政治家の女性に関する失言や釈明を集めた記事が話題だ。過去16年で24の事例を紹介。目立つのは自民党議員で、中でも多いのはやはりあの人。執筆した大学生に話を聞いた。
「政治家 うっかり失言 TIMELINE 〜ジェンダー編〜」と題した記事は、チャリツモというウェブメディアに掲載。計測ツール「クラウドタングル」によると、記事への反応は1週間で2万件を超え、拡散を続けている。
記事ではまずイラスト付きで政治家の失言を紹介。その上で、状況説明や事後対応、出典なども記している(肩書きはいずれも失言当時)。
繰り返される失言と釈明
例えば、上記については(1)「プロポーズする勇気のない若い男性が、最近は増えている」(2)「集団レイプする人は、まだ元気があるからいい。まだ正常に近いんじゃないか」という、太田誠一・自民党行政改革推進本部長の2つの発言を紹介した上で、状況を次のように説明。
全国私立幼稚園連合会九州地区の討論会において、直前に起きた早稲田大学の学生サークル『スーパーフリー』の集団レイプ事件が話題になり(1)の発言をした。(1)に対し、司会の田原総一郎氏が「プロポーズできないから、集団レイプするのか」と質問すると(2)の発言をした。
さらに、その後の釈明コメントを次のように引用。
「レイプは重大な犯罪であり、従来以上に厳しく罰するべきだ」と言おうとしたが、タイミングがなかったことが残念だ。男性が配偶者を求める覇気に欠けている。それほど強く異性を求めているのであれば、きちんと結婚する相手を求めるべきだ、ということを言いたかった。
最後に記事筆者(ひもっち)のコメントもついている。
ジェンダー発言界の切込隊長かつレジェンド。彼にとっては、童貞<集団レイプ犯。釈明コメントが全く釈明として機能していないのもポイント。
紹介されている中で一番新しいのは、2019年6月に「パンプス強制の容認」と話題になった根本匠・厚生労働大臣(自民)のこの発言だ。
衆院厚労委員会において、立憲民主党の尾辻かな子議員による「就職活動や接客の現場では、ハイヒール・パンプスが義務づけられていることが見受けられます。ハイヒール・パンプスが義務づけられる必要はあると思われますか?」という質問へ対する根本匠厚生労働大臣の回答。
きっかけは桜田議員発言「子供を最低3人産んで」
チャリツモ運営者によると、このサイトは“「そうぞうしよう。そうしよう。」を合言葉に、デザイナーやイラストレーターなどのクリエイターとライターがコラボレーションしながら、社会問題をわかりやすく伝える”を目指している。
参院選に合わせて公開された今回の失言まとめ記事は、明治大学4年の日下部智海さんによるものだ。きっかけは「政治に興味のない彼女が、桜田義孝議員の『子どもを最低3人産むように』発言にキレたから」だという。
ちなみにこの時の釈明は以下の通りだ。
子どもを安心して産み、育てやすい環境をつくることが重要との思いで発言した。誰かを傷つける意図はなかった。
過去記事やデータベースで発言を裏どりして掲載
どのように失言を集めたのか聞いた。
日下部さんによると、まずは「政治家 失言」などのキーワードで検索し、でてきた記事を元に、大学図書館や新聞データベースなどを使って失言内容や状況を一つずつ裏どりしたという。
期間は2001年から調べたが、新聞やテレビの過去記事は一定時間が経つと消去されてしまう。信頼性の高いデータベースの利用が不可欠だった。
24の失言は確認が取れたものは全て掲載したが「何を失言とみなすかは人によって違うため、網羅できたとは言えない」。記事の公開後に「これも失言じゃないか」と情報が寄せられているといい、「それらも内容を確認してアップデートしていきたい」と話す。
「個人というより自民党の価値観の問題」
24の失言のうち20件が自民党だ。日下部さんは「個人の問題というより、自民党が『女性の仕事は、出産、家事、育児』という価値観を前提にしているのが問題」と指摘する。
代表的なものが柳澤伯夫・厚生労働大臣(自民)のいわゆる「女性は産む機械」発言だが、麻生太郎・副総理(自民)が3回、下村博文・官房副長官(自民)が2回と重鎮が失言を繰り返すところにもそれは現れている。
日下部さんがもう一つ指摘するのは、世代間の価値観の分断だ。
「僕らの世代は男女平等という人権教育を受けてきた。家事育児が女性の仕事ではないという価値観を当たり前に持っている。失言する人の年齢層が高いのには世代間の分断もあるように感じた」
「釈明コメントを見ても『なんで批判されるかわからないけれど火消しのためにとりあえず釈明しておこう』という風に読める。だから繰り返す。失言が出たら批判するだけではなく、なぜ、その言動は批判されるのかをきちんと伝えないと世代間や価値観の分断に繋がってしまう」
なぜ、大学生が記者活動を始めたのか
日下部さんが大学生活のかたわら記者活動を始めたのは、2年生の時にヨルダンに一人で旅行に行ったのがきっかけだという。
空港についてすぐ、バスで財布と携帯をすられ、あてもなく呆然としているときに話しかけてきてくれた人がいた。
「ヨルダンにすむシリア難民で、彼に泣きついたら帰りの飛行機までに2週間、家に泊めてくれてご飯も食べさせてくれた。それで難民問題に興味を持つようになりました」
「それで次にパレスチナの難民キャンプに行ったときに現地の人に『何が怖いか』を聞いたら『世界から忘れられることだ』と。だから、社会問題を人に伝える記者活動に関心を持ちました」
今後は失言まとめ記事のジェンダー編をアップデートしていく他、その他の失言まとめ記事も準備しているという。
演説動画と書き起こしを共有する試みも
チャリツモでは今回の参院選で、これらの記事以外にも「街頭演説動画まる見えマップ」という企画を実施している。
候補者の街頭演説の動画をアップしてもらい、それらを文字起こしすることで候補者が何を有権者に訴えているかを「丸見えにする」企画だ。
6月15日現在で50件の動画がアップされており、ユーザーからの動画提供を呼びかけている。