「生殖に関する強要」を受けた女性たちがとった妊娠中絶という選択

    避妊の妨害や妊娠継続の強要など、「生殖に関する強要」を受けた3人の豪女性。中絶という選択に救われた体験を語る

    21歳のとき、リアナは10歳年上の男性と交際していた。相手は精神的、肉体的な暴力をふるって抑圧する人だった。

    「知り合ったとき、私はいろいろと弱っている時期で、彼はそれをわかっていたんです」。現在32歳になったリアナはBuzzFeed Newsの取材にそう答えた。

    交際相手は避妊なしでのセックスを求めた。

    「私はピルを飲んでいたのですが、彼はパイプカット(精管結紮)手術を受けたと言っていたので、ピルを飲み忘れたときも特に問題はないだろうと考えていました」

    やがて妊娠した。問い詰めると、相手はパイプカットの件は嘘だったと認めた。

    「本当に許しがたいし、性交中にこっそりコンドームを外す行為と同じくらい最悪です。違法にすべきだと思うくらい」

    「生殖に関する強要」(reproductive coercion)とは、その人のリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)に関する決定権を他者が故意に奪うことを指す。避妊を妨害する、妊娠や妊娠継続を強要する、中絶や不妊手術を強制するといった行為が該当する。

    リアナは妊娠の継続を希望しなかったが、交際相手からの圧力はエスカレートした。「ある晩、彼がひどい暴力を振るったんです。赤ちゃんをだめにしようとするくらいの勢いでした。このとき、自分の意志はほぼ固まっていたのですが、少し焦って追い詰められた気持ちもありました」

    ビクトリア州の公立病院で中絶手術を受けた。費用はかからなかった。

    「手術そのものは問題なくすんだのですが、やはり重い経験でした」とリアナは振り返る。「医療処置ですし、自分の中で折り合いをつけるには何年かかかりました。相手は特に何もせず、去っていきました」

    相手とは中絶後に別れたが、連絡してくるのをやめさせるまで数ケ月かかったという。

    「彼とは本当にひどい関係だったし、子どもを産んでその後の人生を彼の元で縛られて生きるのは考えられませんでした」

    ジェイミーが妊娠したのは2014年だった。相手の男性はジェイミーに対する暴力と脅迫でのちに告訴され、収監された。男性は「気持ちよくないから」という理由で避妊具をつけるのを拒んだという。

    「彼は自分が避妊したくないと言えば、リスクがあっても私が受け入れるとわかっていたんです。向こうが私を脅して従わせる関係だったので、彼を満足させるためなら私は何でもしたでしょうから」

    ジェイミーは21歳で、前の交際相手との間に幼い息子がいた。今回の妊娠を続けるのは望まなかったが、当事者である彼にもその選択を「サポートしてもらい、安心させて」ほしかった。

    「妊娠の事実についてしばらく悲しみと向き合い、とるべき道を受け入れる時間と場所が必要でした。それに対して彼の方は暴力的になって私を攻撃し、お腹を踏みつけたり喉元をつかんだりされました」

    生まれることのなかった子について複雑な思いはあったが、金銭的にもその他の面でも受けられる中絶手術があったおかげで助かった、という。

    「私は、自分と息子と赤ちゃんがこの先18年間、あの虐待する男に縛りつけられることも、彼にその力を持たせることも、そして彼がこの先何かの形で私に接触してくることも、絶対にさせたくない。つながりを絶つために、あの犠牲はどうしても必要な犠牲でした」

    かつて息子を出産した7ケ月後、ジェイミーは重度の産後うつになり、入院した経験があった。

    「あの男と交際を始めたのは、それから2、3ケ月たった頃でした。私は心の病を抱えた女性専用の施設で幼い子と暮らしていて、心身ともに弱った状態でした」

    ジェイミーにとって唯一の選択肢が中絶手術だった。3年後、自身が住むノーザンテリトリー(北部準州)で人工妊娠中絶を合法とする決定がようやく下された際、ジェイミーは積極的に支持した。

