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更年期 侮るなかれ!恐れるなかれ! 更年期真っ只中にある女性産婦人科医からのメッセージ

漫才コンクール直後の飲み会で、若手芸人が審査員の先輩女性を「更年期障害か?って思いますよね」と批判する動画が問題となりました。

一人歩きする「更年期」という言葉

先日、「M-1 グランプリ2018」直後の飲み会で、若手男性芸人が審査員である先輩の大物女性芸人、上沼恵美子さんに対し「更年期障害か?って思いますよね」という言葉を用いて批判する動画をSNSでアップし、炎上。すぐにお詫びとともに削除されたことが話題になりました

私もお笑いは大好きで、今年は見逃したものの例年その番組を楽しみに見ており、上沼さんの歯に衣着せぬ批評も嫌いではありません。

ダメなものはダメ、嫌なものは嫌、とはっきりした物言いはむしろ痛快とも思っていたので、そのことを「更年期障害か?って思いますよね」という言葉で非難するなんて負け惜しみにしか聞こえなかったです。

さらに上沼さんの年齢は63歳と知った瞬間、「そもそももう更年期じゃないし!」と心の中でツッコミを入れてしまいました。

「ある一定以上の年齢の女性は、どうもイライラしたり、汗をかきやすかったり体調が悪くなるらしい。」「それを更年期(障害)というらしい」

そんな認識が定着してきたのはいつ頃からでしょうか?

人知れず思い悩み、「嵐」のように体調が変化する数年間を耐え続けた人も少なくなかったと聞きます。それを周知するのにテレビや雑誌などのマスコミの力が大きかったのは否定できません。それこそお笑いの力も。

10年ほど前でしょうか? 私と同年代の「アラフォー女性芸人」もそんな体調の変化を「自虐ネタ」に使っていましたね。周知されることで治療につながり、楽に過ごせる人が増えてきたのは間違いありません。

しかし一方で、ネガティブなイメージも強化してしまったのでは、という気もしています。

今回のように、その年代の女性が、批判的な発言をすると、理にかなっていても「訳もなくイライラしている」と受け取られ、それを揶揄するネガティブなニュアンスで「更年期」という言葉が使われるようになってしまっています。

そして、そんな風潮からか更年期に入ることを過剰に恐れ「更年期じゃないか心配」といって受診する若い女性も増えている印象があり、人気のチコちゃん風に「なんもかんも更年期のせいにしてんじゃねーよ!」と叫びたくなることがしばしばです。

このように、「更年期」という言葉が理解のないまま一人歩きし、今回のように当事者の女性たちを傷つけていることは何とかしなくてはなりません。今回は、この「更年期」について、産婦人科医として、そして更年期の真っただ中にある当事者の目線も含めて書いてみたいと思います。

そもそも「更年期」って何?

「更年期」すなわち閉経(月経が上がる)前後にある女性の体調不良のことを「更年期障害」といいます。

先ほども書いた通り、つい20~30年前まではその概念がなく、多くの女性がつらい症状を我慢せざるを得ませんでした。

しかし、原因の解明とともに治療もできるようになったことから、私も含めほとんどの産婦人科医が所属する日本産科婦人科学会でもホームページ等で啓発を進めてきました。

症状や治療について解りやすくまとめられているので、ぜひお読みいただき、つらい症状にお悩みの方は是非、産婦人科でご相談いただければと思います。

「更年期」の厳密な定義は、今年5月に改訂されたばかりの日本産科婦人科学会による産科婦人科用語集・用語解説集改訂第4版によると、こう書かれています。

本邦では閉経前の5年間と閉経後の5年間を併せた10年間を「更年期」(英語ではclimacteric period)という。性成熟期から老年期への移行期を指す用語として本邦に定着しているが、国際的にはSTRAW+10に基づいて記載されることが多く、更年期の使用頻度は必ずしも高くない。

そう。実は、「更年期」って、国際的にはもう「時代遅れ」の言葉なのです。

※ STRAW+10とは、STRAW (The Stages of Reproductive Aging Workshop)において提唱されている、「周閉経期(後で解説します)を10の時期に細分化した分類で、周閉経期のことは「年齢」よりも「月経状態とホルモンレベル」から捉えた方がより適切という考えから生まれたものです。

