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PTAの伝統 ベルマークを集める単純作業 実は貼らなくてよかった

ベルマーク教育助成財団が模索するデジタル化。それでも紙を残す理由。

PTA改革でやり玉にあげられる、ベルマーク係。学習帳やお菓子の包装紙についている、あの約1〜2㎝四方のマークを集める作業のことだ。

子どもの頃、親が切り貼りしていた記憶がある人もいるかもしれない。なにせ、1960年から57年にわたって続いている事業だ。デジタル時代のいまも、包装紙片の切り貼り作業は、全国2万7282校のPTAで脈々と受け継がれている。

私の息子(11)が通う小学校では、保護者は毎年1つ、PTAの「係」をしなければならない。そのうちベルマーク係は「非効率」「平日に有休を取らなければならない」と悪名高い。ただ、冷房の効いた部屋で座り作業を一度すればいいだけなので、運動会の手伝いや集金当番よりはマシだとして、実は人気がある。

というわけで、やってみた。

集計作業は平日の午前中ということで、半休を取った。

時間ちょうどに到着すると、すでに30人ほどの保護者が畳に座り、作業をはじめていた。男性も2人いた。机の上には、キユーピー、日清食品、ファミリーマートなど会社ごとにマークが仕分けされている。PTAの役員があらかじめ作業してくれていたようだ。

それを「1点」「0.7点」「0.5点」など点数別に、しめじの空き容器に入れるところからが、私たち末端の「係」の作業。同じ点数を10枚並べ、セロハンテープで表と裏を貼って固定する。それがワンセット。

プリントに書いてあったエプロンや軍手を使う機会はなく、楽しくもなければつらくもない単純作業が延々と続く。

「やだ、油でベタベタしてる!」「子どもにやらせればいいのに」「ずっと下を向いて切り貼りしていたら具合が悪くなった人がいたらしい」といった声が聞こえてくる。貼り方のコツを教えあったり、ちょっとした愚痴を漏らしたりするうち、連帯感は生まれてくる、確かに。

集計をやめられない理由

ところで、作業が終わりそうになっても、これは何のためにしている作業なのか、まったく説明がない。いくら末端の「係」とはいえ、どう役に立てるのかくらいは知りたい。

役員を呼びとめて尋ねてみた。

「マークを集めて財団に送ると、学校の備品がもらえます。今年すぐに何か、というわけではないですね。以前、周年行事で冷水器がもらえたみたい。そんな感じだから、今日の作業なんて微々たるものなんですけど」

周年行事というと、創立5周年や10周年の節目だ。このマークが備品に替わるころには、いま5年生の息子は卒業しているかもしれない。何年もかけて集めて、やっと一つの備品を後輩に贈れるなんて、無償の愛をつないでいるようでドラマチックだ。

同時に思った。だから途中でやめられないんだな、と。

ベルマークは貼らなくていい

ベルマークの目的や意義を知るため、BuzzFeed Newsは、東京都中央区にある公益財団法人「ベルマーク教育助成財団」を取材した。

そこでわかったベルマークの目的は後述するとして、まず「ベルマークは貼る必要がない」という事実を、全国のPTAの皆さんにお知らせしたい。キレイに貼るために余白を切る手間も、あの膨大な量のセロハンテープも、シワになったものをはがすあの時間も、すべて不要だったというのだ。

「集計のやり方は、財団からは特に指定していません。各PTAでもっとも集計しやすいやり方を工夫していただいて、代々、引き継がれているようです」(財団広報部長の小菅幸一さん)

  • 会社別の指定袋に入れる
  • 指定袋に書かれた点数とマークの点数が同じ


財団としては、この2点を満たしていれば問題ないのだという。約30人の職員のうち、11人が「検収」という作業をしており、1日中、この指定袋の中身を調べ、別の会社のマークが混入していないか、点数の記載ミスがないかを確認している。

この日は、3カ月前の4月3日に段ボール箱やメール便で財団に届いたマークの検収に着手していた。1校につき20〜60分かかるという。確かに、バラバラのまま無造作にマークを入れているPTAもある。検収担当の職員は言う。

「この道3〜5年のベテランが多いです。パッと見て、この会社にこの点数のマークはないはずだ、などと直感でわかります。間違いがあれば訂正し、PTAに報告します」

「貼っていただかなくていいですし、余白も切らなくて大丈夫です。こちらとしては、どの会社の何点のマークかがわかればいいです。ただ、かさばったり送料が高くなったりするので簡単に切り取ることはおすすめします」

「わが子のためが、人のために」

では、そもそもベルマーク運動って何なのか。広報部長の小菅さんに聞いた。

ーー60年近くも続いているのはなぜでしょう?

もともと、へき地にある学校の教育設備が不足しているという訴えが「全国へき地教育研究連盟」という団体から朝日新聞社にありました。たとえ寄付を募るにしても、一時的には集まっても、長続きしません。そこで、日用品についているマークを集めると、自分の子どもの学校の設備がよくなると同時に、へき地学校の支援につながるというモデルができあがりました。

自分のためにすることが、自動的に人のためになる。長く続けやすい活動なのです。

ベルマーク1点=1円

仕組みとしては、集めたベルマーク1点が1円のベルマーク預金になり、15社の「協力会社」から学校設備を買うことができる。購入額の10%が財団に寄付され、へき地学校や特別支援学校、震災などの被災校の教育援助にあてられる。

また、包装紙にマークをつける「協賛会社」は56社。年間260万円超の固定費のほか、回収されたベルマーク1点につき1.27円を払う。うち1円が前述のベルマーク預金に、0.27円が財団運営費などになる。

ーーマークの集計はPTAがやる作業なのでしょうか?

まったくのボランティアで、学校や保護者の方が望むレベルの活動ができるかというと、量的に難しそうです。子どもはマークを集めることはできても、集計までは難しい。PTAの組織力に頼っているのが現状です。

確かに、アナログで昭和の香りが漂う活動ですよね......。コツコツ作業するくらいならそのぶんお金を払う、という声もあると聞いています。しかし、お金で解決するのではなく、活動自体にそれなりに意味があると理解しています。

ーー活動の目的が伝わっておらず、負担感が大きいです。

全国95都市で、ベルマーク運動の説明会を開き、活動の目的や各PTAの工夫についてお伝えしています。それが現場に伝わっているかというと、わからない部分もありますが。

集計のやり方は自由ですので、無理なく、効率的なやり方を工夫していただきたい。共働き世帯も多いので、強制だけはしないようにとお伝えしています。

ーーデジタル化はできないものでしょうか。

数年前から要望をたくさんいただいています。実は、財団理事の娘さんもベルマーク係を経験し、「何とかしてほしい」と言われてしまいまして。ベルマークは性善説に立っているのですが、デジタルだと二重登録の懸念が発生してしまうのが最大のネックです。

ただ、試行錯誤はしています。

財団に眠る17億円

財団経理部長の小林敏夫さんが、QRコードのようなものを見せてくれた。おなじみのベルのデザインがうっすら見える。小林さんが続ける。

「バーコードだとベルマークが入るスペースがないのでQRコードにしてみたのですが、通常のマークより大きくなるし、協賛会社さんに包装のデザイン変更をお願いしなければならない。二重登録も排除できないうえ、開発コストに1億円、ランニングコストに2000万〜3000万円はかかります」

「マークをスキャナーで読み込む方法も考えましたが、包装の素材が各社バラバラなので認識ミスや欠損が出てしまうようです」

他にもコストがかからず簡単な方法がありそうでは、と聞くと、目下アイデア募集中、とのこと。5年をめどにデジタル化の可能性を探りたいそうだ。

「ただ、デジタル化したとしても、並行して紙は残すでしょうね。古きよき伝統ですし、地道に切り貼りしてこそ意味がある、という声も聞きます。PTAに負担をかけるのは申し訳ないですが、長年かけて浸透してきたことだからこそ、紙は残すべきだと思います」

それぞれのPTAが集めたベルマーク預金は、翌年度に繰り越されることもあるという。代々、受け継がれた事業をやめられないのと同様に、貯めた預金を使うこともはばかられるのだろうか。

「すべての子どもに等しく、豊かな環境のなかで教育を受けさせたい」。そんな理念のもと、学校設備に替えることで1割が教育援助になるベルマーク預金。現在、およそ17億円が財団にプールされている。

BuzzFeed NewsではPTAについて、#PTAやめたの私だ 「入会しません」ひとりの主婦の静かなる抵抗でまとめています。

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