右派サイトとの隠された関係 白人至上主義はこうして広まった(1)

BuzzFeed Newsが内部文書を入手、スティーブ・バノンのオルタナ右翼「殺人マシン」の真実を明らかにする。

    右派サイトとの隠された関係 白人至上主義はこうして広まった(1)

    BuzzFeed Newsが内部文書を入手、スティーブ・バノンのオルタナ右翼「殺人マシン」の真実を明らかにする。

    この長い記事は、アメリカで白人至上主義がどのように広がったのかを示すものだ。トランプ政権・彼を支持するメディア・白人至上主義者の隠された関係を詳細に記している。日本の読者にも様々な示唆をもたらすはずだ。3回に分けて報告する。

    第2回「オルタナ右翼は文化的戦争を仕掛けた
    第3回「そして彼らは権力を握った


    2017年8月、米国バージニア州シャーロッツビルで開かれた白人至上主義者の集会は、それに反対する団体との衝突に発展、3人が死亡する惨事となった。

    その後、ドナルド・トランプ大統領の元上級顧問スティーブ・バノンは、ネオナチ主義者やネオ南部同盟支持者、クー・クラックス・クランを批判し、「彼らの居場所はアメリカ社会にはない」と主張した

    だが、BuzzFeed Newsが入手した「爆弾」とも言える内部文書からは、バノンの発言とはまったく逆の状況が浮かび上がってくる。バノンが築きあげたWebサイト「ブライトバート」に、過激なオルタナ右翼のための居場所が大量に用意されていたのだ。

    2016年の大統領選挙戦中、ブライトバートはバノンのリーダーシップのもと、オルタナ右翼(Alt-right)を取り込もうと躍起になっていた。

    オルタナ右翼とは、暴力的・人種差別的な右翼活動で、ドナルド・トランプを権力へと導いた勢力である。

    前ホワイトハウス最高戦略責任者でもあるバノンが、ブライトバートを「オルタナ右翼のためのプラットフォーム」にしたいと発言したことはよく知られている。


    オルタナ右翼に最も近いブライトバートの編集者がマイロ・ヤノプルスだ。

    前テクノロジー担当で、2016年の「Dangerous Faggot(危険な男性同性愛者)」講演ツアーや、中止となった2017年9月のカリフォルニア大学バークレー校での「Free Speech Week(言論の自由週間)」など、社会に対する強烈な挑発行為で知られている。

    ヤノプルスは、ブライトバートで1年以上にわたってオルタナ右翼の記事を書いてきた。その汚い部分を避け、ネオナチ主義者や白人至上主義者の果たしている役割を弱めた表現で、だ。「(礼儀正しい相手には)公平に耳を傾けた」と話す。

    2017年3月、ブライトバートの編集者アレックス・マーローは「我々はヘイト・サイトではない」と主張した。ブライトバートの担当者は、ヤノプルスを人種差別主義者と評するメディアは告訴する、と繰り返し脅すようになった。

    8月、シャーロッツビルでの白人至上主義者デモが暴動に発展すると、ブライトバートはバノンの「オルタナ右翼プラットフォーム」発言について釈明記事を公開した。

    当時のバノンは、オルタナ右翼について「共和党のブランドを憎むコンピューターゲーマーやブルーカラーの有権者」が中心と考えていた、と書かれている。

    だが、BuzzFeed Newsが入手したEメールや文書からは、こう読み取れる。

    オルタナ右翼のヘイトに満ちた人種差別的な声に対し、ブライトバートは許容するだけでなく、貢献までしていた、ということだ。

    オルタナ右翼で成長し、政治理念の中でもっとも有害な思想を駆り立て、駆り立てられたブライトバート。その思想がアメリカの主流になるべく、道を切り開いているのだ。

    ブライトバートとオルタナ右翼の関係は、これまで未発表だった2016年4月の動画にもはっきりと表れている。

    この動画では、白人至上主義者リチャード・スペンサーを含むファンたちが腕を上げてナチス式の敬礼をする前で、ヤノプルスが『America the Beautiful』を歌っている。

