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Posted on 2019年5月31日

ネットで誹謗中傷、勝手にアウティング――ゲイの若者を標的にしたストーカー行為に立ち向かう青年

葬儀の花輪を送りつけ、写真をばらまきアウティング――執拗な嫌がらせを受けたゲイの若者、ヘイトクライムへの厳しい対処を求める

Charlotte Schmitz

マックス。ブレーメン市内にある行きつけのバーで

2016年4月18日。マックスはドイツ北部の中規模都市、ブレーメンで通っている高校の校内を歩いていた。ガラス張りのドアを押して小さな部屋に入ると、テーブルの上に厚紙でできた白い箱が置いてあるのが目に入った。箱には自分の名前が書かれていて、横に校長と教師、警察官が立っていた。箱に入っていたのは、黒と深紅のバラの花がついた葬儀用の花輪と、人工石でできた白い天使の飾り。添えられているカードにはこう印刷されていた。「マックスの死に哀悼の意を表します」

部屋にいた大人たちは「証拠品」「死の脅迫」などと口々に話していたが、マックスの耳にはもう入らなかった。BuzzFeedNewsの取材に答えた彼は、このとき頭の中を渦巻いていた思いをこう振り返る。「何なんだよこれは?どういう意味だ?何が起きてるんだ?自分はどうしたらいいんだろう?」その後授業へ戻ったが、いま起きたことは誰にも話さなかった。17歳のときのことだ。

ブレーメンの検察当局によると、マックスに悪質な嫌がらせとストーカー行為を繰り返した男は、少なくとも他9人に対して同様の行為を行っている(継続中の捜査活動への影響を避けるため、またさらなる加害者に標的にされるのを防ぐため、マックスの姓は明かしていない)。うち4件については当局が捜査を展開している。標的とされたのはいずれもマックスと同じ、ゲイの若者だ。

2018年にドイツで起きたLGBTに対するヘイトクライムは、内務省が把握している限りで313件を数える。しかしこの種のヘイトクライムは警察に報告されないケースが非常に多いため、実際の件数ははるかに多いと専門家はみる。例えば英国のイングランドとウェールズでは、性的指向を理由にした犯罪が2017年の1年間に1万1000件以上報告されている。LGBTに向けられる憎悪はドイツ社会でも日常の一部になっているが、ドイツ国内の警察の対応やメディアによる扱いはまだまだ不十分なのが現状だ。

マックスが自身の体験を公にしようと踏み切った理由はここにある。冒頭の件から2年半後の昨年12月、アルゴイ地方の小さなディスコで、ゲイであることを理由にまた嫌がらせを受けた。これをきっかけに、名前と顔を出して自身の体験を明かそうと決意したのだった。「もう隠れていたくないんです」

マックスが受けた被害の全容をつかむのは難しい。BuzzFeed Newsが入手した14ページの報告書に記載されているのは、実際に受けた攻撃の一部分でしかない。未成年だった当時、ネットやその他の形で送りつけられた悪質なメッセージや脅しは、半年間で数百件にのぼる。どこかで不正に入手したマックスの写真を使われ、彼を名乗るFacebookアカウントが何十と作られた。嫌がらせの電話がたびたびかかり、買ってもいないものを勝手に送りつけられ、死ねと脅された。続く数ケ月、憎悪をぶつける対象はマックスだけでなく、家族や友人、親友、そして赤の他人にまで広がっていった。

やがて、嫌がらせ行為をしているのは単独の同一人物らしいことがわかった。マックスの生活を崩壊させるのが最終的な目的らしい。しばらくの間、警察も含めて誰ひとり、事態がそこまで深刻になっているとは認識していなかったようだ。

数ケ月間、コミュニケーションツールはすべてその男に乗っ取られた状態で、使用不能になった。当初はたちの悪いジョークにみえた行為は、やがて人づきあいや社会生活に深刻な影響をきたした。不信感が増し、嫌がらせをしている人物が行く先々で待ち構えているような気がした。

この3年間、マックスは容疑者が裁かれるのをずっと待ってきた。現在、犯人を特定できている確信がある、とマックスは言う。同じ町に住む男がマックスを嫌がらせ行為のターゲットに意図して選んだのだ。容疑者と思われる人物がずっと身近な場所にいたにもかかわらず、誰もやめさせることができなかった。いつになれば捕まって裁きを受けるのか、いまだにわからない。一連のケースは、攻撃的なストーカー行為、とりわけインターネット上での脅迫行為をかわす難しさ、ドイツにおけるゲイに対する迫害の根強さ、そして被害者に正義がもたらされるまで長い時間を要する現実をよく物語っている。

Charlotte Schmitz

警察署の前で。警察は力になってくれなかった、とマックスは言う

この事件が起きる前、マックスは特に目立ったところのない、普通の高校生だった。物腰はやわらかく快活で、友人も多く、演劇が好きだった。「大多数のみんなとの一番大きな違いは、ゲイだということです」

2016年1月、マックスになりすましたFacebookアカウントがあると知人からのメッセージで知った。その後数ケ月にわたり、大量のなりすましアカウントが次々に見つかった。マックスを名乗るものもあれば、友人や知人を名乗るものもあった。犯人はこれらの偽アカウントから無数のメッセージを送りつけた。マックスと家族を脅し、おとしめ、学校の教師にもメッセージを送り、マックスが盗みをしているとうわさを拡散した。マックスの電話番号から見ず知らずの他人に「死ね」というメールが送られた。偽のサッカー観戦チケットやイベント入場券、携帯電話がマックスの名前でeBayに売りに出されたこともある。やがて、知らない人が自宅や学校に現れて、マックスの知らないところで売られたものを求めて抗議した。

当時、マックスはゲイであることを周囲の人すべてに明かしていたわけではない。にもかかわらず、嫌がらせをした犯人は友人たちや父、祖父など家族に対し、あろうことか勝手にアウティングまでしたのだ。マックスの写真に「僕はゲイです」と文字を入れ、Facebookの家族写真の下に投稿したのだった。

「父親に対して勝手にアウティングされたことには今も怒りを覚えます。それまで自分の口から父に伝えるチャンスがなかったので」

Courtesy Max O., Obtained by BuzzFeed News

マックスの写真を使った張り紙がブレーメン市内にばらまかれた

写真をコピーしてブレーメン市内の通りに張り出すぞとも脅された。実際、それは現実になった。同年3月、マックスの写真を入れた張り紙が町の中心地に近い高校の周辺にばらまかれた。写真には「Ja ich bin schwul, und das ist auch gut so」(僕はゲイであり、それはいいことだ)と大文字で書かれていた。パーティへ向かう前に張り紙に気づいたマックスは、友人の一人に助けを求めた。するとすぐに他の友人らも加わり、手分けして町中の張り紙を回収してくれた。犯人をつかまえようと周辺を捜してくれた仲間もいた。大勢の友人やクラスメイトが協力してくれたことを覚えている。「あのときは勇気づけられました」

だがこの件を機に、悪意ある人物の存在をよりリアルに実感することになった。「張り出された紙を見たとき、自分は思っていた以上に危険にさらされているんだなと感じました。それまではどこかのパソコンの前で座っている人、というだけだったので」。このとき、嫌がらせは現実の世界に形となって現れたのだ。

「自分は大丈夫、何の影響もない、と思うわけです。支えてくれる友人たちもいるから。でも、知らない他人とか知人とかに対する人の見方は不安感に左右されることに気づくんです。僕もあの当時、人から言われました。おまえはクズだ、死んだ方がいい、って」。マックスの訃報を載せるよう地元新聞に依頼が出されたこともある。

Courtesy Max O.

マックスの訃報を伝える投稿(Facebookのスクリーンショット)。次のように書かれている。「信仰と、希望と、愛、この三つは、いつまでも残る。その中で最も大いなるものは、愛である(コリント人への手紙一、13章13節)マックス、学生。愛と感謝をこめて」

マックスの身に起きたできごとの多くは、記憶の中で詳細があいまいになっている。どれくらい警察へ相談に行ったのか、はっきり覚えていない。BuzzFeed Newsはマックスが家族や友人に伝えた情報を比較し、スクリーンショットの画像を検証、関係当局に電話やメールで照会を試みた。しかし捜査が継続中の案件であるという理由から、回答は得られていない。マックスの弁護士も一切の回答を差し控えたいとしている。

マックスが在籍していた高校にも取材を申し入れたが、回答は「残念ながら、マックスの件について当校からコメントを出したい、あるいは出せるという者はおりません」と述べるにとどまっている。

数名の関係者から話を聞いたところ、犯人と思われる男からスーパーに爆弾をしかけると予告があったことがわかった。のちに男は身柄を確保され、マックスに嫌がらせをしたのと同一人物であることが確認された。しかし男は数時間勾留されただけで釈放されたという。ただ、各所による説明には詳細にずれがあり、当局は公式な見解を出せない、あるいは出したくないとする立場を取る。

また、われわれはブレーメン地方裁判所に出された起訴状を入手。書面には、治安の侵害、緊急通報の濫用、名誉棄損、侮辱、脅迫、強盗、強要、詐欺など、男が犯したとされる罪名が書き連ねられていた。

