厚生労働大臣の指定を受けて自殺対策に取り組む「いのち支える自殺対策推進センター」は10月21日、「コロナ禍における自殺の動向に関する分析(緊急レポート)」を発表した。
6月までは減少傾向にあった自殺者数が、7月以降増加に転じた理由を統計的に分析。要因のひとつとして、7月半ばの俳優の自殺について「自殺それ自体というよりも、それに関する報道が大きく影響している可能性が高い」としている。

10代、20代への影響が顕著
自殺者が増加した7月において、日別の自殺者数を分析したところ、17日までは前年同期間と比較して少なかったが、俳優の自殺報道があった18日以降の1週間は有意に多くなったという。
7月18日〜24日の1週間における自殺者数は457人で、2019年の同期間の384人と比較すると、73人(19%)増となった。
特に、10代〜20代の若年層への影響が大きく、10代は4人→20人、20代は41人→68人(いずれも2019年→2020年の比較)と大幅に増えている。

前週から25%増
前後1週間の動向を比較しても、7月11〜17日の自殺者数は364人だったところ、18日〜24日は457人と、93人(25.5%)増加。
同俳優の自殺の手段として報道されたものと、同じ手段を選んだ人も55.7%増えた。

報告書では、「7月後半以降も自殺増加は続いており、他の要因も考慮する必要がある」としつつ、「本年7月の自殺者数が増加したのは『若手有名俳優の自殺報道(自殺それ自体というよりも、それに関する報道)』が大きく影響している可能性が高い」と結論付けている。
自殺報道の影響によって自殺が増える現象は「ウェルテル効果」と呼ばれ、国内外で過去にも同様のことが起きている。
実際に同センターには、著名人の自殺報道の後に「自殺報道で心が揺れて怖い。自分も自殺してしまいそう」「ニュースを見て、死にたい気持ちが呼び起こされてしまった」という相談が多く寄せられるという。
メディアがやるべきでないこと、やるべきこと
「いのち支える自殺対策推進センター」はこれまでも報道機関に対し、WHOの「自殺報道ガイドライン」遵守を何度も呼びかけている。
10/19(月)【報道関係各位:厚労省との連名文書】センセーショナルな自殺関連報道は、とりわけ子どもや若者の自殺を誘発しかねないことから、WHOが『自殺報道ガイドライン』を公表。報道において「やるべきこと」と「やるべきでないこと」を列記しています。これを踏まえた報道をお願い致します。
書面にも引用されているWHOのガイドラインは以下の通り。厚生労働省のWebサイトにも日本語訳が掲載されている。
やるべきではないこと
・自殺の報道記事を目立つように配置しないこと。また報道を過度に繰り返さないこと
・自殺をセンセーショナルに表現する言葉、よくある普通のこととみなす言葉を使わないこと、自殺を前向きな問題解決策の一つであるかのように紹介しないこと
・自殺に用いた手段について明確に表現しないこと
・自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えないこと
・センセーショナルな見出しを使わないこと
・写真、ビデオ映像、デジタルメディアへのリンクなどは用いないこと
やるべきこと
・どこに支援を求めるかについて正しい情報を提供すること
・自殺と自殺対策についての正しい情報を、自殺についての迷信を拡散しないようにしながら、人々への啓発を行うこと
・日常生活のストレス要因または自殺念慮への対処法や支援を受ける方法について報道すること
・有名人の自殺を報道する際には、特に注意すること
・自殺により遺された家族や友人にインタビューをする時は、慎重を期すること
・メディア関係者自身が、自殺による影響を受ける可能性があることを認識すること
相談先窓口はこちら
「いのち支える自殺対策推進センター」が掲載している全国の相談先窓口リストはこちら。
厚労省のホームページにも、電話相談やSNS相談の窓口一覧が掲載されている。