    BuzzFeed Newsが集めた文書は、ブライトバートという、いわば「オルタナ右翼の宇宙」の発展を記録している。

    特にヤノプルスが、富豪のマーサー一家が提供する資金で薄給のライターを雇って煽り記事を量産し、白人主義国家創造を目指す過激派をも取り込んだ経緯が描かれている。

    同時に、バノンが「殺人マシン」と呼ぶ活動の様子も捉えている。

    世界中の人々の怒りを集め、そこからアイデアやコンテンツを汲み上げ、ネットの片隅からトランプ・ワールドへと打ち上げ、その過程で広告主から収益を集めていた。

    今回入手したEメールは、BuzzFeed Newsが現在公開している中でも、もっとも報道価値が高いものだ。バノンの殺人マシンが、ヤノプルスに依存していたことがわかる。

    ヤノプルスは既存勢力内外の声を導き、「リベラルな議論はアメリカに対する脅威だ」というわかりやすい物語を描き出すことに成功した。

    ここには、バノンが描いていた壮大な計画も読み取れる。

    バノンによって、ヤノプルスはカリスマ性のある若い編集者から、新世代の反動的な怒りを引きつける保守メディアのスターへと変貌した。

    この文書には、シリコンバレーやハリウッド、アカデミック業界や郊外、その中間に到るまで、無数の隠れた賛同者がいることも明らかにしている。

    ヤノプルスはBuzzFeed Newsへのコメントに書いている。

    「前にも言いましたが、タブーを破ったり、ジョークにしてはいけないことをあえて笑ったり、私はそこにユーモアを見い出しているのです」

    「私を知る人はみんな、私が人種差別者ではないと知っています。ユダヤ系の祖先を持つ者として当然のこととして、可能な限り強い言葉で人種差別を非難します。混乱を避けたいので、人種差別についてのジョークを言わないことにしたのです。私はリチャード・スペンサーや、彼のバカな取り巻き全体を否定します。これまでも、そして現在も、私はユダヤ人とイスラエルの忠実な支持者です。白人至上主義を否定し、人種差別を否定し、いつでもそうしてきました」

    ヤノプルスはカラオケでスペンサーがナチス式敬礼をしたことについても釈明した。「ひどい近眼」なので、離れたところにいたスペンサーが見えなかったのだ、と。

    バノンと、マーサー一族には、幾度となくコメントを求めたが返答はなかった。

    他の新興メディアと同様、ブライトバートというオルタナ右翼プラットフォームの成功は、読者が参加するかどうかにかかっている。リベラルな規範に拒否感を持つ人々を集め、ひそかな怒りを燃焼させてニュースにする。それは燃え尽きることがない。

    現在ホワイトハウスの職を辞したバノンはこの「マシン」の操縦席に戻り、「回転速度をあげている」。マーサー一族は、ヤノプルスによるポスト・ブライトバートのプロジェクトに資金を提供している。彼らは今後、アメリカに何を突きつけようとしているのか。BuzzFeed Newsが入手した文書からその様子を辿ってみよう。


    1年半ほど前、ヤノプルスは「オルタナ右翼を定義する」という難題を自らに課した。それは、ヒラリー・クリントンが選挙演説の中でオルタナ右翼の名を挙げる5カ月前であり、オルタナ右翼最大のホープ、ドナルド・トランプが大統領となる10カ月前であり、シャーロッツビルの事件によってオルタナ右翼が暴力的白人至上主義者の隠れみのだと決定づけられる17カ月前のことだった。

    オルタナ右翼運動は、アメリカの政治と文化に急速に存在感を現し始めた。

    後に自身をオルタナ右翼の「同行者」と称することになるヤノプルスは、当時、ブライトバートのテクノロジー担当編集者だった。彼は「新たな文化戦争の口火を切った」と言われるGamerGate事件をきっかけに1年ほどで頭角を現すと、2015年夏にブライトバートの上層部を説得。独自のセクションを作っていた。

    そして4カ月間にわたり、バノンが言うところの「#war(戦争)」の遂行を支援した。それは、アメリカ人の生活に存在する、リベラルな行動主義との戦争であり、記事一本一本が戦いだった。

    ヤノプルスは有用な兵士だった。ゲイ(現在は黒人男性と結婚している)という周知のアイデンティティは、彼自身と反ポリティカル・コレクトネス活動、そしてブライトバートを差別的だという批判から守るのに役立った。

    しかし、事は簡単ではなかった。左派、さらに右派の一部までも、反動的、人種差別的だとして糾弾し始めたのだ。

    ヤノプルスは「オルタナ右翼」を取り戻す必要があった。ブライトバートの読者のために、この十分理解されず、指導者もいない運動を再定義しなければならない。一部ではすでに「オルタナ右翼」という言葉そのものに抵抗する動きもあった。

    ヤノプルスはまず、有力なネオナチ主義者や白人至上主義者に連絡をとった。

    「ついに、オルタナ右翼を大きく特集することになったんだ」。

    ヤノプルスは2016年3月9日、アンドリュー・“ウィーヴ”・オーエンハイマーへのメールに書いた。オーエンハイマーは、ネオナチ主義者が集まる「Daily Stormer」のシステム管理者を務めるハッカーで、シャーロッツビル事件の後には、暴動の犠牲者ヘザー・ヘイヤーの葬儀を妨害するよう、フォロワーに呼びかけた人物である。

    「何かしら、意見をまとめて送ってよ」

    その4時間後、ヤノプルスはカーティス・ヤーヴィンに「オルタナ右翼ガイドの決定版を作るときが来た」とメールでつづった。ヤーヴィンは「Mencius Moldbug」というペンネームで「新復古」運動誕生に貢献したソフトウェア・エンジニアだ。

    新復古運動の考えでは、啓蒙主義的民主主義は失敗に終わっており、封建制度や独裁的支配こそ望ましいとされている。

    「記事に絶対入れたいことって何かないかなって、売春婦みたいに訊いてるだけなんだけどね」

    「オルタナ右翼の特集だよ。君にも何か考えがあると思ってね」

    ヤノプルスは同じ日、デビン・ソシエにもメールしていた。ソシエはヘンリー・ウォルフというペンネームで白人至上主義のオンラインマガジン「American Renaissance」の編集を手伝っていた。2017年6月には「Why I Am (Among Other Things) a White Nationalist.(なぜ私は他でもない白人至上主義者なのか)」という記事を書いている。

    オルタナ右翼について意見を求められた3人は、それぞれ長々と返事を書いている。

    ウィーヴはDaily StormerとThe Daily Shoahというポッドキャストについて書いた。

    ヤーヴィンは彼らしく、歴史観を披露した。「北米には多くの全く異なった文化的/民族的なコミュニティがあるのは周知のことだ。これは最適ではないが、有能な王さえいれば、大きな問題でもない」という内容だ。

    そして、ソシエは、この運動において重要な思想家や政治家、ジャーナリスト、映画(『デューン/砂の惑星』、『マッドマックス』、『ダークナイト』)、音楽のジャンル(フォーク・メタル、マーシャル・インダストリアル、80年代シンセポップ)のリストを返信した。

    ヤノプルスはそれらをすべてアラム・ボカリに転送した。そこには、「オルタナ右翼」や難解な極右のイタリア人哲学者「ユリウス・エーヴォラ」(20世紀のイタリア人ファシストやリチャード・スペンサーなどに主な影響を与えた)についてのウィキペディアの記事も含まれている。

    ボカリはGamerGateを通じてヤノプルスと出会った。ヤノプルスを補佐しつつ、ゴーストライターにもなっていた。「全部の要素を少しずつ入れてくれ」。ヤノプルスはボカリに指示した。

    「僕が今作ってる記事をきっと気に入ってくれると思うよ」とヤノプルスはソシエ宛てに書いた。

    「楽しみだな」とソシエは返信。「知ってると思うけど、バノンは共感しているよ」

    5日後、ボカリはオルタナ右翼運動について、3000ワードに及ぶ草稿で体系的にまとめ、「ALT-RIGHT BEHEMOTH (オルタナ右翼という巨獣)」と題してヤノプルスに提出した。

    この草稿には、色々なものが少しずつ含まれている。ブレーンからの影響(ヤーヴィンやエーヴォラなど)、「自然保守主義」(科学的理由から、異なる民族グループは離れているべきだと考える人々)、「ミームチーム」(4chanと8chan)、そして扇動する実働部隊。

