オルタナ右翼は文化的戦争を仕掛けた 白人至上主義はこうして広まった(2)

白人至上主義がトランプ氏の大統領当選を支えたブレーンや、彼を支持するメディアとどう関係していたのかを示すスクープ連載の2回目。

    オルタナ右翼は文化的戦争を仕掛けた 白人至上主義はこうして広まった(2)

    白人至上主義がトランプ氏の大統領当選を支えたブレーンや、彼を支持するメディアとどう関係していたのかを示すスクープ連載の2回目。

    この長い記事は、アメリカで白人至上主義がどのように広がったのかを示すものだ。トランプ政権・彼を支持するメディア・白人至上主義者の隠された関係を詳細に記している。2回目は、白人至上主義者の支持を集める過程を、克明に示している。3回に分けて報告する。

    第1回「右派サイトとの隠された関係
    第3回「そして彼らは権力を握った


    うまくいかないこともあった。

    先の11月、ヤノプルスはある問題についてバノンにメールを送った。社会的正義を求めるハッシュタグ運動で人気のロンドンの大学生が、反イスラム活動家のパメラ・ゲラーを脅迫したとブライトバート・ロンドンが報じた件だ。

    「あの記事はガセです。公開すべきじゃなかった」とヤノプルスはメールに書いた。

    「バカげています。…削除したほうがいい。度を超えた中傷です。パメラ・ゲラーと話をしましたが、彼女もあの記事はゴミだと言っていました。彼女について嘘を書き、誤った内容を伝えている。我々はもっとまともなはずです。真実を語れば勝てるし、そうすべきです」

    6分後、激怒したバノンはヤノプルスにこう返す。

    「くだらない。お前のアドバイスが必要なときは私から聞く。…(訳注:ヤノプルスが担当している)テクノロジーサイトはまったくめちゃくちゃだ…子どもが書いた意味のない記事ばかり。会社をどうやって作るのか、真のコンテンツとは何なのかをまったくお前はわかっていない。お前には理解するだけの十分な時間がないか、やめるしかない。…お前はmagenalia(訳注:marginalia=落書き、クズのスペルミスか)だ」

    (ゲラーは、彼女に対する脅しをロンドン大学が「でっち上げ」としたことが「ゴミ」だと思っていると、BuzzFeed Newsに対しコメントしている)

    2015年12月8日、ニューヨーク・タイムズはFacebook上でアメリカ人イスラム教徒が過激化していると報じた。

    同じ日、ヤノプルスは「Birth Control Makes Women Unattractive and Crazy. (女性は避妊で魅力を失い、頭がおかしくなる)」という記事を公開している。

    その午後、バノンは、記事を書いたヤノプルスと編集者のマーローにメールを送った。

    「諸君。我々は、世界にはびこる実存主義者との戦争の最中だ。敵はソーシャルメディアにいる。なのに君らは落書きでマスターベーションしている!!!! 彼らは我らを憎んでいるのだから、この議論を支配せねばならない!!! おもちゃを捨て、武器を拾い、西洋文明を救いに行け」

    「メッセージは受け取りました」とヤノプルスは返事した。「来週は、イスラム週間をやります」

    「その必要はない」とバノンは答えた。

    「とにかく戦いに参加しろ---君たちはソーシャルメディアそのものだ。敵はソーシャルメディアを戦争の強力な武器にした。…まだ西洋文明には従軍特派員がいない。君たちがなれば、3世代にわたって人々の記憶に残れるというのに。--でなければファンに向けてマスターベーションして、神に与えられた才能を浪費しながらだらだらと過ごすしかない」

    それから数カ月の間、ヤノプルスはターゲットを物色する。

    まず、作家であり人権運動「Black Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター:黒人の命も大切だ)」の活動家でもあるショーン・キングに狙いを定めると、彼が本当に黒人であるかどうかを疑問視する記事を続けざまに公開した。