    「私の場合は早く気づいて、先を見越して動いたので、当時中絶が合法だったらそれを選択して、息子と家にいる道を選んだと思います」

    ノーザンテリトリーでは現在、妊娠9週以内であればRU486(経口妊娠中絶薬)の服用は合法とされている。

    ジェイミーは公的な給付金を受けていて、大規模な医療機関も近くにあったため、中絶費用はかからなかった。「もし無料でなかったら、受けられたかわかりません」

    「そして、私が都市部に住んでいて、地域で人工中絶手術を扱っていた唯一の病院がすぐ行ける場所になかったら、かつ子どもを預けられるところがなかったら、もう一人子どもを抱えることになって、私の精神状態ではとても受け止めきれなかったでしょう。病院にかかって手術を受けられなければ、暴力をふるう相手から逃れられなかったはずです」

    中絶を受ける前後は「完全に孤立した」気持ちだった、という。サポートネットワークの類いはなかった。

    「最初に超音波検査を受けたとき、担当医師はとてもぞんざいな態度で、夫はいるのかと聞いてきました。私は涙ぐんでしまったのですが、最初から最後まで、大丈夫かと気づかってくれる人はいませんでした」

    手術後、カウンセリングを受けた。

    「ソーシャルワーカーとの出会いがあって、暴力的な相手との関係解消まではかなり長くかかったのですが、その間ずっと支えてもらいました。カウンセリングを受ける機会に恵まれなかったら、最終的に警察に介入してもらって彼との関係を絶つ強さは決してもてなかったと思います」

    西オーストラリア州在住のメアリーは虐待的な相手と別れたばかりだった。

    「彼の言動がエスカレートしだして、今すぐ離れないと自分は犠牲者になる、と感じる段階までいきました」。44歳で母親でもある彼女はBuzzFeed Newsにそう語る。「子どもたちは父親(前の交際相手)の元へ避難させました。一緒に暮らし続けるのは、子どもにとって悪い環境だと思ったからです」

    そして交際相手と別れた後、「少し道を外れてしまい」、ドラッグとアルコールを乱用するようになった。

    「精神的にいい状態ではありませんでした。ある人と知り合い、泥酔して一夜を過ごして妊娠してしまったのです。私は避妊をしていなかったので、コンドームがあるかどうか相手と話したはずですが、よく覚えていません」

    中絶の準備をするため、診察の予約を入れた。

    「当時は人生の次の段階へ移行するまでの過渡期のような日々で、事実上ホームレスに近い状態が続いていました。前の交際相手との金銭問題も片付けようとしていて、もう一人子どもを迎える余裕はとてもありませんでした」

    だが相手の男性に妊娠を告げ、中絶するつもりだと伝えると、別の提案をされた。

    「子どもは産んで、自分に託してほしいというんです。面倒をみてくれる人を見つけるから、と。どうしたらそんなことができるのか、まったく理解できませんでした。彼はずいぶん簡単なことととらえていたようだけれど、私は疑問ばかりでした。医療費は誰が払うのかとか、仕事はどうするのかとか」

    相手の男性について深くは知らなかったが、暴力をふるって服役した過去があるとのちに知った。

    「最初の時点で不安を抱かせる兆候はありました」と振り返る。相手の言動には過去のトラウマをうかがわせる部分があったという。男性には過去の相手との子どもが死産に終わった経験があった。

    「その点は同情できますが、とはいえ私には彼のために元気な子を産んで過去の悲しみを消してあげる責任はありません」

    中絶手術の当日、男性は病院へ付き添った。

    「妙な気まずさで落ち着きませんでしたが、彼は費用を半分負担して、待合室で待っていました。実際、これはとてもよかったと思っています。一方で‘産むところまでやって子どもはこっちによこせ’と言っておいて、‘でもこっちの言ったとおりにしないなら俺は知らないし関係ない’というのは無責任ですから」

    病院へ一人で行くことになった場合を考え、費用の880豪ドルは何とか自分で用意していったという。

    「あの時はニュースタート(いわゆる失業手当)を受けていて、資金源になるものはみんな元交際相手に断たれていたので、どこでお金を工面したのかよく覚えていません。でもこれしか道はないとわかっていて、受けないという選択肢は一切ありませんでした」

    (記事中の女性はいずれもプライバシー保護のため匿名希望)


    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:石垣賀子 / 編集:BuzzFeed Japan