始まりは、よくある食事療法の提案だった。「便と尿の検査をしました」とライラ(仮名)はBuzzFeed Newsに語った。「覚えていないけれど、どこかの研究所の検査でした。もちろん、公的な英国民保健サービス(NHS)とは関係していません。検査結果は、異常だらけでした」。検査を行ったのは、代替医療の治療家。ある大きな慈善団体の推薦で、費用も団体が負担した。ライラの息子は当時3歳で、自閉症を患っていた。検査結果を見る限り、胃腸と代謝にさまざまな問題を抱えていた。「ショックでした」とライラは振り返る。「息子がこれほどの異常を抱えていたなんて気付いていませんでした。体が毒素に侵されているなんて」
検査の結果、グルテンやカゼイン、乳製品を避けることを勧められた。「大したことではないと思いました」とライラは話す。「グルテンを避けるのには、パンやパスタを食べなければいい。それほど大変なことじゃないですから」。治療家はライラに、息子の睡眠と行動を観察するよう指示し、食事療法を実践すれば自閉症の症状は改善するだろうと言った。
ただし、それだけではなかった。「治療家は最初の1時間で、自閉症の原因はワクチンだと証明する研究がいくつもあると教えてくれました」とライラは振り返る。「赤ん坊のとき、耳の感染症になったりして、抗生物質を服用すると、免疫系が破壊されると彼女は言いました。ワクチンには体を弱らせる作用があり、特に悪影響があるのがMMRワクチン(麻疹、おたふく風邪、風疹の三種混合ワクチン)で、そうしたことの結果として自閉症になるとのことでした」
治療家は説明を終えると、さらに奇妙な世界へとライラを誘い込んだ。「あるFacebookのグループに参加するよう言われました」。Facebookグループは、自閉症の子供を持つ親たちをサポートする場として重要な役割を果たしている。Facebookグループの前は、インターネットのチャットグループだった。ただし、こうした場は、必死な親たちを食い物にするいんちき医療の温床にもなっている。
ライラはFacebookグループで、「生物医学的(バイオメディカル)」な治療を勧められた。グルテンフリーやカゼインフリーの食事法だけでなく、サプリメントやビタミンB12の注射、そして「Rerum」の商標名で知られる「GcMAF」も含まれていた。GcMAFは危険な幹細胞治療で、英医薬品・医療製品規制庁は「重大な健康リスク」があると警告している。
治療家は「キレーション」にも言及した。キレート剤と呼ばれる化学物質を点滴して血流から重金属を取り除くという治療法だが、危険を伴う可能性がある。さらにライラは「ミラクル・ミネラル・ソリューション(MMS)」を推奨する別のFacebookグループを発見した。MMSは万能薬として大々的に宣伝されているが、実際は塩素系の漂白剤で、しばしば浣腸剤として使用される。
「(英国におけるFacebookグループの)複数の人が、大量のサプリメントを使用したり、米国まで治療に行ったりしていました。これらを数年にわたって続けている人もいました」とライラは話す。「私は圧倒され、大金を投じるのをためらっていました。そして、そこで起きていることを信じられない自分に気付きました。彼らがしていることに疑問を持ち始めたのです」
ライラのような体験は、決して珍しいものではない。疑似科学的な治療法は、ほぼすべての病気に存在する。しかし、BuzzFeed Newsの取材に応じてくれた親たちや専門家の話を聞く限り、自閉症の子供を持つ親たちは、極端なくらい、いんちき医療やいんちき医薬品のターゲットにされているようだ。
自閉症の息子を持つ母親で、自身も自閉症であり、自閉症者の権利を訴える活動家でもあるサラ・ジェーン・ガーナーは、「自閉症と診断されたばかりの親が、しつこく狙われています」と話す。「この傾向は変わりません。まず言われることが、“グルテンフリーな食事法を実践しなさい”です。グルテンフリーな食事法に科学的な根拠があるわけではありませんが、子供が自閉症と診断されたばかりの親たちは、提示された解決策に問題があると判断する手段も知識も持ち合わせていません」
