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「いつかは産みたいけれど今じゃない」卵子凍結に高まる期待。でも、その“リスク”正しく知っていますか?

若い卵子を“いつか”のために──。健康な女性の間で「卵子凍結」への関心が高まっています。しかし、卵子凍結にはリスクや問題点もあり、専門家は「デメリットがどれほど真実味をもって女性たちに届けられているか」と警鐘を鳴らします。卵子凍結をめぐって、今知っておきたいこととは。BuzzFeed Newsでは、卵子凍結に関して、皆さんが感じていることや体験談なども募集しています。

「今は仕事のキャリアアップを優先したい」「ふさわしいパートナーが見つかった時のために」──。

将来的には子どもを産み育てたいものの、様々な事情から先延ばしにしたいと考える女性の間で「卵子凍結」への関心が高まっています。

そんななか、東京都は2023年度から、健康な女性を対象とした卵子凍結への支援を行っていくと発表。卵子凍結が、より身近で、現実的な選択肢になっていくのではという期待も広がっています。

しかしながら、卵子凍結にはリスクや問題点もあります。

卵子凍結への関心がさらに高まる今、私たちが知っておくべきこととは。専門家に話を聞きました。

「卵子の老化対策」として関心が高まる

卵子凍結とは、将来の妊娠に備えて、卵巣から取り出した受精前の卵子を凍結保存すること。妊娠を望んだタイミングで、解凍し、体外受精を経て、妊娠・出産をする可能性を残すことができます。

もともとは、抗がん剤治療や放射線治療により卵巣機能の低下が懸念される女性に対し、行われてきました。

しかし近年、利用者は広がりを見せています。

一般的に卵子は加齢に伴って数や質が低下し、妊娠しづらくなります。そのため、若い頃の卵子をそのまま保存できる「卵子の老化対策」から、健康な女性が利用するケースが増えているのです。

日本受精着床学会が行った調査によると、2021年に都内で実施された卵子凍結1271件のうち、約9割にあたる1135件が健康な女性によるものでした。

ただし、健康な女性の卵子凍結は保険適用外で、実施には高額な費用がかかります。採卵と凍結に計30万〜40万円程度、その後も管理費として年間数万から数十万円がかかり、総額は100万円にのぼることもあります。

社員の卵子凍結を支援する企業や自治体が登場

そんななか、企業や自治体が、健康な女性を対象とした卵子凍結を後押しする動きも目立ち始めています。

メルカリは2022年5月、1子当たり200万円を上限として、卵子凍結に関する費用補助を本格導入。社員本人だけではなく、配偶者やパートナーも制度の利用対象としています。

こうした企業は他にも、デロイトトーマツグループやジャパネットホールディングス、サイバーエージェントなどがあります。

東京都は2021年度から若いがん患者らの卵子凍結に助成を行ってきましたが、2023年度からは、少子化対策の一環として、健康な女性が利用する卵子凍結の支援に向けて動き始めます。まずは、助成制度の策定に向けた調査に協力した女性に、一部費用を支援することを検討しています。

専門家の指摘するリスク

広がる卵子凍結ですが、リスクがあることも忘れてはいけません。

東邦大学医療センター大森病院産婦人科の片桐由起子教授は「卵子凍結のメリットばかりが強調され、ビジネス化されてしまうことを懸念しています。デメリットがどれほど真実味をもって女性たちに届けられているか不安がある」と警鐘を鳴らします。

その上で、卵子凍結をめぐる3つのリスクを指摘します。

1つ目は、必ずしも将来、出産・妊娠できる保証はないという点です。

片桐教授によると、卵子凍結が先行して行われてきた欧米における研究では、未受精卵の卵子凍結による妊娠率は17%〜40%、出産率は4.5%〜12%。

これは、不妊治療で行われる「受精卵」の凍結保存において、日本産婦人科学会が発表している妊娠率(36%)や出産率(26.2%)と比較しても、低い確率です。

「未受精卵の凍結は受精卵と比較して実績が少なく、無事に解凍できたとしても、全てが着床可能な受精卵に成長するわけではありません。子宮に戻す直前の状態で凍結する受精卵凍結保存と比べて、ハードルが多いのです。そういう意味で、未受精卵の卵子凍結は、他の妊娠の選択肢と比べても、効率が良い方法とは言えません」

