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ルッキズムに縛られてきた10代 あの頃は「わきまえたブス」を演じていた…。

「(過去の自分は)ひたすら容姿コンプレックスを煮詰めてしまい、容姿や性格のかっこよさに、勝手に正解があると思っていたんです」

今年の7月〜10月に行われたミスター慶應SFCコンテスト2020に出場した人がいる。慶応義塾大学の修士2年の篠原かをり(25)さんだ。

自身を「Xジェンダー」(男女のいずれか一方に限定しない立場。ノンバイナリーとも呼ばれる)と自認する篠原さんは、身体が女性であるため、これまで「男性」を募集条件とするミスターコンへの出場資格がなかった。

しかし、今年から募集対象から性別の枠がなくなり「全慶応生」に変更されたことがきっかけで、出場が可能になったのだ。

出場可能になった矢先に立ちはだかったのは、10代から苦しみ続けてきた、外見コンプレックスという壁だった。過去を乗り越え、出場を決意するまでの道のりを取材した。

「女なのにブスってやばいじゃん」と言われ……。ルッキズムに縛られてきた10代

篠原さんは中高生時代、自身の容姿に強いコンプレックスを抱き続けてきたという。きっかけは、友人からかけられた、心ない言葉だった。

「親しかった友人4人の間で、私はいじられキャラだから、悪く言ってもいいという雰囲気がありました。遊びに行った時にも、冗談混じりで『一番ブスなんだから金払えよ』とか、『女なのにブスってやばいじゃん』と言われたりだとか」

その言葉に傷ついた素振りを見せず、自虐キャラを続けた。

「自分がブスである以上、『その事をわきまえていれば、これ以上責められない』という考えがあって。その姿勢を友人から褒められたこともあり、これで良いんだと思ってしまっていたんです」

「あの頃は、『変人で、容姿の悪い女』という役割を、どううまく演じるかばかりを考えていました」

容姿についての悩みを持っているのは、「自分だけではない」。

大学に進学し、容姿のコンプレックスについて発信しているインフルエンサーの言葉に触れたことが、長い間抱えてきた悩みを克服するきっかけとなった。特に影響を受けた人は、ライターの雨宮まみさんだ。

雨宮さんは、自伝的エッセイ「女子をこじらせて」(幻冬舎文庫)で、誰もが持ちうる外見のコンプレックスについても触れている。

「私からは美しくて大好きだと感じている方でも、容姿に苦しんできたということを知り、『容姿についての悩みを持つことは、特別珍しいものではないんだ』と気づけたんです」

「また自分にかけられる心ない言葉について、怒りを抱いてもいいのだ、ということ、その伝え方についても学びました」

同じ悩みを持っていたのは自分だけではないと気づき、コンプレックスの原因となった出来事と向き合うために、行動を起こした。

篠原さんが外見について悩むきっかけとなった、「ブス」という言葉をかけた4人の友人たちに向き合ったのだ。

あの時「ブス」と呼んだ友人からの謝罪。

謝罪までの経緯はそれぞれ違った。

「2人で会っているときに、不意に相手に対して怒りが湧いてきて、唐突に自分から伝え、謝罪してもらったこともあります」

また友人の1人は篠原さんが書いたエッセイ本の中で、自身について触れた箇所を読んだことで、自分のことだと気づき、自ら謝罪してきたという。

「しっかりと自分が感じたことを話した結果、4人とも謝ってくれたんです。しっかり伝えればわかってくれるんだなと分かったことで、(心に傷を負っていた状態から)少し回復できました」

なぜあの時、自分を「ブス」だと思ってしまったのか。

「ブス」と呼ばれた中高時代の自分は、なぜその言葉を受け入れてしまったのか。

自身のコンプレックスを克服していく過程で、その原因についても考えるようになったという。

「(過去の自分は)ひたすら容姿コンプレックスを煮詰めてしまい、容姿や性格のかっこよさに、勝手に正解があると思っていたんです」

「でも、容姿すらも何が良いとか悪いというものではなくて、人から言われたから思い込んでるだけということに気づきました」

私は最大時から12kg痩せたし矯正したし印象が変わった類の人間だけど、これだけ頑張って自信持てましたとは言うつもりなくて、どんな私でも最高なのに自信奪った物これから全部ぶっ飛ばして行こうねって思ってる