「更年期」≠「更年期障害」

このように「更年期」とは閉経前後の「時期」のことを指しますので、50歳以上まで生きた女性は誰でも経験します。

しかし、「更年期障害」はその時期に感じる体調不良のことであり、必ずしも全員が経験するとは限りません。もともと月経困難症(月経痛)や月経前症候群(PMS;premenstrual syndrome)などのトラブルを抱えた人にとっては、つらい症状から解放されてむしろ楽になった!という人も少なくないことは意外と知られていないかもしれません。

閉経前後になぜ体調が変化するのかについては、以前、月経不順の解説として書かせていただいた「『ホルモンバランスの乱れ』という言葉にごまかされないで」という記事も参考にお読みください。

その中で解説した通り、月経(生理)とは、卵子(その元である卵母細胞)がある限り妊娠に備えて排卵しようとする仕組みで、出血が起こることよりも、その排卵に伴って卵巣から分泌される女性ホルモンの変動に注目することが重要です。

この卵子(卵母細胞)は胎児のときに作られ、生まれた後も増えることはなく減っていき、平均50歳(45~56歳)でなくなります(日本生殖医学会のHP)卵子数がほぼゼロ(正確には卵母細胞が1000個以下)になると閉経(menopause)するのです。

しかし、誰が何歳で閉経するか、事前に予測することは現時点では不可能で、「閉経の5年前」を自覚できる訳がありません。そこで、「更年期」という言葉に代わり、「周閉経期」(英語ではperimenopausal period;月経周期の変動がみられ始めてから閉経後1年までの時期;同用語集より)と表現されるようになっています。

今回は「更年期」の入り口を「閉経が近づいて月経周期の変動がみられ始めた時点」として話を進めたいと思います。

排卵を起こすには、脳から卵巣に向けて指令するホルモン(ゴナドトロピン;LHとFSH)が重要な役割を果たします。若くて卵子数が十分あるときには脳からの軽い指令で排卵できますが、卵子数が減ってくると刺激を強めるため、ゴナドトロピンの値が上昇します。

しかし、卵子数の減少に伴って卵巣から分泌される女性ホルモンは低下してきます。とくに「女性らしさのホルモン」ともいわれる「エストロゲン」が低下することが様々な症状の主な原因とされ、この症状が重く、日常生活に支障を来す状態を「更年期障害」と言います。

先ほどもご紹介した日本産科婦人科学会のHPにも書かれているように、診断の際には女性ホルモンの低下以外に原因となる疾患がないことを確認することが重要です。体調が悪く更年期障害だと思っていたら、甲状腺疾患だったとか、鬱(うつ)などの精神疾患だったということも少なくありません。

我々産婦人科医は慎重に問診を取り、必要に応じて他科とも連携し、ホルモン補充療法を中心に漢方や向精神薬等を使い分けて治療を進めていきます。

つらい症状でお悩みの方で「もしかして更年期障害では?」と気になっている方は、是非産婦人科でご相談ください。

更年期を過度に恐れないで!でも侮らないで!

これまでの説明でお気づきでしょうか? 順調に月経が来ている場合、いくら体調が悪くても、それを「更年期障害」とは呼びません。

しかし、冒頭にも書いたように、30代、40代で月経が順調に来ているにも関わらず、「更年期ではないか心配」といって私のクリニックを受診する方が結構多いこと、最近とても気になっています。

お話を伺うと、勉強や仕事を精一杯頑張っているうえ、家庭の中でも家事や子育てを一手に引き受け、睡眠時間を削り、疲れ果てている方がすごく多いのです。

そこまでして頑張る理由は「性分」といえばそれまでなのですが、どこかに「頑張らないと認められない」「自分が頑張らないと回らない」と、家族や同僚にシェアするべき仕事まで抱え込んでいる人も多いように思います。

でも、体も心も悲鳴を上げてSOSサインを出しているから受診されているわけです。少しずつでも抱え込んだ荷物を下ろすこと、そして「抱え込まなくてもあなたの価値が下がることはない」と、まずは自分自身が理解し、その上で次の世代の女性にもそのメッセージを伝えていっていただきたいと思います。

そしてもう一つ気になっていること。そうして受診された女性たちに「更年期(障害)ではない」と診断すると、一様にホッとした様子を見せるのです。
口に出して「更年期じゃないならよかった」おっしゃる方もいます。

でも、それでは根本的な問題の解決にはなっていませんよね。問題を先延ばしにしているだけ。生きている限り、近い将来必ず「更年期」はやってくるのですから。更年期に対し、ネガティブに思う気持ちを、まずはなくしていきたい、と強く思うのです。

年齢や性別にかかわらず、自分らしく生きよう!

