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「今ここ」の体験ができなくなった?SNSが変えた「旅」

多すぎる情報は代償も伴う。

6年前、私は3人の親友と一緒に、車で中央アメリカをめぐる壮大な旅に出た。ある午後、コスタリカの悪名高い曲がりくねった道を走っていたときに、突然の熱帯の雷雨に襲われた。私たちは、このまま雨のなかを走るよりも、車を停めて、一晩どこかに泊まるほうがいいと判断した。

当時はスマートフォンを持って旅していなかったので、インターネットの助けを借りて宿を見つけるのは不可能だった。そこで私たちは、たまたま見つけた、ホテルのように見えなくもない場所に車を停めた。私たちが見つけたところは、控えめに言っても災難だった。信じられないほどへこんだクイーンサイズのベッド2台が、天井の電球ひとつに照らされている。電球はチカチカ点滅していて、いまにも爆発しそう。狭いバスルームにはトイレットペーパーがまったくなく、バスタブでは巨大なゴキブリらしきものが涼んでいた。何よりも、これは言うまでもないかもしれないが、外は信じられないほど蒸し暑いのに、この宿はもちろん、空調の効いているタイプの建物ではなかった。

「最悪。どうすればいいの?」友人はそう言いながら、ベッドにばたりと倒れ込んだ――沈み込んだ、と言うべきか。

私たちがいたゴミ捨て場のようなホテルは、コスタリカ中央部のどこかの、埃っぽいでこぼこ道の脇にあった。プランBを探すためのスマートフォンもない。そこで私たちは、その状況で25歳の旅行者4人にできる唯一のことをした――笑い転げて、安いワインをあけ、この先も末永く冒険をともにすることを願って乾杯したのだった。


その夜はいまでも、私の旅行史上、特に気に入っている思い出のひとつだ。それは少なからず、いまではそんなことはまず起こらないという事実によるものだ。いまの私たちは、スマートフォンを持っている。

旅行会社イントレピッド・トラベルが最近行った調査では、回答者の74%が旅行中でもスマートフォンをいつも身近に置いていると答えている。それは本当だろう。

スマートフォンは、さまざまなことを変えている。コスタリカにいた私たちがスマートフォンを持っていたら、きっとなんらかの形で救出してくれただろう。ありとあらゆるアプリやウェブサイトを駆使して、泊まる場所を探すだろうし(もっと快適で、それほど記憶に残らないところだ)、その進行中のプロセスをライブで記録したかもしれない。

たいていの場合、それはとても良いことだ。インターネットがあれば、道を調べたり、もっと良い取引を結んだりすることができる。インターネットがなければ知り得ない、素晴らしい場所やイベントを見つけられるし、故郷にいる家族や友人と連絡を取り合うこともできる。

けれども、そうした情報は代償も伴う。

最高の体験や、そうした体験を友人たちにSNS上で伝える機会を失うのではないかと怖れるあまり、われわれはしばしば、本物の体験を得るための能力を縮小させることになる。

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テクノロジーと旅行をめぐるパズルのなかでも、特にわかりやすいピースが、レビューの台頭だ。トリップアドバイザーがまとめた2016年の統計によれば、同社のサイトには、3億5000万件を超えるレビューが掲載された。過去の調査では、全世界の旅行者の93%が、オンラインレビューが予約に影響を与えたと回答している。また、旅行者の80%は、6~12件のレビューを読んでからホテルを予約するという。「最適」を重視するようになった世代の私たちは、対象がなんであれ、10点を下回るもので妥協するのをよしとしない。そして、旅行も商品になっている。つまり旅行は、体験するものではなく、購入するものになっているのだ。

