しみや苦しみを和らげる心理療法だ。

    「死について、心の整理ができないとか、ふんぎりが付かないというわけではありません。しかし、その死が明らかに避けられるものだったとき、人はかなり苦しむことになります」

    新型コロナに感染した義父。専門医にかからず、自力での治療を試みた。

    マリーさんによると、義理の両親は科学的なバックグラウンドを持っていた。しかしそれでも、熱心に読んでいた右派メディアの影響により、2人はここ10年で現代医学への信用を失い、いつの間にかワクチン懐疑主義になってしまったという。

    2人の考えを知っていたマリーさん夫婦にとって、数カ月前にワクチン接種の対象になったのに2人が接種を受けなかったのは、驚きではなかった。

    「接種するよう説得できる言葉など、ありませんでした。近くに住んでいたら、考えをある程度は変えられたかもしれません。でも2人は大人だし、自分たちで決めたことですから」とマリーさんは話す。

    マリーさんによると、義父は4月に新型コロナにかかったとき、専門医に診てもらおうとしなかったという。

    代わりに彼は、寄生虫の治療薬として使用されているイベルメクチンを使って、自力での治療を試みた。ヒドロキシクロロキン同様、新型コロナの治療効果が十分なエビデンスを持って確証されていないのにもかかわらず、「奇跡の薬」とされている薬品だ。

    米食品医薬品局(FDA)や世界保健機関(WHO)などの公的機関はイベルメクチンについて、新型コロナに対する明確な効果は確認されておらず、最悪の場合は危険にもなり得るため、コロナ予防や治療のために服用すべきではないと警告している。

    マリーさんによると、義父は体調を崩してから数日後、心臓発作と思われるものが原因で、自宅で突然、予期せぬ死を迎えた。マリーさんは、心臓発作が新型コロナによって引き起こされたものなのか(ある研究では、新型コロナが心臓の問題を引き起こす可能性が示唆されている)、飲んでいた薬によるものなのか(FDAは、寄生虫感染症など認可されたもの以外の目的でイベルメクチンを摂取することを避けるよう呼びかけている。特に多量の摂取は危険で深刻な害が起きる可能性があるとしている)、分からないと話す。

    「科学に耳を貸さなかった2人に怒りを覚えます。2人が、居住地であるフロリダ州政府や保守系メディアの、『新型コロナは大した病気ではない』という保守的な見方を信じ切ってしまったことについても、私は怒っています」

    フロリダ州知事は、過去4代続けて共和党だ。保守的とされる共和党は、新型コロナが重大な疾患ではないとして、マスク着用やワクチン接種に懐疑的な見方を示してきた。

    「自分が悲しみよりも怒りを抱いていることに罪悪感はあります。でもこの怒りは死別による悲しみの一部だと思うし、本当の悲しみは後からくると思います」

    マリーさんが感じているような死別による悲しみは、めったにない経験――自ら選んだ選択肢が原因で家族を失うという悲しみ――となり得る。

    セラピストであり著述家でもある前述のスミス氏は、このような死に際して怒りを抱くのは普通であり、起こり得る反応だと話す。

    「怒りは、力強い感情です。そのため、誰かを失ったときに抱きやすいのです。悲しみよりも強烈ですから。そして今回のようなケースは、怒りももっともだと思われます。しかるべき予防策を取らず、信じなかったのですから」

    スミス氏によると、このような形で近しい人が亡くなった人の多くは、「複雑性悲嘆」と呼ばれる、強烈かつ長期的で破滅的な嘆きを経験する可能性があるという。

    「例えば、ワクチンを受けたがらない非常に頑固な叔父がいたとして、この人が新型コロナで亡くなったとします。彼の遺族は、何らかの責任を感じるでしょう」

    「死を回避するために叔父の考えを変えられたかもしれない、何かできたかもしれない、という考えにさいなまれて、何カ月も…もしかしたら何年も、遺族は苦しむかもしれません」

    ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校のカミール・ウォートマン教授(心理学)は、さらに悪いことに、悲しんでいる人にとって、今後数カ月はとりわけ難しい時期になるだろうと話す。ウォートマン教授は、トラウマとなるような死別や、親しい人に先立たれた際の悲しみの専門家でもある。

    新型コロナのパンデミック(世界的大流行)がやっとのことで終焉へと向かうなか、アメリカ国民のほとんどは、喜びに満ちたときを過ごすようになってきている。

    愛する人を亡くした悲しみに打ちひしがれている人にとっては、これが非現実的だとか、自分だけ孤立してしまったかのように感じるかもしれない。

    「誰もが、パンデミックを過去のものにしたいのです。悲しみを考えたくはないし、話したくない、悲しんでいる人を見たくもないのです」

    「予防できた、死なずに済んだかもしれない家族を失った経験をした人にとって、自分の家族や友人、近所の人たちから愛やサポートを得るのは、非常に難しくなるでしょう」とウォートマン教授は話す。

