デメリットだらけのマルチタスキングは、もうやめよう

    マルチタスキングなんて簡単だと思っているなら、それは間違い。

    みなさんはおそらく、頻繁にマルチタスキングをしているだろう。日ごろからつねに、赤信号を待ちながらInstagramをスクロールしたり、Googleハングアウトでチャットしながらパソコンで業務報告書を作成したり、人と話をしながらメールを書いたり、ドラマをみながらスマホゲームの「キャンディクラッシュ」をしたり、といった具合だ。

    自分はマルチタスキングが得意だ、と思っている可能性も高いのでは。それどころか、マルチタスクができる自分を誇っているのではないだろうか? ブレンダと彼氏の一件を、同僚にこっそりとSlackで報告しながら、会議にしっかり集中できるなんて、熟練したマルチタスキング・テクニックとしか言いようがない――などと思っているのではないだろうか?

    気を悪くしないでほしいのだが(それに、ブレンダはお気の毒だと思うが)、科学的判定はもう下っている。「マルチタスキングは不適切であり、すべきではない」と。

    筆者はこの件に関して専門家4人に話を聞いた。もしあなたが、なんでも同時にこなせるし何の問題もない、と思っているとしたら、自分を偽っているとしか言いようがないようだ。

    この記事についても、ほかに3つのタスクをこなしながら「読んでいる」人もいるかもしれない。そうした人に向けて、マルチタスキングがもたらす最悪の副作用を要約しておこう。マルチタスキングは、仕事に対する満足度を下げ、人間関係にダメージを与え、記憶力に悪影響をもたらし、健康にマイナスとなり、想像力を妨げる、と。これは研究から明らかになっていることだ。

    ラスマス・フガードとジャクリーン・カーターが共著書『The Mind of the Leader』(リーダーの知性)のなかで述べているように、人間にはマルチタスキングの能力がないことが、広範囲にわたる研究で裏づけられている。著者たちによると、仕事で複数のタスクを同時進行させていると、「人間は、『互いに無関係のことがらを行うことに慣れてしまい、何にでも集中力を妨げられるようになってしまう』」のだ。

    実際、複数のタスクを、質や効率性を低下させずに同時進行できる人は、人口のわずか2%しかいない。研究が示しているのだ!

    マルチタスキングが、物事を容易にせず、難しくしてしまうのはなぜだろうか。その正確な理由を知りたいなら、「スイッチの切り替え」という観点から考えてみてほしい。文章を書いたり読んだり、計算したりというような、認知力を要する活動がタスクだ。そうしたタスクを2つ以上、同時にやろうとする行為は、厳密にはマルチタスキングではない。むしろ、スイッチのようにタスクを切り替えながら行う「スイッチ・タスキング」だ。複数のタスクを完全に同時進行させることはできないので、タスクのあいだを行ったり来たりすることになるわけだ。そして、スイッチの切り替えには犠牲が伴う。

    カリフォルニア大学アーバイン校で情報科学を研究するグロリア・マーク教授は、「タスクを切り替えるたびに、脳は注意力を新たに設定し直さなくてはなりません」と話す。「そのようにして脳が心的資源(脳が情報処理のために使うパワー)を失えば、時間は浪費され、ストレスが生まれます。つまり、取り組んでいるタスクの質が低下するのです」

    別の仕事に取り組んでいる最中にメールの通知音が鳴ると、すぐにメールを開いていないだろうか? それがスイッチ・タスキングだ。トレントがプレゼンテーションしている最中に、彼が身につけているクジラ柄のベルトについて、同僚がメッセージを送ってきたって? それもスイッチ・タスキングだ。このようなスイッチ・タスキングは生産性を40%低下させることが、研究から明らかになっている。

    また、『The Myth of Multitasking』(マルチタスキングという神話)の著者デイブ・クレンショウは、そうしたスイッチの切り替えを80%減らせば、1カ月に40時間もの時間が浮く(!!)と推測している。

