岸田政権の政策の一つとして「住宅ローン減税廃止」と記載したツイートが拡散している。
しかし、これは誤りだ。住宅ローン減税は、2022年度の税制改正で控除率が引き下げられるなど制度の改正はあったものの、廃止はされていない。
同ツイートには他にも、不正確な情報などが散見される。
BuzzFeed Newsはファクトチェックを実施した。

12月7日の夜に発信されたのは、以下のようなツイート。
岸田さんの仕事っぷりガチ凄いわ!!
国民年金65才まで支払い検討
退職金課税の増税検討
住宅ローン減税廃止
固定資産税減税廃止
金融所得課税増税検討炭素税検討
ガソリン減税見送り
雇用保険増額これ、どうゆう事かわかります?
ツイートには、岸田政権下における税や社会保険などの政策とされるものが、8つ列挙されている。投稿者は、これらの政策が国民や企業の負担増につながるとして、政権を批判する意図を込めていると見られる。
このツイートは、13日13時現在、1.7万リツイート、7.4いいねと広く拡散している。
住宅ローン減税、実際は…

住宅ローン減税とは、ローンを組んで住宅を購入する場合に、年末時点でのローン残高に一定の控除率を乗じた額を、所得税と住民税から差し引く減税措置のこと。1986年から続く制度で、その時々の経済状況などを反映して、期限延長をしながら中身を変えてきた。
2021年末、2019年に消費税の税率10%引き上げに伴う反動減対策として拡充した住宅ローン減税が期限を迎え、岸田政権は2021年12月、適用期間を4年間延長することを発表した。
その上で、現行の制度では低金利によって控除額がローンの支払い利息を上回る「逆さや」が生じていたため、制度を改正。
1%だった控除率を0.7%に引き下げる▽減税を受けられる所得の上限を3000万円から2000万円に引き下げる▽新築の場合の控除期間を原則13年間に延長する──などと改めた。
以上から分かるように、住宅ローン減税については、制度の改正はあったものの「廃止」という事実はない。
その他の投稿内容にも、不正確な情報が…

BuzzFeed Newsでは、当該ツイートの「住宅ローン減税廃止」以外の部分もファクトチェックした。以下で、一つ一つの内容を見ていこう。
■言説その1:「国民年金65歳まで支払い検討」
→ 正確。ただし、岸田政権下で初めて検討される案ではない
少子高齢化による年金財政の悪化を食い止めるため、国民年金の保険料の支払い期間を現状の40年から45年(20歳〜64歳)に延長する案。政府は10月25日、厚生労働省の審議会で2025年の次期年金制度改革に向けた議論を開始し、本案について検討する見通しだ。
ただし、本案に関しては2019年の財政検証でも検討されており、岸田政権下によって初めて検討される案ではない。
■言説その2:「退職金課税の増税検討」
→ ミスリード。検討段階には至っていない
発信者は、退職金所得への課税制度の見直しをめぐる議論について言及していると見られる。
現在の制度は、終身雇用制度を前提に、勤続20年を超えた人が優遇控除を受けられる仕組みになっている。しかし、働き方の多様性が広がるなか、転職の要因を妨げかねないなどと以前から問題視されていた。
10月18日に開催された税制調査会では「控除は勤続年数で差を設けず一律にすべきだ」などという意見が出たが、このニュースを日経新聞が報じると、ネット上では「ついに退職金にも課税へ」「退職金課税増税」などの言説が飛び交った。
しかし、そもそも退職金は現時点でも課税対象だ。また、税制調査会は中長期的視点から税制のあり方を検討する場であり、具体的な税制改正の議論には直ちには繋がらないものだ。
したがって、「退職金課税の増税検討」について、現時点で岸田政権の政策の一つとして言及するのはミスリードだと言える。
■言説その3:「固定資産税減税廃止」
→ 不正確。減税は一部継続されている
発信者は、新型コロナの影響を踏まえて実施された固定資産税の負担軽減措置について言及していると見られる。
政府は菅政権下で、2021年度に限り、住宅と商業地など全ての土地を対象に、地価が上昇しても固定資産税の額を据え置いていた。その上で、岸田政権は2022年度の対応について検討。2021年12月、住宅地に関しては予定通り措置を終了する一方で、商業地に関しては地価上昇に伴う税負担を通常の半分に抑える措置を実施すると発表した。
この言説では、減税が全面的に廃止されたかのように読み取れるが、実際は減税は一部継続しており、情報は不正確と言える。
■言説その4:「金融所得課税増税検討」
→ 正確
岸田首相は自民党総裁選時に金融所得課税の強化を目玉政策として掲げていたが、株式市場などへの影響を考慮し、2022年度の税制改正では課税を見送っていた。
日本経済新聞によると、政府は現在、所得が年30億円を超えるような富裕層の所得税に最低負担率を導入する最終調整に入っている。2025年にも適用するとし、週内にもまとめる23年度与党税制改正大綱に盛り込むという。
■言説その5:「炭素税検討」
→ 正確。ただし、岸田政権下で初めて検討される案ではない
炭素税導入は、脱炭素を政策の看板に掲げていた菅政権下で本格的に議論が始まり、岸田政権下でも引き継がれている。
政府は11月29日、二酸化炭素の排出量に応じて企業にコストの負担を求める「カーボンプライシング」の導入に向けた具体案を了承したが、この案では炭素税の本格導入については見送るとしている。
■言説その6:「ガソリン減税見送り」
→ 正確。ただし、ガソリン価格を抑える補助金給付は実施している
ガソリン価格の高騰を受けた対策として、岸田政権は、トリガー条項(※)の凍結解除については見送っているが、2021年1月以降、石油元売りに対する補助金給付を実施している。給付は、来年度以降も継続する予定。
※ガソリンの1リットルあたりの平均価格が3カ月連続で160円を超えた場合、ガソリン税の一部を減税する仕組み。現在、東日本大震災の復興財源を確保するため凍結されている
■言説その7:「雇用保険増額」
→ 正確。ただし、検討自体は菅政権下で始まったもの
新型コロナ感染拡大で雇用調整助成金の給付が増え続け、財源不足が課題となっていることから、2022年3月、雇用保険の保険料率を引き上げる改正雇用保険法が成立した。事業主負担の保険料率は4月から、労働者負担の保険料率は10月から引き上げられた。適用は2023年3月末まで。
ただし、保険料引き上げの検討自体が始まったのは、菅政権下の2021年7月から。
時の政権の政策を自由に批判することは、憲法で保障された国民の権利だ。しかし、事実に基づいた批判でなければ、議論そのものを誤った方向に導いてしまう危険性もある。
疑わしい情報、ミスリードな情報の拡散には、十分な注意が必要だ。
BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。
ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。なお、今回の対象言説は、FIJの共有システム「Claim Monitor」で覚知しました。
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- 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
- ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
- ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
- 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
- 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
- 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
- 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
- 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
- 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。