海外の事情を詳しく知っているわけではありませんが、少なくとも日本において、女性の「若さ」や「美しさ」、「従順さ」を礼賛する風潮があることは残念ながら否定できません。そして、そう思い込まされている、敢えて強い言葉で言えば「毒されている」女性があまりにも多すぎはしないでしょうか?

上沼恵美子さんが審査員として歯に衣着せぬ批評をするのは、「元々そういうキャラクターだから」で済ませてはいけないような気がします。「他人からどう思われようが気にせず、自分の意見を言える」よう、これまで着々と実績を積み重ねてこられたのはないかと思うのです。

そういう私自身も、ずっと「毒されてきた」ように思います。男性社会の中で医師という仕事をする上で、「ちょっと違うかも?」と思ってもニコニコ受け流すほうが丸く収まるし、なんといっても「可愛げのない女」と思われるのはつらい。

「NO!」「いやだ!」と言えずに仕事を引き受けてしまうことで「いっぱいいっぱい」になっているのに、余裕のない自分を見せないようにやせ我慢をして笑顔でいるように心がけ、さらに疲労困憊に陥る。更年期の今よりよっぽどイライラしていたし、生きるのがつらかったように思います。

でも今、「アラフィフ」となり更年期に突入してみて思うのです。「私はいったい、何を恐れて生きてきたんだろう?」と。

確かに、夜中にほてり、のぼせで目が覚めたり、仕事中などに異様に汗をかいて困ったりもします。でも今はいろいろな治療法を選べ、多くの方が楽に過ごせるようになっています。

私の場合は事情があってホルモン補充療法を受けることができないのですが、それでも女性ホルモンの低下に体が慣れるまでの一過性の変化だと知っているおかげか、「想像していたほどしんどくない」というのが現時点での感想です。

また、これを機に運動不足を解消しようと、引き受け過ぎた仕事を少し整理して、10年以上離れていた水泳にも復帰。水の中では汗をかいても気になりませんし、気分がすっきりし、更年期に入る前よりむしろ元気になったように思えます。

また、更年期は、「子供を産めなくなる年齢」です。そしてこれまでは「女でなくなるようでさみしく思う」のが「普通」とされてきたように思います。

でも、私、そう思わないんです。それって変ですか? 

こう思いこまされてきたことこそが、女性が自分自身の首を絞めてしまっているのではないでしょうか? 

更年期って、視点を変えれば煩わしい月経にまつわるトラブルから解放されるばかりか、「産む産まない」や「異性から性的に魅力があるかないか」も含め、「他人からどう思われるか」という呪縛からも解放される時期ともいえます。

私も「ああ、私は好きなように、私の人生を生きていいんだ」となんだか清々しい気持ちになっていることに最近気づきました。そして「なんだ、もっと早く気づけばよかった!」とも。

私の世代は、「男性に依存するのが良し」とされる風潮のなか、それを信じて実践しようとしてもうまくいかないことを繰り返した結果、仕方なく自分の足で自分の人生を歩もうとあがき続け、なんとかその境地にたどり着いた、という感じがします。

次の時代を生きる女性たちには、「子供のときから自分らしく好きなように自分の足でしっかり人生を歩むんだよ、そうすれば年齢を経ることも決して怖いことじゃないよ」、と声を大にして伝えたい!

そして、それはきっと、「妻子を養うのが男性の本懐」というプレッシャーから男性をも解放してくれるのでは?と思うのです。

【江夏 亜希子(えなつ・あきこ)】  産婦人科専門医、日本体育協会公認スポーツドクター

1970年宮崎県生まれ。1996年鳥取大学医学部卒、2002年同大学院修了。鳥取大学医学部附属病院および関連病院での勤務を経て2004年より上京。東京大学大学院教育学研究科身体教育学講座でスポーツ・健康医学を学び、2010年4月東京・日本橋人形町に四季レディースクリニック開業。女性の健康・スポーツ医学を専門とし、診療の傍ら学校性教育などの講演・執筆活動にも力を入れている。