「今思うと、よく家族の誰も深刻な被害を受けずにすんだと思います」。マックスの母親(取材に際し匿名を希望した)はそう振り返る。ただし、自身も攻撃の標的にされた。犯人はFacebookで偽のプロフィールを作り、母親が乳がんを患っているとする虚偽の情報をばらまいた。マックスによると脅迫は妹にも及び、電話で声色を変えて「おまえの妹とやらせろ」と言ってきたという。

こうした数々の電話、メッセージ、迷惑行為の被害は家族全員に影を落とした。「常にどこかに空いた穴をふさごうと奔走している感じでした」と母親は表現する。やがて、一切電話に出なくなった。当時の経験からくる疲弊は今も続く。眠れず、人込みは避けている。何より不安なのは、容疑者が今も普通に暮らしていることだ。「私は彼を許したいと思っています。一連のヘイトは私の生活を崩壊させています」と母親は言う。だが「すべては今現在も続いているんです」

それでも2016年の間、マックスはFacebookを閉鎖しなかった。自分と周囲に何が起きているのかを把握し、記録しておくためだ。自分で何とか解決策を見いだしたかった。周りの人たちが嫌がらせに巻き込まれないよう、自分が守りたかった。では、マックスを守ってくれた人はいたのだろうか?

犯人はあまり目立った行動を起こさない時期もあれば、大量のメッセージを立て続けに送りつけてくるときもあった。特に苦しかった2016年春、マックスは耐えきれず親友の家で苦悩を表に出したことがある。実際に泣いたのはこのときを含め2、3回ほどだ。このときマックスは親友の家で身体を震わせ、「何をしてもどうせ無駄なんだ」という意味のことを口にしたという。

その日の夜、マックスは孤独を感じた。


2016年春、通りに写真が張り出されたすぐ後、事態はマックスの手に負えないところまできていた。そしてついに警察に訴えることを決めた。

マックスはブレーメン市の警察署に何度か足を運んだ。市の中心部にある警察は、堂々とした灰色の石造りの建物だ。自分と周囲に起きている嫌がらせには関連性があることを、数回にわたって説明しようと試みた(この時点で、マックスは家族や友人にも嫌がらせが及んでいることを知っていた。友人の一人も同じような被害を警察に訴えている)。

マックスの記憶では、警察署に3回ほど行ったのを覚えている。相談後、警察からフォローの連絡は一切なかった。Facebookへのアクセスを減らすか、されたことをあまり個人攻撃ととらえすぎない方がいい、と言われただけだ。5月に入ると警察から電話が入り、捜査を打ち切ると告げられた。理由の説明はなかった。

「息子は警察へ行けば力になってもらえると思って行ったのに、まったく助けてもらえませんでした」母親はそう話す。2016年4月には父親も行動を起こし、興信所に依頼した。

警察と同様、Facebookの対応も不満なものだったとマックスは言う。マックスは家族や友人とともに偽アカウントを「ひっきりなしに」Facebookに報告した。同社は2018年の1年間で13億件の偽アカウントを削除したと発表している。しかしマックスを執拗に攻撃する犯人は引き下がらず、ひたすら新たなアカウントを作り続けた。

犯罪統計によると、2017年のドイツ国内のストーキング被害者は2万人近くにのぼる。

ベルリンにあるカウンセリング施設「ストップ・ストーキング」の施設長で心理セラピストのヴォルフ・オルティツ=ミュラーによると、ドイツにはストーカー行為の被害者と加害者を専門に扱う施設が4ケ所ある。「私たちはこの現状について、あらゆる点で非常に残念に思っています。カウンセリングが受けられる施設がごくわずかしかないのに、必要としている人は特に若い世代に大勢います」

マックスの場合、参加していたクィアの若者向けネットワーク「Du Bist Nicht Allein」(あなたは一人じゃない)で犯人が連絡先を入手した可能性がある。ここで知り合った人ややり取りをした人に何度か連絡先を教えたことがあるからだ。「同じゲイの人たちがいるからというだけで安心してしまっていた自分がバカでした」とマックスは言う。

今回取材したドイツのLGBTやカウンセリングの専門家らは、メディアによる報道警察の報告書を通じ、一連の件をすでに把握していた。マックスのケースが特異なのは、大半のストーカー行為と異なり、犯人と顔見知りではなかった点だ。

5つの情報源から得た情報を総合すると、容疑者の男は30代前半で、マックスが通っていた学校の近くに住んでいる。進行中の捜査の妨げになるのを避けるため、また被害者をこれ以上の危険にさらさないため、BuzzFeed Newsではこの人物に直接連絡を取ってはいない。