    その次は、当時Yahoo!のCEOだった、マリッサ・メイヤーだ。バノンがヤノプルスに宛てたメールで「自己陶酔的なエコシステムのシンボル」と呼んだ人物である。

    ターゲットは徐々に、ドナルド・トランプの敵となっていく。

    共和党内でトランプと対立する候補を、処方薬依存者だと非難したヤノプルスの記事に応えて、バノンは書いた。

    「LMAO(大笑いしたよ)!…最高だ」

    そして、反トランプ派に「トランプとオルタナ右翼の」船に乗るよう訴えかけるヤノプルスの記事をバノンは承認した。(だが、バノンはサイトのトップ記事にするのを拒んだ。ヤノプルスとマーローに「お手盛りに見えるからね」と書き送っている)

    なぜバノンは、ヤノプルスの熱心な取り組みにそこまで興味を持っていたのか?

    2月、Fox Newsの日曜番組にヤノプルスが出演する前に、バノンはこんなメールを書いていた。

    「(番組ホストの)ガットフェルドは君にとって実地の教材となるはずだ。ポップカルチャーやヒップスターのシーン、アバンギャルドを真に理解する才能あふれる文化コメンテーターだ…Foxで成功し、政治評論家になろうとし…すべての信用を失った。…影響力ある文化人としての地位を彼から引き継ぐ可能性が君にはある。それにふさわしく振る舞え」

    バノンは、この若い男を、より偉大な何かへと育てあげようとしていたのだ。

    さらに5月。バノンはカンヌ映画祭での1週間にヤノプルスを招待した。「テレビと映画について語り合いたい」と彼はメールに書いた。

    「私のパートナーと知り合いになり、船にしがみついて、ビジネスについて話し合うんだ」

    その船とは、ヘッジファンドの富豪、ロバート・マーサーが所有する全長200フィート(約61m)のヨット「Sea Owl」だった。マーサーはブライトバートを含むさまざまな極右企業の資金提供者である。

    一週間にわたって、ヤノプルスはカンヌ・パレス・ホテルとパレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレの隣にある桟橋、そしてデイル・チフーリのシャンデリアを備え、緑色の船尾を持つ「幻想にインスピレーションを受けた」船の間を行き来した。

    マーサー一族は、バノン本人と彼の制作スタジオGlittering Steelがプロデュースした映画『Clinton Cash(クリントン・キャッシュ)』をプロモーションすべくそこに来ていた。

    テレビ番組「Duck Dynasty」で有名な、あごひげを生やした古老フィル・ロバートソンを相手に、ヤノプルスは船上で飲み、語り、自分のポッドキャストのためのインタビューをした。

    「自分がどれだけラッキーかはわかっています」と5月20日、ヤノプルスはバノンにメールで書いた。

    「あなたが稼げるように -- そして戦争に勝てるように、一生懸命働くつもりです! 今週、招待してくださって、そして信頼してくださって、ありがとうございます、チーフ。左翼は自分が何に攻撃されたのか、知る由もないでしょう」

    バノンはこう、返答した。

    「君はとにかく、自分であることに集中してくれ-- 我々は君の周りに最高レベルのチームを配置する」

    そして、こう付け加えた。

    「#war」

    2016年7月22日、ロバート・マーサーのパワフルな娘、レベッカ・マーサーは、スタンフォード大学の卒業生アカウントからバノンにメールした。

    「自由の女神の擁護者の、存命する中で最高のひとり」と評するバノンに、知り合いのアプリ開発者を会わせようとしていた。

    ヒラリー・クリントンを風刺する「Capitol HillAwry」というゲームアプリについて、App Storeへの登録をAppleが拒否していたのだ。言論の自由への政治的迫害だと訴える記事を公開できないものかとレベッカは考えていた。