「7年の年月が、私をこの舞台に立たせてくれた」。

ミス・ミスター慶應SFCコンテスト2020ではいずれも、従来の応募条件にあった「男女」という枠が廃止された。

これまで、ミスコンやミスターコンを「別世界のもの」と思ってきたという篠原さんは、この変化がきっかけでコンテストへの出場を考えるようになったという。

「ジェンダー/セクシュアリティやルッキズムについて、社会全体の認識が大きく変わる時代の中で、10代20代を過ごしてきた」と自負する篠原さんは、ファイナリストになった際の所信表明の投稿でも、こう語っている。

私がこの学校に入学した7年前、ミスターコンに出るのは男性で、それも多分誰もが認める明るいイケメンだったと思います。そして、7年前の私には到底ミスターコンに出る勇気はありませんでした。7年で世界も私も大きく変わりました。世界も私もまだまだ変わるけれど、7年の年月が私をこの舞台に立たせてくれました。

「最近のミスターコン、ミスコンは問題視されることも多く、私も確かに変化が必要だと思っていました。長い期間通った、すごく好きな大学なので、変わり方の1つの形として『自分なりのかっこよさ』を発信できたらと思って参加しました」

勝ち負けにはこだわらない。伝えたいのは、自分なりの「かっこよさ」

SNSで積極的に自身の写真をアップしている篠原さん。しかし、「毎日元気って感じではないんです」と、未だ容姿へのコンプレックスを完全には克服できている訳ではないと明かす。

だからこそ今、「自分らしいかっこよさ」を模索し、発信し続けている。

「性別の枠もどちらでも良いし、人からかっこ悪いと思われても、自分でかっこいいと思えればいい。(社会の枠から)外れた自分も別解として、自分のかっこよさを信じて応募できたことが、勝ちだと思っています。そんな『自分票』をたくさん集められるようになったことが、私の中での一番の変化です」

ミスコン・ミスターコンのこれからは

賞はとれなかったけど、私が欲しかったのは応援してくれるみんなからの愛だったので本当に出て良かったです 出生時に振り分けられた性別が女性ということはミスターコンの歴史を変えません だからいつか歴史を変える人は性別ではなく、その人の魅力によるものです 3ヶ月間ありがとうございました

篠原さんは、グランプリでの受賞こそ逃したものの、その結果報告の投稿では「本当に出て良かったです」と、笑顔を見せた。

今回のコンテスト出場を振り返り、篠原さんはこれからのミスコン・ミスターコンのあり方について、こう語る。

「出場するまで、容姿の良さの基準を画一化することってどうなのかなと疑問に思っていたのですが、今回出場してみると、私は私なりのかっこよさを提示できました」

「また容姿がとてもいい人が、必ずしもグランプリになるという訳でもなくて、ミスコン・ミスターコンは単なる『容姿コンテスト』ではないこともわかりました」

「かっこいい」「可愛い」という言葉の解釈を広げ、「自分の思う自分の魅力で、勝負することを恐れない人が1人でも増えれば」というのが、今の篠原さんの願いだ。

「1つの基準で、みんなの理想に100%合うものを作ることって難しいと思います。多様性が広がる中で、既存の価値観がそのうちの1つになればいいなと思います」

「多くの人が、もっと自分らしくいられる社会にしていきたい」と語る篠原さんは、過去の自分のように、様々な理由で社会からのプレッシャーに悩んでいる方に向けて、こうメッセージを送る。

「悩んでいる時って、その先もずっとその辛さが続くって思ってしまうと思うんです。でも自分も社会もどんどん変わっていくものです。だから、一緒に頑張って、その一瞬だけ耐え抜きましょうと伝えたいです」