3月1日、厚生労働省は、新型コロナウイルス(COVID-19)の集団感染が確認された場の共通点として以下の3点を挙げました。
「換気が悪く」「人が密に集まって過ごすような空間」「不特定多数の人が接触するおそれが高い場所」

翌3月2日に発表された専門家会議の見解でも、「ライブハウス、スポーツジム、屋形船、ビュッフェスタイルの会食、雀荘、スキーのゲストハウス、密閉された仮設テント等です」と具体的な名前を挙げ、類似の環境への注意を呼びかけています。
しかし、わかるようで、よく考えると微妙にわかりにくいこの表現。
「換気が悪く」とは具体的にどのような状態を指すのでしょうか? 満員電車は? 映画館は?
一般の私たちが自分の行動を検討しやすいよう、より具体的なポイントが知りたい……。
感染対策のプロである聖路加国際病院、QIセンター感染管理室マネジャーの坂本史衣さんに聞きました。

※インタビューは3月3日にメールで行い、その時点の情報に基づいています。
「換気が悪く」って何? 満員電車のリスクは?
――「換気が悪く」とは具体的にどの程度のことをさすのでしょうか。なかなか具体的には指し示しにくいと思いますが、目安があれば教えてください。
「換気が悪く」という条件は「風通しが悪い空間」という意味ですが、これは「手を伸ばせば届くくらいの近い距離に人がたくさんいて、絶えずしゃべったり、歌ったり、叫んだりしている」+「風通しが悪い空間」というセットで考える必要がある条件です。
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の見解で挙げられているライブハウス、カラオケボックス、クラブ、立食パーティー、自宅での大人数での飲み会などがそのような空間の例です。

人がたくさんいたとしても、直接触れ合うこともなく、またモノを共有することもなく、黙って座っているような場所は、例に挙げたような場所に比べるとリスクは下がると思われます。
もちろんそこに咳き込んでいるような方がいないという条件のもとですが。
――満員電車は、「換気が悪く」「人が密に集まり」「不特定多数の人が接触する」3つの条件に当てはまっているように感じます。リスクはどう捉えられているのでしょうか。

満員電車で皆が喋っていたり、歌っていたり、叫んでいたりすれば電車はリスクのある場所ですが、普通みんな無言ですよね。
なので、たしかに換気は悪いし、人との距離は近いけれども、上で挙げられている場所に比べればまだリスクは低いと思います。
ただ、リスクをより下げるために時差通勤するなどの対策が望ましいと考えられていると捉えています。
――やむなく乗車する際、気をつけられることがあれば教えてください。
咳エチケット(咳のある人はマスクを着けるか口元をハンカチか袖で押さえる)、乗車中は顔に触れない、下車してから石鹸と流水で手洗いをする、といったところでしょうか。
下車して即座に手を洗う必要はないですが、手を洗うチャンスがあるまではなるべく顔に触れない方が良いと思います。
――映画館や劇場などはいかがですか?
一概に「大丈夫」とは言えませんし、状況によりますが、考慮すべき点は変わりません。上に挙げた条件に当てはまる場所は、各自で判断可能かと思います。
もちろん、場所に関わらず、発熱や咳など風邪のような症状があればお出かけは控えた方がよいです。
休校中の子ども、どう過ごす?
――臨時休校でお子さんと家にいらっしゃる方も多いと思います。家庭での過ごし方にポイントはありますか。
沖縄県立中部病院感染症内科・高山義浩先生のFacebook投稿が参考になります。この意見に賛成です。
〈以下、一部抜粋〉
まず、友達の家へ遊びに行くのは大丈夫でしょうか…?
少人数での集まりならOKです。ただし、集まる人数が多いと、それに比例して感染リスクが高まります。できるだけ少人数で集まることをお勧めします。
ただし、お子さんに熱や咳などの症状があるのなら、どんなに軽症であっても遊びに行かせず、自宅で療養させてください。これは最低限のマナーですよ。
では、公園で遊ぶのは大丈夫でしょうか…?
公園で遊んでる子供たちの密度によるかと思います。あまりに大勢が集まってるのなら、遊具を介した接触感染のリスクが高まるかもしれません。
でも、公園で遊ぶのを禁じてしまっては、子供たちは春休みを乗り切れないんじゃないでしょうか? まあ、陽(紫外線)が当たればウイルスも死滅するでしょうし…(やや神頼み)。
そうそう、ショッピングモールなどに併設されている屋内型の遊技場については、(紫外線もないですし)よほど丁寧な消毒が求められるはずです。流行期に入ってからは避けるのが賢明ですね。
祖父母の家に遊びに行ってもいいですか…?
難しい質問です。親族の交流というのは、社会活動の基本中の基本ですよね。でも、新型コロナウイルスに高齢者が感染してしまうと、重症化するリスクが高いのです。
中国における分析では、80歳以上で確認した感染者のうち14.8%が死亡したとの報告もあるぐらいです(Zhonghua Liu Xing Bing Xue Za Zhi. 2020 Feb 17;41(2):145-151. )。
あえて言い切りますが、新型コロナウイルスから守るべきは高齢者であって、元気な子供たちではありません。感染を広げない目的の一斉休校ですが、そのことで高齢者を危険にさらすとしたら本末転倒です。
ですから、今後、地域での流行が始まったときには、祖父母の家には遊びに行かせないこと。長期に孫を預けるつもりなら、流行がはじまる前に疎開させてください。
良くないのは、田舎にいる祖父母と都会にいる孫が春休みだからと相互に行き来すること。この流行が収まるまでは、ネット経由によるビデオでの対話を活用するなど、高齢者の隔離性を保つことに力を入れてください。
「若者のせいでも、誰のせいでもありません」
――専門家会議の見解内の「全国の若者の皆さんへのお願い」に対し、ネットでは「若者のせいにしている」と批判的な声も目立ちました。この項目はどう捉えたらよいでしょうか。

若者のせいにしたかったわけではないと思いますが、これを読むと責められているように感じる気持ちも分かります。
なぜこのようなことが書かれているかというと、10~30代の方はCOVID-19にかかっても、風邪のような軽い症状で治ってしまう場合が多いのです。
そのため、自身が感染していると知らずに、先ほど説明したような空間で仲間と過ごしたり、高齢者と接触するということが起こり得ます。
自分が感染することも、感染したことを知らないで人と過ごしてしまうことも、若者のせいではありませんし、誰のせいでもありません。
ここは強調しておきたいと思います。そもそもCOVIDは他の年齢層でも軽症例が多い感染症なのです。
ただ、COVID19対策で今重要なことは、感染者を増やさないことと、それによって高齢者や基礎疾患のある方が感染する機会を減らすということです。
そのためには、若い方々には、ここ1~2週間は特に、風通しの悪い場所に大勢で集まってワイワイと楽しむことは避けてほしいというお願いなのだと思います。ただ、それ以上の年齢の方にも当然この注意事項は当てはまります。
【坂本史衣(さかもと・ふみえ)】聖路加国際病院QIセンター感染管理室マネジャー
聖路加看護大(現・聖路加国際大)卒、米コロンビア大公衆衛生大学院修了。Certification Board of Infection Control and Epidemiologyによる認定資格(CIC)取得。日本環境感染学会理事、厚生労働省 厚生科学審議会専門委員などを歴任。著書に『感染対策40の鉄則』(医学書院)、『基礎から学ぶ医療関連感染対策』(南江堂)など。