    その要望をバノンはヤノプルスへと知らせ、ヤノプルスはそれを18歳のイギリス人チャーリー・ナッシュに伝えた。

    前の年、ナッシュはポピュリスト右派であるイギリス独立党の大会でヤノプルスと出会い、その後すぐにインターンとして働き始めた。

    反ポリティカル・コレクトネスの救済者として、ヤノプルスは会議や大学構内でのスピーチ、ソーシャルメディアを通じ、イデオロギーに共感する青年たちを惹き寄せ、どこかに行くたびにアシスタントを増やしていった。

    2015年6月に知り合ったのは、ブリストル大学でヤノプルスに講演を依頼した学生ベン・キューで、現在ブライトバートの常勤ライターとなっている。

    2015年9月には、バックネル大学の2017年卒業クラスの会計係だったトム・シコッタが参加し、彼は今でもブライトバートで記事を書いている。

    2016年2月には、ミシガン大学の学生で、その後、保守派「ミシガン・レビュー」の編集者となったハンター・スウォガーが配下に加わった。ヤノプルスはスウォガーを教化し、「Dangerous Faggot」ツアーの間、ソーシャルメディアのスペシャリストとして同行させた。ヤノプルスは若いスタッフたちを自分の「トリュフ狩り用の犬」と呼んだ。

    ヤノプルスから数カ月にわたり声をかけられたナッシュは、年俸3万ドル(約330万円)でブライトバートに雇われたばかりだったが、富豪からの要望に律儀に応え、自分の給料を自分で稼ぎ出した。

    情報提供から3日後の25日には、登録拒否されたアプリについての記事を公開。さらにその5日後、アップルがこれまでの決定を覆すと、続報まで書いた。

    「でっかい勝利だ」。バノンはアップルが方針を撤回すると、こうメールした。「大勝利だ」

    ブライトバートの元編集者によれば、マーサー一族から記事のネタが入ってくるときはいつもこういうやり方だったという。バノンが「我々の投資家」とか「我々の投資パートナー」に言及しつつ、要望を送りつけてくる。

    カンヌ行きの後、ライブイベントを増やすよう、バノンはヤノプルスに要求するようになった。これには、移動費用がかかる。金を出すパートナーが関与していることは明らかだった。

    5月にシカゴのデポール大学で開かれたイベントでは、ヤノプルスのスピーチ中に「Black Lives Matter」の抗議活動参加者が乱入する事態が起きた。ヤノプルスは、バノン宛てにこう書いている。

    「このことはもちろん公式には誰にも言うつもりはありませんが、心配なのです…昨夜は殴られるか、もっとひどいことになるところでした。…私にはひとりかふたり、自分専属の人員が必要です」

    「100%賛成だ」とバノンは返信した。

    「もっと君に暴れてほしいと思っている。ここだけの話だが、マーサー一族の私有警備会社を使おう」

    そのEメールは、Glittering Steelのバノンの共同プロデューサー、ダン・フルーエットにもCCされていた。何カ月もの間、ヤノプルスとマーサー一族の間で仲介役として行動していた人物だ。

    2016年夏、ヤノプルスがただのライターからショーのスターへと転換を図る中、フルーエットは巡業に同行させる若いアシスタントやマネージャー、トレーナー、その他の人材をさばき、取り込むための協力を求められたのだ。

    最初に参加したのは、ティム・ギオネットだ。Twitter上では「Baked Alaska」という名前で知られる、BuzzFeedの元ソーシャルメディア戦略担当者。5月後半にヤノプルスが、フルーエットにツアーマネージャーとしてどうかと売り込んだ。

    2016年6月、フロリダ州オーランドのナイトクラブ「パルス」での銃乱射事件の後、ギオネットはフロリダまでヤノプルスと同行した。

    ふたりは銃を乱射したオマル・マティーンが通っていたモスクの外での記者会見を計画した。(「素晴らしい」とバノンはメールした。「ところで、あいつらはみんな、『ヘイトの工場』だ」)。