2つ目は、採卵時の体への負担です。

卵子凍結では、出産率を高めるのに十分な量の卵子の採取を目指すため、卵巣を刺激する排卵誘発剤を使用するのが一般的です。しかし、使用においては、お腹や胸に水がたまる卵巣過剰刺激症候群という副作用が起きる可能性もあります。

また、採卵は卵巣に針を刺して卵子を吸引する方法が取られますが、これも卵巣出血や腹腔内感染症の危険性を伴う医療行為です。

3つ目は、高齢妊娠・出産に伴うリスクです。

若いうちに卵子を保存しても、妊娠・出産時に高齢になっていれば、妊娠高血圧症や糖尿病、出産後の出血等などのリスクは高まります。

片桐教授は2つ目、3つ目のリスクについて、こう話します。

「採卵は体に少なくない負担をかける医療行為ですが、欧米では凍結された9割の卵子が最終的に利用されないというデータもあります。また、卵子凍結の先には妊娠、出産、子育てという長い道のりが続きます。卵子凍結を検討する方には、リスクを理解した上で、いつ受精、妊娠、出産するかも含めた長期的な視点を持って計画してもらいたい」

日本産科婦人科学会「推奨しない」

医学界も、こうしたリスクなどを理由に、健康な女性が利用する卵子凍結には慎重な姿勢を取っています。

日本生殖医学会は2013年、健康な女性の卵子凍結についてガイドラインを公表。加齢などに備えた凍結を条件付きで容認しつつ、母児の合併症などのリスクに触れ、「本ガイドラインは、未受精卵子の凍結・保存とそれによる妊娠・分娩時期の先送りを推奨するものでもない」としています。

また、日本産科婦人科学会は2015年、卵巣刺激や採卵手術によって卵巣出血など健康被害が起きる可能性がある▽受精卵や胎児に及ぼす影響が不明▽将来の妊娠・出産を保証できない▽高年齢での妊娠・出産はリスクが上昇する──などとして「推奨しない」とする文書をまとめています。

なお、東京都の小池都知事は、こうした医学界の見解を踏まえた上で、「(健康な女性の卵子凍結に関する)調査項目、ガイドラインの作成に当たっては、学会や有識者などとも意見交換をしていきたい」などと表明しています。

「妊娠・出産とキャリアの両立」の解決策としては疑問も

卵子凍結への補助制度の導入が進むことをめぐっては、社会的なリスクも指摘されています。

たとえば、職場などで「妊娠は先延ばしにできるから今は働いてほしい」などと若い女性に圧力がかかってしまったり、妊娠や出産によって女性がキャリアで不利益を被ってしまう社会構造を温存させてしまったりする恐れがあります。

片桐教授もこう話します。

「卵子凍結という選択肢が広がること自体は良いこと。ただ、より重要なことは、妊娠・出産適齢期の女性が、キャリアを維持しながら安心して子どもを産み育てられる社会を作っていくことだと考えます。補助制度の導入が進むことで、そうした本質的な議論、対策が先送りにされてしまわないか、という懸念があります」

都が支援に向けて動き始めたことをきっかけに、今後、国やその他の自治体、企業などでも助成検討などの動きが増えてくることが予想される卵子凍結。

リスクや問題点に対して、さらに丁寧な発信や議論が求められています。

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妊娠・出産の新たな選択肢として広がりつつある卵子凍結。

皆さんはどのように受け止めていますか。

卵子凍結についてのご意見や疑問、パートナーや友人と話していることを教えてください。

実際に卵子凍結を検討したことがある方や行ったことがある方の経験談も募集しています。

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