自閉症の原因はワクチンだと主張するウェブサイトやFacebookページは何百もある。こうしたウェブサイトは多くの場合、「治療法」として、サイトを通じて購入できるサプリなどを提案している。そして多くの場合、そこで共有されている情報は口コミで素早く広まっていく。
BuzzFeed Newsが分析した結果、過去5年間にオンラインで最も共有された「自閉症に関する科学的な情報」の半数以上は、エビデンスのない治療法や、間違っていると証明された治療法、あるいは単なるうわさだった。
「自閉症に関する科学的な情報」を自称する、最も共有された10の記事
データ提供:BuzzSumo、2012年8月15日~2017年8月15日に公開された記事を集計
この分析に使用したのは、Facebook、Twitterなどのソーシャルメディアで共有されている情報を追跡する企業、BuzzSumoのデータだ。このデータから、過去5年間に最も共有された自閉症に関するウェブページを調べ、科学的あるいは医学的な情報であると主張するトップ50を抽出した。科学的あるいは医学的な情報とは、研究に基づく報告、原因や「治療法」に焦点を当てた記事のことだ。
主にエビデンスのない理論や、間違っていると証明された理論を提唱しているページ(ワクチンやグリホサート系除草剤と自閉症の関連性を主張するページ、疑似科学的な治療法を提示しているページなど)は「エビデンスなし」、良質な研究に基づく情報や客観的な報告は「エビデンスあり」に分類した。不明瞭な記事や推測に基づく記事が「エビデンスあり」に分類されないよう、慎重を期したつもりだ。
その結果、最も共有された記事の半数以上(50件のうち28件、56%)が「エビデンスなし」だった。この中には、トップ2も含まれている。トップ50のうち、エビデンスのない記事が共有されたのは630万回、エビデンスのある記事は450万回だった。第1位は、「裁判所はひそかに、MMRワクチンが自閉症の原因であることを認めている」と題された記事で、100万回近く共有されており、同じ記事を掲載した別の2サイトもトップ50入りしている。「Forbes」が2013年に説明している通り、この記事の内容は事実ではない。
また、トップ10の半数は、「エビデンスなし」に分類された。エビデンスのない記事をいくつか紹介しよう。
アーミッシュの人々は「自閉症を患う」ことがなく、ワクチンを接種することもない(もちろん、どちらも事実ではない。割合は低いが、ワクチンを接種する人もいるし、自閉症と診断される人もいる)。ある農業用除草剤が普及していることで、2025年までに半数の子供が自閉症になる(除草剤と自閉症を結び付けるエビデンスは存在しない。「半数」という数字は、自閉症率の上昇傾向から導き出した大ざっぱな推定値にすぎない。そして、自閉症率が上昇しているのはおそらく、診断方法が変更され、診断数が増加しているためだ)。米疾病管理予防センター(CDC)は、「(MMRワクチンを受けた子供の)自閉症発症リスクは340%という事実」を「不当に」隠している。340%という数字は、「Translational Neurodegeneration」誌で発表されたある研究論文に基づくようだが、この論文は、ピアレビュー・プロセスにおける利益相反と手法の問題を理由に撤回されている。これらの記事は、いくつかのよく似た記事とともに、さまざまなサイトに掲載され、「最も共有された」ランキングに繰り返し登場している。
こうした記事は、しばしばFacebookグループを通じて共有される。「AutismCD」というFacebookグループは、MMSと同じような漂白剤である二酸化塩素(CD)の使用を提案している。「Healing The Symptoms Known As Autism(自閉症という名前で知られる症候群を癒す)」という別のグループは、同名の書籍を宣伝し、CDを使って自閉症の子供を治療している南米のあるクリニックに行くよう勧めている。BuzzFeed Newsの記事にもなった英国のFacebookグループ「Autism Mothers」は、さまざまな代替療法について議論を交わし、MMSやGcMAFを販売するウェブサイトを紹介している。
Facebook以外でも、主要なウェブサイトが、間違った主張や、誤解を招くような主張を展開している。英国の有名サイト「Natural News」は、自閉症とワクチンの関連性を繰り返し強調し、キレーション、GcMAF、MMSなどの非科学的な治療法を提案している。
自閉症の「環境因子の特定に努める」というサイト「SafeMinds」も、自閉症とワクチンの関連性を指摘し続けている。米国の女優で、自閉症の息子がいてワクチン接種に反対しているジェニー・マッカーシーも「Generation Rescue」というサイトを立ち上げ、ワクチン接種と自閉症を結び付けた上で、キレーション、グルテンフリー、カゼインフリーなどの治療法を薦めている。
こうした「フィルターバブル」(情報のタコツボ化状態)に足を踏み入れた親たちは、治療法に関する情報の渦に巻き込まれてしまう。疑似科学を批判するブログ「Left Brain Right Brain」のライターは2000年代前半、いくつかのグループに潜入し、ある母親の体験に出会った。この母親は、当時7歳だった息子に49種類もの治療を受けさせていた。キレーションや高圧酸素療法、さまざまなグルテンフリー、カゼインフリーな食事法を、何年にもわたって、片っ端から試したという。
これらは決して学術的な懸念ではないし、これらの治療の一部は危険を伴うものだ。MMSとキレーションは死亡例があり、医師は処方を禁止されている。2017年8月には、自閉症の子供たちをキレーションによって治療しようとした罪で医師が起訴された。また、英国チェシャーでは、息子が自閉症になった原因を寄生虫だと信じ、MMSあるいはCDで「漂白剤浣腸」を行ったとされる女性が捜査の対象となっている。女性の息子はこの浣腸によって、腸の内膜を損傷した可能性がある。「A Drop at a Time」というブログでは、「自閉症の子供のCD体験」を、ときに不快感を覚えるほど詳細に報告している。
英食品基準庁は2010年、MMSは「業務用に匹敵する強力な漂白剤」だと表現し、使用への注意を呼び掛けた。その際、少なくとも1件の死亡例と関連付けている。CDも、MMSとよく似た物質だ。英国立医療技術評価機構(NICE)は、自閉症の「中核症状」を治療する目的で食事療法やビタミンのサプリメントを用いることについて、明確な警告を発している。英医薬品・医療製品規制庁も、ライラが提案されたGcMAFは危険だと警告している。
自閉症の息子を持つ父親で、現状に危機感をもつマイク・スタントンはBuzzFeed Newsの取材に対し、「これは、オルタナティブファクトやフェイクニュースの世界です」と語った。「私たちは20年前から自閉症のコミュニティーに所属していますが、人々は少しずつ小さなバブルの中へと消えています。メーリングリストやFacebookグループのことです。彼らはそこで確証を得ようとしているのです」
元総合診療医(GP)で、25歳になる自閉症の息子を持つマイケル・フィッツパトリックは現役時代、親たちが受けている影響を目の当たりにしたという。「さまざまなレベルで巻き込まれている親たちを見てきました」とフィッツパトリックは振り返る。「赤ん坊のクリニックを経営し、予防接種を行っていたのですが、不安を抱える親たちがよくやって来ました。急に泣き出して、子供にMMRを受けさせてしまったと話し、自分を責め始めた親がいたことを鮮明に覚えています。“…を処方してほしい”と頼んでくる親もたくさんいました。インターネットで見たというグルテンフリーの食事法などのことです」
自閉症をめぐる議論は、インターネット世界における「フィルターバブル」の初期の例ととらえることができる。フィルターバブルとは、アルゴリズムや、考えの似た人々が共有するコンテンツの影響で、知らず知らずのうちに、信念を強化するような情報ばかりを見せられ、偏った世界観を持つようになる現象のことだ。