    だがギオネットが生意気なツイートと口答えをした後は、フルーエットがヤノプルスのマネジメントにおける腹心となった。

    「ギオネットは、『Baked Alaska』は終わったということをわかってない」と、ヤノプルスはあるメールでフルーエットに書いた。

    「ギオネットは友人ではなく、社員です。…ギオネットは冷笑の的になりつつあり、僕のイメージダウンになります」

    別のメールではこうも書いている。

    「ティム(・ギオネット)の代わりを見つける必要があると思います。 …ニュースの価値を判断できないし、何が危険かを理解していません(ユダヤ人についてのツイートも、別に問題ないと思っているのです)。…僕のツアーマネージャーとしてよりも、無名のTwitter有名人としてのキャリアに興味があるようです」

    共和党全国大会では、ヤノプルスはあえて会場から遠いホテルをギオネットの宿泊場所に選び、別のブライトバートの社員にこう書いた。

    「まさに彼にいてほしい場所だ。…せっせと通って、自分の立場を思い知ればいい」

    BuzzFeed Newsはギオネットに何度もコメントを求めたが、応じなかった。

    のちにシャーロッツビルでオルタナ右翼とともにデモ行進することになるギオネットだが、ヤノプルスにとってまだ利用価値があった。トランプ支持者の中でも、若くて流行に敏感で、ソーシャルメディアを巧みに使いこなす層へとつながる足がかりになった。

    ヤノプルスは「yiannopoulos.net」のメールと非公開のSlackルームを使い、自分のアシスタントとゴーストライター全員をその配下で管理していた。この構造によって、ヤノプルスの下で働く4chanマニアやGamerGate戦士が、ブライトバートの上層部に直に接触する心配はなくなった。

    そして、ブライトバートよりも、ヤノプルスに対して忠実なスタッフを手に入れた。(実際2016年7月、独立した「マイロ・チーム」部門の情報を、ウォール・ストリート・ジャーナルを発行するダウ・ジョーンズに流していた)

    だが、組織的・個人的な関係が不安定になることもあった。オックスフォードで教育を受けた元政治コンサルタント、アラム・ボカリの例を見てみよう。

    ヤノプルスは、ボカリの何年もの単調でつらい仕事に報いるため、その著書『Dangerous(危険)』に関して10万ドル(約1100万円)のゴーストライター契約を結んでいる。

    だが、ヤノプルスとボカリは互いのことをひそかに嗅ぎ回っていた。

    2016年4月、ヤノプルスは「君がこれまでにアクセスした、僕のEメール、ソーシャルメディア、銀行口座、その他のシステムとサービス、およびアクセスした時間の長さについての完全なリスト」をボカリに要求した。

    ボカリは、ヤノプルスのEメールとSlackにログインしたことがあり、Airbnbでヤノプルスのクレジットカードを使ったと認めた。ヤノプルスはすぐさま、この件をブライトバートのCEO、ラリー・ソロフに伝えた。

    「ボカリは不安定になっています。私から遠く離しておく必要があります」と、ヤノプルスはマーローとソロフに書き送った。

    一方、ヤノプルスは、「30時間分の録音を紙に記したもの」を書き起こしていた。それはボカリとある友人の会話を記録したものらしかった。

    ギオネットが連れてきた新人たちも、それほど行儀がよくなかった。

    コカインの使用をSnapchatに投稿したという理由で、「ツアー部隊」の有望なメンバーを解雇しなければならなかった。ノースカロライナ州出身で当時20歳のマイク・マホニーは、ソーシャルメディアで人種差別的・反ユダヤ的発言をする傾向があり、監督が必要だった。

    (マホニーはその後Twitterでアクセスを禁止され、言論の自由を何よりも重視するソーシャルネットワークGabに活動の場を移している。Gabでは「リマインダー:イスラム教徒はホモだ」といったメッセージを自由に投稿できるからだ)

    「具体的にまずいことが何かあれば、知らせてほしい。たとえばユダヤ人のこととか」と、別のメンバーへのメールにヤノプルスは書いている。

    「マホニーは仕事を手に入れたら、Twitter人格を劇的に変える必要があるだろう」

    2016年9月11日、マホニーはGlittering Steelとの1カ月2500ドル(約28万円)の契約にサインした。

    「Dangerous Faggot」ツアーの仕事のスピードが上がるにつれ、ヤノプルスはますますフルーエットに対し反感を持つようになる。若手スタッフへの支払いの遅れや、サポート不足、組織の乱れについて、強く批判した。

    「ツアースタッフ全員が金を要求しています」と、ヤノプルスは10月にフルーエットへのメールに書いた。

    「Glittering Steelが誰なのか、誰も知りませんし、気にもしていませんが、このことが公になれば、私の評判に対するかなり手痛いリスクとなります」

    そして別のメールでは、「あなたの現在の課題は、私を満足させ続けることです」と書いた。

    それでも、フルーエットは必要な存在だった。ヤノプルスの無鉄砲な世界と、この「マシン」に資金提供する裕福な人々をつないでいたのはフルーエットなのだ。

    あるとき、ヤノプルスから感情的に金銭を要求するメッセージを受け取ったフルーエットは「最終的な決断は誰のものなのかを、君はわかっていると思う」と返した。

    「私は毎日、彼らと連絡を取っている」

    2016年、ヤノプルスの星は昇り続けた。

    議論をあえて煽るかのように立て続けに公の場に姿を表した。ソーシャルメディアの炎上、ブライトバートのラジオ版スポット広告、テレビでの成功、雑誌の人物紹介記事が後押しした。

    バノンの指導、マーサー一族の資金援助、若いスタッフの創造的なエネルギーが結集していた。そして時を同じくして、ドナルド・トランプはその攻撃的な言論を、アメリカ文化における決定的に重要なイシューへと昇華させていた。

    多くの人々にとって、ブライトバートの攻撃的言論のシンボル、ヤノプルスはひそかな代弁者となった。

    アメリカではさまざまな集団が、いわゆる文化的マルクス主義がアメリカの大衆生活を侵害していると不快感を感じていた。Fox Newsの絶え間ない報道や、セーフスペース(訳注:教育機関など、差別がないとされる空間)や人種問題に端を発する大学での衝突といったニュースに扇動されていた。

    そうした人々はヤノプルスにメールや手紙で感謝を述べ、アメリカの将来についての不安を吐露した。

    ヤノプルスは次のような人々から直接、メッセージを受け取っていた。

    • YouTubeで彼のスピーチを「イッキ見した」年配の退役軍人たち
    • 高校生の娘の担任教師が進歩的すぎると懸念する「58歳のアジア人女性」
    • クラスの討論会でフェミニストを言い負かすにはどうすればいいかと尋ねる少年たち
    • 「太った女性上司に一時解雇」されたと言い、ジェット推進研究所が「完全に弱体化」したことを嘆く元NASA職員
    • 11歳の息子にM16自動小銃を買い与え、それを「マイロ」と名付けた男性
    • 「リベラルを軽蔑している」と語り、ヤノプルスに「スペシャルな雪を降らせ続けてほしい」と懇願するインディアナ州のレズビアン女性
    • イスラム教を低く評価していることを明かしたために、博士課程をやめさせると脅迫されたという哲学専攻の学生
    • キース・ラモン・スコットの銃殺事件(訳注:ノースカロライナ州シャーロットのアフリカ系男性が警察官に銃撃され、「Black Lives Matter」のデモを引き起こした事件のひとつ)に関するヤノプルスの「良識あるFacebook投稿」に感謝するというシャーロットの警察官(「BLUE LIVES MATTER (保守派の命も大切だ)」とヤノプルスは返答した)
    • 生徒たちが「左派の社会的正義運動の人質」になるのではと怖れるニュージャージー州の教師
    • 派兵されて行った「あるイスラム教の国」から帰ってみると、妻が性転換しつつあって、離婚を望んでいたと語る男性(件名には「退行主義者が妻を盗んだ」とあった)
    • 娘が著名な女子大、スミス大学に入学するかもしれないと怯える父親
    • 太った人々や、同性愛の人々、イスラム教徒、ヒラリー・クリントンについて、使えるジョークをヤノプルスに贈りたいというファンたち


