「キメラ」として生まれた女性。彼女の体にあるあざは、双子のきょうだいの痕跡だった

    「キメラ」とは、1人が2セットのDNAを持つ、稀な遺伝子現象を意味する。彼女は、子宮のなかで双子のきょうだいと融合し、そのきょうだいのDNAを体の中に持っているのだ。キメラであることを打ち明けた彼女は、珍しいことに2つの異なった血液型を持つことが可能であり、様々な健康問題に悩むこともあると話している。

    カリフォルニア州でモデル/シンガーとして活動するテイラー・ミュールは2017年、自分の体の片側を占める変わったアザが、表面だけではないことを知った。それは、彼女が2セットのDNAを持っており、自分の双子のきょうだいの痕跡が残っていることを示す印だったのだ。

    双子はしばしば、分ち難い絆で結ばれる。しかしテイラーの場合、彼女と二卵性双生児のきょうだいは、ひとりの人間になっているのだ。非常に珍しい遺伝学的事象が発生し、テイラーさんは子宮のなかで、二卵性双生児のきょうだいと融合した。そしてその結果、彼女は2セットのDNAを持つことになった。自分自身ときょうだいのDNAを1セットずつだ。この珍しい現象は「キメラ」と呼ばれている。

    テイラーがこの事実を知ったのは、健康上の問題で病院を訪れたときのことだった。『People』誌のインタビューのなかでテイラーは、彼女の母は身ごもったときに超音波検査を受けておらず、子宮内で双子が融合してしまっていることを知らなかったと答えている

    テイラーは2017年、Instagramへの投稿で、自身が「キメラ」であることを打ち明けた。医療系トーク番組「The Doctors」にも出演した

    彼女は自身のブログでこう書いている

    「私の体は双子です。私は、子宮のなかできょうだいと融合した二卵性双生児の片方であり、そのきょうだいの遺伝子構造を体のなかに持っているのです」

    キメラは、子宮内で2つの胚が融合することによって生じる、稀な遺伝子現象だ。

    ニューヨーク大学ランゴンヘルス医療センターの臨床遺伝科で責任者をつとめるジョン・パパス博士はBuzzFeed Newsの取材に対して、「簡単な言葉で説明すると、キメラとは、2つの異なる個体のゲノムを持った個体のことです。つまり、キメラの体のなかには、異なった細胞や組織が入り交じって存在しているのです」と語った。

    キメラという遺伝子現象は、二卵性双生児が子宮内で融合するときに起こる。

    「一卵性双生児が融合する場合は、キメラではありません。一卵性双生児は同じゲノムを持っているからです」とパパス博士は説明する。二卵性双生児の場合、2個の精子が2個の卵子を受精させて、2個の受精卵が生まれ、その後、それぞれが分裂して2つの胚へと成長する。テイラーのようなキメラの場合、これら2個の胚が融合してひとかたまりになり、1人の人間になる。

    「これが起こるのは、胚期の早い段階です。通常は、胚期の最初の数日、つまり、それぞれの胚が2個の細胞からなるかたまりのときです」とパパス博士は言う。この融合が胚発生の後期に起こると、双子の片方がもう片方を「吸収」することがある。このような場合、後者は奇形腫の原因になるという。奇形腫は腫瘍の一種で、良性の場合と悪性の場合がある。

    「この融合がごく初期に起こると、場合により、それぞれのゲノムの貢献度はほぼ半々になります。遅ければ遅いほど、もう片方の胎児のDNAは少なくなります」と、パパス博士は言う。融合の発生時期が早ければ早いほど、胎児の生存率も高くなるという。

    キメラ現象が起こることはめったにない。「正確な数字はわかりませんが、おそらく確率は10万分の1以下ではないでしょうか」とパパス博士は言う。

    テイラーのケースでは、おなかのあたりの肌の色が左右でちがっている。「この皮膚の色のちがいは、双子のきょうだいの遺伝子構造によるものなんです」と彼女は書いている。

    以前のテイラーは、この色のちがいを、ただの変わったアザだと思っていた。ところがそれは、実は彼女がキメラであることを示す身体症状のひとつだった。「2つのゲノム的背景を持っている場合、皮膚の色合いが場所によって異なる人もいます。その異なった色合いが、もう一方の個体を起源としているからです」とパパス博士は言う。

    テイラーの体には、ほかにもいくつか変わった点が見られる。「右側とくらべると、体の左側のほうが全体的に少し大きいんです。口のなかにも、左側に1本、癒合歯(結合した2本の歯)が生えています」と彼女は書いている。

    キメラのなかでも、テイラーのケースはかなり特殊だ。というのも、キメラのほとんどには、これほど明らかな身体的特徴の相違は見られないからだ。

    また、自身がキメラであるせいで、テイラーは自己免疫疾患をはじめとするさまざまな健康問題との闘いを余儀なくされてきた。

    「私には免疫系と血流が2つあるそうです」と彼女は書いている。そのせいで、これまでにテイラーはさまざまな健康問題に悩まされてきた。そもそも彼女が病院に行き、自分がキメラであることを知ったのものそのためだった。

    「私の体は、双子のきょうだいのDNAや細胞を異物として認識し、免疫系を傷つけています。そのせいで私は、不幸にも自己免疫疾患などの健康上の問題で苦しんでいます」と彼女は書いている。

    体のなかに別のDNAがあるということは、一部の細胞が若干異なったタンパク質を生成するということであり、そしてさらには、体がそれを異物として認識し、免疫系の問題を引き起こすおそれがあるということを意味する、とパパス博士は言う。さらにテイラーは、さまざまな食べものや薬、金属、昆虫などに対してアレルギーなどの過敏症も抱えているという。

    キメラに起因するさらに深刻な健康問題が生じるのは、融合する2つの胚の性別が異なる場合だ。そうなるとその人は、XX型とXY型の染色体をどちらも持つことになってしまう。

    「このようなケースでは、生殖腺(卵巣・精巣)の結合により、外性器異常(性器の性別があいまいな状態)が生じます。生殖腺にがんができるリスクも高まります」とパパス博士は言う。

    さらにキメラ現象は、父親を特定するための遺伝子検査などに、大きな混乱を招くおそれもある。

    キメラは理論上、2つの異なった免疫系や血液型を持つことが可能であり、それが親子鑑定や法医鑑定に問題を引き起こすことにもなりかねない、とパパス博士は言う。

    実際これまでにも、キメラの親と実の子どもが親子鑑定を行った結果、共通するDNAがわずかしかないことが明らかになったケースが報告されてきた(それはまるで、その子のおばやおじであるかのような割合だった)。その子どもが、生まれることのなかったおじやおば(親の二卵性双生児のきょうだい)からDNAを受け継いでいたからだ。

    なお、DNA検査の結果は、サンプルがとられた場所(たとえば血液や髪の毛、唾液、爪など)によって変わることがある。それぞれの組織や器官が、異なった遺伝子型を持つ細胞で構成されている可能性があるためだ。

    検査はとても複雑で、費用も相当かかるため、自分がキメラであることを知らないでいる人もいるかもしれない。

    自身がキメラであることを知ってからというもの、テイラーは、キメラに関する人々の意識を高めたり、ボディー・ポジティブ・ムーブメントを促進したりといった活動に取り組んできた。

    BuzzFeed Newsは現在、テイラーからもっと話を聞くためにコンタクトをとっている。

    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:阪本博希/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan