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「5年前まで鶏にインフルエンザのワクチンを打っていた」は誤り。国のワクチン備蓄は過去一度も使用されておらず。農水省が否定

家禽に接種する鳥インフルエンザのワクチンについては、国が緊急用として備蓄していますが、国内で実際に使用された事例はありません。農水省は拡散している情報について「そういった事実はない」と否定しました。

「5年前まで鶏にインフルエンザのワクチンを打っていた」とする情報が拡散している。

しかし、これは「誤り」だ。

国は2004年度から家禽(かきん)に接種する鳥インフルエンザの緊急用のワクチンを備蓄している。

だが、農林水産省によると「これまで一度も使用した例はない」という。その上で、同省は拡散している情報について「そういった事実はない」と否定した。

BuzzFeed Newsはファクトチェックを実施した。

鳥インフルエンザとは、A型インフルエンザウイルスが鳥に引き起こす病気のこと。今シーズン(2022年秋~2023年春)は4月3日時点で、国内26道県で83事例が発生し、約1,740万羽が殺処分の対象になっている

Twitterで拡散したのは、4月2日夜に投稿された以下のツイート。5日午前の時点で、1.4万いいね、4500リツイート、63.4万回表示されるなど広く拡散している。

養鶏場の農家をしている人の話です。

5年前まで、ニワトリにインフルエンザのワクチンを打ってました。その結果、鳥インフルエンザになりました。

5年前から、ニワトリにインフルエンザワクチンを打つのを止めました。その結果、鳥インフルエンザになりません。

鳥にワクチンは必要ない!!

ツイートには、「ワクチンを打つと逆に病気になる。これは人も動物も同じ」「ワクチンとは、元々、病気にかかりやすくするもの」など反ワクチンに関連するコメントが多数見られる。

また、投稿者もこれまで反ワクチンに関する情報を多く発信しており、その中には「新型コロナワクチンを打った人のほうが45倍死んでいる」など誤った言説も含まれていることが確認できた。

鳥インフルエンザワクチン、国内で使用事例なし

政府は2004年度から鳥インフルエンザの不活性化ワクチンを備蓄している。

しかし、これは緊急ワクチンという位置付けで、平常時に予防のために使用する目的のものではない。

農水省が策定した「鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針」では、鳥インフルエンザの防疫措置について、「早期発見と患畜又は疑似患畜の迅速なと殺を原則とし、平常時の予防的なワクチンの接種は行わない」と定めている。

ワクチンが使用できる状況については、以下のように規定している。

農林水産省は、次の要素を考慮して、発生農場におけると殺及び周辺農場の移動制限のみによっては、感染拡大の防止が困難と考られる場合には、まん延防止のための緊急ワクチン接種の実施を決定する。

  1. 埋却を含む防疫措置の進捗状況 
  2. 感染の広がり(疫学関連農場数)
  3. 環境要因(周辺農場数、家きん飼養密度、山、河川等の有無等の地理的状況等)


指針によると、ワクチンを平常時の予防のために使用しない理由には、ワクチンは発症の抑制には効果はあるが感染を完全に防ぐことはできない点や、実際に感染した鶏とワクチン接種した鶏を抗原検査で区別するのに支障をきたす懸念、などがあるという。

なお、指針の根拠法となっている家畜伝染病予防法の規定では、鳥インフルエンザのまん延防止のため家禽にワクチンを接種できるのは、都道府県知事から命令を受けた場合だけだ。接種も都道府県の家畜防疫員が行うことになっており、農家独自の判断で接種することはできない。もしツイートにある「5年前までワクチンを打っていた」のが事実とすれば、その農家は家畜伝染病予防法に違反していたことになる。

それでは、国がこの緊急ワクチンを使用した事例はあるのか。

農水省の担当者はBuzzFeed Newsの取材に、「これまで一度も使用した例はない」と回答した。続けて、「5年前まで鶏にインフルエンザのワクチンを打っていた」という情報についても、「そういった事実はない」と否定した。

ちなみに、鳥インフルエンザワクチンは現在、中国など一部の国を除いて、多くの国では使用されていない。だが、致死率の高い高病原性鳥インフルエンザが世界的に猛威を振るう中、ロイター通信によると、欧州連合(EU)ではワクチン接種の検討が始まっているという。

ワクチンをめぐっては、いわゆる「陰謀論」が多く拡散されている。SNS上には根拠がはっきりしなかったり、誤ったりしている情報も多く広がっている。拡散しやすい扇情的な「又聞き」の情報などではなく、公的機関などによる発表を参考にすることが重要だ。


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

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