    エンターテイメントやテクノロジー、アカデミック、ファッションやメディアといった主にリベラルな業界にいる教養人からも、ヤノプルスは頻繁に接触を受けていた。

    そうした人たちは、アメリカ沿岸地域にありがちな文化的正当性、口うるささに憤慨していた。こうした人々を束ねると、それはGoogleを解雇されたジェームズ・ダモアのような、声なき声のネットワークとなった。

    憤りを溜めながらも、仕事や友人を失う不安から口をつぐみ、怒りのはけ口としてヤノプルスに愚痴を言っていた。こうしたメールは社会に充満する不満を裏付けるだけでなく、文化的戦争の弾薬にもなった。

    「私はエリートの私立学校(イェール大学とフィリップス・アカデミー・アンドーバー)で、非常にリベラルな教育を受けてきました」

    自らを「ハリウッドの隠れpede」(訳注:「centipede/pede(ムカデ)」は、トランプの支持者を表すネットスラング)と称する映画編集者はつづった。

    「進歩主義者の太鼓を叩かなければ、個人的にも職業的にも悪影響が出るので、今までは絶対に正体を表さないようにしていたのです」

    「E!(訳注:大手ケーブルテレビ局)で働くことは地獄」と題したメールで、同局のプロダクションマネジャーはヤノプルスに対しこう書いた。

    「(自分の会社は)フェイクニュース機関に貢献していました。同僚たちにもがまんできなくなってきました。…私は…あなたのために働きます…ともにグローバリズムと戦う、仲間です」

    ローリング・ストーン誌に「アングラ・ヒップホップの流行仕掛人」と称されたアダム・グランメゾンもヤノプルスに接触し、あるジャーナリストを調査するよう提案した。そのジャーナリストは、元ボーイフレンドによる身体的虐待を非難していた。

    BuzzFeed Newsへのメールの中でグランメゾンは、黒人男性がメディアで裁かれる現状に懸念を示したかっただけで、「(ヤノプロスに)書いてもらうつもりはなかった」としている。(メールは「まず最初に断っておきますが、この情報をあなたに提供したというクレジットはまったく望んでいません」で始まっていた)

    さらに多くのタレコミが、テクノロジー企業の社員から入ってきた。

    あるGoogle社員は「Gogy, the Googely Googler」(GoogleらしいGoogle社員、Gogy)と名付けられたジンジャーブレッドマンの画像をヤノプルスに送った。

    きちんと後片付けをするよう、コーヒーマシンのそばに貼られていたものだったという。その社員によれば、Gogyが男性であることに社員が腹を立て、この貼り紙が人事上の問題になったという。


    Googleの広報担当者はBuzzFeed Newsに対し、Gogyやそれに関連した人事上の苦情の記録はないとコメントしている。

    Twitterのあるソフトウェアエンジニアは、同社が「言論の自由のために立ち上がった」2012年以来勤務してきたが、「道徳的な会社」に裏切られたとしている。彼はヤノプルスにメールし、2016年にTwitterでヤノプルスの認証バッジが削除されたのには「明らかに政治的動機があった」と訴えた。

    不満を抱くテクノロジー業界人は、一般社員だけではない。

    著名な起業家で、学者でもあるヴィーヴェク・ワドファは、ポリティカル・コレクトネスの暴走を感じた記事を、ヤノプルスに何度も送った。

    最初、それはGamerGateに関連したKickstarterボイコット運動に関するものだった(「この人たちは本当に頭がおかしいし、非建設的だ。…なんとも恐ろしい集団だ」と、ワドファはその活動家たちについて書いた)。

    その後話題は、Yコンビネータの共同創業者、ポール・グレアムに移る。

    テクノロジーにおけるジェンダーの不平等についてグレアムが書いたエッセイに関し、不当に非難されていると、ワドファは感じていたのだ。

    「ポリティカル・コレクトネスは、度を超してしまいました」と、ワドファは書いた。

    「それに代わるのは、共産主義です — 平等ではありません。そして、失敗したシステムです…」

    ヤノプルスはこのメールをボカリに送り、ボカリはすぐさまブライトバートの記事「Social Justice Warrior Knives Out For Startup Guru Paul Graham.(社会的正義の戦士、スタートアップのカリスマであるポール・グレアムに刃を向ける)」を書く。

    ワドファはBuzzFeed Newsに対し、今はもうヤノプルスを支持していないとコメントしている。

    ヤノプルスは、大物ベンチャー投資家ピーター・ティールと個人的な関係を持っていた。ティールは他の関係者に比べて慎重で、2016年5月にはポッドキャストへの出演を断っている(ティールいわく「とにかくコーヒーでも飲んで、そこから始めよう」)。

    だが直後の6月、ティールはハリウッド・ヒルズの自宅でのディナーに、ヤノプルスを招待した。ヤノプルスはその夜のうちにバノンに得意げに伝えている。

    「あなたたちは会うべきです。…映画の資金を外部に求めるなら、彼はうってつけです。…ティールは(ゴーカー・メディアの創業者ニック・)デントンとゴーカーをいろんな意味でボコボコにしてくれたので、僕は涙が出てきました」

    7月の共和党全国大会で会う計画を立てたが、ヤノプルスがティールについて知っていることは、他の右翼活動家や、封建主義への回帰を主張するブロガーのカーティス・ヤーヴィンからの受け売りだった。

    選挙後間もない頃のメールで、ヤーヴィンは「ティールを指導」したのは自分だとヤノプルスに語った。

    「ピーター(・ティール)はたしかに、政治については手引きを必要としている」とヤノプルスは返答した。「君が思うほどじゃないだろうけどね!」

    ヤーヴィンはこう返す。

    「ティールの家で選挙を観たけれど、二日酔いは火曜日まで続いていたと思う。ティールは完全に正しい知識を持っている。ただ、とても注意深くそれを使っているだけだ」

    ティールが共和党全国大会でスピーチをした後の2016年7月、ヤノプルスはある著名な共和党の黒幕宛にこう書いている。

    「ゲイ禁止のルールは、ティールには当てはまらないようですね」(訳注:ティールがゲイであるという情報はその前から伝わっていたが、このスピーチで本人が正式にカミングアウトした

    ティールはこの記事に対するコメントを拒否している。

    テクノロジー業界やエンターテインメント業界のみならず、バノンの宿敵であるリベラルなメディアの中にも、協力者はひそんでいた。

    あるEメールグループは、正義の味方的なインターネットをあざ笑うことに情熱を注ぎ、長年続いている。そこにはヤノプルスの友人アン・コールターが参加していた。

    またViceの女性向けチャンネル、Broadlyの上級常勤ライターであるミッチェル・サンダーランドもいた。Broadlyの「About」ページには「女性の経験の多様性を示すことに専心しています。…女性にとってもっとも大切な問題に焦点を当て続けます」とある。

    「この太ったフェミニストを笑いものにしてほしい」

    サンダーランドは2016年5月、ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、リンディ・ウェストの記事のリンクを添えてヤノプルスにメールした。

    ウェストは肥満の受け止め方について記事を書いていた人物だ。当時サンダーランドはBroadlyの編集長だったが、政治活動団体「サタニック・テンプル」と妊娠中絶の権利についてのBroadlyの動画をギオネットに送り、「ブライトバートでこれを何とでもしてくれ。どうかしている」と促した。

    次の日ブライトバートは、「’Satanic Temple’ Joins Planned Parenthood in Pro-Abortion Crusade. (『サタニック・テンプル』、妊娠中絶擁護運動においてPlanned Parenthoodと合流)」と題した記事を公開した。