    「時計の針を戻して、2人に言いたいです。『ワクチンを接種したほうがいい』」

    ミシガン州在住のイザベラさん(21)は4月下旬、70代後半だった大叔母と大叔父を3日間のうちに亡くした。

    イザベラさんはパンデミックの間、新型コロナを真剣に受け止めない保守的な家庭の中で、自分が浮いた存在だと感じていたという。

    それでもイザベラさんは、大叔母と大叔父がワクチン接種をせずに亡くなったと聞いて、ショックを受けた。2人とも1月上旬に、ワクチン接種を受けられるようになっていたのだ。

    「時計の針を戻して、2人に言いたいです。『ワクチンを接種したほうがいい、役に立つよ』と」とイザベラさんは話す。

    最近は、イザベラさんの家族でワクチン接種をする人が増えてきた。イザベラさんは、安全に接種を受けたイザベラさんの姿を見たからではないかと考えているが、親類2人を亡くしたことで現実に目を向けたのであろうとも感じているという。

    「少しは目が覚めたと思います。家族は心のどこかで、これは真剣な問題であり、いい加減に扱うべきではないと気付いたんだと、私は本気で思っています」

    アメリカでワクチン接種を完了した成人は50%以上。ただ摂取率の伸びは下がっている

    ブリアンナ・ベリーさん(32)はここ1年、人の行動が周囲の人にどれだけ影響を与えるかについてばかり考えている。ベリーさんと夫のルーさん(37)は感染予防策を取っていたにもかかわらず、ルーさんは2020年4月、新型コロナウイルス感染症で亡くなった。

    ルーさんの追悼記事の中でベリーさんは当時、夫のように悲劇的な結果に陥る人が増えないよう、パンデミックを真剣に受け止めてほしいと訴えていた。

    ベリーさんは、マスクを着用しない人に対して昨年抱いていたフラストレーションと似た感情を、今、ワクチン接種を受けない人に抱いていると話す。

    「もし、私の夫がワクチン接種を拒否したから亡くなったのだとしたら、夫に対しひどく腹が立っていたはずです。夫を失った悲しみがもっとずっと複雑な思いになっていただろうとも思います。できたはずの対策をしなかったわけですから」

    アメリカでワクチン接種を完了した成人の割合は50%以上に上るが、接種数の伸び率は全国的に下がっており、ベリーさんはこれを腹立たしく感じているという。

    また、ワクチン接種をせずに亡くなった人の遺族に対しては、これを警鐘として接種を受けてほしい、とベリーさんは願っている。

    「死別の悲しみを感じているとき、家族が死に至るまでの期間で自分にできることは他になかったのだろうかと、あれこれ考えてしまうものです。無料で利用できる、死を防げたかもしれない手段があったのに、と胸が張り裂けるような思いです」

    「私はとにかくたくさんの人に、『その時が来るまで、本当に起こるとは思えないものだ』と言い続けています。私はこの歳で夫を亡くすなんて、夢にも思っていませんでしたから」

    ワクチン接種を拒否したために誰かが亡くなったとき、多くの人にとってその悲しみは複雑なものになる可能性がある。自分や他者を危険にさらす選択肢を選んだことで亡くなった人に対して、深く同情する人ばかりではないのだ。

    「愛する人を亡くして苦しい時は、支援グループを探して」

    クリスティン・ウルキーザさんは、1年近く前に父親を亡くし、パンデミックの影響に苦しむ人々を支援する非営利団体「Marked by COVID」を立ち上げた。ウルキーザさんは、責める相手をよく考えるよう助言する。

    「私にとってはある意味、結局は国のリーダーの失敗ということになります。私は、個人に対してはそこまで腹は立ちません。落胆はありますが。私が非常に怒りを覚えるのは、アメリカ政府が私たちをここまで追い詰めたという事実に対してです」

    ワクチン接種をせずに家族が亡くなって悲しい思いをしている人は、同じく新型コロナで愛する人を亡くした人たちが行っている支援グループを探してほしい、とウルキーザさんは話す。

    ワクチン接種を拒んだ父親を亡くしたという男性と、わずか数週間前に自身のオンライン支援グループで話したところだという。

    「この男性の生々しい怒りと不満と痛みは、彼の顔にはっきりと見て取れました。今後の人生を父親なしで生きていかなければならない30代のこの男性のために、そのZoomに参加していた全員が心の底から落ち込み、胸を痛めていました」

    「その痛みがどんなものであるか、私には理解できます。毎日起き上がって、自分の人生をつなぎ合わせていけるようにするのは、本当に大変なのです」

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:松丸さとみ / 編集:BuzzFeed Japan