近年はソーシャルメディアの台頭により、フィルターバブルが形成されやすくなった。しかし、自閉症の子供を持つ親たちは、Facebookが存在すらしなかったころからフィルターバブルを経験していた。Facebookが現在のように拡大するはるか以前にも、親たちは、電子メールや掲示板で情報交換を行っていた。特に「Yahoo Groups」の「Health」カテゴリーでは、1990年代後半から2000年代前半にかけて、いくつものグループが立ち上げられた。例えば、Yahoo Groupsの「Environment of Harm」というグループでは、「ワクチンによるダメージや水銀中毒など、自閉症と関連する環境毒素」について話し合われていた。「GFCFKids」というグループは、「グルテン、カゼインなどの物質を避けている自閉スペクトラムの子供を持つ親のためのディスカッションフォーラム」だった。ほかにも、「生物医学的な治療介入を求めている自閉症の子供を持つ両親、家族」のための「Chelatingkids2」、「自閉症(の増加)と、小児用ワクチンに含まれるチメロサール(保存料として使われる有機水銀化合物)が原因となった、”水銀の過剰摂取”の関連性」に焦点を当てた「Autism-Mercury」といったグループもあった。
こうしたグループは、全盛期には何千人ものユーザーを集め、1カ月の投稿が数千単位に上っていた。しかし、これらの数字は徐々に減少していった。元総合診療医(GP)のフィッツパトリックはその一因として、この10年間でワクチン反対運動がいくらか失速したことを挙げているが、Yahoo Groupsトラフィックの大部分がFacebookに流れたり、インターネット全体に散らばったりしたことも一因だろう。
新しいグループやサイトでは、不都合な考えを即座に撃退するためのミームが使用されている。「自分たちと考えの違うものはすべて“タバコ・サイエンス”の一言で片付けられます」とスタントンは話す。「ワクチンは安全だと主張する研究の資金を出しているのは製薬会社だから、もちろん信用などできないと見なされるのです。タバコ業界で起きたことと同じだ、と」
マンチェスター大学で自閉症の研究を行っているジョナサン・グリーン教授(専門は児童心理学、青年心理学)は、自閉症のいんちき療法が広まったのはインターネットが原因だと断定するのは「単純にすぎる」としながらも、一部には正しいところもあると述べている。「さまざまなことと同様、インターネットによって増幅されているのは確かです。医師などの専門家や既存の権威への反感、陰謀説。自閉症に限ったことではありません。慢性疲労症候群の方がひどいくらいです」
医学的・科学的な「既存の権威」に対する反発の源については理解できるかもしれない。自閉症の歴史において、権威は必ずしも素晴らしい役割を果たしてきたわけではない。科学者や医師に不信感を抱く権利を誰かに与えるとしたら、やはり自閉症の子供を持つ親たちだろう。親たちは、子供の自閉症の「責任」を負わされてきた。心の問題である、あるいは、育児放棄が原因であると決め付けられ、異議を唱えても、疑いの目を向けられるだけだった。親たちは自ら、自閉症は神経発達の障害だと証明しなければならなかった。
こうした混乱や誤解には長い歴史がある。「“自閉症(autism)”は20世紀前半につくられた言葉で、ギリシャ語で自己を意味する“autos”から派生していますが、自分の中に閉じ込められた人であることを示唆しています」とグリーン教授は説明する。「不適切な名前ですが、すでに定着しています」
同時期に精神分析学者として活躍していたブルーノ・ベッテルハイムは、自閉症の誤ったイメージを植え付け、破壊的な影響をもたらした主要人物だ。ベッテルハイムらは、自閉症の子供を持つ親は、子供に対して冷たく、無情だという「冷蔵庫マザー」理論を支持していた。
「親が人と心を通わせることができないと、子供も同じようになる? きっとそうだろう! と思った彼らは、よく考えることもなく、誤った道を進んでいきました」とスタントンは話す。「特に、ベッテルハイムはタチが悪く、子供から親を引き離す“家庭隔離”を提唱しました」
後に、ベッテルハイムは不正を働いていたと判明した。データをでっち上げ、実際は自閉症でなかった患者を治療し、自閉症が「治った」と主張していたのだ。しかし、冷蔵庫マザーという概念は根強く残り、その結果、科学への不信感が生まれた。「親たちは戦わなければならなりませんでした」とスタントンは言う。「“戦う親”となり、自ら研究し、科学を相手に“私たちの子供は精神障害ではない”と訴えるしかなかったのです」
「そして、1つの考え方が生まれました。以前、精神科医に言われたことがあります。“心理学者が冷蔵庫マザーと言ったら、親たちはその間違いを証明してみせた。次に、ワクチンは自閉症の原因ではないと言ったら、彼らは今度も証明してみせると固く決意したようだ”」
こうした歴史がどれほど複雑かを証明してくれる人物がいる。冷蔵庫マザー理論を覆すために戦い、のちにワクチン反対派となった米国の心理学者バーナード・リムランドだ。リムランドは、自閉症の息子マイクの父親でもあった。1964年に出版した著書「Infantile Autism: The Syndrome and Its Implications for a Neural Theory of Behavior」は、科学界が自閉症を(心理的な障害ではなく)神経発達的な障害として扱うきっかけとなった。
しかし、科学界を誤った道から正しい道へと連れ戻したリムランドは、別の誤った道を歩み始めた。「彼は、冷蔵庫マザー理論を打ち破った後、バイオマーカーに目を向けました」とスタントンは説明する。「彼は、自閉症を治療しようとして、グルテンやカゼインの不耐性、食事療法、ビタミンの大量摂取に夢中になっていきました」。そして、おそらく最大の問題は、自閉症とワクチンに関連性があると信じ始めたことだろう。「米国では、以前からワクチン反対運動が行われていました」とスタントンは話す。「彼らは、戦う親たちを捕まえ、自閉症に関しては、科学はいつも間違っていたし、今も間違っていると説得しました。そして、少なくとも一部の親たちを取り込むことに成功したのです」
リムランドは特に、一部のワクチンで保存料として使用されている有機水銀化合物チメロサールとの関連性を疑っていた。米国ではMMRワクチンに使用されたことはないが、リムランドにとっては大きな問題ではなかった。後に失脚した英国の消化器専門医アンドリュー・ウェイクフィールドが1998年、MMRと自閉症を結び付ける「不正確な」論文を発表したとき、リムランドは支持を表明したようだ。ワクチン反対派のサイト「Age of Autism」では、リムランドが書いたとされる複数の電子メールが公開されている。チメロサールを使用したワクチンとMMRの両方を自閉症と結び付ける内容だ。「2つのワクチンを自閉症と関連付けたら矛盾が生じます」とフィッツパトリックは指摘するが、リムランドにとっては、問題ではなかったようだ。
このようにリムランドが考えを変えた件の、少なくとも一因となったのは、初期のYahooのチャットルームだろう。Age of Autismによれば、リムランドがワクチン反対運動に加わったきっかけはチャットルームのある投稿だという。
リムランドは特に米国で、ワクチン陰謀説と生物医学的アプローチを広めた。「彼は、アメリカ自閉症協会の創設メンバーであり、カリスマ的人物でした」とフィッツパトリックは話す。「彼は冷蔵庫マザー理論に挑んだ人物です。そうした人物が、ワクチン陰謀説を支持し、さまざまな治療法を提唱すれば、かなりの影響力があるのは間違いありません」
エビデンスのない情報が広まり、親たちが容易に影響を受ける理由は、自閉症そのものの性質によっても説明できる。多くの場合、自閉症の診断は突然やって来る。そして親たちは、子供と自身の生活を少しでもコントロールしようと必死になる。その結果、親たちは主流の医療では得られない答えや解決策を求め始めるのだ。
「興味深いことに、自閉症は発病の仕方に特徴があります」とフィッツパトリックは話す。「自閉症の子供の大部分は、生後15~18カ月くらいまで、何の問題もなく成長しているように見えます。
そうした特徴が、原因や治療法に関するさまざまな憶測を呼ぶのでしょう」。子供たちはちょうどこのころ、数度にわたってワクチン接種を受ける。その後、目に見える症状が現れれば、ワクチンと結び付けたくなるのも無理はない。
それ以上に、親たちは、極めて困難な状況に追い込まれることがある。「基本的な社会能力への影響という意味では、とても深遠で興味深い障害です」とグリーン教授は話す。ほかの神経発達障害や精神障害は、神経学的に正常な親にとっては比較的「理解可能」だ。「たとえば、注意欠陥・多動性障害(ADHD)は衝動的で、トラブルを起こすことが多く、集中力が長く続きません。
決してADHDを軽く見ているわけではありませんが、ADHDは、自閉症が社会生活に及ぼす影響とは次元が異なります。自閉症は親たちに多大な影響を与え、“なぜこのようなことが起きているのだろうか?”という疑問を呼び起こします。真空の世界で、あれこれ思案しているようなものなのです」
フィッツパトリックによれば、多くの場合、親たちは子供を助ける方法が存在しないように感じ、さらに必死になるという。「自閉症の子供を総合診療医(GP)に連れて行き、困っていると相談したら、“原因はわからないし、治療もできない”という答えが返って来るでしょう。とても耐え難いことです」
「そのようなとき、誰かがやって来て、“総合診療医は役立たずだ。私は原因を知っている”、“このサプリメントを服用しなさい”、“イルカと泳ぎなさい”などと言ったら、少なくともいくらかの救いになります」
だからこそ、自閉症の子供を持つ親の間で食事療法が人気なのだろうと、フィッツパトリックは考えている。「親たちはコントロールしていると感じることができます。しかし、子供はだからこそ、親を拒絶します。彼らはとても”管理”が難しい存在なのです。自閉症の子供を持つということは、無力感に苛まれるということです。まるで何一つうまくいかないように感じられます。普通のことをするだけでも大きな困難を伴うのです」
「親たちは少なくとも、“この食事療法を実践する。これらの食品を避け、これらの食品を積極的に摂る。そして、これらのサプリメントを飲む”と言うことができます。多大な努力を要する非常に具体的なプログラムですが、むしろ親たちは努力を歓迎するのです」
これらをさらに複雑にしているのが、自閉症は遺伝するという事実だ。自閉症の子供の親も自閉症である確率はかなり高い。「これはかなり一般化した話ですが、自閉症タイプの人間は、問題を発見したら解決しようと努力します」とガーナーは話す。「私たちはそのように配線されているのであり、それは私たちの強みの一つです」
「けれども、あなたの子供は普通の子供と同じようには育たない、あなたの子供はもがき苦しむだろうと言われたら、親は必死に解決策を探し求めます」。自らも学生時代に社会的な苦しみを味わった親、なかでも、自身が自閉症的であることにいまだに気付いていない親は、「自分の子供がパーティーや遊び場で、ほかの親に受け入れられるような振る舞いをしなかったら、恐怖に襲われる可能性があります」
ガーナーによれば、過度に成果を求める教育システムも問題だという。「私は英語教師ですが、教師は皆、子供たちが外部の基準を満たすことが過度に重視されていると言うでしょう。目的は、学校予算の維持や教師の報酬です。そうした基準から見ると、自閉症の子供たちは多くの場合、大幅に外れています。つまり、教育システムは自閉症の子供たちを見捨て、孤立させます。その結果、親たちが恐怖に襲われるのです」
恐怖におびえる親たちは皆、「子供の問題を手っ取り早く解決できる」と断言するペテン師にだまされやすいものだが、自閉症の子供を持つ親はさらにその傾向が強いと、ガーナーは話す。「私たちは雄弁ですが、同時に、影響を受けやすく、社会的な弱者でもあります。つまり、私たちは最高のターゲットなのです」