    最後のグループに関して、ボカリはこう書いている。

    「人数はそれほど多くないし、本当は誰も彼らのことなんか好きじゃない。オルタナ右翼運動で重要なことを成し遂げる可能性は低いだろう」

    ヤノプルスはこう返事した。「最高のスタートだ」。


    それから3日の間に、草稿をヤーヴィンとソシエに送った。ソシエは行ごとに注釈をつけてきた。

    ヤノプルスは、ブライトバートの編集者アレックス・マーローと作家のヴォックス・デイにも送った。デイは、ある黒人作家を「無知な野蛮人」と呼んだとしてアメリカSFファンタジー作家協会の委員会から追放された人物だ。

    「しっかりしているし、公正で、包括的だ」と、デイは2、3の提案とともに返答した。

    マーローは「素晴らしいが、重要な長文記事だから、事を急ぎたくない」と返信した。「何人かが議論に加わるべきだ。これは人種問題に深く関わっているから」

    微妙な問題も生じていた。記事の署名だ。

    「アラム(・ボカリ)がこれについての仕事の大部分をやったので、連名にしたがっていますが、僕は名誉が欲しいのです」と、ヤノプルスはマーローに書いた。

    「『デリケートな問題だから僕単独の署名がいい』とあなたが言ったと、アラムには伝えるつもりです」

    数分後、ヤノプルスはボカリにメールを送った。

    「記事の署名のことで、マーローと握るつもりだった……自分だけの署名にしたかったから。もし僕がそうしたら、君は僕を嫌いになるかな?……この記事について経営陣は本当にピリピリしている(記事を気に入ってはいるが、人種問題に踏み込んでいるから)。彼らとしても単独署名の方がいいだろう」

    「僕らの連名ではダメだと経営陣は言うと思う?」とボカリは返答した。「茶色い肌っぽい名前の人間と連名にすれば、実際、リスクは低くなると思うけど」

    5日後の3月22日、ヤノプルスとオルタナ右翼がネオナチ主義者をいかに拒絶したかをもっと詳しく書くべきだと編集者のマーローは提案した。そして、こう付け加えた。

    ヤノプルスとボカリがオルタナ右翼の一部とした2つの出版物「Taki's Magazine」と「VDare」は「どちらも人種差別的だ……断り書きを入れるか、記事から歴史のその部分を削除するかだ」。(発表された記事には、「これらのウェブサイトはいずれも人種差別的だと非難されてきた」と受身形で追記されている)

    こうして再び、記事はボカリの元に返ってきた。ボカリは24日、ヤノプルスに「ALT RIGHT, MEIN FUHRER.(オルタナ右翼、我が総統)」という件名でまた別の草稿を送った。

    27日には、上層部に見せる準備が整った。最終的に連名となった。相手はバノンと、マスコミ嫌いのブライトバートCEO、ラリー・ソロフ。白人至上主義者ソシエ、封建制擁護者ヤーヴィン、ネオナチ主義者ウィーヴ、作家のデイといったブレーンたちにもメールを送って、もう一度草稿を読んでもらい、コメントを受け取る準備もできていた。

    「この記事には明日、きちんと目を通さなくては…エーヴォラについての記事は、どんなものでも評価するが」と、バノンは書いた。

    29日、編集者のマーローは、「スティーブ(・バノン)が君にこれを読んでもらいたがっている」と題したメールをヤノプロスに送った。それは、バノンがジェームズ・ピンカートンから聞き出した、記事へのコメントが書かれていた。

    ピンカートンはかつてロナルド・レーガンとジョージ・H・W・ブッシュのスタッフを務め、現在は「American Conservative」の寄稿編集者である。

    その日遅く、ブライトバートは「An Establishment Conservative’s Guide to the Alt- Right.(主流派保守のためのオルタナ右翼ガイド)」という記事を公開した。記事はすぐに一つの基準となり、ニューヨーク・タイムズやロサンゼルス・タイムズ、ザ・ニューヨーカー、CNN、ニューヨーク・マガジンなどで引用された。

    その影響は今なお感じられる。2017年7月、オルタナ右翼が祝福したワルシャワでのスピーチで、トランプ大統領はこの記事の一行をそのまま繰り返した

    「茶色い肌っぽい名前の」記者が書き、白人至上主義者が行ごとに手を加え、ブライトバートの編集者が人種差別に関する部分を浄化し、間もなく大統領の最高戦略責任者になる人物が監修した、その記事の一行を。

    「マシン」はうまく機能していた。

    第2回につづく

    この記事は英語から翻訳されました。