男の動機は不明だが、考えられる筋書きはいくつかある。「あるグループに属する一人を代表としてターゲットに選んで、こういう生き方をするとひどいことになるぞと示すのです」。オルティツ=ミュラーはそう説明し、マックスをはじめその他の若者が狙われたのは、その性的指向から標的にされたと指摘する。「犯人は見せしめにしたいわけです。つまるところ、彼ら全体をつぶしたいという願望があるのです」

「こうした攻撃は、ゲイを標的にする場合は特に、安全だと思われている場で起きるケースが多いと言えます」。同性愛者への暴力に反対するプロジェクト「Maneo」の代表、バスティアン・フィンケはBuzzFeedNewsへのメールでそう説明する。「犯罪者は一般に安全だと思われている交流スペース、例えばマッチングサイトや出会いを求める人が集まる場所、バーなどに侵入してきます。そこでターゲットになりそうな相手に接近して、後から攻撃したり脅迫したりする手口です」

Charlotte Schmitz

親友と。通っていたブレーメン市内の学校前で

ヴォルフラム・フランケは指輪をもてあそびながら、長いあいだ黙って窓の外を見ていた。フランケはマックスが通っていた高校の敷地内にある小さな派出所に勤務する警察官だ。構内の廊下のつきあたりにあるこの場所へ、マックスはこれまで何度となく彼を訪ねてきた。二人は互いに信頼しあっている。今年に入り、マックスが数ケ月ぶりに訪ねてきたとき、フランケはハグで迎えた。

中心部にある大規模な警察署では誰も捜査を進めてくれていないのか、何の進展も見られない中、マックスの窓口になったのがフランケだった。マックスがそうしたように、フランケも独自に調査を進めた結果、犯人と思われる人物を特定した。この人物が笑顔を浮かべて派出所の前を歩いていく姿を見かけることもある。

だがフランケにも、法的な手続きがいつ始まるのかはわからない。「とにかく途方もない時間がかかることもあって、自分としては非常にやりきれない思いでいます。マックスは立派です。他の人ならこんな目にあって耐えられないでしょう」

どれだけこの件に個人的に心を寄せていても、自分が上げる報告は多数にわたる証拠文書の一つにしかならないとフランケは言う。

Charlotte Schmitz

BuzzFeed Newsが入手した情報によると、容疑者の男は2016年7月、爆破予告を出した後に一度逮捕されている。のちに釈放されたが、それ以降、マックスに対する嫌がらせ行為はほぼ終息している。

20歳になったマックスは現在、国外の大学へ進む準備を進めている。FacebookとWhatsAppは今も家族や友人とのやりとりに使っている。だがこれらのソーシャルメディアは断ち切りたい過去を思い出させもする。「あの一連のできごとが起きた場所が、今もここにあるわけです」

今年初め、今にも雪が降りだしそうなある冬の日、マックスは親友とブレーメンの中心街を歩いていた。立派なブティックの入口にこんなメッセージが貼ってあった。「当店ではレイシスト、セクシスト、ホモフォビア、むかつくタイプの人間は入店をお断りします」。その数軒先にあるカフェで、マックスは自身の体験を語ってくれた。

今になって、マックスは自分の身に起きたできごとがいかに悪質でひどかったかを実感している。取材で話を聞くうち、彼は自身の行動を振り返っては、本当はこうすればよかったのにと何度も口にした。もっと早く警察に訴えればよかった。自分で対処できるなんて考えなければよかった。自分を孤独に追い込まなければよかった。

マックスはストーカー被害のカウンセリングへ何週間か通い、心のケアと法的なアドバイスを受けている。

今でもときどき、Instagramにメッセージが届く。犯人からの場合、文面で判別できるという。「感覚で見分けられるようになるんです」とマックスは言う。「犯人にはやめてもらいたいです。誰かがそこにいて若いゲイ男性を自殺に追い込んでいるかもしれない、21世紀の今でもこんなことがまだ起きている、そう思うとこの社会に疑問を感じます」

裁判はいつ始まるのか、始まれば公開されるのか、ブレーメン地方裁判所に問い合わせたが、回答は得られなかった。マックス自身も、この先どのような展開になるのかはわからないと何度も口にした。だから今、彼は待っている。すべてを過去の話にできる時まで。

法廷に立ったら自分はどんなふうにふるまうのだろう、とマックスはときどき考えてみる。弱くて折れそうな自分?それともタフで強い自分だろうか?「犯人には自分のしたことを見てもらいたい」とマックスは言う。「でも同時に、目的は果たせていないんだと見せつけたいと思っています」。そう、マックスは今もこうして自分を生きているのだ。

Charlotte Schmitz

親友と写真撮影に興じる



この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:石垣賀子 / 編集:BuzzFeed Japan

Senior Reporterin BuzzFeed News

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