まさに「最高」のターゲットだ。いわゆる自閉症の治療法は儲かる商売であり、多くの人が必死な親たちに付け入ろうとするのもそうした理由からだ。
「必死になった親たちが市場を活性化させています」とグリーン教授は話す。2015年には、医薬品・医療製品規制庁がケンブリッジシャーで1万瓶ものGcMAFを押収した。MMSを販売するAutismCDは8600人のメンバーを抱え、アフリカだけで7万5000人の病気(自閉症だけではない)を治療したと主張している。Amazonでは、食事や医療による自閉症の「治療法」を提案する本が何十冊も売られている。ガーナーはBuzzFeed Newsに、複数の知り合いが自閉症の治療として、1回2600ポンド(約40万円)の足浴に通っていると語った。Left Brain Right Brainのライターが潜入したYahoo Groupsのグループで出会った母親は、1カ月当たり約3000ドルを掛けて子供を治療していたが、効果は見られなかったという。
そして何より、治療を受けた人たちの体がむしばまれている。多くの治療は侵襲的で、危険を伴うこともあり、科学的な根拠を欠く。ワクチン反対派の報復を恐れ、代理人を通じて取材に応じてくれたある自閉症の女性は、「パッキング」と呼ばれる冷水浴と漂白剤の浣腸を受けたことがあると話す。「ヒマシ油で漂白剤を希釈した浣腸でした」と女性は振り返る。「漂白剤は焼けるような痛さで、刺激臭がしました。週に1度のペースで受けていましたが、我慢できなくて、逃げ出そうとしました。彼らは私を押さえ付けました。とても苦痛で、恐ろしい体験でした。浣腸をすると、長さ1メートルの大便が出てきました」
女性はさらに、MMSの摂取を強要された。「育ての親は、私の食事をMMSに浸しました。彼らは私の体を浄化するためだと言っていました」。この女性のような体験は決して珍しくない。ガーナーは、自分の子供にMMSやCDの浣腸を行っている治療家を複数知っていると話す。
この女性はBuzzFeed Newsに、治療が必要だと言われると「ひどい気持ち」になったと打ち明けた。「お前には、いわゆる“健常者”のような価値はない、と言われているような気がしました」
この話からわかるのは、自閉症のコミュニティーが精神的な痛みも感じているということだ。自閉症の人々はこれまで、「壊れている」と言われ続けてきたが、本人たちは次第に、堂々と否定するようになってきている。「大きなムーブメントが巻き起こっています。特に、軽度の人たちは、“私は壊れた定型発達者ではない。私は高機能自閉症だ”と宣言しています」とスタントンは話す。「自閉症を病気とみなす考え方とは距離を置いたムーブメントです。人々は、自閉症を受け入れるよう訴えています。自閉症の人間にも価値がある、ただの不良品ではないと」
ガーナーも同じように考えている。「私たちは自閉症を障害ととらえていないわけではありません。コミュニティーは、自分たちが障害者だということを素直に認めています。ただ、自分たちの子供に漂白剤の浣腸を受けさせたくないだけです」
スタントンによれば、自閉症は現実的な問題をもたらすが、自閉症の人々はそれも自分の一部だと考えているという。障害者ではなく「障害を持つ人」という表現が好まれる傾向にあるが、当事者たちがこれを嫌うのもそうした理由からだと、スタントンは説明する。「私は"自閉症を持つ人"ではありません。自閉症は私の一部であり、私の特徴です。だから、私は自閉症者なのです」
スタントンは、ある教授から聞いた話を教えてくれた。「その教授の研究室にやってきた自閉症の若い男性に対して、教授は、“もし自閉症の治療薬が存在したら、君は飲むかい?”と尋ねました。すると若者は、“半分だけ飲む”と答えたそうです」