たとえば、私とボーイフレンドは昨年の冬、ニューヨーク州かペンシルベニア州の北のほうで、週末をのんびり過ごしたいと考えた。キュートで手ごろな部屋をエアビーアンドビーで見つけたが、「完璧な」部屋があるかもしれないので、念のため検索を続けることにした。私たちはすぐに、避けようのないオンラインレビューの渦に飲み込まれ、レビューのリンクや引用を、メールやグーグルチャットで送り合った。結局、あまりにも情報に圧倒されてしまったので、別の日に決めようということになった。けれど、その日はついに来なかった。そこまでたどり着けなかったのだ。最高の週末を追い求めていた私たちは、完璧を求めるあまり、良いものを失ってしまったのだ。


けれども、選択肢過剰の時代とは、そういうものだ。レビューの氾濫は判断力を麻痺させるだけでなく、執拗に調べた場所にようやくたどり着いたときに、失望を招く可能性もある。昨年、シュノーケリングをしにオーストラリアのグレートバリアリーフへ行ったときには、旅行前に参加するツアーの情報をたくさん読み、レビューサイトのYelpやTripAdvisor、Instagramで、魚や珊瑚礁の写真をたくさん見ていた。そのせいで、いざ自分の目で実際に見たときには、前にも見たことがあるような気がして、あまり感動しなかった。もちろん、その場にいるということには興奮していたけれど(あたりまえだ!)、旅行前にInstagramを漁っていなければ、もっと興奮したのではないかとも感じていた。

でもおそらく、そうした旅行前の調査の最大の問題は、それに頼ってしまうと、自分で新しい場所を発見するチャンスを失ってしまうということだろう。たいていの場合、最高の場所は、ガイドブックやオンラインで読んだ場所ではない。偶然行きあたった場所、調べていなかったからこそ見つかった場所、自分でも気づいていなかったニーズを満たしてくれる場所こそが最高の場所なのだ。


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29歳のプログラム・コーディネーター、エリ・N(プライバシー保護のため、ラストネームは明かしていない)は、その真理を知りすぎるほど知っている。彼女が「人生最高の行きずりのセックス」を体験したのは、バックパックを背負ってヨーロッパを旅していたある夜、下調べをせずに出かけたおかげだという。

「泊まっていたホステルのパブナイトに行きました。下調べをしていたら、たぶん行かなかったと思います。レビューを読んでいたら、もっとずっと良いバーがあると考えたはずです」とエリは認めている。だが、もっと良い選択肢に気づかず、外出中に別の場所を探すスマートフォンも持っていなかった彼女は、手近な選択肢で手を打った。そしてそこで、ある素敵なイギリス人男性と出会うことになった。

「スマートフォンをガイド役に使うのは、自分ひとりに限られた体験です」とエリは言う。「でも、生身の人間に頼らないといけないときには、誰かと会話をして、可能性や偶然の一致や幸運といったことにもっと注意を払うようになります」とエリは説明する。そして、そうした偶然や可能性の引き起こす状況こそが、5つ星のレビューよりもはるかに素敵な思い出を生み出す力を秘めているのだ。

レビューの文化と、そこから生まれる過剰な選択肢は、たしかに旅行のありかたを不可逆的に変えている。だが、それよりも大きな変化を生んでいるのはソーシャルメディアかもしれない。

その一方で、ニュースフィードで自分の冒険を披露することは、自分のことを必ずしも旅行好きとは思っていない人たちを刺激し、旅をさせるには最高の方法だ。

「その点では、とても効果的だと思います」と語るのは、全米で29種類のツアーを実施する旅行ガイド会社Gアドベンチャーズの最高体験責任者を務めるベン・リドバリーだ。「楽しそうなことをしている友人の姿をソーシャルメディアで目にする機会が増えるほど、自分もそこへ行って実際に見てみたいと思うようです」

ソーシャルメディアは、新しい場所を見つけるための、簡単かつ利用しやすい方法にもなる。さまざまな目的地のハッシュタグをたどり、都市のアカウントや旅行ブロガーをフォローすれば、かつてないほど簡単に世界を探索することができる。

だがそもそも、「いいね!」を求める私たちの傾向が、実際に選ぶ目的地に影響を与えるという面もある。嘘ではない。前述のイントレピッド・トラベルの調査では、旅行者の41%が、ソーシャルメディアで見映えがするかどうかを基準に、旅行の目的地を選んでいることがわかっている。こうした考え方は、ツアーガイドのあいだでは「Instagram効果」と呼ばれるようになっている。


「ソーシャルメディアで見映えがすることをしたがる傾向があります」と説明するのは、ベトナムのホーチミン市でバイクツアー会社サイゴン・バディ・ツアーズを営むアンディ・ゴウラーだ。トリップアドバイザーに掲載されている同社のレビューは99.9%が星5つだが、それにもかかわらず、競合他社のツアーのほうがはるかによく売れるという。その理由の一端は、競合他社がレトロな雰囲気のあるビンテージのスクーター「ベスパ」でツアーをしていることにあると、ゴウラーは考えている。「他社のスクーターは、Instagramで見映えがします。他社のレビューは、たいていスクーターの感想ですが、当社のレビューでは、ガイドの素晴らしさが評価されています」とゴウラーは言う。

インドでイントレピッド・トラベルのツアーガイドをしているアニル・ロサも、Instagram効果はあると断言する。ロサの見積もりによれば、10人中6人の客に、Instagramやフェイスブックで見た場所を教えてほしいと頼まれるという。自分たちもそこで写真を撮りたいからだ。

だが、「Instagram映えする風景」を中心にして旅行の計画を立てると、それほど写真映えはしないものの、もっとリアルなありのままの一面が見えにくくなってしまう可能性がある。「ガイドをしていて気づいたのは、あまり写真映えしない場所に滞在したり、歴史に耳を傾けたりするよりも、ソーシャルメディア用に素晴らしい写真を撮るほうに興味がある人が多いということです」と語るのは、国際ツアーガイドで、ツアーガイドの技能向上に向けた指導に携わる会社ビー・ア・ベター・ガイドの創設者でもあるケルシー・トナーだ。

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実際、ツアーガイドの仕事の様相は大きく変化している。いまやガイドの多くは、顧客をつなぎとめるために、「Instagram向き」のツアーを提供するようになっている。「多くのガイドつきツアーでは、ソーシャルメディアであまりシェアされない史跡を訪れるよりも、Instagram映えする写真スポットで過ごす時間を長くとるようになっています」とトナーは言う。「私も、『完璧なInstagramスポットに案内します』と口にすることが多くなるでしょう。というのも、写真をアップロードしたいという顧客のニーズを認識していれば、すぐれたツアーガイドと見なされるからです」

広がりを見せるスマートフォン文化に適応するために、トナーは小道具を使うまでになっており、ほかのガイドにもそうするように指導している。「カンボジアのアンコール・ワット寺院へ行くときには、寺院のミニチュア模型をつくります。話しながら、地面の上で模型をつくりはじめるんです。すると、お客さんはスマートフォンから顔を上げてくれます。『ほら、見て!』というふうにね」とトナーは言う。「ここ6年から10年くらいで、お客さんの集中力が続かないことが多くなっているのは、まちがいありません。つまり、ツアーガイドからすれば、ハードルが上がっているということです。お客さんの注意を引くために、もっと頑張らないといけないわけですから」

ソーシャルメディアは、旅行のありかただけでなく、旅行が私たちの脳に与える影響も変えている。「旅行をライブで記録すると、その体験はパフォーマンスに変換され、体験が変化する可能性があります」と説明するのは、ソーシャルメディアのエキスパートで、『Generation Me』の著者でもある心理学教授、ジーン・トウェンジ博士だ。「パフォーマンスになると、『いいね』獲得のプレッシャーが生まれます。つまり、自分のしていることを、ほかの人に楽しんでもらわなければいけないというプレッシャーです。そうしたときに何が起きるかというと、自分が素敵だと思っていても、たいていの人がそうは思わず、『いいね』してくれないかもしれない場合、無意識のうちに、自分自身の経験を疑うようになってしまうのです」とトウェンジは言う。

また、トウェンジによれば、フォロワーを意識しすぎると、旅行に伴うポジティブな精神的効果の多くが霧散してしまうおそれもあるという。「旅行をライブで記録するという行為は、本質的に、そこにいる人ではなく、そこにいない人を意識したものです。それが、個人的体験のメリットを消し去ってしまう可能性があります」とトウェンジは説明する。要するに、「日常のあれこれ」が指先にあると、「日常のあれこれから解放された」気分になるのは、ずっと難しいということだ。


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「残念ながら私も、『いいね』の数にまちがいなく影響されています」と認めるのは、著者の友人であるマリア・グリッグスだ。26歳のグリッグスは最近、キャッツキル山地へ行ったが、旅行中もInstagramに悩まされていたという。「『いいね』の数が少ないと心配になるんです。私が悪いの? 時間が悪いの? みんな、私に迷惑してる?って。考えてみれば、『いいね』を気にせず、自分がその写真を好きならアップすればいい。あなたがそれを好きでないなら、私のフォローを外せばいい。なのに、フォロワーの数が減ると、自意識過剰になってしまうんです。あまり健全なことではありません」

もちろん、テクノロジーのおかげで、旅行のロジスティクスはかつてないほど手軽になっている。スマートフォンとWi-Fiさえあれば、出先でいろいろなことを調べ、実際に目的地に着いてからその場で旅行の計画を立てることができる。BuzzFeed Newsのテクノロジー・製品担当エディターを務めるニコル・グエンは、そのことに安心感を覚えるという。それはそのとおりだ。「最近では、ほかの旅行者のおすすめを聞いてから、現地にいるあいだにオンラインですべてを予約するというプロセスが、とても簡単になっています」とグエンは言う。

とはいえ、そうした便利なツールを使っていると、自分でも気づかないうちに、偶然に任せる機会を失っているかもしれない。その点に気づいた多くの企業やホテルは、この現象を明らかに意識したマーケティングを展開している。イントレピッド・トラベルは最近、新しい「デジタル・デトックス」ツアーを開始した。スマートフォンやコンピューター、カメラの持参を禁じたツアーだ。サンフランシスコを拠点とするオレンジ・スカイ・アドベンチャーズという会社は、旅行者をあえて、目立ったもののないスポットへと連れて行き、「人生にはスマートフォンよりも多くのものがある」ことを伝えている。「デジタル・デトックス」を謳うキャンプや保養所も無数にあるし、デトックス・オプションを提供しているホテルも多い。お金を払ってスマートフォンをフロントで預かってもらう、というオプションだ。


そうした諸々から、どんな答えが導き出せるだろうか? スマートフォンを脇に置けば、突如として魔法のように、「いまこの瞬間」を生きられるようになる、という単純な話ではないだろう。テクノロジーと旅行の融合が良いことであれ悪いことであれ、重要なのは、それが現実に起きているという事実だ。私は2週間後に、カリフォルニア州のパシフィック・コースト・ハイウェイ(州道1号線)を北上する自動車旅行をする予定だが、事前の計画はほとんど立てていない。旅の途中でスマートフォンに頼ればいいとわかっているからだ。

とはいえ、スマートフォンを使う頻度については、少し低くしてみるかもしれない。少なくとも、いつ使うべきかを、もう少し意識してみようと思っている。Instagramに投稿するのは1日1回だけに限定するかもしれないし(本当にできるかどうか、フォローして確かめてみてほしい)、1号線を旅する時に見るべきものに関する記事は読まないようにするかもしれない。何か素敵なものがあったら車を路肩に停め、ガソリンスタンドでいろいろな人に話しかけてみるかもしれない。誰かに決められた旅程は、それがどんなものであれ、無視してみようと思っている。そうすれば、コスタリカで体験したあの時間に匹敵する、最高の旅の思い出をつくれるかもしれない――それが、バスタブにゴキブリがいる類の思い出でないことを願いつつ。


この記事は英語から翻訳されました。翻訳:梅田智世/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan

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