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「不要不急に殺される」夜の街・歌舞伎町に生きるホストたちの心の叫び

「メディアの報道もあって『どうせ夜の街はバカ騒ぎしているやつらばっかりなんでしょ』『自分とは違う人種』と捉えている人も多いだろうと思います。でも、近くで見ているとそれはちょっと違うと感じるんですよね」

8月8日、東京都の新型コロナ感染者数は429人となった。2日連続で400人を超えた。緊急事態宣言を経て一時は落ち着いていたが、7月初旬から再度急速に感染が拡大している。

感染者が増えている場所として、小池百合子都知事が繰り返し口にしたのが「夜の街」だ。

時事通信

「夜の街」に注意を促す小池都知事=7月2日

ホストクラブやキャバクラ、いわゆる「接待を伴う飲食店」を指す。特に、目立って感染者が増えている新宿・歌舞伎町は非難の的となった。

その歌舞伎町でホストクラブなどを経営する「スマッパ!」 グループ会長の手塚マキさんは7月、75人のホストたちと詠んだ短歌を集めた歌集『ホスト万葉集』を上梓した。

提供写真

新型コロナに直面するホストたちが、自らの状況や心情を描写した歌も多く収録されている。5月の営業自粛中、Zoomを使った「遠隔歌会」で作品を作りあった。

歌舞伎町 東洋一の繁華街 不要不急に殺される街

歩きやすい どこを歩いても歩きやすい 来月の今頃も歩きやすい?

この時期に大丈夫だよと会いにくる 酒が好きなの俺が好きなの

その街を愛し、その街で働く人たちの目に、様変わりしてしまった世界はどう映ったのか。「夜の街」の当事者たちは、今何を思うのか。 分断を煽る強い言葉では覆い隠されてしまう葛藤とリアルを、手塚さんに聞いた。

提供写真

手塚マキさん

「これまでもあった分断が顕在化しただけ」

――新型コロナの感染が広がっている地域として「夜の街」がクローズアップされています。業界として名指しされることに思うところはあるのでしょうか。

それ自体には何も感じない……というか、慣れていますからね。元から「そっち側」という目で見られているので。憤りのようなものは正直ないです。

この件に限らず、コロナによって生まれた社会問題があるというより、もともと存在していた歪みがあぶり出されたように感じています。

世間が僕らを見る目が変わった、厳しくなったのではなく、これまでもあった分断意識のようなものがはっきりと顕在化したんだと思います。

時事通信

歌舞伎町のホストクラブなどに新型コロナウイルス対策を呼び掛ける新宿区職員ら=7月20日

――実際に「夜の街」関係者の感染者が目立って増えていることにはどう感じていますか。

もちろん、危機感を感じていない歌舞伎町の関係者はいないと思います。保健所とも連携して、業界として協力していきたい。

ただ同時に、歌舞伎町のモラルが特別に低いからではないとも思うんです。たまたま歌舞伎町の水商売コミュニティーにウイルスが入り込んでしまった。その対処が後手になってしまったということだと思います。

――早い段階で集中的に検査をしたからこそ目立ってしまった側面もありそうですよね。7月半ばからは歌舞伎町に限らず、200人、300人を超える日がどんどん出てきて。

stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp

8月8日までの東京都内の新規感染者数の推移。7月半ばから急速に拡大傾向であることがわかる。8月1日に過去最高の472人になった

例えば、一流出版社の従業員に「今の政治、どう思いますか?」って聞くのと、歌舞伎町のホストたちに聞くのだとずいぶん答えは違うと思うんですよ。後者には「わからない」「知らない」って答えるホストが大多数だと思う。

でも、「コロナをどう思いますか?」って聞いたら、そんなに変わらない気がするんです。めちゃくちゃ怖くて最大限自衛している人もいるし、逆に「全然平気じゃないっすか?」「気にしてない」と過剰に楽観的に捉えている人もいる。

メディアの報道の仕方もあって「どうせ『夜の街』はバカ騒ぎしているやつらばっかりなんでしょ」「自分とは違う人種」と捉えている人も多いだろうと思います。でも、近くで見ているとそれはちょっと違うと感じるんですよね。

ホスト撮影 / Via Twitter: @host_manyoshu

マスクも普段からみんな日常的にしていましたからね、ホストたち。別に感染対策じゃないですけど(笑)。「新しい生活様式」じゃなくて「いつもの生活様式」として。

そういえば、さっき中目黒で取材があったんですけど、周りを見ると屋内でマスクなしで至近距離で喋っているから驚きました。

歌舞伎町の外ってこんな感じなんだ……とちょっとびっくりしました。そういう意味では今、歌舞伎町が一番シビアかもしれませんね。

ホスト撮影 / Via Twitter: @host_manyoshu

夕方の歌舞伎町。ホストたちにとっては出勤時間だ

問題は「ホストクラブを出た後」

――今、手塚さんが経営する店舗の状況はいかがですか? 売上はまだまだ戻っていないですよね。

売上は……全然ですね。ホストクラブへのお客様は少しずつ戻りつつあるのですが、バーや飲食店がキツいです。ちょうど新店をオープンしたばかりだったのもあって。

ホストクラブは4月の緊急事態宣言後から臨時休業していて、6月上旬に再開しました。ホストたちの勤務も、一時は輪番にしていたのですが、もう全員通常通りに戻っています。

感染防止対策としては、保健所の指導も受けて、消毒や換気、検温、店内の人数を制限するなど、できることは全部やっているつもりです。ホスト一人ひとりの健康状態や店以外での行動もチェックしています。

内閣府にて吉住区長と共に、 西村大臣と意見交換をしてきました。 地域ごとの特色を加味して事業者と行政が協力して生活を担保しつつ1人1人に届くような拡大防止策を講じることが大事だと思います。 行政は市民の味方の筈です。地域ごとの官民一体を。

新宿区長とも連携し、業界全体に協力するよう積極的に呼びかけている手塚さん

――そんな厳戒態勢で営業する中で、課題はありますか。

今いらしているのはほとんどがお得意様ですし、お客様の連絡先も把握しています。万が一感染者が発生した時、濃厚接触者や感染経路も追いやすい。そういう意味では、店舗内の対策は比較的しやすいんです。

ただ、問題は店の外ですね。「夜の街が危険」「ホストクラブが危険」と強調されると、そこで働いている人間たちも「問題はホストクラブにある」と思っちゃうんですよ。

“職場”であるホストクラブを出ると一気に気が緩む。具体的に言うと、食事やカラオケに行ったり、寮で仲間たちと「密」な環境を作ってしまったりして、そこがクラスターになっているようなんです。

なので、「夜の街=ホストクラブと捉えて、そこの対策だけを強化しても意味がない。そこで働く人間たちの暮らし方や友人関係、遊び方も変えていかないといけないんです。

――なるほど…。とはいえ、個人のライフスタイルまで変えていくのはなかなか難しそうです。

まさにそこが迷いどころですね。そして、それは僕らの業種だけでなく、これから社会全体で求められる変化でもあるはずです。

Haruna Yamazaki / BuzzFeed

個人のモラルに頼るには限界がある

――4月末に、依存症治療における「ハームリダクション」の手法を応用していきたい、と書かれていたのが印象的でした。闇雲に営業自粛してホストたちの行動をトレースできない時間を作るのではなく、感染リスクを引き受けながらできる範囲で営業を再開し、店を通して正しい知識を伝えるチャンスを作りたいと。

《そこで私はハームリダクションの方針をとることにした。

ハームリダクションとは普通は薬物依存対策の文脈で使われる言葉で、問題を完全消滅させることを最初から狙うよりも、その害悪(harm)を軽減する(reduction)ことから手をつけようとする考え方のことを指す。》

《とにかく清潔でいること、正しい知識を身に着けること。

こうしたことも、自宅待機の空しい呼びかけでは従業員たちには届かない。輪番で彼らを店に来させることで、初めて彼らに情報を届ける可能性が生まれるのだ。つまり、単にハームリダクションするだけでなく、正しい知識を伝えて正しく振る舞ってもらうという、根本的な目標にも近づくことができる。》

基本的な指針は7月現在も変わっていません。個人のモラルや勉強に頼るのではなく、店全体で「これは守って当然だよね」という空気を作っていくことを最優先に考えています。集団として、公衆衛生への意識を底上げしていくイメージです。

新型コロナとの戦いは、長期戦です。そうそう終わらないことが嫌でもわかってきた。

会社として率先して、かつ具体的に指針を提示して、水商売における新たなルール、新たな文化を根付かせていくしかないと思っています。

一人ひとりの声を聞いて

――『ホスト万葉集』には、コロナ禍であえぐホストたちによる歌もおさめられています。まとめて「夜の街」とひとくくりにされている一人ひとりの感情の機微を知れるのは、今この時期にとても意味があるなと思いました。

自粛期間 日が暮れてくると思い出す あ、そろそろ店開く頃か

店休み?どこで会えるの? 濃厚な接触してよ 客じゃないなら

会えなくて気持ちも冷めて顔忘れあなたと俺も終息向かう

「コロナだし」行かない理由を捜してた 嘘でもなくて本当でもない

そうですね、期せずしてそう読んでもらえるところだなと思います。 「普通」の自分たちとは接点のない、得体のしれない「なんかヤバいやつら」と思っているのと、ちゃんと思考を持った人間だと想像できるかって全然違いますよね。

提供写真

5月にZoomで開催した歌会の様子。ホストたちも歌人も自宅から参加

ホストたちだって、いろんなことを言われて悔しいんですよ。店は保健所が驚くほど対策をしているし、多くのホストは個人レベルでもたくさん努力している。

でも、その努力を論理的に伝えられる、世間を説得できる言葉は持っていないんです。分断を煽るような言葉を前にして「もういいや」「また悪者扱いか」と黙ってしまう。

でも、31文字の短歌なら詠めるんです。今の思い、伝えたいことを表現できる。彼らの言葉に今こそ耳を傾けてほしいですね。ただ嘆いているだけじゃなくて、ユーモアや図太さもあって。

今、社会全体がホストという存在とどう向き合うか迷っていますよね。短歌の形で発信した声が、その理解の一助になればいいなと思います。

ここで真剣に生きている一人一人がいます。

【手塚マキ(てづか・まき)】

1977年、埼玉県生まれ。97年から歌舞伎町で働き始め、ナンバーワンホストを経て、26歳で企業。現在は歌舞伎町でホストクラブ、バー、飲食店、美容室など十数件を構える「Smappa! Group」会長。

手塚氏とともに、今回短歌を作ったのは、同グループの在籍ホスト75人。月に1回のペースで短歌を作って評価しあう「ホスト歌会」をおこなってきた。新型コロナウイルスで歌舞伎町が危機に陥ったときも、Zoomを使って歌会や勉強会を続けた。