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討論のネタはちょっとした「イラッ」。あの情報番組の裏側と3人の女性

フジテレビ「ノンストップ!」の討論を企画する3人の女性の働き方に密着した。

「夏休みの宿題は3日で終わらせましょう。親がどんどんやればいいんですよ」

4人の子ども全員を超難関の東大理III(東京大学理科III類)に合格させた「佐藤ママ」こと佐藤亮子さんが独自の教育論を展開すると、ゲストが一斉に目をむく。

「それは無理でしょ。親が宿題をやっちゃうのも......」

「何をバタバタする必要があるんですか。夏休みが来ることはずうっと前からわかってるじゃないですか!」

8分押しなのに大爆笑

フジテレビ「ノンストップ!」の金曜日の人気コーナー「NONSTOP!サミット」。この日のテーマ「夏休みの宿題」をめぐって白熱した議論が続き、生放送は異例の8分押しになっていた。

スタジオの横にある「サブ」と呼ばれる副調整室で、スタッフはやきもきしているのかと思いきや、議論を聞きながら手をたたいて爆笑している。

放送時間内におさめるため、台本の3分の1が、斜め線で消されていく。当日朝までに必死にスタッフが仕上げた台本なのだが、それをさも楽しそうに作業しているのが、金曜担当プロデューサーの荒木千尋さん(41)だ。

「ここは盛り上げてくれると思っていました。狙い通りです」

ダメ夫、ママ友トラブル、嫁姑問題、片付けられない女......。女性たちが気になるテーマをスタジオで徹底生討論する「NONSTOP!サミット」。

2012年の番組開始と同時にスタートしたこのコーナーの人気が今なお続いているのは、歴代ディレクターの努力はもちろん、現在のメンバーである荒木さんと2人の女性ディレクターが、いずれも子育ての真っ最中の「当事者」だからかもしれない。

番組制作の第一線で、時間制約がありながらも強みを生かして活躍する女性たちは、実はテレビ業界ではまだ珍しい。どんな働き方をしているのか。BuzzFeed Newsは、3人の働き方に密着した。

「迷惑をかけたらどうしよう」

荒木さんは、フジテレビの朝の情報番組「とくダネ!」の立ち上げに携わり、24歳でディレクターになった。34歳で長男を出産し、育児休業から復帰後、「ノンストップ!」の立ち上げに関わったが、当初はリサーチャーとして情報を集める業務を担当していた。

「せっかく情報を集めるなら番組制作にも関わりたかったのですが、子どもが急に病気になったらどうしよう、メンバーに迷惑をかけたらどうしよう、という心配のほうが先に立ってしまって......」

それでも仕事がしたくてうずうずしている荒木さんに「好きなように1本作ってみない?」と声をかけたのが、当時の「ノンストップ!」のチーフプロデューサー。子育てしながら現場で働く先輩だった。

その1本の企画をきっかけに、荒木さんは番組づくりに積極的に関わるようになる。復職から約1年後の2013年1月に「サミット」のディレクターに。その後プロデューサーに就任した。

午後5時半退社、徹夜なし

荒木さんのチームは、同じ制作会社に所属する中川実尚子さん(39)と佐久田真由美さん(37)。それぞれ育休から復帰する際に、別の番組から「ノンストップ!」に配置転換となり、金曜日のディレクターとなった。

2人もまた、荒木さんと同じ「負い目」を抱えていた。

「徹夜勤務ができなければ戦力になれないのでは、ディレクターは務まらないのでは、という先入観がありました」(佐久田さん)

中川さんと佐久田さんは基本的に毎日午後5時半に退社する。子どもを保育園に迎えに行くためだ。夜通し準備や会議をすることは、大きな出来事が起こらない限りほとんどない。

それは放送前日の木曜日も同じ。夕方までに台本を仕上げ、荒木さんが最終チェックする。生放送は金曜日の午前9時50分から。早朝5時に出社し、最終チェックをする。

3人とも夫は同業者で、出張や残業を夫婦でやりくりする毎日。夫が深夜に帰宅してから早朝、入れ替わりで出社することもある。子どもが病気になったら、出社することもままならなくなる。

「とにかく早め早めに進めていますね。今週の企画と来週の企画を同時並行で進めるのは当たり前です」(中川さん)

週末のLINEが「企画会議」

金曜の放送に合わせて月曜から準備するのが通常の流れだが、週末もLINEで「こんなニュースが話題になっている」「他局でご近所ネタがいま来てる!」とやりとりし、企画になりそうなネタの感触を探っている。

そうした働き方を、後輩はどう見ているのか。アシスタントディレクター(AD)の久貝理奈さん(24)はこう話す。

「短時間で効率的。企画が決まってからの動きが早く、無駄な作業がないんです」

「子育てしている女性ディレクターって『いるんだ』という驚きが最初にありました。私も好きでテレビの世界に入ったので、この仕事をずっと続けていけるんだ、という希望になります」

10分1本勝負の打ち合わせ

無駄を削ぎ落とした仕事ぶりとして象徴的なのが、生放送直前に荒木さんがゲストと1対1でおこなう打ち合わせだ。

1時間ほどの間に、司会の設楽統さん、ゲスト4〜6人の控え室を順番に回り、台本の流れに沿って進行を確認していく。

「サミット」のねらいは、異なる意見を同じ土俵に上げること。ゲストには事前アンケートをしてある程度、意見を集約しているとはいえ、生放送中にどんな立場をとり、どんなコメントをしてくれるかが討論の盛り上がりを大きく左右する。

かといって、慌ただしく切羽詰まった雰囲気ではない。打ち合わせもまた、爆笑の連続だ。

佐藤ママの控え室を訪ねた荒木さんは、自分の小学2年の長男(7)の宿題の量の多さや、新学期ギリギリまで宿題に追われるというママ友との話題をもちかけた。

佐藤ママから「未来日記(夏休みの最初に絵日記を書いておき、書いたことを後で実践する)」のアイデアが出ると、「それは絶対に本番で言ってください」とアピール。その後、ゲストの大神いずみさんには「絵日記どうしてます?」と探りを入れつつ、「子どものお尻をたたくのって簡単じゃないですよね。ぜひそれ言ってください」と念押しする。

「この時間は、頭の中では論点マップがフル回転ですね」(荒木さん)

ゲストとの間に、あうんの呼吸や信頼感がある。それは、7年間の実績でもあり、議論のテーマがゲストにとっても身近な問題であることにも尽きる。

重箱の隅をつつきまくる

「サミット」が想定しているのは、自宅にいる主婦が、家事をしながら手を止めることなく耳を傾けているような視聴スタイル。議論のどこからでも参加でき、どこかに共感ポイントがあることをめざす。

「例えば、冷凍ごはんを温めてお茶碗に盛りつけるときにきちっと形を整えるかどうかとか。井戸端会議にすら上らないような細かいテーマ設定。重箱の隅をつつきまくって、共感ポイントを探っていく作業にはワクワク感があります」(佐久田さん)

細かくてリアリティがあっても、ひとりよがりでは企画にはならない。視聴率というシビアな戦いに勝てるネタなのか。

「ちょっとイラっとすることがあると、頭の中のメモやスマホに記録するようにしています。夫が靴下を丸めたまま洗濯機に入れるのってどうよとか(笑)。この悩みは私だけの悩みなのか、みんなの悩みなのか、いつも考えていますね」(中川さん)

レギュラー出演しているタレントの千秋さんが、こんな舞台裏を教えてくれた。

生放送後の「反省会」。千秋さんと子育て中の女性スタイリスト、そして荒木さんたちスタッフが何気なく話したことが、2週間後にテーマになっていることがある。

「仕事をしている感覚はないけれど、結果的におしゃべりの延長が構成会議になってますね。ママたちのおしゃべりって止まらないじゃないですか。それと同じで、番組も7年続いているけど、毎回テーマが途切れないんです」

かつては、主婦の不倫の実態として社会現象にもなった「平日昼顔妻」という企画もあった。何度も特集し、ドラマ「昼顔」のヒントにもなったという。鉄板だと踏んだ企画は、手を替え品を替え、何度でも議論する。

「ずーっと働いている」

千秋さんは、子育て中のスタッフの働き方についても「実質的に仕事にかけられる時間は明らかに少ないはず」と実感をもって話す。

「スタッフの対応や進め方に、他の番組との違いは感じません。違わないってことは、よっぽどここのスタッフがやりくりしているということ。子育てしているからできないと言い訳をするスタッフはいません。そんな覚悟じゃない。こういうこと、みんないちいち言わないからあえて言いますけど、ママたちは職場でも家でもずーっと働いているんですよ」

チーフプロデューサーの大林潤さん(46)は、荒木さんのチームを信頼し、仕事の進め方は全面的に任せているという。

「日々の生活がダイレクトに企画に直結する『サミット』では、主婦の感覚に最も近い場所にいることが強みになります。時間的制約はあるけれど、そのぶん、直接的に現場に触れているようなもの。制約よりもプラス面が多いのです」

「自分たちが経験していることそのものが情報なのだ、という視点を常に大事にしてほしい。ごはんを作っている時に考えていること、スーパーでふと気づいたこと。こんなことは主婦なら当然という感覚にならないことが、この仕事のプロたる姿勢です」

男性も参戦する

基本的には企画も一任しているという大林さんだが、時々、子育て真っ最中の父親として黙っていられないことがある。

父親が子どもをお風呂に入れるという話になったとき。佐久田さんたち女性陣は、夫が「上がるよー」と妻を呼び、濡れたままの子どもを託してくることに不満をぶちまけた。

「妻がワンオペのときは、子どもの体を拭いてスキンケアをしてパジャマを着させて髪を乾かすまでの作業を一人でこなしている。体を洗って湯船につけるだけで『風呂に入れた』なんて偉そうにしないで」(佐久田さん)

これに大林さんは反論する。

「私はいつも一人でやっていて大変なんだ、という感情はわかるけれど、そこに手を動かせる大人が2人いるなら、まずは子どもの体を冷やさないことが大事でしょう」

こうして会議で大林さんが反論したことを、ゲストのカンニング竹山さんが生放送で代弁し、大林さんが溜飲を下げる、ということもある。

生活に直結した視点は、女性だけのものではない。男女かかわらず、誰もがこの社会での生活者だ。

それぞれが生活を通して気づいた半径5メートルの出来事を話す「サミット」は、時代に合わせて進化していく。「身を削ってネタを出し続けていきます」というのが、荒木さんの決意表明だ。

BuzzFeed Japanは10月11日の国際ガールズ・デー(International Day of the Girl Child)にちなんで、2018年10月1日から12日まで、ジェンダーについて考え、自分らしく生きる人を応援する記事を集中的に発信します。「男らしさ」や「女らしさ」を超えて、誰もがなりたい自分をめざせるように、勇気づけるコンテンツを届けます。