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Updated on 2019年3月19日. Posted on 2019年3月19日

デイズで検証されなかった私の性被害 広河氏のような"権力者"をもう生まないで

検証委「相手からの敬意や信奉のまなざしを、恋愛感情や性的な好意と読み換える認知の歪みがある」

休刊を発表したフォトジャーナリズム誌「DAYS JAPAN」は3月20日発売の最終号で、同誌発行人だった広河隆一氏の性暴力に関する報道を受け、検証委員会の報告を掲載した。

「相手は見えない暴力を感じていた」

DAYS JAPAN / Via daysjapan.net

DAYS JAPAN最終号の表紙と目次

最終号は二部構成で、第一部は「広河隆一 性暴力報道を受けて 検証委員会報告」とし、広河氏本人に聞き取りをしている。

広河氏は雑誌『創』4月号に寄せた手記と同様に、女性の同意があったと捉えていたと語ったうえで、自らの意識の変化に言及している。

「私が自分の地位や権力によって、女性とつきあいたいと考えたときに、相手は私の立場ゆえに、明確なNOを意思表示できない状態に置かれ、無意識にこうした目に見えない暴力を感じている可能性が高いということも知りました」

第二部は、メディアで働く女性ネットワーク代表世話人の林美子さん責任編集のもと「DAYS JAPANとは完全に独立した編集体制」で制作。性暴力やハラスメントが起こる構造や性的同意について、京都大学名誉教授の伊藤公雄さん(社会学)やジャーナリストらのインタビューを掲載している。

中断した実態調査

最終号の川島進・発行人兼編集人は巻頭挨拶で、「会社内部や、会社の立場を代理する弁護士による自己検証では不十分であり、会社から完全に独立した第三者による検証委員会方式が、最も適切であるとの考えに至りました」と述べ、休刊後も検証を続け、ホームページ上で最終報告をするとしている。

検証報告をめぐっては、昨年末に就任した代理人を責任者として被害の実態を調査すると発表したにも関わらず、1月に代理人を解任。編集長も辞任し、社員たちも2月末までに退職したため、調査が宙に浮いた経緯がある。

大学生のときに広河事務所でアルバイトをし、広河氏から性的被害を受けた女性Dさんは1月、DAYSの調査に協力し、被害を証言した。だが、最終号ではDさんのような個別の被害については踏み込まれていなかった。

Dさんは、協力した実態調査がどうなるのかを心配し、13年前の被害についてBuzzFeed Newsに証言した。

あの時、声をあげられなかった

Akiko Kobayashi / BuzzFeed

Dさんが被害をまとめた文書

広河氏は2004年3月に「DAYS JAPAN」を創刊。フォトジャーナリストを目指してDAYS編集部などに出入りしていた女性に立場を利用して性的関係を迫っていたと週刊文春などが報じた。長時間労働や残業代の未払い、罵声を浴びせるなどパワーハラスメントの証言も相次いでいる。

Dさんは大学4年生だった2006年8月から広河氏の個人事務所でアルバイトを始めた。ボランティアに参加した際に広河氏からアルバイトに誘われたのだという。同時期にもう一人、大学生の女性がアルバイトを始めていた。

スタッフには女性が多い印象があった。社員とはあまり接点はなく、Dさんは広河氏と直接やり取りすることが多かったという。

「アルバイトやボランティアの延べ人数は相当いるはずです。報道を見る限り、私よりも後の時期に被害に遭った人が多いようでした。もしあの時、私が声をあげていたら、他の被害は防げていたのでしょうか。それとも私ひとりが騒いだとしても、何も変わらなかったのでしょうか」

深夜発のフェリーで

時事通信

2004年4月、「日本人人質事件を考える緊急集会」で講演する広河隆一氏

当時、「第2回フォトジャーナリスト講座」(広河隆一事務所主催、DAYS JAPAN協力)が予定されており、申し込みの受付や合宿の旅程作成などを、Dさんともう一人のアルバイトが担っていた。合宿の下見のため、Dさんは広河氏と三宅島に下見に行くことになった。

東京の竹芝客船ターミナルを深夜に出発し、早朝に三宅島に着くフェリーに乗った。

「船が桟橋を離れた途端、『君には魅力がある』というようなことを広河さんから言われ、奇妙だなと思いました。チケットは、居室のない二等席のもので、広い部屋で雑魚寝することになりました。部屋には私と広河さんのほかに乗客はいなかったと思います。左側に横になっていた広河氏に指をなめられました」

ずっと尊敬してきた人がそんなことをするはずがないと信じたい気持ち。明日からも顔を合わせるのに今立ち上がって逃げ出したらどうなるんだろうという混乱......。

Dさんは広河氏から少しでも逃れようと背を向け、右側にあった壁にできる限り密着したまま、ひたすら朝が来るのを待った。

翌日、広河氏は何事もなかったように接してきた。はっきりとした記憶はないが、道路上で抱きしめられたことをDさんは覚えている。

「なぜ逃げ出したり声をあげたりしなかったのか、と言われるかもしれませんが、当時は広河さんを心から尊敬していたので、功績をつぶすようなことをしてはいけないと考えていました」

Dさんはその後も12月ごろまでアルバイトに通い続けた。二度と顔を合わせたくないとまでは思わなかったのだという。

権力と戦う人の「権力」

Dさんは翌春、大手メディアに就職。数年後、広河事務所でアルバイトをしていたことを社内で話したら、「大丈夫だった?あの人、女性関係で変なうわさを聞くけど」と言われた。

「そのときまで、私のほかにも被害者がいるかもしれないということには考えが及びませんでした。でもなぜか、やっぱり、と思ってしまったんです。広河さんの周りには若い女性がたくさんいて、それを自身の魅力によるものだと解釈しているような振る舞いがありましたから」

DAYS最終号の広河氏の面談調査報告では、親子ほど年の離れた20〜30代の女性たちと「つきあっていた」と主張する広河氏に対し、「相手からの敬意や信奉のまなざしを、恋愛感情や性的な好意と読み換える加害者側の認知の歪みは、セクシュアルハラスメント事案では頻出である」と検証委が考察している。

広河氏が「権力」を自覚していたかどうかについては、このようにまとまっている(抜粋)。

(広河氏)私のことを、「フォトジャーナリズムの世界で権力を持っており、その力と立場でセクハラを行使した」と言われて、最初は理解に苦しみました。私はこの世界で自分が権力を持っているという意識はほとんど持っていませんでした。


(調査担当者)日本ではいわゆる代償型のセクハラは成り立ちにくい。つまり、あからさまに地位を振りかざして性的な関係を迫るなどというタイプは成り立ちにくい。だから、「俺には権力などない」という広河氏の主張は、本人の主観的には「悪意」からの発言ではないであろうことは想像できる。しかしこれは、「悪意からの発言ではない」ことを理由に行為の悪質性が軽減されるという意味では全くない。

Dさんも、広河氏は自身のもつ権力に無自覚だったと証言する。

「広河さんは抑圧された人の立場に立って報道し、DAYSで性暴力特集にも真剣に取り組んでいたと思います。広河さんにとっての『権力』とはあくまでも立ち向かうものであり、自分自身が権力を持った存在になっているということを自覚していなかったのではないでしょうか」

働き方の認識のギャップ

それはパワハラについても言えるかもしれない、とDさんは話す。自分の思い通りに仕事が進まないと癇癪を起こす広河氏のことを、もう一人のアルバイト女性と陰で「クラスター」と呼んでいた。

広河氏は、休みをほとんど取らず、寝る間も惜しんで働いていた。食事をコンビニ弁当で済ませ、事務所のソファで仮眠をとる姿をたびたび見かけていたという。

「広河さんは、ひとりのジャーナリストとして正義のためにやるべきことを一生懸命しているだけだったのでは。理想の社会を実現するという大義のもとでは、社員の給料が安いとか終電で帰れないなんてことはどうでもいいことだったのでしょう」

会社員として働いたり「上司」がいたりした経歴もない。正義のために邁進するひとりのジャーナリストは、マネジメントやコンプライアンスを教わる機会がないまま編集長になっていた。

「大義のために身近な人たちが犠牲になっているにも関わらず、声があがりにくいというのは、求心力があるカリスマ的なトップがいる企業や、NPOのようなところでもありうる構造だと思います」

なぜ、記事を書いてしまったのか

BuzzFeed / Getty Images / 時事通信

Dさんは大手メディアに就職した後、広河氏の活動を紹介する記事を書いたことがある。なぜ、加害者を持ち上げるような仕事を積極的にしたのか。

「私の被害なんて大したことではないと思いたかったのもありますが、今思えば、問題認識も欠けていました。嫌なことをグッと飲み込んで何事もなかったように振る舞うことに、あまりにも慣れすぎていました。おそらくメディアで働く多くの女性が、権力のある男性たちにうまく合わせていかないと渡り歩けないということを本能的に察しているのではないかと思うのです」

Dさんが「目が覚めた」のは、2017年からの一連の #MeToo に関する報道がきっかけだった。ジャーナリストの伊藤詩織さんが、就職相談の際に遭った性暴力被害を実名で告発し、モデルのKaoRiさんも、16年にわたる荒木経惟さんとの関係についてブログで疑問を呈した。財務省の元事務次官がセクハラ発言を繰り返していた問題も、女性記者の告発によって明らかになった。

「私の感覚が鈍っていたのだと気づきました。多少のことがあっても受け流してきた私のようなタイプが、おそらくメディアで働く女性の大半であり、だからこそ働き続けてこられた。でもそうやって積み上げた業績って何なのだろう、と問い直す時期がきているはずです」

デイズジャパンは今後も最終報告に向けた調査を続け、サイト上で報告するとしており、検証委員会への情報提供を4月17日まで呼びかけている



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