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「このままでは業界全体が死ぬ」今、音楽業界が「転売NO」を叫ぶ理由

「これだけで転売が撲滅できるとは、当然考えていません」

人気アーティストのライブチケットは、ネットを通じ、時には数万円、数十万円と定価をはるかに上回る価格で売買される現状がある。

チケット高額転売の広がり、深刻化を踏まえ、購入チケットをファン同士で定価で譲り合える仕組みを公式に用意する。

「転売NO」を掲げて

運営する業界4団体は、昨年8月に高額転売に反対する声明を発表し、「転売NO」を掲げたキャンペーンを展開してきた。

多くの反響の中で「風邪を引いてしまった」「急に仕事が入った」など万が一の理由で本当に参加が難しくなった時に取れる策がほしい――というファンの声を受け、開設に至ったのが「チケトレ」だ。

5月10日にサービスのプレオープンに至ったものの、主要な二次流通サービスと比較して「手数料が高すぎる」「利用しにくければ、根本的な解決にならないのでは?」などの声も多く上がっている。

「チケトレ」を立ち上げた意図と目的は? 音楽業界は、高額転売問題をどう受け止め、どう撲滅しようとしているのか? 最終的に目指すゴールは?

コンサートプロモーターズ協会の石川篤総務委員と、運営を担う「ぴあ」の東出隆幸執行役員に聞いた。

きっかけは「チケキャンのCM」

――「チケトレ」開設に至る経緯は。

石川:2015年夏に「チケットキャンプ」がTV CMを開始したのが、業界として高額転売対策に本腰を入れることになった大きなきっかけ。

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これまでも「ヤフオク!」「チケット流通センター」など高額転売の温床となるプラットフォームは存在していたが、大々的に利用を呼びかけてはいなかった。

しかし、TVという影響力の大きいメディアで「チケット売るなら」と宣伝されると事情は変わる。あたかも公式に認められたサービスのように転売行為を推奨していることに危機感と怒りが生まれ、業界側として高額転売を許さない姿勢をきちんと見せる必要を感じた。

まずは、そもそも高額転売が「悪いこと」だと世間に認知すべく、「転売NO」を掲げた新聞広告を展開した。「転売ヤーなんとかしてくれ」の声はとても多く、ファンも苦しんでいることが伝わってきた。

キャンペーンに対するSNSでの反応を定量的に分析したところ、80%が応援の声だったものの、「病気や仕事など、不慮の事態で参加できなくなった時にとれる手段がないのは不親切」「転売サービスにも意義はあるのでは?」という声も7.5%程度あった。

この反応は事前に予期しており、要望を踏まえたサービスを業界主導で立ち上げようと、並行して準備を進めていた。

なるべく早い段階で何らかの次のアクションを示したいと、ぴあの協力のもと、今回立ち上げたのが「チケトレ」だ。

「長期的に見て、音楽業界が死にかねない」

――そもそも、チケット高額転売の問題点はどこにあるのか。

システムを使って大量に買い占め、人工的に値段を釣り上げる手口で、まず、ファンの負担が大きくなる。5000〜1万円のチケットが10倍、20倍で売られることで、本来であれば複数回参加できたものが1回に減ったり、そもそも参加を諦めたりするケースも出てくるだろう。

さらに、その利益が音楽業界の外に流れていることも問題。CDの売り上げが下がり、今ほぼ唯一と言っていいほど収益源になっているライブやコンサートの領域で成長を阻害されるのは、今後の業界全体の発展を考えると、死活問題だ。長期的にアーティストたちが生産活動できなくなっていく可能性がある。

――高額転売が問題視されているのはこの数年のように感じるが、実際増えているのか。

利益構造がライブ・エンタテインメントに傾いてきた2000年代半ばからより深刻性を増した――という方が適切だろう。アーティストや事務所の収益源として重要性が高まったからこそ、危機感が強まっている。

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CDは何百万枚でも制限なく販売できるが、ライブチケットは東京ドームでも上限5万人程度。物理的な収容数、アーティストの体力などに限界があり、希少性が高いからこそ悪質な転売の餌食になりやすい。

ネット上での高額転売行為自体は昔からあるが、スマートフォンの普及や転売サービスの知名度の向上で増えたように感じる。が、現状では転売行為自体に違法性はない。

これまでも各サービスへの公開質問状や水面下の交渉で打開策を探してきたが、「申し入れ」以上の糾弾は難しいのが現実だ。

とはいえ、転売プラットフォームが巨大化し、年間数百億円の流通があるとなると、産業構造の基盤を揺るがしかねない脅威と言っていい。「転売していいんだ」「高く売っていいんだ」の認識が一般に広がる前に警鐘を鳴らしたい。

