外見コンプレックスを煽る広告に、拒食症を経験したある女性が思うこと。

    「脱毛していないから彼氏に振られた」「太っているといじめられる」……ネット上には、外見のコンプレックスを煽る広告が溢れています。拒食症を経験したある女性が、こうした広告について思いを発信し、話題になっています。

    「ダイエット系CM、本当に不愉快。ダイエットしてる中高生にどうか届けてほしい」。こんな文章から始める、ある女性の投稿)がTwitter上で2千以上のいいねを集めた。

    ツイートをしたのは、株式会社Culmonyで代表取締役を務める岩澤 直美さん(25)だ。岩澤さんは中高時代に拒食症に苦しんだ自身の経験から、外見のコンプレックスを煽る内容の広告に、強い危機感を抱いている。

    一時は身長173cm、体重39kgになり、健康に被害が出るほどの過剰なダイエットをしていた彼女が、拒食症を克服し「自分らしさ」を大切にできるようになるまでの道のりを聞いた。

    「私は、中学3年生から高校2年生までの2年間半くらいの期間、拒食症でした」。

    小学校6年生から中学校3年生の途中まで、ドイツに在住していた岩澤さんは、日本への帰国をきっかけに「痩せたい」という強い欲求を持つようになったという。

    「海外の雑誌だと、体重に関することはあまり書かれていなかったのですが、日本の雑誌は違いました。雑誌には、『50kg以上あると男性が引く』『170cmのモデルさんでも40kg台が普通』というような内容が書いてありました。私の体重はそれ以上あったので、『日本に帰るから痩せなきゃ』と自分の体重を気にするようになりました」

    他人から「デブだ」などと体型をけなされたことはなかった。しかし岩澤さんは別の理由から、自身の見た目にコンプレックスを抱き続けてきたのだという。

    日本人の父と、チェコ人の母をもつ岩澤さんは、以前から「ハーフ」というステレオタイプに苦しんできた。


    「日本にいるとずっと『ハーフ』として見られるし、ハーフはモデルみたいに綺麗で細くなくてはいけないというステレオタイプがあって。そうじゃないと『残念ハーフ』と呼ばれたりだとか。ハーフの友人で『ハーフのくせに太ってる』と周りに言われている子から相談を受け、『私も太ったらそういう風に言われるかも』という不安もありました」

    自身のルーツに関連して、外見について悩むことが多かった岩澤さんにとって、雑誌で見た「体重が重いと嫌われる」という文言は、自己嫌悪に陥るには十分な内容だった。

    「常に誰かに見られているという感覚があり、人からどう見られるかを過剰に気にしていたことと、雑誌でみた”美の固定概念”が重なって、『痩せなくちゃ』と思うようになりました。ただでさえハーフだからという理由で、外見について言及されることが多かったので、『少しでも日本の価値観に合わせていかなきゃ』と思うようになったんです」

    身長173cm、体重39kg。過剰なダイエットを続けた日々。

    自己嫌悪に陥った岩澤さんは、激しいダイエットを始めた。トライアスロン部に所属して、連日激しい運動をしていたのにも関わらず、昼はキャベツ、夜は野菜だけの鍋など、過度な食事制限を続けていたという。

    身長は173cmあったが、一番痩せていた時は体重が39kgしかなかった。約2年間、生理も止まったままだった。

    周りの友人や家族は、過剰なダイエットを続ける岩澤さんを心配したという。

    「友人は、心配していたのかご飯に誘ってくれるんですが、その時は人の前で何かを食べることが怖かったんです。だから誘いにのることも少なくなって」

    栄養失調が続き、筋肉も体力も落ち、すぐ疲れるようになった。ちょっとしたことで情緒不安定になり、突然涙が出るなど精神面でも支障が出ていた。

    彼女を救った、ある友人との出会い。

    そんな状況の岩澤さんを救ったのは、高校でのある友人との出会いだった。

    「その子は、中学の時に拒食症で、高校に入ってからそれを克服していました」

    その友人は、拒食症でい続けると「生理が今後ずっと止まってしまうかもしれない」「身体に支障が出て、将来健康でいられなくなるかもしれない」という不安から、医者に通い続けて拒食症を克服していた。

    「それまでは自分の健康よりも見た目をより意識していたので、急に怖くなりました。そして、彼女は細いわけではなかったけれど、すごくチャーミングで、みんなからも好かれるような素敵な子だったんです。体重など関係なく、こんな素敵な人になれたらいいなと思えました」

    「その子が『直美があと100kg太ったとしても、直美は直美だから好きだよ』と伝えてくれたことや、家族の支えもあって、まずは体重と生理を戻そうということを目標に、病院に行ってまず女性ホルモンの薬をもらって。自分でも色々調べて、徐々に食べられるようになりました」

