8月10日夜、シアトル・タコマ国際空港から旅客機を盗み、上空を飛行した後、墜落させ自殺した航空会社職員は、同社職員によって、リチャード・"ビーボ"・ラッセル(29)と身元が確認された。
アメリカ・ワシントン州サムナーに住むラッセルは、ホライゾン航空で手荷物を扱い、飛行機を牽引する地上支援業務の職員として働いていた。
航空会社の職員とFBIは11日に記者会見を開いたが、公式に男の名前を出すのは控えた。
しかし、2015年2月からホライゾン航空の地上支援業務の職員として働いていたと述べており、ラッセルのLinkedInのプロフィールの情報と一致している。
また、航空管制官は、事件発生時に彼と話す中で、男を「リッチ」と呼んでいた。法執行機関を含む複数の情報源も、シアトル・タイムズの取材に対し、彼の身元を確認。
後に彼の家族も、彼の身元を確認する声明を出した。
「弊社2万3000人の職員全員が、彼の家族の方々に、最愛の人に、また彼の同僚に対して、心からお悔みを申し上げます」と、親会社のアラスカ航空グループのブラッド・ティルデンCEOが記者団に語った。
ホライゾン航空のゲイリー・ベックCEOは、フライトの予定がなく、乗客を乗せていなかったQ400型貨物機を、10日の午後7時32分に、男性が整備場から盗んだと明かしている。
そして彼はトーイングトラクターを使って機体を180度回転させ、飛行機を滑走路へと走行させた。
およそ1時間、飛行機を飛行させたという。飛行テクニックは、ベックが「信じられないほど巧みな操縦」と語るほど、巧みなものだった。この非常事態に、戦闘機がスクランブル発進をして飛行機の脇を飛行した。
「俺はただのイカレタ男だ」と、ラッセルは管制官に伝えた。
「たぶん、頭のネジがいくつか抜けているんだろう。今まで全く気付かなかった」
その後、飛行機はケトロン島の雑木林に墜落し、炎上した。
11日の声明の中で、ラッセルの家族は、事件に衝撃を受け、精神的にひどく落ち込んでいると語った。
「家で見ている人には信じがたいかもしれませんが、ビーボは心温かい、思いやりのある男でした。プレスリリースで彼がどんな人だったのか、全てを語ることは不可能です」とコメントを発表している。
「彼は誠実な夫で、優しい息子で、良き友でした」
「ビーボは出会った一人ひとりに対して親切で、優しかったので、誰からも愛されていたと、幼馴染も語っています」
FBIワシントン支局長のジェイ・タブは、捜査官数十人が墜落現場におり、一方で30-40人の捜査官がラッセルの友人や家族に事情聴取を行なっていると記者団に語った。
「みなさんに知っていただきたいのは、我々が真相へたどり着くために念入りにこの問題を調査しているということです」と、彼は述べた。
12日、FBIは墜落現場からフライト・データ・レコーダーとコックピット・ボイス・レコーダーの一部と、機体の残骸の中から見つかった遺体を回収したと話した。
「これまでのところ、捜査の焦点はワシントン州サムナーのリチャード・ラッセル29歳に当てられてきましたが、FBIはピアース郡検死局による検証結果を待っています」と、捜査局報道官が声明の中で語った。
アラスカ航空のティルデンCEOは、ラッセルは10日のシフトをこなし、飛行機を盗んだ時は制服を着用していたと考えられると説明。男は身辺調査に合格し、空港の保安区域に入ることを認められていたという。
「彼は飛行機の周りで働いていました。しかし、正直言って非常に安全なこの業界を今後さらに安全にするために、会社または業界として行える改善点に関して語るには、まだ時期尚早です」と、ティルデンは話した。
アメリカの旅客機は、車のようにドアの鍵やエンジンキーがないことに、ティルデンは言及した。
「アメリカの航空業界の設定は、我々が空港の安全を守っているというものです。つまり、運航を行うために中に入る資格・権限を持った従業員を雇っているという考え方なのです」と、彼は語った。
ラッセルはパイロットの資格を持っておらず、どのように操縦を学んだのか定かではないと、ホライゾンのベックCEOは話した。
「旅客機は複雑な機械です」と、ベックは話した。
「例えば、セスナ150のように簡単に飛行できるわけではないので、どのようにこのようなことをやってのけたのか、わかりません」
ホライゾンは同社の従業員に対し、精神保健の支援プログラムを提供していると、ベックは語った。ラッセルが利用したかどうかについては、把握していないという。
32年間ホライズンに勤め、5月に同航空会社の運航監督を退職したリック・クリステンソン(61)は、飛行機を見つけた10日の夜、ピュージェット湾を見渡すデッキに座っていた。
「あのサイズの機体があれだけの低空を飛行していることを考えると、何かがおかしいとわかりました」とクリステンソンは語った。
彼は何が起きているのか確認するために、直ぐに元同僚に連絡を取ったという。
クリステンソンはBuzzFeed Newsに対し、飛行機は不安定な飛行をし、「奇妙な旋回」をしていたと話す。
飛行機の後ろには2機のF15戦闘機がぴったりと付き、1機は上から、もう1機は下から追っているのを目撃したという。
「突然、彼は機体を回転させたんです。ほぼ1回転でした。そして海の方へ真っ直ぐ落ちていきました」と、クリステンソンは話した。
「私は叫んでいました、『上昇せよ、上昇せよ』と。海から恐らく15 - 30メートルの高さで下降を止めて南へと向かい始め、彼を見失いました」
その直後、クリステンソンは墜落した飛行機から噴き出る黒い噴煙を目にした。
「彼が一人だったとは知りませんでした。76人が飛行機に搭乗していたと考えていたので、本当に気が滅入りました。本当に恐ろしかったです」
クリステンソンは、飛行機を操縦していたのが一緒に定期的に働いていたラッセルだったというニュースを、ホライズンの従業員たちのSNS投稿を通じて知ったという。
「とてもいい子だと私は思っていました。彼はいつも笑顔でした」と、クリステンソンは語った。
「彼は穏やかで、自分の仕事をこなしていました」
ラッセルは、恐らく飛行機のエンジンを起動させる訓練すら受けていなかったものの、整備士やパイロットがやるのを見ていたのかもしれないと、クリステンソンは語った。
「誰かがこんなことをするなんて、考えたことすらありませんでしたよ」
ホライズン航空の別の同僚は、ネットでラッセルへの哀悼の言葉を表明した。
「彼は私にとっても親切な人でした。必要な時にはシフトを代わってくれました。彼が何かと闘っていたとは知りませんでしたし、私たちは誰も気づきませんでした。彼はいつも笑顔でした」と、Facebookに書いている。
ラッセルは2017年に大学の授業のためにブログを書き、仕事や、2012年に結婚した妻ハンナを含む家族について綴っていた。2人はかつてオレゴン州で一緒にパン屋を経営していた。
昨年12月に投稿されたYouTubeの映像では、ラッセルは自身の仕事や、どのようないきさつで、仕事で世界を旅する機会を得られたのか、話していた。
「私は地上支援職員です。つまり、たくさんのバッグを持ち上げます。たくさんの鞄。本当に多くのバッグです」と彼は語った。
「ですが、おかげでとてもいい体験もできます」
映像では、アラスカでの飛行見学ツアーや、フランスでの車旅、アイルランドでのラグビーの試合などを含む、彼の旅行の画像が映されている。
授業用のブログ記事では、ラッセルは、10日の夜に盗んだ飛行機と同型機のQ400型プロペラ機の絵を含むロゴをデザインし、これが自分の働く飛行機の機種だと書いていた。