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「できれば男性を、といまだに言われる」 履歴書の性別欄をなくすことに賛同した、採用のプロの思い

採用のときに性別や容姿による先入観をなくそうとユニリーバが始めた取り組みは、転職支援会社などの協力によって実現した。履歴書から性別の情報をなくす作業は手間がかかるものだったが、なぜ協力することにしたのだろうか。

ヘアケアブランド「LUX(ラックス)」などを展開するユニリーバ・ジャパンは2020年3月、無意識に生じる性別や容姿への先入観を取り払うためのプロジェクトをスタートした。

その第一弾として同社は、採用選考の履歴書や応募フォームで、性別に関する一切の項目をなくし、顔写真も不要とした。

求職者とユニリーバとの間を仲介する、人材紹介会社や転職支援会社など複数社の協力があり、実現できたという。

なぜ、履歴書から性別の情報をなくす取り組みに賛同し、協力したのか。今後、他社の採用プロセスに波及することはあるのだろうか。BuzzFeed Japanは、協力した4社の担当者に話を聞いた。

(※ユニリーバの協力のもと、書面で取材したものを編集しました)

性別欄をマスキングする手間

「履歴書から性別の情報をなくす取り組みは、ユニリーバだけでできることではありませんでした」

ユニリーバ・ジャパンでラックスのブランドマネージャーをつとめる高野美欧さんは、こう振り返る。

ユニリーバは、履歴書の性別欄を廃止し、顔写真も不要とした。また、ファーストネームで性別がわかることもあるため氏名欄も姓のみにするという徹底ぶりだった。

しかし、求職者から送られてくる履歴書は、氏名や性別が記入され、顔写真が貼られていることがほとんど。性別の情報を完全に排除するためには、求職者が最初にコンタクトをする就活情報サイトや転職支援会社、人材紹介会社の段階で、情報をブロックしてもらう必要があった。

「履歴書の該当部分をマスキングしてから当社に送ってもらうなど、多くの手間や負担が発生します。にもかかわらず、この取り組みの趣旨や目的を伝えたところ、こころよく賛同してくださったんです」(高野さん)

実際、仲介する事業者の負担は少なくはなかったようだ。

「候補者の方にあらためてユニリーバ社用の履歴書などを作成いただく必要があるので、そのぶん、候補者の方との間にやり取りが発生し、通常よりも応募までに時間はかかりました」(転職エージェント)

「求職者の方に個別に書類を作成いただいたり、弊社側でも一部書類の修正など多少の負担がありました」(エンジニア特化型の人材紹介会社)

すべての人が自信をもてるように

障害者転職支援サービス「dodaチャレンジ」を運営するパーソルチャレンジの担当者は、ユニリーバだけのために性別に関する情報を取り除く対応をしていた、と語る。

それでも対応したのは、LUX Social Damage Care Project(ラックス ソーシャルダメージケア プロジェクト)の理念に共感したからだという。

「当社は、障害者の就職支援や、企業の障害者雇用支援をしています。障害のある人を含むすべての人たちが、制約に負けない柔軟なはたらき方を選び、自信をもてる、新たなはたらき方のスタンダードの創出に取り組んでいます」

こうした事業を通した「5つのSDGs達成への貢献」の一つとして「ジェンダー平等実現」を重点課題として掲げていることから、「性別ではなく個人の職務能力やはたらく意向で評価されるきっかけになれば」と、協力したという。

課長クラス以上の採用支援を強みとする転職エージェントのインターワークスの担当者も、「採用は性別で決まるものではないと考えるためです」と語った。

賛同した理由としては他に「純粋に経験・スキルなどを評価される姿勢に共感したため」「性別ではなくその候補者の本質・適性を見ていただいた上での判断は、当社としても日頃から意識していることであり、目的に共感したため」との声もあった。

応募者はどう受けとめた?

ユニリーバ社内では、履歴書から性別に関する情報をなくすことによって、「応募が少なくなるのではないか」といった議論もあったという。

実際、求職者やエントリーの動向に変化はあったのだろうか。

これについては4社とも「特にネガティブな変化はない」という意見だった。

「この取り組みがマイナスに作用したことはなく、ポジティブに捉えられているように感じています。特に女性の方は興味関心を持っていただけることが多く、『先進的な取り組みですね』と受け入れられる方がほとんどです」(インターワークス)

ユニリーバが2020年1月、企業で採用を担当することがある会社員や会社経営者424人を対象に実施したアンケート調査では、自分の会社の採用過程において「男性と女性が平等に扱われていない」と回答した人が、約4分の1にのぼっていた。

採用のときに性別に関する情報を取り除くことによって、これからの就職活動や転職活動にはどんな影響があるのだろうか。求職側、求人側それぞれの視点で聞いた回答をまとめた。

求職者にはどう影響する?

「よりフェアな選考が期待できるため、企業側と求職者がより対等の関係に近づくように感じるので、総じてメリットになると思います」

「男女平等に扱われていないと感じる求職者が減り、女性の雇用や女性管理職比率が向上するでしょう」(インターワークス)

「性別ではなく個人の職務能力やはたらく意向で評価されるきっかけになるのではないでしょうか。また、性的マイノリティ当事者にとっても、応募時の偏見や、性別記載に対するストレスをなくすことにつながると思われます」(パーソルチャレンジ)

求人側はどう変化していく?

「採用における無意識に生じる性別への先入観なく採用活動ができるようになるでしょう」(インターワークス)

「採用活動においては、男女雇用機会均等法および職業安定法によって、男女差別や、性別を限定した募集・採用は禁止されています。こうした法律上の規定だけでなく、性別に限らず、年齢や国籍、性自認や障害などへの偏見をなくし、一人ひとりの価値観や多様性を受け容れ、尊重・評価する機運が広がることを願ってやみません」(パーソルチャレンジ)

「できれば男性を」と言われることも

ところで、最近の就職・転職におけるジェンダー課題について、採用のプロはどのように見ているのか、現場の実態も教えてもらった。

「女性比率が高い企業では、育児休業を取りやすい環境が整備されていることもあり、逆に欠員が多く発生し、ビジネスに影響を及ぼしているという事例を聞くことがあります。そのような企業で求人が発生すると『できれば男性を採用したい』と聞くことがあり、現場目線での課題も感じます」

「支援させていただく求職者に、女性管理職の方が増えている印象です。しかしながら、企業が求める性別は男性であることもいまだ少なくはなく、企業によりジェンダー観の差を感じています」

これから変わっていくのか

日本規格協会は2020年7月、性別欄や写真欄などがある履歴書の「様式例」を削除した。

オンライン署名に1万人以上が賛同するなど、性別欄のない履歴書を求める声が高まったことが背景にある。

中央大学は性別欄がない履歴書を大学内の生協で販売しており、大手文具メーカーのコクヨも12月23日から、性別欄がない履歴書の販売を始めた

ユニリーバが履歴書から性別の情報をなくしてから約9カ月。取材に回答した4社は、今のところ同様の取り組みをしている他企業について「把握していない」という。ただ、ある社の担当者は、このように語った。

「ユニリーバの取り組みが世間に認知、浸透するに従い、追随する企業が大手や消費財系(BtoC)を中心に出てくるのではないかと思われます」

差別をしない姿勢を企業が示す

ユニリーバが12月2日に開いた企業の採用担当者向けのセミナーでは、「そもそもジェンダー差別がない社会を目指すべきで、性別欄をなくすことを目的にすべきではないのでは」といった趣旨の質問もあった。

ユニリーバ取締役人事総務本部長の島田由香さんはこう述べた。

「目指したいのは、もちろん性別による差別がない社会です。まずは企業がジェンダー差別をしないという姿勢を表明し、できることから一歩ずつ踏み出すことが大事だと思います」

ユニリーバは「性別に対する固定観念について考えるきっかけをつくり、性別に関係なく誰もが輝ける社会の実現を目指したい」として、LUXの活動に賛同する個人企業をサイト上で募っている。

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