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食品と同じ基準で「食べられるタオル」をつくる。倒産を経験したトップが語る、60年後の目標

民事再生法の適用を申請したときに選んだのは、品質のよいタオルは売れると信じてつくり続けるという道。イケウチオーガニックの池内計司代表が、ものづくりの半生を語りました。

同じ製品をつくり続けることは、実はとても難しい。見た目を変えることなく、品質を上げていかなければ、消費者は離れていくからだ。

そんな「永久定番」にこだわり続ける人がいる。愛媛県今治市のタオルブランド「IKEUCHI ORGANIC(イケウチオーガニック)」代表の池内計司さんだ。

いま71歳の池内代表は、2073年に「赤ちゃんが食べられるタオル」を創るという目標を掲げている。タオルとともに歩んだ半世紀を聞いた。

※この記事の末尾にイケウチオーガニックの「オーガニック I 432 フェイスタオル」のプレゼントのお知らせがあります。

ーー初めてオーガニックタオル「オーガニック120」を生み出してから21年。どうやって市場を獲得してきたんでしょう。

「世界でいちばん安全なタオルをつくりたい」という想いで「オーガニック120」を発表したのが1999年。当時のタオル業界は、ブランド品か、景品として配るような廉価品のどちらかしかありませんでした。

農薬や枯葉剤を使用しない有機栽培の綿を使うので、原材料費は4倍にもなり、バスタオル1枚が約3200円。こんな景気の悪い時代に、ブランド品よりも高いプライベートブランドのタオルを売るなんて、一体何を考えているのか、というのが業界の見方でした。

理想と現実の二足のわらじ

ところが、発表すると同時に、東京ビッグサイトで展示会の出展、2000年にはアメリカで展示会が決まるなど、すんなりと受け入れられたのです。

それでも飯の種になるようなレベルではなくて、タオルハンカチのOEM(受託生産)で収益を稼ぎながら、ファクトリーブランドでいい格好をするという、二足のわらじを続けていました。タオルハンカチのおかげで会社は維持できたので、オーガニックのほうは販売目標を設定するでもなく、ものづくりの理想を言い続けていました。

エコに関心のある人たちが多く集まる展示会などでは、「壁紙に再生紙を使っていない」などと商品以外のところでも突っ込まれるなどして、随分と鍛えられました。ダメ出しされ、それに一つずつ応えていくうちに、自社ブランドのファンが増えていったんです。

ロサンゼルス、ニューヨークと海外の展示会に出展し、受賞を果たし、日本のニュース番組でも取り上げられるなど、知名度が上がっていった矢先、思いがけない事態が起きました。

オーガニック一筋という選択

2003年8月、主要な取引先だった東京の問屋が自己破産したのです。当社には約2億4000万円の売掛金の焦げ付きが生じ、約10億円もの負債総額を抱えました。年商の7割を占めていた取引先を失い、悩みました。

追加融資を受け、実績のあるタオルハンカチのOEMを続ければ延命することはできますが、同じビジネスモデルを続ければ、今後も連鎖倒産のリスクを背負い続けることになります。かといって、羽ばたき始めたばかりの自社ブランドは、前年度は700万円しか売り上げがありませんでした。

二足のわらじを脱ぐときがきた。そう決断し、後者の自社ブランドの可能性にかけて、民事再生法の適用を申請しました。

ーーそのような状況でも、これからは高くても品質のよいタオルが求められる時代になるだろうという目算はあったのでしょうか。

時代の流れがそちらに行くような感覚はありました。

2001年ごろには、個人のファンの方による「がんばれ池内タオル!」というサイトができていたようなんです。突然タオルが売れた月があって、どうしたんだろうと思っていたら、ひとりのお客様から「サイトで知ったんです」と電話がかかってきてわかりました。

民事再生が決まったあとには、「あと何枚タオルを買えば存続できますか?」といった応援のメールも、3桁に近いほどいただきました。そのときにメールをくれた人が、何年も経ってから取材にきたということもありましたね。

60年後の目標を掲げる理由

ーーなぜ、2073年という、自身では完結しない次世代の目標を掲げているのでしょう。

2013年に創業60周年を迎え、次の60年を考えて、会社をリブランディングしなければならないと考えました。

アメリカでの発表会で、アメリカンジョークのつもりで、2073年までに"赤ちゃんが食べられるタオルを創る"と言ったんですけど、妙に受けてしまって、それが行動指針となりました(笑)。次世代の社員たちが時代にあった解釈をして、お客様にアピールしていってくれる目標と期待しています。

実際、2013年2月末の段階で、すべての製品がエコテックスの規格をクリアしていましたから、“赤ちゃんが口に含んでも安全”と自信をもって言えました。すべての製品がオーガニックと言えるとして、「IKEUCHI ORGANIC」と社名も変更しました。

食品と同じ基準でつくる

"食べられる"という定義は時代が解釈すればいいですが、究極、おいしくないといけませんので(笑)、2015年には食品工場の安全基準ISO-22000を取得し、食品に適用される衛生管理基準「HACCP(ハサップ)」に準じて生産しています。

安全で気持ちのよいタオルをいつまでも追求してほしいという私の想いを、このリブランディングに込めました。

変えないけど変えていく

オーガニックタオルは「永久定番」にするという基本方針があります。

タオルは基本的には家で使うもので、実用品ですから、目先の変わったアイデアが応用できる商品ではないんです。定番であり続けなければならない。

だからといって、同じものを織るだけではだめで、来年も再来年も10年後も、いき続ける商品でなければなりません。品質を上げていかなければならないのです。

第一号の「オーガニック120」は、21年前のものとは比べものにならないほど、クオリティは上がっています。見かけを変えずに品質を上げていくのはとても難しく、技術が必要なんです。

ものづくりの価値観は、基本的にはエンドユーザーが喜んでくれるかどうかを基準にしています。発売前のものも、消費者の目の色が輝かなければ、出すのをやめることもあります。

ものを見る目がある世代

ーー最近の若い世代の消費感覚について変化を感じていますか?

自社ブランドをつくったころは、学生や、社会に出たばかりの若い人たちが買ってくれるとは夢にも思っていませんでした。いまは、確実にそういう人が現れています。自分の好きなものしか買わない、身の周りには本当に好きなものしか置かない、という買い方です。

ものづくりをしていて思うのが、明らかに若い世代のほうが、ものを見る目がありますね。ものがない時代に育った人間は、ものを見る目が養われなかったのかもしれないんですよ。

もともと30代くらいの子育て世代が使ってくれることを想定していましたが、実際は、自分用に買うのは高いから、まず友達に贈っている人が多いんですね。そうしたら、贈った相手が思いのほか喜んでくれるので、じゃあ自分用にも買ってみようかと。

頻繁に買い換えるものではないですが、つどつど買い足していけば、やがて家の中にお気に入りのタオルがそろう。10年計画でそろえていくようなイメージですね。

ーー仕事を選ぶとき、考えるときにはどうでしょう?

仕事というのは、自分が起きている多くの時間を占有されてしまうので、自分が納得できて好きなことをしていないと、人生がつまらなくなります。

僕も社員に向かって「池内のことが楽しくないなら、楽しくなるように変えるか、楽しめることを見つけないと、人生は一回しかないよ」と言っています。

僕自身、50年間、仕事を楽しんでやってきたので。

僕は中学3年生のときにビートルズと出会い、神であるビートルズを最高の音質で聞きたくて、オーディオマニアになりました。おかげさまで松下電器(現パナソニック)に入社して12年間、オーディオ分野で仕事をさせてもらって、ものづくりのイロハを教わりました。

父の後を継いで会社を経営するようになってからは、自分が全責任を負う形で自分の好きなものをつくってきました。つくりたいものをつくって、支持してもらえて、今ではエンドユーザーとも話すことができるわけです。

ふた世代上に直談判して

会社とはお見合いみたいなもので、お互いにきれいなところしか見せないままで入ると、違うと思うことも多いと思います。でも、会社で会う人も人間ですから、素の自分を見せていけば、相手の素も見えてきます。

もし、社内で意見が通らないと感じたら、ひと世代上ではなく、ふた世代上くらいに直談判してみたらどうでしょう。ひと世代上だと、自らの成功体験や経験にプライドがあったりしますが、ふた世代も上になると、わからないからこそ話を聞いてくれたり、そのぶん若い人に任せようと思ったりするかもしれません。

僕は、若ければ若いほど素晴らしい感性があると思っていますから、まだまだ一緒に学ばせてもらいたいですね。平成生まれの人たちは、いい教育を受け、いい環境で育っていて、きっとこれからの日本をいい方向に導いてくれると期待しています。

オンラインイベント「未来をつくる仕事のこと」を視聴いただき、アンケートにお答えいただくと、抽選で100名様に、イケウチオーガニックの「オーガニック I 432 フェイスタオル」(写真:色はお選びいただけません)など素敵なプレゼントをお送りします。

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