事件現場専門の「特殊清掃員」が語る仕事の裏側「目指すのは、ご遺族の重荷を減らすこと」

    アメリカでは、殺人事件や事故など人が亡くなった現場を清掃するのは警察の役割ではない。専門の特殊清掃員に、その業務の裏側や仕事への思いを聞いた。「遺族には清掃に煩わされることなく、心穏やかに嘆き悲しむ機会を持ってほしい」と清掃業を立ち上げた元警察官の女性は語る。

     【閲覧注意】この記事には、現場での厳しい現実を表す記述が含まれます。ご注意ください。

    殺人事件が起きたとする。アメリカでは通常、警察が現場に立ち入り禁止のテープを張り、殺人課の刑事や専門家が現場を捜査して証拠を集め、検死局が解剖のために遺体を運ぶ。

    その後を片づけるのは、遺族や土地所有者の責任となる。考えるだけで恐ろしい。すでに散々、心的な外傷を負って悲劇に耐えた人にとってはなおさらだ。

    こんな場合に活躍するのが、事件・事故現場専門の特殊清掃員たちだ。

    元警察官のローラ・スポールディングさんが立ち上げたスポールディング・ディーコン社やナショナル・クライムシーン・クリーンアップ(NCSC)は、その専門企業だ。

    BuzzFeed Newsは、ローラ・スポールディングさんと、NCSCのコンテンツマーケティング&メディア担当、ギャビー・マーティンさん、シニアテクニシャンのマイク・アンドリュースさんに話を聞いた。

    ――どうしてこの仕事を始めたのですか?

    ローラ・スポールディングさん:(警察官として)2人が殺害された現場にいた時に、被害者のご遺族に尋ねられました。『これは、誰が片づけるのですか?』と。

    警察に勤めて8年が経っていましたが、こう聞かれたのは初めてでした。一般的にあまり知られてはいませんが、警察が片づけないことは分かっていました。

    帰宅してから調べてみて、清掃の必要はあるのに、それを請け負う会社がとても少ないことにすぐに気づきました。そのとき、これは私にできることで、やりがいのあることだと思いました。

    愛する故人が殺害された現場を、遺族に清掃させるのはあんまりです。遺族には清掃に煩わされることなく、心穏やかに嘆き悲しむ機会を持ってほしい。

    マイク・アンドリュースさん:
    友人が、全米犯罪現場清掃協会(NCSCA)のニューヨーク支社でマネージャーをしていて、採用しているから応募してみるよう私に勧めました。

    採用されてからは、凄まじかったです。ひどい状況で心的外傷も受けますが、人の助けになる、というのが私が日々この仕事を続けられる動機です。

    ――清掃までのプロセスは?警察とやりとりがあるのでしょうか?それとも、遺族から連絡があるのでしょうか?

    スポールディングさん:
    いろいろですが、大抵の場合は、検死局が遺体を運び出し、警察の検証も終わった後、現場に呼ばれます。

    ギャビー・マーティンさん:通常は、事件が発生すると、目撃者か家族が警察に通報します。刑事や捜査員が対応して、書類を作成し、証拠を集めます。そして撤収します。

    約24~72時間かかる作業ですが、州によっては1週間かかる場合もあります。遺族に代わって警察から連絡をもらうこともありますし、警察が遺族に連絡先を渡すこともあります。

    警察が撤収したあと、残された現場を見て困ったご遺族がネットで探し、連絡してくることもありますね。

    ――犯罪現場清掃の一般的な工程を教えてください。

    スポールディングさん:電話を受けると、現場を評価するのにできるだけ多くの情報を集めます。見積もりを出して、ご遺族が保険会社に連絡するのを手伝います。だいたいの場合、住宅所有者の保険で清掃の費用が賄えます。

    それが終わったら、清掃用具、防具、専用の洗浄液を持って現場へ向かいます。ご遺体から発生した生物学的な危険物質と接触した部分はすべて、徹底的に清掃します。壁や床から染みこむ液体は、特に入念に対応します。

    ほとんどの場合、ドライウオール、カーペット、タイルなどは取り除きます。

    マーティンさん:当社では、米国労働安全衛生庁(OSHA)、米国運輸局、その地域や州のプロトコルへの遵守を重んじています。

    些細だと思ったミスが実際には大問題になり、現場にいる全員が深刻な病への感染などの状況にさらされる可能性があります。ですから、清掃員は全員、OSHAの認定を受け、免許を持ち、このような特殊清掃をする訓練を受けています。

    現場には、ロゴが入っていない作業用のワゴン車で向かいます。依頼主のプライバシーを尊重するためです。事件直後に特殊清掃会社が出入りしているのを、ご近所には見られたくないと思いますから。

    マーティンさん:防護服を身につけて中へ入ります。ご遺族がいる場合といない場合がありますが、大抵は泣いていたり、錯乱状態だったり、疲れ果てていたりして、平常心ではありません。

    そんな人たちの支えとなり、つらいだろうが1人ではないと安心させ、質問があれば答え、希望や慰め、心の安定となれるように心がけます。助けが必要なときに、側にいるのが私たちです。