    拒食症の克服は簡単な道のりではなかった。拒食症が改善すると、次は過食症に苦しむことになった。

    「頭では『太ってもいいじゃん』と思いつつも、心からはそう思えなかったし、自己肯定感がすごく低かったので、自己嫌悪に陥って周りからどう思われているかを、すごく気にしていました。一時期は70キロ近くになり、実際に『太ったね』とも言われ、不安が募るばかりでした」

    もう体重計には乗らない。大切にするのは「自分がハッピーにいられる」こと。

    その後、岩澤さんは「周りにどう思われているかを気にするのをやめる」ことで、外見のコンプレックスを克服していったという。

    「雑誌などを読むのをやめ、自分が一番ハッピーでいられるための食生活、習慣、体型ってどういうものだろうと考えるようになりました」

    「筋トレや自転車にはまって、バランスよくいろんなものを食べていたら自然に身体が締まってきました。体重も、自分が一番快適にいられるとか、勉強や仕事の時に集中力を保てるとか、そういう感覚でバランスをとるようにして、体重計に乗ることもやめました。心がとっても楽になって、好きなものを食べることの楽しさを感じられるようになりました」

    「刈り上げはモテないよ」「金髪ロングが似合うハーフ顔なのにもったいない…」って言われたけど、モテることや周りに期待に応えることより、自分がやりたいことをやるほうが私は幸せかなあ。 他者から期待されるステレオタイプに悩まされてきたけど、ようやく刈り上げデビューできました👏👏

    「ハーフ」や「モテ」といったステレオタイプや偏見に打ち勝ち、岩澤さんは前に進んでいる。

    コンプレックスを煽る広告について思うこと。

    「脱毛していないから彼氏に振られた」「胸が小さいから浮気をされた」「ニキビがあると彼氏ができない」「太っているといじめられる」……。

    テレビ、YouTube、ウェブサイト、電車内は、外見のコンプレックスを煽る形で、脱毛やダイエットなどのビジネスを宣伝をする広告で溢れている。

    拒食症やハーフのステレオタイプと闘い続けてきた岩澤さんは、こうした内容の広告に苛立ちを感じるという。

    「最近のあの広告ってひどいですよね。本当に見るたびにイライラします」

    「結局何にお金や時間をを使うかは人の自由だから、自分のことを好きになるためなら(ダイエット等を)やりたい人はやればいいと思うんです。でも、『他者に認められないから自分を好きになれない』というのは違うなと思うんですね。だから、『痩せていないと人間関係がうまくいかなくなる』などと発信して、外見だけで人を判断することを助長するようなCMは本当に罪だし、なくなってほしいと思います」

    過去の自分に伝えたいこと。

    拒食症を克服した今、岩澤さんは、外見に悩み自己嫌悪に陥っていた過去の自分に向けて2つのことを伝えたいという。



    「1つ目は、人にどう思われるか気にするなら、見た目ではなく生き方や中身がキラキラ輝いている人を見つけて、そっちを目指して欲しいなということ。人は外見だけで人と関わるだけじゃないから、もっともっと中身を磨いていって、人から『内面から美しい人だな』と思って思われるような人になれるように意識して欲しいなと思います」

    「2つ目は、中身を磨くといっても完璧である必要はないということです。私は完璧主義者だから、全教科5の評価を取らなきゃとか、コンテストや活動で評価されなきゃと思っていたんです。できないことを他人に見せないようにしなきゃ、って。

    「でも、人間誰でも得意なことと苦手なことがあるし、『苦手なこともあっていいじゃん』と思えると楽だよって昔の自分に教えてあげたいです。私は今でも掃除なんかも本当に苦手で、家事代行の方に来てもらってますし(笑)。得意なところは頑張って、苦手なところは他の人に助けてもらっていいんだよって伝えたいです」

    岩澤さんは、自身の思いをTwitter上でこう語っている。

    今は20キロ以上増えたけど、健康的で、幸せになれた。「誰かのため」「みんなにどうみられるか」じゃなく、「自分が居心地のいいライフスタイル」の結果として今の身体がある。筋トレが趣味になって、ずっと切りたかった髪もバッサリ切った。脱毛もしない。他の人がどう思うかなんて気にしない。

    今は20キロ以上増えたけど、健康的で、幸せになれた。「誰かのため」「みんなにどうみられるか」じゃなく、「自分が居心地のいいライフスタイル」の結果として今の身体がある。筋トレが趣味になって、ずっと切りたかった髪もバッサリ切った。脱毛もしない。他の人がどう思うかなんて気にしない。