元マジシャンの錯覚心理学者が解説する「霊媒師と奇術と心理学の歴史」

    「わたしは、人間の精神に欠陥があるとか、人間の認知システムなどたかが知れていると言いたいのではありません。言いたいのは、認知システムというのは往々にして、わたしたちの大半が想像しているよりも不可解なものだということなのです」

    D.A.P., courtesy of the Wellcome Library, London

    鳥の「霊」や花を手にした「女性の亡霊」の出現を目撃しているという写真。後方に立つのは、奇術師のウィリアム・S・マリオット。これは、心霊研究家のハリー・プライスが、当時のインチキ霊媒師たちが日頃から用いていた方法や器具を紹介するために自身の講演で使用した、たくさんの幻灯機用スライドのうちの1枚だ。

    歴史を通して、奇術や見世物は人々を魅了し、超常現象を信じこませてきた。奇術師、霊能力者、霊媒師といった人たちは長い間、感覚による錯覚を利用して人々を驚嘆させ、未知への好奇心を抱かせてきた。20世紀が始まり、科学技術が進歩したなかでも、奇術師たちは、科学と超常現象の境界線を曖昧にぼかすことにより、革新的で新しい「観客のだまし方」を編みだしてきた。

    こうした歴史をユニークな切り口で物語るのにふさわしい人物がマシュー・L・トンプキンスだ。元プロのマジシャンで、最近オックスフォード大学の実験心理学部の博士課程を修了した。彼の新しい著書『スペクタクル・オブ・イリュージョンThe Spectacle of Illusion)』は、「超自然的な錯覚」に関する、1800年代からの包括的な調査結果をまとめている。

    BuzzFeed Newsはトンプキンスに話を聞き、人間の精神が錯覚の影響を受けやすいということについての専門的見解とともに、超常現象の興味深い歴史について語ってもらった。

    BuzzFeed News:あなたのマジシャンとしての経験は、心理学者としての研究をどう特徴づけているのでしょうか。

    マシュー・L・トンプキンス(以下MT):わたしの実験研究や教え方、サイエンス・コミュニケーション(科学的トピックを非専門家に対して伝えること)は、過去にプロのマジシャンとして仕事をしていた経験に強く影響を受けています。『スペクタクル・オブ・イリュージョン』については、科学者たちがどのように超常現象の研究を試みてきたか、そして、奇術師やインチキ霊能者といったイリュージョンを行なう人たちの商売とどのように作用しあい、影響を受けてきたのかというところが焦点となっています。

    D.A.P., courtesy of the Wellcome Library, London

    「これらの写真は、1940年代にデンマーク人写真家スヴェン・タークの自宅で行なわれた空中浮揚の降霊会の様子を記録したものだ」

    D.A.P., courtesy of the Wellcome Library, London

    左:1910年に撮影されたとされるこの写真では、3体の怪しげな霊体が迫り来るなか、奇術師のウィリアム・S・マリオットが物思いにふけっているようだ。マリオットは、霊媒師たちが用いたトリックを暴くことに根気強く尽力した。霊媒師たちはこうしたトリックを、亡くなったばかりの愛する人とコンタクトを取りたがる、だまされやすい人々を搾取するのに用いていた。
    右:ハリー・プライスの所蔵品からもう一例。写真に映っているのは、いかがわしい霊媒師が時々使用した小道具だ。

    MT:こうした種類の相互作用には、良い面と悪い面があります。一方で、イリュージョンを行なう人は、心理学の進歩を後押しする貴重な洞察を直接提供してきました。こうした事例のうちでわたしが気に入っているのは、目撃証言(eyewitness testimony)に関する心理学の、最も初期の体系的な研究から生じた、ある例です。

    1880年代の終わりに、アマチュアの手品師S・J・デイヴィーは、ある実験を考案するのに協力しました。その実験では、手品の知識を利用して、偽の降霊会を行なったのです。研究者たちの関心は、出来事についての人々の記憶が、実際に起きた出来事からどれほどかけ離れているかという点にありました。皮肉にも、記憶の信頼性という研究を行なったこの実験そのものが、おおかた忘れ去られてしまいましたが。

    その一方で奇術師たちは、イリュージョンを使って手の込んだいたずらを行ない、研究者たちをだまして、誤った結論を受け入れさせてきました。アメリカの霊媒師「ドクター」・ヘンリー・スレイドは、数多くの著名なドイツの科学者たちを巧みに説得し、4次元に知性をもつ霊体が存在するという概念を受け入れさせ、基本的な物理法則を書き換えさせようとしたのです。

    D.A.P., courtesy of the Wellcome Library, London

    左:1920年、フーディーニ(脱出術で有名なアメリカの奇術師)が作った偽の心霊写真。座っている自分の背後に、幽霊のような姿を出現させるという加工を施した。
    右:奇術師ウィリアム・マリオットの所蔵品であるこの写真では、少女がプランシェット(自動書記板)を操っている。心霊主義者たちは、神秘的な外部の力が、プランシェットを使う者の手を導き、メッセージを書かせていると主張した。

    BuzzFeed News:今日ではとても信じられないようなことを、当時の人々は本当と思っていたわけですよね。一体どういうことが起きていたのでしょうか?

    MT:『スペクタクル・オブ・イリュージョン』の大半は、20世紀への変わり目に焦点を当てています。わたしがこの時代に興味をそそられるのは、3つの重要な歴史的発展がすべて一斉に起きたためです。

    発展の1つは、「近代マジック」の登場です。このパフォーマンス・スタイルの草分けとなったのが、フランスの舞台手品師ジャン・ウジェーヌ・ロベール・ウーダンです。フーディーニの芸名は彼の名をもじったものです(ウーダンの綴り "HOUDIN" の最後に "I" を加えたもの)。

    D.A.P., courtesy of the Wellcome Library, London

    Houdini, circa 1899.

    2つ目は、「近代スピリチュアリズム」の発展です。より伝統的な宗教であれば信仰を説くところを、奇跡的な現象を見せたり体験させたりすることで売り込まれる新しいタイプの宗教です。

    そして3つめの発展は、実験心理学が科学的な研究分野として成立したことです。ウィリアム・ジェームズやヴィルヘルム・ヴントといった研究者たちは、人間の精神そのものが実証研究の対象になり得るという考えを学問的に認めさせようと努めました。当時の学者たちの一部はこうした考えを、霊媒師が死者と会話ができるという主張と同じくらい過激だと考えていました。

    これら3つの動きの相互作用が、本書の中心にある物語です。インチキ心霊主義者はどのように、奇跡体験という錯覚を生み出すために手品のトリックの手法を応用したのか。手品師はどのように、自分の芸のブランドを宣伝する足がかりとして、インチキ霊媒師のトリックを暴く出し物を利用したのか。そして心理学者はどのように、錯覚や欺きを科学的に探究するための方法を確立しようとしたのか。学者たちは研究を推し進めるために、あの手この手で霊媒師たちを抱き込み、あるいは対決し、時には手品師の実践的な専門知識を求めたのです。

    D.A.P., courtesy of the Wellcome Library, London

    このページの写真は、1912年7月7日にニューヨーク港で撮影されたもので、フーディーニの得意技であるパフォーマンスのひとつを初めて公に記録したもの。奇術師は足かせと手錠で拘束され、梱包箱の中に入れられた。しっかりと釘を打ちつけて、ロープをきつく巻いた木箱は、200ポンド(約90kg)の鉛のおもりをつけて水中に沈められた。フーディーニは1分足らずで脱出。木箱が再び水面に引き上げられたとき、その木箱には傷ひとつなく、中には彼を拘束していた手錠や足かせが入っていた。フーディーニは港の桟橋のひとつを使うことが当局から禁じられたため、命知らずの脱出劇を、貸しタグボートから行なわざるを得なかった。

    D.A.P., courtesy of the Wellcome Library, London

    1894年のポスター。アメリカ人の舞台手品師ハリー・ケラーによる、心霊主義に着想を得たトリックの成功の多くは、悪魔のおかげだとほのめかされている。

    BuzzFeed News:こうした「イリュージョン」のうち、今日でも人をだますのに使われているものはあるのでしょうか。

    MT:間違いなくあります。手品の方法や心霊詐欺は、長い年月の間に様々に進化してきたのですが、今でも使えそうな基本原則は、確実にいくつか存在しています。

    ホットリーディングのテクニックがその好例です。大まかに言うと、コールドリーディングやホットリーディングの手法は、それを行なうパフォーマーが、普通の手段では得られるはずのない知識や情報を入手できるという錯覚を与えるために用いられます。パフォーマーはその情報をテレパシーで入手したと主張するかもしれないし、自分たちのような霊感の強い者だけに聞こえる方法で、霊がこっそり教えてくれたのだと主張するかもしれません。どう表現するかは、まさにパフォーマーの想像力次第です。

    近ごろは多くの場合、公開されているソーシャルメディア情報に基づいて、ある人物について膨大な情報を知ることができますが、その効果や原理は同じです。フェイスブックで更新される情報は、インチキ霊能者たちの非公式ネットワークのなかで利用され得るのです。

    D.A.P., courtesy of the Wellcome Library, London

    左:ドイツ人の奇術師ヤコービ・ハームズ(別名ハンス・ヨアヒム・ヤーコブ・ハームズ)は、空中に浮かんだ楽器に圧倒されているように見える。写真は1866年のもの。
    右:同じくヤコービ・ハームズが、上方で浮遊する物体に呆然としている。両方とも、二重露光を利用して(スウェーデンの写真家)F.A.ダールストロムによって作成されたもの。

    D.A.P., courtesy of the Wellcome Library, London

    この革箱には、心霊研究家エリック・ディングウォールが、あたかも超常現象のように見える例を調査するために使用したさまざまな道具が入っている。

    BuzzFeed News:どのような過程を経て、こうした歴史を掘り起こして書籍にまとめるという方向に進まれてきたのか、少しお聞かせいただけますか。

    MT:(出版社の)テームズ&ハドソンが最初に本の執筆を持ちかけてくれたのですが、そのときにはすでに、奇術師や霊能力者、科学者たちの話を集めるのが習慣になっていました。わたしの研究は、博士論文を書くために、手品のトリックを含む視覚認知実験を行なうことにしたときに始まりました。そのプロジェクトを準備する過程で、似たような研究を行なった研究者たちの例を探し始めたのです。

    当然ながら、それほど多くの資料はありません。現在は、リチャード・ワイズマン教授やグスタフ・クーン博士といった人々による数々の素晴らしい研究がありますが、さらに過去を調べようとすると非常に困った状況に陥ってしまいました。実験心理学における数多くの伝説的な人物たちが、魔術や心霊主義と関わりがあったことがわかったのですが、それは現代の教科書の中で言及される類の研究ではなかったのです。

    BuzzFeed News:この本はあなたにとって、情熱を傾けられる企画でしたか。

    MT:実験心理学者でありマジシャンとして、手品の手法を実験に取り入れているわたしは、まちがいなくこのプロジェクトに個人的に強いつながりを感じています。さらに、これらの出来事の多くを調査するなかで、わたし自身、ここに登場する人たちへの奇妙な愛着が芽生えているのに気づきました。たとえ、後から考えれば、少々……道徳的に問題があるような人物だとしても。

    彼らの物語を改めて知ってもらう機会を持てたことを嬉しく思います。超能力や霊能力で死者と交信することが可能だという主張には、自分自身の経験や研究に基づいてわたしはかなり懐疑的ですが、過去とつながることの魅力は十分理解しています。ただ、霊媒師ではなく、文献を通じてつながる方がいいですね。

    D.A.P., courtesy of the Wellcome Library, London

    左:1915年のポスター。(手品師の)(ハワード・)サーストンは自分のショーで、一般大衆の神秘主義や超常現象へのあこがれを意識的に利用した。
    右:1882年、ロンドンのピカデリーにある「セントジェームズ・ホール」で行われたパフォーマンスの宣伝用ポスター。(手品師のサムリ・)ボールドウィンは心霊主義を痛烈に批判していた。彼の初期のショーでは、「超自然的」な芸当から神秘のベールをはぎ取るべく、当時の妻のクララとパフォーマンスを行なった。

    D.A.P., courtesy of the Wellcome Library, London

    1907年のジョルジュ・メリエスによる映画『日食(L’Eclipse du Soleil en Pleine Lune)』のスチール写真。

    BuzzFeed News:調査を終えてみて、こうした過去の出来事のうち、まったくの予想外だった側面はありましたか。

    MT:初めは、心霊研究と初期の実験心理学とが、いかに密接にかかわりあっているかということに驚きました。心理学者が、エセ科学と考えるものから距離を取りたがる理由は理解できますが、そうした姿勢が本当にクールな研究を世に埋もれさせてきた場合もあるのではないでしょうか。

    現代認知心理学のバックグラウンドを持つ者として、初期研究のいくつかに触れるのはとても楽しい体験でした。それらは、研究者たちがまったく新しい分野に取り組み、今までにない方法論的パラダイムを展開させたという状況だったのです。往々にして結果は様々でしたが。最終的には非常に先見性があったと判明した、小さな宝石のような研究を発掘できたのは喜びでした。忘れ去られていた「記憶の研究」や、注目されなかった「注意についての実験」といったものです。

    D.A.P., courtesy of the Wellcome Library, London

    左:1911年、『エヴァ・フェイ、神秘主義の女性祭祀(High Priestess of Mysticism)』
    右:マジックを宣伝する1900年のポスター。『フォレスト&カンパニー 神秘に包まれた男(Forrest and Company Man of Many Mysteries)』

    BuzzFeed News:人々に、この本から何を受けとってほしいですか。

    MT:心理学はおもしろい科学です。なぜなら、人は生まれつき、自分の認知プロセスのことはよくわかっていると思いがちだからです。日常的に、わたしたちはみな知覚と記憶を使ってうまく世の中を渡り、周りの世界と相互に影響しあっています。けれどもそういったプロセスは、いろいろな意味で、わたしたちが直観的に感じるような方法では働いていません。

    錯覚体験を専門とする心理学者として、わたしは人間の精神に欠陥があるとか、人間の認知システムなどたかが知れていると言いたいのではありません。言いたいのは、認知システムというのは往々にして、わたしたちの大半が想像しているよりも不可解なものだということなのです。

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:岡田ウェンディ/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan

    Contact Gabriel H. Sanchez at gabriel.sanchez@buzzfeed.com.

    Got a confidential tip? Submit it here