疑似科学に批判的な立場を取る、フィオナ・オライリーという自閉症の女性がBuzzFeed Newsの取材に応じてくれた。オライリーの5人の子供のうち2人も自閉症だ。もし、自身と2人の子供が「壊れている」と言われたら、とても傷付くとオライリーは認めた。「私たちを深く傷付ける言葉です。私は怒り狂い、自閉症のコミュニティーについて心配するでしょう。人々は、私たちを価値ある人間だと思っていないのです」
「私の息子は13歳で、自閉症ですが、文章を読むことができます。彼は恐れています。こうしたことは人々に、必要のないメンタルヘルス的な問題を与えます。私たちはすでに難題を抱えています。いんちき療法は、私たちに戦争を仕掛けようとしているのです」
生物医学的な治療法やワクチン反対運動の提唱者が語る言葉を聞くと、オライリーは次のように感じるという。「まるで、自閉症という怪物がベビーベッドに忍び込み、突然、子供を変えてしまうかのような物言いです。そのようなことを言われた人は傷付くし、子供も同じように傷付きます。自閉症の子供にはどうせわからない、と思っているのかもしれませんが、彼らはきちんとわかっています。子供たちは毎日、新しい傷を負っています」
しかし最近、画期的な出来事が起きている。科学によって裏付けされた大躍進だ。自閉症を「取り除く」ことなく、自閉症の子供とその親たちの生活を改善してくれるかもしれない。グリーン教授は「就学前自閉症コミュニケーション実験」に参加している。自閉症の子供を持つ親たちに効果的な関わり方を教える取り組みであり、自閉症の最も深刻な症状のいくつかが、数年にわたって大幅に軽減されるという効果が出ている。
グリーン教授はこの取り組みについて、「基本的には、子供たちの社会的学習の環境を変えようとしています。そこでは、親たちもセラピストの役割を果たします」と説明する。「子育てに問題があるなどと言うことはありませんが、驚くほどの効果を発揮しています。自閉症を治すことはできませんが、状況を改善する助けになります」。グリーン教授によれば、将来的には、本当に効果のある生物医学的な治療法が見つかる可能性もあり、両者を組み合わせることも考えているという。「奇跡が起こることはないかもしれませんが、長い時間をかければかなりの変革が起きるでしょう」
少なくとも英国では、問題だらけの歴史を経て、いんちき療法は衰退へと向かっているのかもしれない。医師免許を剥奪されたウェイクフィールドは、「Autism Trust」のポリー・トミーを含む複数のワクチン反対派とともに、米国テキサス州に移住した。インターネット上のグループも、以前に比べると、鳴りを潜めている。「例えば、“JABS”(有名なワクチン反対派グループ)には、もう10年前のような勢いはありません。トミーが米国に行ったのは、あまり支持を得られなくなったためです。多くの治療室は、どこかの小部屋でひっそりと営業しているような状態です」とガーナーは話す。
ガーナーは理由の一つとして、以前より多くの情報が入手できるようになったことを挙げている。「親たちにとって本当にためになる情報は相変わらず少ないですが、話すことのできない自閉症者たちが、いんちき療法の体験を文章にまとめ、発表し始めています。このような動きはまだ新しく、資金力を武器に“治療法”を提唱するグループに比べると、彼らの声はそれほど増幅されていません」。しかし、まだ始まったばかりだと、ガーナーは言う。
ライラの息子は6歳になった。3年前のあの数週間以降、生物医学的な治療法は受けていない。「自閉症の子供を持つ親たちの集まりや朝のお茶会に積極的に参加しています」とライラは近況を語る。「そこで会う人々は、インターネット上で起こっていることを全く知らないようです。いまだにアンダーグラウンドでの活動なのです」
「息子はいま、特別支援学校に通っています。保護者や職員とよく話をしますが、グルテンフリーの食事法を実践している子供は一人も知りません。息子は今、本当に元気に暮らしています」
Additional reporting by Tom Phillips
この記事は英語から翻訳されました。翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan