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「キャンセル料は300万」と言われて。コロナ禍、結婚式を諦めた彼女たちが今思うこと

「感染者が出て『コロナ花嫁』と叩かれる最悪の未来を何度も想像しました」。結婚式中止を余儀なくされた花嫁たちの、苦悩の日々と今の思い。

新型コロナの影響でブライダル業界が大きな打撃を受けている。

老若男女多くの人が遠方からも集まり、飲食と歓談を楽しむ結婚式。多くのカップルが、感染のリスクを考え、延期や中止を選んでいる。

日本ブライダル文化振興協会によると、3〜9月までの間に、約17万組の結婚式が延期・中止に。4〜6月の売上高は例年の1割以下に落ち込んだ。影響は今も続く。

日本ブライダル文化振興協会 / Via bia.or.jp

4〜6月の売上高は前年の1割以下に激減。夏以降も半分程度にしか回復していない。業界全体の損失は約6000億円にのぼる

挙式当日だけでなく、準備やプランニングを綿密に重ねる結婚式。関わるスタッフも多く、キャンセル料もその分高額になりがちだ。SNSを見ると「100万円以上かかった」という人も少なくない。

コロナ禍に結婚式を控えた夫婦は、金銭的な負担に加え、精神的にも追い込まれた。

「もし実施して、万が一クラスターが発生した時、どんな言葉が向けられるか…想像するだけで怖かったです」

「『コロナ花嫁』と叩かれる最悪の未来を何度も想像しました」

高額のキャンセル料に苦しみ、誹謗中傷に晒されるのではと怯えた……この春、結婚式を中止した2人の女性に胸の内を聞いた。

Andreswd / Getty Images

※イメージ写真

計3回の「中止」

A子さん(29)夫婦は、3月初旬に、親族や友人を招いた70人規模の結婚式を予定していた。

一度6月に延期し、さらに10月に再延期。秋に開催するとしても、家族を招く程度に縮小する。当初想定していた規模の式は諦めた。

3月、6月、10月と、計3回「中止」の決断を迫られたことになる。

提供写真

A子さん夫婦

2月上旬、ダイヤモンド・プリンセス号での感染が連日ニュースになっていた時は自分たちの身にここまで降り掛かってくるとは思っていなかった。

国内での感染が出始めた2月半ば頃から、「小さな子どもがいて心配なので」「遠方から移動することになるので」などの理由で欠席を申し出る参列者が出始めた。

「ノイローゼになりそうでした」

約1年前から準備し、多くの友人が参列してくれる予定だった挙式。叶うなら予定通り実施して、感謝を伝える機会にしたい。

でも万が一、感染のきっかけになってしまったら。お祝いの場がクラスター化したら。

「『結婚式でクラスター発生!』なんてニュースになった時、どんな言葉が向けられるか想像するだけで怖かったです」

気持ちは毎日どころか、スマホに目をやる度に揺れ動いた。

朝は「なるべく対策をして、できる範囲でやろう」と前向きだったのに、仕事を終えて夜のニュースを見たら「やっぱりやめよう、みんなを危険に晒せない」と暗い気持ちになった。

「Twitterのトレンドもコロナ関連のワードばかりで、どんどん新しい情報が入ってきてノイローゼになりそうでした」

「夫婦で何度も話し合いましたが、お互い意見は二転三転。正解はないし、誰も頼れないし、自分たちで決めるしかない。今思い出してもこの頃は本当にしんどかったです

1週間前、ギリギリで中止に

2月末、挙式予定日の1週間前。ゲストの安全を最優先に、ギリギリのタイミングで中止・延期を決めた。苦渋の決断だった。

A子さんの周囲には、同時期に挙式を予定していた夫婦が2組おり、1組は実施、1組は中止。判断が分かれていた。「日本中で悩みながら決めた人たちがたくさんいたでしょうね」

時事通信

2月25日、東京大学の二次試験を受けるため開門を待つ受験生。「3密」という言葉はまだなかった

直前の延期ということで、式場からはキャンセル料が約100万円請求された。交渉の末なしになったが、「何もできなくなったこの状況で、さらに安くない出費が強いられるのか」と精神的には大きな負担だったという。

「でも、式場側も収入が絶たれて本当に大変なのもわかるので……。誰も悪くない、責める相手がいない。悲しみや怒り、苛立ちの落とし所がないのが本当にキツかったです」

高すぎるキャンセル料

「夏頃には落ち着いているのでは」と6月に延期したが、状況は好転しなかった。4月初旬、緊急事態宣言発令を前に再度中止を決めた。

夏を迎え、感染は再拡大。3月よりも1日あたりの新規感染者数は増えているが、式場側は「しっかり感染対策をするので予定通りやりましょう」と積極的に押してくる。

あの時ダメだったのに、今は大丈夫な理由は? そもそも、秋には本当に落ち着いているのか? 3度も直前に中止を知らせることになるのは忍びない……。

あくまで実施を前提に「大丈夫」と断言する式場側の姿勢にも少し不信感を持ってしまったという。

延期ではなく、完全に中止にしてしまえば、キャンセル料は300万円だと言われた。

「ここまでにかかった手間を考えると、多少なりとも請求されるのはもちろん納得できます。ですが、あまりにも高額すぎるのでは……と思いました」

わらにもすがる気持ちでTwitterで「結婚式 キャンセル料」で検索すると、同じように高額請求で式場と交渉している夫婦たちを見つけた。キャンセル料はなかったと話す人もいる。選んだ式場によって対応はまちまちだ。

疫病なんて予想できるはずもない。まさか、自分たちがこんなことになるなんて思いもしなかった。

Twitter

3月、TwitterやInstagramにはA子さんと同じような境遇の人が多く見られた

「落ち着いたら」って…いつ?