“言い訳”を許さないためのカウンター

――「手数料が高すぎる」「これなら他のサイトを使う方が便利」の声も上がっている。

「高い」という声が目立ったのは正直残念。手数料に関しては、本人確認や、お金の安全なやりとりなどの仕組みを整備するコストを考えるとこれでもギリギリに抑えている。航空便やホテルのキャンセルフィーなどと比較してほしい。

定価で比較した時には割高でも、実際他のサイトではかなり高額で売買されているので、一概に比べるのは難しい点もあると思う。

業界団体が作ったチケットリセールサービス「チケトレ」の手数料が話題なので比較表作ってみました。これ誰が使うの? #高額転売より高額手数料

5000円のチケットで比較した表もTwitter上で話題に

そもそもチケトレは「急に行けなくなった時、公式で譲れる場所がないじゃないか」という不慮の事態のニーズに応えたもので、転売利用を増やすことを必ずしも目的にしていない。

「他にどうしようもないから転売サイトを使う」という“言い訳”を許さないカウンター、アンチテーゼとして用意したもので、他の転売サイトとまったく哲学が異なる。

チケトレを開設しただけで高額転売が撲滅できるとは、こちらとしても当然思っていない。

あくまで第一歩、考えられうるたくさんの施策の中のひとつ。本人確認や電子チケットなど技術的な進歩、法令による規制とも組み合わせて解決していく必要がある。

電子チケットへの対応など、出品しやすい工夫はもちろんしていきたいが、まずは様子見。利用者の声を聞きながら改善していく。

――チケトレの原型として、「ぴあ」では2014年から一定の条件付きで利用できる「定価リセールサービス」を展開している。反響は?

東出:正直、当初は「他に高く売れる場があるのであれば、そちらを使ってしまうのでは?」と半信半疑だったが、想定よりずっと反応がよかった。

「ぴあで購入した未発券チケット、かつクレジットカード決済のみ」と狭い条件にも関わらず、2年間で出品件数は約2.5倍になっている。

サービスを運用を初めて気付いたのは、出品する側にも「可能なら正規ルートで転売したいが、そもそもそういう場がない」という葛藤があったこと。今回のチケトレも、まずは公式のサービスとして存在すること、選択肢として提供できることが重要だと考えている。

チケット価格は安すぎる?

――「転売禁止」をうたう気持ちは理解できるが、自由経済においては需要に合わせて値段がつくのは当然だ。供給量よりも需要が上回り、高くてもほしい人がいる限り、ファンのモラルに訴えるのは限界があるのでは?

石川:経済学者の高橋洋一さんも「経済学的に見ると、チケット価格が市場価値と合っていない、本来の需要供給が釣り合う値段に比べて低すぎるのが問題」と指摘していたが、それも一理あると思う。

例えば、席に前方からランクを付け、プレミアシートを用意するなどの方策は今後増えていく可能性はある。

しかし、アーティスト側からすると「できるだけ高くしたくない」思いは強い。“お金がある人”だけに自分の歌や演奏を聞いてほしいわけではないし、音楽ファンの未来を考えても、若い学生がお年玉やアルバイトで貯めたお金で来てくれた「たった1回」には大きな価値がある。「高く売れるなら、高く売ろう」という話ではない。

ただ、そのロマンゆえに転売すると利益が出る構造になってしまっているのも事実だ。

ロマンチシズムとエコノミズムのせめぎあい。より多くのファンに、健全に届ける流通網を作るにはどうすべきか……モラルに頼るだけでなく、業界全体で取り組むべき課題と考えている。

世論を盛り上げ、法規制へ

――音楽業界として、高額転売対策のゴールは。

最終的に我々が目指しているのは、法規制。具体的には、システムを使った大量アクセスでチケットを不当に買い占めることを禁じる「ボット規制法案」などの成立につなげたい。

米国では2016年12月にまさにこの法律が成立したばかり。スポーツや音楽イベントのチケットを機械的に大量購入することが、健全な競争や産業の育成を阻害する可能性があるとして、政治的課題になった。英国でも同じような動きは今進行中だ。

日本でも、2020年に東京オリンピック・パラリンピックを控え、音楽業界に限らず、スポーツや観光の分野でも問題は顕在化していくと予想される。

人気公演を狙ってプレイガイドでチケットを確保し、高額で売りさばく個人レベルの「転売ヤー」も少なくないが、こちらは単純な規制はできないグレーゾーン。

法規制よりも本人確認の厳格化や電子化で対応していく方向ではあるが、厳しくすればするほど、システムコストや人的コストをチケットの値段に反映せざるをえない。バランスをとるのはなかなか難しい。

1年ほど前から、石破茂氏を中心としたライブ・エンタテインメント議員連盟と情報交換し、法改正の可能性を探ってきた。まだ具体的な実現のめどはないが、議員のみなさんの意識も高まっている。今後さらに世論を盛り上げ、新法の立法や法改正などを実現したい。

バズフィード・ジャパン ニュース記者

Haruna Yamazakiに連絡する メールアドレス:haruna.yamazaki@buzzfeed.com.

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