    とはいえ、マルチタスキングがすべて悪いわけではない。マルチタスキングとは、われわれにおなじみの「スイッチ・タスキング」と、もっと肩の力を抜いたかたちの「バックグラウンド・タスキング」の総称だ。バックグラウンド・タスキングとは、認知力を必要としないタスクをいくつか同時進行させる行為のことだ。たとえば、トレッドミルで走りながら「フード・ネットワーク」(食をテーマにした専門テレビ局)を見るとか、掃除機をかけながらカーリー・レイ・ジェプセンの歌を聴くといったことだ。

    以上は、仕事にまつわるマルチタスキングの話だった。しかし、筆者が話を聞いた専門家はみな口をそろえて、スイッチ・タスキングは私生活にもきわめて悪い影響をおよぼすと話す。誰もが知っている明らかなスイッチ・タスキングの事例を2つ挙げてみよう。ひとつは、他人と面と向かって会話をしながらスマートフォンを使う、というシチュエーションだ。心理学者のライアン・ハウズによると、スマートフォンという迷惑な存在は、たとえるなら、相手とのあいだに介在するもうひとりの男性/女性/人間であり、存在感の欠落を招くし、人はそれをすぐさま察知するという。

    「(スマートフォンによって)周囲の人は、自分はそれほど重要ではなく、優先されない存在だという気持ちになります」とハウズは語る。「私たちはうまく隠していると思っていますが、違います。自分の優先順位は低いのだ、と相手に思わせているのです。最低です」

    もうひとつのシチュエーションは、運転中の「ながらスマホ」だ。マサチューセッツ工科大学で神経科学を研究するアール・ミラー教授は、自動車の運転と携帯電話については、「一緒にすべきではありません」と立場を明確にしている。「電話を物理的に手に持つかどうか、というだけではなく、会話に必要とされる認知力も問題です」とミラー教授は筆者に語った。「ヘッドセットを使って電話で話をすることも、ほぼ同様に良くありません」

    2人の人間が車内で実際に会話をしていれば、静かにすべきときや、話を止めるべきときがいつなのか、双方ともわかるものだ。それに、同乗者の視線も道路に向いている。しかし、会話の相手がその場にいなければ、そうではない。

    「運転中に電話で話をしている相手は、あなたの目の前で何が起きているのか、まったくわかりません」とミラー教授はつけ加える。「それは、ドライバーや、周囲にいるほかの車や人間にとって、非常に危険だとしか言いようがない状況です」

    にもかかわらず、人はなぜそれほどまでにマルチタスキングをしたがるのだろうか。それは、人間が生物学的にマルチタスクするように生まれているからだ。ミラー教授が筆者に話したところによると、人間は原始時代からマルチタスキングしていたという。当時はそれが好ましいことだった。というのも、「情報源が少なく、手に入った情報は生死を分けるくらい重要だったからです」とミラー教授は言う。「藪でガサガサ音がすれば、それはトラがいまにも飛びかかってくるかもしれないという意味です。そういった新しい情報は、命にかかわるきわめて重要なものだったかもしれません」

    私たちの単純な脳(これはミラー教授の表現であって筆者の表現ではない)は、いまだにそうした情報を必死に求めている。そして私たちの脳は、情報が豊富な社会に存在する無数の情報源に対処できるほどは進化を遂げていない。加えて、心の奥底ではスイッチタスキングが不適切だとわかっていても、脳はとても上手に自らをだましてしまう。「脳は、もっともらしい理由をつけて、本当は得意ではないのに、得意だと思い込ませてしまうのです」

    スイッチ・タスキングをしてしまう原因はたくさんあるが、責任は「Windows 95」にもある。コンピューターが、さまざまなプログラムを簡単かつスムーズに切り替えられるのを目にしたとたんに、人間は「自分もできるのではないか」と考えてしまったのだとクレンショウは言う。

    厄介なのは、コンピューターはマルチタスキングしているわけではないということと、コンピューターと同じことをやろうとしても、人間の脳には不可能ということだ。コンピューターはマルチタスキングしているように見えるだけ。私たちははじめから、無駄な試みに挑んでいたのだ。

    さらに登場したのが、スマートフォンとメールだ。筆者が話を聞いた専門家全員にとって、メールはとんでもない悪者であるらしい。カリフォルニア大学アーバイン校のマーク教授によると、人は平均して「1日に74回」メールをチェックしているという。メールは、「こっちを見てほしいという要求」を突きつける。スマートフォンをぶるぶる震わせたり、小さな数字のアイコン(未読数)を表示したりして、どうにも無視できない。自分を見てもらえるまで足を踏み鳴らし、かんしゃくを起こしているようなものであり、ストレスを生むのにもってこいだ。

    マーク教授は、「人々がメールを開いてから閉じるまでの時間を調べ、心拍数モニターでストレスを測定する研究を行ったことがあります」と述べる。「その結果、メールに費やす時間が長ければ長いほど、ストレスレベルが高いことがわかりました」

    では、こうした状況を改善するにはどうすればいいのかというと、幸い、できることはたくさんある。まずは、日常でもっとも頻繁に切り替えているスイッチは何かを特定し、それを減らすよう取り組むべきだ。そうすれば、シングル・タスクが増やせる。

    私たち(さらに、アプリやウェブサイト、スマートフォンをつくる側)は、スイッチ・タスキングを、脳にとってとてつもなくエキサイティングなものにしてしまった(たとえスパムでも、メールが届くとワクワクするものだ!)。けれども、時間をかけて努力すれば、そういった興奮を抑え、脳が集中したくなるような状態へともっていくことが可能だ。そのためのヒントを紹介しよう。

    • メールソフトを閉じて(通知もすべて無効にする)、1日のなかでメールをチェックする時間を決める。
    • スマートフォンを見えないところにしまう(運転するときは、スマートフォンをバッグやグローブボックスのなかに入れるよう、ミラー教授は勧めている)。
    • 仕事のタスクに優先順位を設け、スケジュールを立てる。そして、ひとつのタスクに取り組んでいるときに頭がぼんやりしてきたら(タスクを始めてだいたい18分経つとそうなることが多い)、立ち上がって5~10分ほど歩きまわり、血流と心拍数を上げる。
    • スイッチ切り替えによる避けようのない影響をできるだけ抑えるために、類似したタスクをひとまとめにする。そうすれば、重複しても、さほど苦労せずにタスク間を行き来できる。

    また、シングル・タスクを目指せるよう、自分の仕事や生活におけるキーパーソンの手を借りよう。たとえば、上司に直接、こんなふうに相談してみてはどうかとクレンショウは勧めている。「もっと集中力を高めたいので、メールをチェックする回数を減らす予定です。(スケジュールを提示して)これからはこのようにしようと思っていますが、いかがでしょうか?」。周囲の人に積極的に関わってもらえば、生産性向上に役立つ。また、「周囲の人」も、スイッチ・タスキングについての認識を深められるかもしれない、とクレンショウは言う。

    さらに、シングル・タスキングであろうがスイッチ・タスキングであろうが(現実的にみて、スイッチ・タスキングは時には避けられないものだ)、シンプルなマインドフルネスのテクニックを利用すると効果的だ。目の前のことに集中するために、自分の行動を実況中継するといい、とハウズは言う。「『私はいま、エレベーターに乗っている』とか、『オフィスに向かっている』『メモを確認している』というように、心のなかで自らの行動を実況中継してみてください。つねに目的を持って行動すれば、すべてを区別しておけるようになります」

    また、自分の状態を確認するのも一案だ。「1日に何度もそうしましょう。そして、深く集中しているときには、15分ごとに、自分がどんな状態にあるかを確認してください」とハウズは述べる。「また、午前中のほうがエネルギッシュで、1日の終わりが近づくにつれてペースが落ちるのなら、そうした傾向に合わせて計画を立てましょう」

    何よりも大事なのは、自分自身をいたわることだ。「何もかもをきちんとやり遂げようとして、自らにプレッシャーをかけすぎないよう気をつけましょう」とハウズは言う。またクレンショウは、「代わりに何をすべきか」と自問自答すると、脳のパターンを打ち破るのに効果があると話す。その間、努めてシングル・タスキングを心がけよう。せめてこの記事くらいは、スイッチを切り替えずに読んでもらえるよう願っている。

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:遠藤康子/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan