交際相手の報道めぐり、ヘンリー王子がメディア批判をした理由

    異例の声明は、英国王室のメディア対応の変化を示すものかもしれない

    イギリスのヘンリー王子は11月初旬、米女優のメーガン・マークルさんと交際していることを認めた。そして英王室は、マークルさんについてのメディア報道に抗議する声明を出した。英王室の情報筋によると、この一件は、沈黙を守るという王室がこれまでとってきた伝統的なアプローチがもはや「機能しなくなっている」ことを示しているという。

    ヘンリー王子の主任広報官であるジェイソン・クナウフはBuzzFeed Newsの取材に対して、ヘンリー王子とマークルさんの関係についての報道は、「ゴシップや憶測の範囲を超え」、実際にマークルさんの評判を傷つけようとする行動になっていると訴えた。

    マークルさんはSNS上で「財産目当て」「不釣り合い」と誹謗中傷されただけでなく、殺人予告や人種差別の対象にされた。これらの出来事に対して、英王室には声明を出す「責任」があったとクナウフは述べた。クナウフは、ヘンリー王子のほかにウィリアム王子やキャサリン妃の広報官も務めている。

    11月8日(英国時間)に出された異例の声明には、「これはゲームではありません。2人の人生にかかわる問題です」と書かれている。400ワードの声明は、マークルさんがさらされてきた「中傷や嫌がらせ」の数々を強い調子で批判した。「人種差別をにおわせる発言」や、「あからさまに性差別、人種差別であるとみなされるソーシャルメディアへの投稿やウェブの記事へのコメント」があったという。

    今回の声明発表は、好ましくないと思われる報道に対する若い世代の王族たちの反応が変化してきたことを示しているのかもしれない。ヘンリー王子は、このような声明の発表が「異例」であると認めた。同時に、自身についての「空想に基づいた記事」がこれまで頻繁に掲載されてきたが、こうした記事に関して反論したことはこれまでにほとんどなかったとも述べた。

    英国王室に関する過激なメディア報道に対して、王室が即座に反応することはこれまでほとんどな買った。しかし、王室に近い情報筋はBuzzFeed Newsの取材に応じ、今回は「もはや受け入れがたく、従来の姿勢では通用しない」レベルだったと話した。

    クナウフは2015年、ケンジントン宮殿(ヘンリー王子とウィリアム王子、キャサリン妃の正式な住居)から、メディア業界に向けて強い声明を出したことがある。その内容は、パパラッチのカメラマンたちが「ジョージ王子の行動を執拗なまでに監視・追跡」しようとすることへの恐れを示すものだった。

    ジョージ王子の写真を撮ろうとして車のトランクに潜んでいたカメラマンが見つかった時もあったという。そうした写真を英国メディアが購入することはないが、外国メディアのなかには買うところもある。

    クナウフはBuzzFeed Newsに対して、先日のヘンリー王子の声明は、「報道がゴシップや憶測の範囲を超えてしまい、実際にメーガン・マークルさんの評判を永久に傷つけようとする不当な試みになった」ために、出さざるを得なかったのだと話した。

    クナウフはさらに、「人々のニュースの消費の仕方が変わっている。ロイヤル・ファミリーにはそうした変化とともに進んでいく責任がある」とも付け加えた。

    だが、メディア専門家たちはBuzzFeed Newsに対して、ヘンリー王子の新恋人との関係についての英国の新聞報道は、これまでと比較すれば「分別をわきまえ、おとなしいものだ」と述べた。

    『ガーディアン』紙のコラムニストでメディア評論家のロイ・グリーンスレイドは、「新聞各社にとって、どこで線を引くかを決めることはいつも難しい問題だ。今回の件については、彼らが本当に行き過ぎたとは思わない」と述べる。

    グリーンスレイドは、「王室側もそれがわかっていると思う」と述べる。そしてその根拠として、こうした記事に関してケンジントン宮殿が、英国の新聞・出版業界の自主規制組織「独立新聞基準組織」(Independent Press Standards Organisation、IPSO)に苦情申し立てをしなかったことを指摘した。

    メディアサイト「プレス・ガゼット」の編集者、ドミニク・ポンスフォードも同様の意見だ。「長い目で見ると、英国内のタブロイド紙の報道は分別をわきまえている。1990年代の報道がどんなだったかを思い出すといい。たとえば、元ヨーク公爵夫人セーラ・ファーガソンが足の指を吸われている姿が望遠レンズで撮影されたときや、故ダイアナ妃の電話が盗聴・公開された一件(‘Squidgygate’)や、チャールズ皇太子とカミラ夫人との私的な通話が盗聴・公開された一件(‘Tampongate’)と比べれば、ヘンリー王子の熱愛に関する現在の憶測報道はたいしたことではない」

    仮にメディアの注目度が過去よりも過度になっているとしても、IPSOのルールによって縛られない海外の報道機関の関心をコントロールすることは困難だ、とポンスフォードは付け加える。「英国メディアは王室を困らせるようなことはしないし、彼らが日常の公務や、ちょっとした買い物に行く姿などを写真に撮ることもないが、外国のメディアはそれをする。IPSOは、英国内でのプレス集団の執拗なつきまといからメーガン・マークルさんを守るために『改善命令』を送っているが、これは海外で起こることには影響しない」

    クナウフは、現在32歳のヘンリー王子よりほんの少しだけ年上だ。ロイヤルバンク・オブ・スコットランドで企業業務担当ディレクターを務めた後、2014年に広報担当責任者としてケンジントン宮殿にやってきた。

    彼の前任者エド・パーキンスは、BBCやITNのニュースルームでジャーナリストとして働いてきた、つまり「向こう側」で過ごしていた人物だが、クナウフの経歴はパーキンスとはだいぶ異なる。クナウフが王室のこれまでのメディア対応の伝統を壊すことを躊躇しない理由もそれが理由だろう。

    クナウフの課題は、新聞全紙をチェックするだけではない。「ヘンリー王子の今回のアピールは、SNSや多くのオンライン・ニュース・プラットフォームの成長に伴い、これまでのメディアの形が崩れ、コントロールが難しくなっているという事実を表している」とポスフォードは言う。

    FacebookやTwitterのようなSNSは、王室について語られることについて、王室がこれまで持っていた制御力を破壊している。ポスフォードはこう語る。「王室は一定期間ごとに、報道についてメディアと『取り決め』を交わしてきた。たとえば王室は、休暇の初日に写真撮影の機会を設けることにしている。そうしておけば、そこから先はメディアがそっとしておいてくれると理解しているからだ」

    11月8日の声明は、報道機関に対する批判だけでなく、「報道機関がコントロールできない」ソーシャルメディア・プラットフォームに人々が書き込んだ内容や、「報道機関が少しはコントロールできるであろう」新聞のウェブサイトに投稿されたコメントについても批判していた、とポスフォードは付け加えた。

    けれども王室の情報筋は、マークルさんについての報道のなかには、オンラインでの誹謗中傷を助長したものがあったと示唆した。「主流派メディアは、ソーシャルメディア上でのデジタル・プレゼンスを強めたいと考えている。ソーシャルメディアでの悪意に満ちたコメント、つまり、マークルさんに関する性差別的・人種攻撃的な内容のメディア報道に直接結びつくようなコメントを奨励する風潮もある」

    伝統的なメディアとオンライン・メディアの両方が一緒になって、ヘンリー王子が行動を起こさざるを得ない圧力になったと、この情報筋は言う。「従来のように何も言わなかったり、コメントを一切出さないことは、もはや受け入れられないとヘンリー王子は感じた」

    1本の動画があっという間に世界に広まりうること。それによって「名声も一瞬にして完全に消されてしまう」ことを、ヘンリー王子もウィリアム王子もキャサリン妃も十分に理解している、と情報筋は説明する。今は、新聞各社の苦情処理担当や、編集者との裏口交渉に頼るだけでは「機能しない」のだ。

    「だから、先回りして行動する必要性が出てくる。人々と直接やり取りができるようになったことの問題点だ」

    それでも、ヘンリー王子がソーシャルメディアについて表明した懸念は、新聞やテレビ、ラジオの報道に対する従来からの恐怖にまで遡ることができる、とグリーンスレイドは考えている。「王室は、ソーシャルメディア上にあるものを主流派メディアが取り上げることのほうをより心配していると私は思っている。

    TwitterやFacebookで起こっていることへの懸念を表明しているものの、そのことが主流派ニュースに話題として取り上げられることを彼らは心配しているのだ」とグリーンスレイドは主張する。

    扱いにくさを増すばかりのメディア状況に対して、ヘンリー王子が声を上げたことで、王子が恐れる事態を食い止められるかについてはまだわからない。ヘンリー王子の声明が出された後でも、Twitterにはマークルさんを殺すという書き込みが続いた。2人のロマンスに関するタブロイド紙の関心が静まる様子もまったくない。1つだけはっきりしていることは、ヘンリー王子の言葉を借りるなら、これはゲームではないということだ。


    翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:中野満美子/BuzzFeed Japan

    この記事は英語から翻訳されました。