    Viceの広報担当者はBuzzFeed Newsへこうコメントしている。

    「非常に不適切で職業倫理に反する行為に私たちは衝撃を受け、失望しています。この問題を認識したばかりですが、正式に調査を開始しました」

    (Viceの広報担当者によれば、この記事が発表された翌日、同社はミッチェル・サンダーランドを解雇したという)

    ベテランのテクノロジー記者・編集者のダン・ライオンズは、2年間にわたりHBOのドラマ『シリコンバレー』の脚本家も務めた人物だ。

    彼も定期的にヤノプルスにメールを送り(「君は小さなトラブルメーカーだ」)、GamerGateのターゲットのひとりだったゾーイ・クインやフェミニストのウェブサイトFemsplainの創始者アンバー・ディスコの生まれながらの性別を怪しんだりしていた。

    性的暴行で告訴されたものの、訴訟を取り下げられたベンチャーキャピタリスト、ジョー・ロンズデールに対する世間の扱いについての記事を提案したこともあった。


    Slateの元テクノロジーライターで「Gamergate must end as soon as possible(Gamergateはできるだけ早く終わらなければならない)」とするコラムを書いたデビッド・アウアーバッハは、GamerGateのターゲットのひとり、アニータ・サーキシアンの恋愛に関する裏情報を流していた。

    それだけではない。

    クイズ番組「Jeopardy!(ジェパディ!)」のチャンピオンで、社会的正義の理念を擁護するアーサー・チューに、「人種差別的な」友人がいて、その人物に関する「良いネタ」があると伝えたり、さらにはウィキペディアが実施した厳しいアンチハラスメント作戦についての「熱いネタ」までも。

    それを受けたボカリは、記事を書く。 「Wikipedia Can Now Ban You For What You Do On Other Websites. (今やウィキペディアは、他のサイト上での行為によってあなたのアクセスを禁止できる)」 。

    BuzzFeed Newsが同じEメールアドレスに連絡を取ったところ、アウアーバッハがメールを書いたのは「事実はない」とコメントしている。


    組織と結びついた保守思想家たちも、ヤノプルスと密接なやりとりを始めた。ケンブリッジで教育を受けた多弁なヤノプルスの中に、いにしえの保守的知識人の亡霊を見たのだろう。

    シカゴ大学の中世研究家レイチェル・フルトン・ブラウンは、キリスト教、十字軍、西洋的正義についてのメールを何十通も送った。ヤノプルスを擁護する文章をブラウンが大学のWebサイトに投稿すると、ブライトバートはそれを詳しく報じた

    保守派のシンクタンクCapital Research Centerのプレジデント、スコット・ウォルターは、共和党の政治やカトリックの教義についてヤノプルスにアドバイスした。ウォルターの調査プロジェクトで働くよう、ヤノプルスは若いアシスタントの一人を推薦した。

    賛否のある反過激主義組織Quilliam(キリアム)で以前働いていたガファール・フセインは、あるイギリスの大学講師が女性器切除擁護とも受け取れる講義をしたという情報を送った。その情報はすぐに、ブライトバートの記事になった。

    郊外の子持ち世帯やジャーナリスト、テクノロジーのリーダーたち、保守派の知識人……実に多様な人々の声を集めている。ヤノプルスのブライトバートにおける役割、そしてバノンにとっての価値をこれほど明確に表すものもない。

    ヤノプルスは強力な磁石となって、多様な層の文化的な憤りを焚きつけ、組み立て、「リベラルがいかにアメリカをむしばんだか」という危機感に満ちた物語を生んだ。

    バノンが彼をメディアの嫌われ者に育てようとするのも不思議ではない。この「磁石」は大きくなるにつれ、さらに多くの「武器弾薬」を引き寄せていたのだから。

    「殺人マシン」。西洋文明が危機に晒されている、という暗いメッセージ。それは人から人へと伝わり、ヤノプルスのマシンは、さらに多くの人々を巻き込んでいった。

    第3回につづく

    この記事は英語から翻訳されました。