渋谷区にあるMIYASHITA PARKで、性感染症をテーマに、予防や検査の重要性への理解を深めることを目的とする無料音楽フェス『BLUE HANDS TOKYO』が開催された。
4月14日の「パートナーデー」に合わせて開催された同イベントは、自宅でできる性感染症の郵送検査キット「smaluna check(スマルナチェック)」を提供する株式会社ネクイノが主催した。
ネクイノが運営する「スマルナ」は、オンライン・ピル処方サービスだ。利用者は10代から30代が中心。アプリのダウンロード数は、累計100万件を超える。
3月には、性やからだに関する悩みを持つすべての女性のために、『25時のスマルナ』というオンラインコミュニティを新たに開設した。
多様なサービスを手掛けるネクイノは2021年12月、カラダや性にまつわるさまざまな「しかたない」に向き合うソーシャルプロジェクト「#しかたなくない」を立ち上げた。
プロジェクトには、さまざまな経歴を持ったメンバーたちが集結している。
ネクイノの代表取締役石井健一さん、#しかたなくないプロジェクトメンバー、株式会社Konel代表取締役の出村光世さん、株式会社NEWPEACEの田中佳佑さん、株式会社kokodearの落葉えりかさんに話を聞いた。
オンライン・ピル処方サービスを浸透させる前に…
「#しかたなくない」プロジェクトは当初、ネクイノが運営する「スマルナ」のキャンペーンとして始動した。
チームで議論を重ねる中、サービスを浸透させる前に、解決しなければならない「たくさんの課題」に気がついたという。
例えば、実家暮らしで親にバレずに低容量ピルを服用したい人や、パートナーが避妊してくれず服用せざるを得ない人など、利用者にもさまざまな事情がある。
現状を変えるには、社会全体の意識を変えていく必要があるのではないか。そう声をあげたのが、プロジェクトの始まりだった。
「まわりの意識ごと変えていかないと、何も前に進まない」と、プロジェクトメンバーの田中さんは話す。
「もっと視野を広げて、性や体にまつわる『しかたない』を『しかたなくない』に変えていく。ちょっと大きなソーシャルムーブメントにしたいなって」
日本社会でタブー視されがちな「性感染症」というテーマを、あえて「音楽フェス」というかたちで
企業やキャンペーンの垣根を超え、クリエイティブな手法で社会問題にアプローチする。プロジェクトのコンセプトに賛同する声は、企業やSNSに広がっている。
性感染症の啓発目的では、トークイベントなどがありがちだが、今回音楽フェスを開催したのは、より多くの人に「ちゃんとメッセージを届けるため」だという。
今回の音楽フェスには、計6組のアーティストが出演。アーティストたちは皆、「#しかたなくない」のコンセプトに賛同している。
性感染症について興味がない人も、ふらっと気軽に立ち寄れる。イベント当日は、音楽につられて立ち寄った来場者も多く見られた。
入り口を「音楽」にすることで、普段はなかなか届かないターゲット層にも、性感染症の予防や検査の重要性を呼びかけることができる。
来場者には「相手を大事にするためには、まずは何をしたらいいかを考えてもらえれば」と石井さんは話す。
「だからこそ、今日のイベントでも難しいことは一切言っていないです。粘膜と粘膜の接触〜とか、梅毒スピロヘーターとは〜みたいなことは何も」
会場に設置されたメッセージボートにつづられていたのは、来場者からの“リアルな声”
イベント当日、会場内には、写真が撮影できるフォトブースや来場者が匿名で記入できるメッセージボードが設置された。
「安心できる性行為のために、パートナーと会話したいことは?」というメッセージボードの問いに、来場者からはこんな言葉が寄せられた。
💬「性病検査を定期的に受ける」
💬「嫌だな…と思ったときのセーフワード(を聞く)」
💬「これは“嫌”も受け入れる」
💬「嫌なことと好きなことをちゃんと言いたいし、聞きたい」
💬「本当はどうしてほしいのか、聞きたいです」
メッセージボードに書かれた言葉を第三者が読んで吸収できるのも、このイベントならではの魅力だ。プロジェクトメンバーの落葉さんはこう話す。
「すべてのイベントで、皆さんの“しかたなくない”を『可視化』するよう工夫しています。対話の機会を作ることを、私たちは大事にしているんです」
「『みんなで考えよう』という社会のムードは作れている」
2021年のプロジェクト第一弾では、1万9000部のフリーマガジンを配布。当時を振り返ると、今回のイベントを通して「性についてコミュニケーションがしやすい空気感になっている」と実感したという。
さまざまな企業がプロジェクトに興味を持ってくれたことで、低用量ピルだけではなく、恋愛関係やからだの悩みなど、“しかたなくない輪”は広がりつつある。落葉さんはこう続けた。
「(2021年と比べ)社会全体として、性のトピック、関係性のトピック、 女性のからだ特有の悩みなどについて話す機会は増えたと思います」
「『みんなで考えよう』という社会のムードは作れているのかなと、この2年半でとても思います」
日本社会に残る課題。「性教育が足りないと言うくせに…」
その一方で、まだまだ性に関する社会的な課題は残っている。プロジェクトを通して痛感することもあるという。性感染症予防の呼びかけ自体に反対はされないものの、いざ具体的なアクションを取ろうとすると、壁にぶつかった。
「避妊をしてくれないのはしかたなくない」と書かれたポスターを設置できなかったり、避妊具の配布に顔をひそめられたりする。
プロジェクトを進める過程で「いろんな不自然さ」を感じると4人は語った。
「#しかたなくない」の公式Xアカウントを確認すると、過去の投稿に、警告文と“ぼかし”が入っている。
警告文には「警告:センシティブな内容」と注意喚起されているが、「警告」が必要な写真は1枚も見当たらない。
「性」というトピックを扱う上で、日本社会に残されている課題はまだ多い。
イメージカラーに「青」を選んだ理由は…
青は、清々しさや青信号をイメージしている。信号で「ストップ」や「ブレーキ」を意味する、赤や黄色はあえて使わなかったという。
それは、性感染症というテーマを扱う上で気をつけたことだ。
「性感染症って、性のトピックの中でも、すごくタブー視されているように感じます。今回いちばん気をつけたのは、恐怖訴求での注意喚起にならないように、ということ」
性感染症がメディアで取り上げられるとき、感染者の増加などに焦点があたりがちで、人々の不安を煽るような内容も少なくない。
「そのイメージを変えないと、かかったときも言いにくい。性感染症はかかっちゃうものなので」
「社会の意識を変えていきたいというのもあって、赤じゃなくて、黄色じゃなくて、青だよね、となりました」