Web会議アプリやインスタライブで“参列”してもらうオンライン結婚式も検討したが、いまいち気が進まなかった。

「もっと通信が速くなって、映像がリッチになって、テクノロジーが発達したらありかもしれないですが、現状はZoom飲み会にプラスアルファくらいにしかならないなと思いました」

「2人で話し合う中であらためて気づきましたが、『結婚式』をやること自体ではなく、お世話になった人たちに直接日頃の感謝やお礼を伝えるのが目的だったので。コロナが落ち着いたらまた別の形で集まれればそれでいいなと思っています。……“落ち着いたら”がいつになるかわかりませんが」

「式をやれなくなったこと自体には、今はそこまでショックはないです。でも、妊娠・出産やマイホーム購入など『結婚式が終わったら』と思っていたことがあったので、そこは『どうしよう?』という気持ちがちょっとあります。人生計画が狂った、とまでは言いませんが、タイミングを考え直さないとですね

「無期延期」のまま数カ月

5月の挙式を中止したB美さん夫婦は、振替日を決めない「無期延期」状態で今に至っている。

提供写真

B美さん夫婦

もともとそこまで結婚式には興味がなく「やらなくてもいいかも?」程度だったという2人。B美さんの母が憧れていた会場で、5月の母の日のスケジュールがちょうど空いていたので「ここなら」と実施を決めた。

親族や友人を招いた40〜50人規模の式に決め、ウェディングドレスにはこだわりたいと、昨年9月にオーダーメイドで注文。完成を楽しみに待っていた。

3月中旬、式場から「挙式を延期しますか?」という確認があった。当時は安倍首相がオリンピックを「予定通り開催したい」と話していた頃(3月14日)で、感染拡大は警戒しつつ、外出自粛まではいかないムードだった。

「今のところ予定通りやるつもりでいます、と答えました。確かに心配だけど、2カ月先はさすがに大丈夫では? と思っていました」

「コロナ花嫁」になる恐怖

そこから2週間で状況はさらに悪化。小池都知事が不要不急の外出自粛を呼びかけた3月25日頃から延期を検討し始める。

親族や友人は「あなたが主役なんだから、決める権利はある。開催するなら心からお祝いするよ」と励ましの言葉をかけてくれた。

「善意なのはわかるのですが、当時の私はその言葉をポジティブに受け止められませんでした。『もし何かあった時には全て私の責任になってしまうんだ』と悲観的になってしまって……」

「自分の結婚式でクラスターが発生し、犯罪者のような扱いを受けたり、Twitterで『コロナ花嫁』と叩かれたりする最悪の未来を何度も想像しました」

「最後は自分たちで決めるしかないんですけど、『もう誰か決めて〜!!』と叫びそうになりました」

3月末にはより多くの人が集まる二次会の中止を、4月半ばには披露宴もやめ、家族5人だけの食事会に変更することを決めた。

行き場のない招待状

友人たちに中止の連絡をし終えたあと、役目を果たせなくなった招待状が入った段ボールを開封した。

「今出してもみんな困るよね」「もう少し落ち着いたら」と未開封のまま1カ月近くリビングの隅に置かれていたものだ。

提供写真

「しっかり目に焼き付けてから、普段は見えない戸棚の奥に押し込みました。送る宛がないのはわかりつつ、さすがに捨てることはできなくて

「式が中止になったことを急に実感し、『こんなことってあるんだな』とじんわり涙がにじんだのを覚えています」

コロナの影響で、オーダーしていたドレスの制作も遅れ「予定日に間に合わないかも」と連絡があったのが4月半ば。これが決定打となり、食事会も含めた全てのイベントの中止を決めた。

「やっぱり延期にさせてください。日程はまた落ち着いたら」

周囲には、昨年10月の台風で結婚式が中止になり、今年の春に振り替えていた人もいた。

「その人たちは本当に辛いと思います。春なら台風はないだろうと安心していたら、疫病が流行るとは……『またか』と心折れちゃいますよね」

「逆に、絶対忘れないよね」夫の言葉に救われた

挙式予定日だった5月10日、母の日。お互いの実家に車で向かい、花束と手紙を贈った。

もしここで新型コロナに感染してしまっては中止した意味がない。ドアノブにプレゼントをかけ、対面せずインターホン越しに軽く挨拶をするだけで帰った。

結婚式の代わりに、誰もいない近くの神社で指輪の交換をした。結婚式も新婚旅行もおあずけになってしまったが、2人だけの思い出を作ろうと思った。

提供写真

「逆に、絶対忘れないよね」。心休まらない日々に疲弊していたB美さんを救ったのは夫の言葉だった。

「2020年と新型コロナのこと、社会の教科書に絶対載るじゃん。そんな歴史的なタイミングに結婚したんだよ! いつか子どもができたら、オリンピックが中止になるくらい世界中が大変な時に、僕たちは2人で一緒に生きていくって誓い合ったんだよ、って教えてあげよう」

「どうしよう……と悩み続けている日々の方がずっとしんどかったです、今はポジティブ」と笑うB美さん。別の形で友人や家族と気負いなく会える日を楽しみにしている。

「式はできませんでしたが、この人と結婚してよかったなぁ と心から思えた数カ月でした」

「何度も話し合って、時には喧嘩して、自宅で一緒に過ごす時間が増えて。恋人ではなく家族として新しい関係性が生まれた。コロナ禍を経て絆は強まった気がします」