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残業禁止、5時退社の会社が成長を続ける理由 長時間働いても生産性は上がらない

ブラック企業の取締役から一転

大手広告代理店・電通の新入社員女性(当時24歳)が2015年に自殺した原因は「過重な長時間労働」だったとして、労災が認められた。三田労働基準監督署が認定した1カ月の時間外労働は約105時間だった。

10月7日に発表された「過労死白書」では、残業が月100時間を超える企業や労働者が1割にのぼることも明らかになった。

そんな「長時間労働大国ニッポン」にも、午後5時にほぼ全社員が退社する化粧品会社がある。「5時ピタ退社」にもかかわらず、設立から10年連続の増収で、2016年9月期の売上高は約90億円。

その会社とは、オリジナルブランド「マナラ化粧品」を開発・販売する株式会社ランクアップ。いったい、どうやって働いているの? 岩崎裕美子社長(48)に聞いた。

午後5時。そしてほぼ誰もいなくなった

取材は10月11日の午後5時スタート。同社を訪ねると、化粧を直してオフィスを後にする女性社員たちとすれ違った。

「私も、普段はこの時間には帰っているんですけどね」と岩崎社長。午後5時に、社長を含むほぼ全員が退社するから、帰りにくい雰囲気がそもそも、ない。

ランクアップの就業規則では、就業時間は午前8時半〜午後5時半だ。2005年の設立当初は午前9時〜午後6時だったが、2011年3月の東日本大震災の直後、節電のためのサマータイム制として就業時間を30分前倒しした。その際、「帰り道が心配だから、仕事が終わっていたら5時に帰ってもいいよ」という暫定ルールを作った。

3カ月ほどして5時退社の暫定ルールを廃止しようとしたところ、「仕事を終わらせられるので、5時退社のままでいいです」という声が複数の社員からあがった。

岩崎社長「え、でも会社は、5時半までのお給料を払っているんだけど・・・」

「8時間ぶんのお給料なのに7時間半の勤務でいいよ、なんてカッコつけたルールをいつまで続けられるのか、あとで苦労したらどうしようか、とずいぶん悩みました」

社員はがんばるのか、それともサボるのか

それでも社員の希望どおり、就業規則上は5時半までとしながら、運用ルールとして「仕事が終われば、5時退社もOK」を続けることにした。岩崎社長には、一つの目算があったからだ。

「5時に帰っても5時半まで働いてもお給料が変わらないわけだから、社員は少しでも早く帰ろうとして集中力が増し、業績も伸びてきていた。それで、社員を信用して任せてみようと思えたのです」

「社員には、業績が悪くなったら、『5時退社もOK』の運用ルールは廃止する、と伝えています。5時に帰ってもいいというのは、あくまで会社の”厚意”なんです。就業時間を変えてまで30分早く帰れるようにすると社員に誓ったわけではなく、いつでも会社側からこのルールをやめることができる。多くの会社が、いったん制度を導入したらやめられない、と二の足を踏んでいますが、まずは制度ではないことからやってみて、うまくいかなかったらやめればいいのです」

こうして「5時ピタ退社」の習慣ができあがった。従業員45人の半数が子育て中の女性だが、育児や介護による時間制約がない社員でも、ほぼ全員が5時に退社する。

しかも、売り上げは右肩上がり

「仕事が終われば5時に帰ってもいい」「成果さえ上げていればいい」

その”仕事”や”成果”は、どうやって測っているのか。

「うちの会社では、社員ひとりひとりにミッションがあります。まずは部署別に、広報なら『PRの力で会社の価値を創造する』、宣伝なら『新しいお客様にマナラ化粧品を知って幸せになってもらう』などのミッションがあり、それをもとにKPI(重要業績評価指標)を定め、社員は半期ごとに自分の目標に落とし込んでいます」

「自分で決めた目標を達成するために、社員は会社に来ている。会社も、勤務時間が長かろうと短かかろうと、目標を達成して成果を出してくれればそれでいい。逆に言うと、そもそも労働時間は評価指標に入っていないので、長く働いても何の評価もしません。どこの会社にも、長時間働いた人を評価するような制度はないはずですが」

「よく、『あなたの会社だからできるんでしょ』と言われますが、本気になればどの会社でもできるはずです」

効率化するためのルールが徹底している

  1. 社内資料はつくりこまない
  2. 会議は30分 
  3. メールで「お疲れさま」は使わない
  4. 社内のスケジュールは勝手に入れる
  5. プロジェクト化
  6. 企画の初期段階で各部署と打ち合わせる


資料はわかれば十分。メールで「お疲れさまです」を入力する時間も読む時間ももったいない。違う方向に仕事が走り出さないように、事前に社内コミュニケーションはしっかり取る。どの会社や業界でもできそうな工夫ばかりだ。

新人は「残業してもいい」

「3年前から新卒を採用し、いま9人いますが、彼女たちは残業してもいいことにしました。最初、残業を禁止したら、30分でつくれるはずの表をつくるのに1時間半かかり、何もしないままアッという間に午後5時になっていたからです。残業を2時間したとしても7時半なので、大目に見ています。残業代は15分刻みで支払っています」

「集中して効率的に働けるようになるには、仕事のやり方をあれこれ試すことも必要です。大量にインプットした時期があるからこそ、ここぞというときに業務を圧縮できます」

「毎月、残業時間を集計し、順位をつけて発表しています。残業が多い人がいたら、なぜ遅くなったのかを確認します。会議資料をつくるのに時間がかかるなら資料の必要性を検討しますし、人事異動やアウトソーシングなど別の解決策を探ることもあります」

そう語る岩崎社長は以前、「毎日終電帰り」の会社で取締役をしていた

定時は終電、勤続3年を超えず、社員は総入れ替え。そんな「超ブラック」な広告代理店で2005年まで、取締役営業本部長をしていた。

「アポを取るために100件以上電話をかけ続けたり、時間をかけて広告の提案書を作ったり。諦めずにコツコツ長時間やれば、確かに売り上げは上がりました。給料には残業代が含まれていたので、夜遅くまで働いたり土日に出社したりする部下がかわいくてかわいくて。部下が早く帰ると会社が損をすると思っていました」

「でも、毎日終電帰りで、社員はみんな睡眠不足でした。朝9時に出社して『今から夜11時までか』と思うから、ダラダラ働くことになる。管理職の私が土日も出社する姿を見て、昇進の希望も持てなかったでしょう。どんどん社員が辞めていき、採用もうまくいきませんでした。私がやるべきだったのは、ライバル社を追いかけるために長時間働くことではなく、他社とは土俵が異なる自社ならではの強みを見つけて、社員に夢を与えることだったんです」

長時間労働でボロボロになった肌の悩みを解決したい。理想の働きかたを追求したいーー。そんな想いで起業した会社。

遅くまで働いている社員がいたら、「お疲れさま」とねぎらいたくなることはないですか?

「今はもう、ないですね。そうやって残業を容認しているうちに『仕事が終わらなければ残業すればいいや』という考え方になってしまうのが怖いからです。だって、残業しないほうが大変なんです。集中しなければ仕事が終わらないから、スタバで一息つく暇もないわけですよ。正直、キツいです。でも、もう二度と、終電帰りのあの働き方にだけは戻りたくないですから」