新型コロナウイルスの感染が相次いで判明し、乗客・乗員約3600人が2週間のあいだ船内に留まるよう指示が出ているクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号。
多くの人が同じ場で食事やレクリエーションを楽しむクルーズ船。船上の乗客同士で三次感染があった可能性もあり、2月8日午前時点で計64人の感染が確認されています。
今、船内はどんな状況なのか。不安なこと、困っていることは?
このクルーズに夫婦で参加し、今も船内で待機している70代の女性・Aさんに2月7日、話を聞きました。
新型コロナ流行「ここまでとは知らなかった」
Aさん夫妻が参加したのは、横浜発着の16日間のツアー。1月20日に出発後、鹿児島、香港、ベトナム、台湾、沖縄に停泊し、2月4日午前に横浜港に到着する予定でした。
――横浜港を出港したのは1月20日。その頃は、新型コロナウイルスについてはここまで大きなニュースになっていませんでした。
(※国内で初の感染者が認められたのは1月16日。武漢への渡航歴がない日本人患者が確認されたのは1月28日)
そうなんです。なので、そもそも船の上にいる間に新型コロナウイルスがこんなに大事になっていることを知りませんでした。
日本国外をクルーズしていると、日本のニュース番組が見られなかったのもあります。
ーー「これは大変かも」という空気になり始めたのはいつ頃ですか。
2月3日までは、普通に出歩けましたし、船内もいつも通りでした。
その夜「乗客全員に検疫があります」とアナウンスがあった時も「明日下船だし、念の為するんだろうな」くらいに思っていました。
夜から順番に回っていくとのことだったのですが、真夜中になってもなかなか来なくて、状況もわからなくて。
午前2時くらいまでは起きて待っていたのですが寝てしまいました。結局、検疫は翌朝になり、体温測定と問診を受けました。
作業衣にマスクを着用した検疫官の方が部屋までいらっしゃって驚きました。
ーーその時点では、さらに2週間船にいることになるとは思っていなかった?
はい、まったく。こんなに長引くとは……。4日からは「部屋から出ないように」と変更になりました。
「部屋の外のことは全然わからない」
ーーいま、船内の様子はいかがですか?
パニック状態ではない……とは思うのですが、正直、部屋の外のことは今全然わからないです。
私たちの部屋はバルコニーと窓があるのでまだよいですが、窓がない部屋の方は閉塞感がすごいでしょうね。
船内アナウンスによると、順番にデッキに出て気分転換できるようになったそうです。「他の方と1メートル以上離れて歩いてください」なんて言われてました。
ーー医薬品を依頼できるようになったのはよかったです。
予備を多めに持ってきていたとはいえ、薬が切れるのは心配だったからよかったです。
周りのお客さんを見てもやっぱりご高齢の方が多いので、お薬は何かしら飲んでいる方ばかりじゃないかしら。ちゃんと必要な方に行き渡っていればよいのですが。
5日に依頼書が来て、記入して提出したのですが、いつ届けられるのかは特に知らされていません。
洗濯物はバスタブで手洗い
ーーいま何か困っていること、心配なことはありますか?
私たちは体調も崩していないので、今のところ大きな不安はありません。困った時はこちらへ、という電話番号もきちんと案内されています。
生活の小さな悩みで言うと、乗員の方が各部屋に入れない状況になっているので、ベッドメイクを自分で日々やらなくてはいけないのはちょっと大変ですかね。2週間いるとなると、バスタブやトイレのお掃除も自分でしなくちゃいけないかもしれないですね。
16日間のクルーズが14日延びてほぼ1カ月ですから、化粧水なんかもなくなっちゃいそう。さすがにそんなに多く持ってきてなかったですから。薬は頼めてもこういう消耗品はどうなるんでしょうね。
それから、洗濯。今まではランドリールームを使えたのですが今は部屋から出られないので……。バスタブにお湯を貼って手洗いして、バルコニーに出して乾かしています。
今窓の外を見るとほとんどいなそうだけど、横浜に着いてすぐは、バルコニーに出ると報道陣のカメラがたくさん見えましたよ。
ーーまさに「バルコニーに洗濯を干す人も」と乗客の方を映している番組もありましたよ。ずっと部屋にこもっていると、できることも限られますよね。
テレビとスマートフォンになりますよね。
テレビは、地上波は見られません。日本語で映るチャンネルはBS1とBSプレミアムの2つ。今朝(7日朝)の「新たに41人感染確認」というニュースは船内アナウンスより先にBSのニュースで知りました。
ワイドショーでもこの船についてよくやっているそうですが、私たちはどんな風に報道されているのか知らないんです。
インターネットはクルーズ中は有料だったのですが、今は無料で開放されています。
今一番食べたいものは…
ーーお食事はきちんと食べられてますか?
横浜港で食材を積んでから安定したようです。レストランで作った食事を部屋まで運んでくれています。
飲料水も大きなサイズでいただけるようになって安心しました。最初に配布されたのが小さくて、薬を飲むのに使うのを躊躇しちゃうくらいだったので。
ーー避難食という感じではないんですね。
そうですね。広い船内を運ぶ間に多少冷めていますが、それなりに温かい食事がいただけます。
昼食と夕食は3つのメニューから選べます。でも、ビーフシチューやパスタ、オムレツ、ベーコンなど重ためな洋食ばかりで、この年にはしんどいですね。
ーーそれはそうですよね、高齢者の方が多いと特に……。
そもそも動かないからお腹も減らないしね。今一番食べたいのは、塩おにぎりと納豆とお味噌汁です。
ーーまだしばらく船上で過ごすことになりますが、不安はありますか?
どこでウイルスに接触しているかわからない不安や怖さはそれなりにありますが、それよりも「この部屋の中であと10日か」という疲れの方が今は強いかもしれないです。
とにかく何もすることがないので……。3、4日でこんな感じなので、このあとさらに気が滅入りそうです。