    状況にもよりますが、壁板、床板、天井板は撤去する必要があるかもしれません。生物学的危険物質にさらされた場合は特にそうです。

    カーペットは最悪で、大抵はいつも繊維を通して床まで染みこんでいて、木の床の場合は木材自体にも染みてしまっています。

    基礎にまで染みこむ場合もあり、その場合は基礎も交換が必要になります。かなりの肉体労働を要する作業です。

    家の中にある貴重品は、米環境保護庁(EPA)認証の消毒薬を噴霧して消毒し、できるだけ残すようにします。環境に優しく、アレルギー反応を起こさない最高品質の消毒薬を使うようにしています。復旧作業が終わったら、すぐに家に入れるようにするためです。

    生物学的危険物質は専用の容器にきちんと入れ、適切に表示し、色分けします。輸送する作業用ワゴンにも、特別な免許が必要なんです。

    仕事が終わると、支払いは保険会社と直接やりとりします。ご遺族が払わなければならない理由はありません。もう十分苦しんでいますから。私たちは、手伝いをするためにいるのです。

    ――現場をご家族に戻す前に、警察が見落としたものを見つけたことはありますか?

    マーティンさん:残念ながらあります。それも、思ったより多いです。

    ニューヨークのロングアイランドで最近起きた、痛ましい出来事がありました。自殺だと思われていました。私たちが現場に入り、作業を始めたところ、通常の自殺の現場と違うことに気づきました。

    血があらゆる角度に飛び散っていて、現場が徹底的に調べられていないと思いました。すぐに警察に連絡して、壁に血が飛び散っている様子を伝えました。

    警察が調べ直したところ、遺体の近くに銃はありましたが、テレビはついていて、椅子に座っているときに撃たれたことが分かりました。

    遺体の手には煙硝反応はまったく残っていませんでした。発砲すると、撃った人の手には煙硝反応が72時間残ります。息子が調べられて、現場で使われたものと同じ銃の煙硝反応が出ました。

    保険金目当てで、息子が父親を殺したのです。殺人罪で起訴され、仮釈放の資格つきの懲役15年で司法取引になりました。

    ――これまでで最も大変だった現場と、その理由を教えてください。

    スポールディングさん:故人がお子さんの現場は大変です。罪のない子どもの命が奪われる事件は、いつも胸が張り裂けそうになります。

    私も親なので、他の親がお子さんの死を悼んでいるのを目にするのは、心が痛みます。自殺だったことがあり、ご遺族の反応を目の当たりにしたことがありますが、とても辛いものです。

    いいこともありますよ。現場清掃のYouTubeを見て、自殺を考えていたけどやめたという人たちからの手紙を受け取ります。

    清掃の手順を知り、親には経験させたくないと思ったそうです。悲しい決断を思いとどまる人が1人でもいれば、価値があります。

    ――遺族にはどのように対応するのですか?グリーフケアやカウンセリングはするのでしょうか?

    スポールディングさん:当社は「共感」に基づいて設立されており、まさにそれこそが私たちの存在意義の核となるものです。共感をもって先導し、ご遺族のためにできる限り臨機応変でありたいと思っています。

    清掃の他に、当社にはメンタルヘルス専門のパートナーもおり、ご遺族は無料のセラピー4回と無制限のテキストメッセージによる相談を1カ月間ご利用いただけます。

    ご遺族だけでなく、現場のスタッフにも利用してもらっています。メンタルヘルスのケアに何よりもまず取り組むことが大事だと強く思っています。このような難しい仕事を続けるために、最優先すべき事項です。

    アンドリュースさん:土地の所有者や大家さんがいて、ご遺族が現場にいないこともありますが、通常は疲れ果て、混乱し、悲しんで気落ちしています。打ちひしがれたり、怒ったりするご遺族もいらっしゃいます。

    幸いなことに、感謝の言葉を言いに来てくれる方も多くいます。人生の暗いとき、恐らく最悪のときに、ご遺族が希望を感じてくれたら……そう思うことで、毎日前に進むことができます。誇張ではありません。

    確かに、私たちにはカウンセラーの要素もあります。共感し、耳を傾け、辛抱強く、優しく遺族に接する。完全にカウンセラーの代わりになるのではなく、カウンセラーの役割を一部担うような。説明が難しいのですが。

    ――清掃員が目指すゴールとは、何でしょうか?現場をもとに戻すことでしょうか?

    スポールディングさん:主な目標は、家を事件前の状態に戻すことです。第一に、所有者に「帰れる家」を戻したい。

    痛みを消してあげることはできませんが、少なくとも家から痕跡を消すことはできます。多大なストレスと痛みを伴う時期だと思いますが、ご遺族には互いに心を注ぎ、癒やしに注力する時間をもってもらいたいと思っています。

     マーティンさん:究極のゴールは、ご遺族の重荷をひとつ減らして、現場を元の状態に戻し、最高水準の公衆衛生と安全を守り維持することです。

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:五十川勇気 / 編集:BuzzFeed Japan