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「ホルモンバランスの乱れ」という言葉にごまかされないで!

月経不順を放置しないほうがいい理由

産科を扱わない小さな私の婦人科クリニック。受診される方は、思春期から更年期まで月経のトラブルを抱えた方が大半を占めます。

月経のトラブルは、月経に伴う症状(月経随伴症状)の異常と月経周期の異常の大きく分けられます。

前者には月経痛や過多月経(経血量が多い)や月経前症候群(PMS:pre-menstrual syndrome)などが、後者には月経が順調にこない月経不順や3ヶ月以上月経が止まってしまう無月経が含まれます。

前者は自覚症状がつらく、学校や職場で周囲の人が気づいて受診を勧めてもらえることも多いのですが、後者の月経不順や無月経はなかなか深刻さが認識されにくいのでしょうか?

「このくらいは大丈夫」と受診しない人も多いですし、せっかく受診しても医療職から「今妊娠を望んでいないなら問題ないから様子を見て」などといわれてしまうことも少なくないようです。

今回は、月経不順や無月経をなぜ放置しないほうがいいか、について説明しようと思います。

「ホルモンバランスの乱れ」という思考停止ワード

私のクリニックでは「ゆっくり時間をかけて完全予約制で診療を行う。特に初診には1時間以上確保する」というのを特徴・こだわりにしています。

それを明示しているためか、「他の医療機関を何軒か受診したけれど、改善しなかった」「説明がよくわからなかったので不安」と転院を希望して来られる方が少なくありません。

その場合、これまでに受診した医療機関でどんな診察、検査を受け、何と診断され、どんな治療を受けてきたのかを詳しく伺います。「月経不順の原因は何と言われましたか?」と尋ねると、ほとんどの患者さんがこうおっしゃいます。

「『ホルモンバランスの乱れ』といわれました」

そもそも、ホルモンバランスが整っていれば月経はちゃんとくるはずですから、大切なのは「何が原因でホルモンのバランスが乱れたのか」であるはずです。

医師はそれを突き止めて治療をするのが本来あるべき姿なのですが、その原因を聞いても患者さんは「きょとん」とするばかり。多くの患者さんがそれ以上突き詰めて考えることがない、いわゆる「思考停止ワード」になっているように思えます。

転院希望で当院に来られる方には、元の医療機関から紹介状を書いてもらうようお願いしています。ところが、原因を突き止める検査がされていないケースのほか、検査データで原因がわかっているのに、きちんと説明がなされていないケースも散見されます。診療にあまり時間をとれない医師側もその言葉を便利に使ってしまっているのではないかと、自らを省みつつ、いつも危惧しています。

学校で習った「生理の知識」は役立っていない?

「学校で生理(月経)のことは習ったはずだし、この程度のことはわかってるでしょ?」

おそらく多くの産婦人科医がそう思い、説明を省略するエクスキューズ(言い訳)にしていないでしょうか。

確かにどんなに説明に時間をかけても、かけなくても「診療報酬」は同じですから「ちゃんと勉強してきてね」「あとは自分で勉強してね」と言いたくなってしまう気持ちもわからなくはないんですけど・・・。いやいや、ちょっと待って!

恥ずかしながら、実は女性である自分自身、月経の仕組みについてホントに腑に落ちて理解できたのは、研修医が終わって大学院(博士論文)のテーマで「排卵機構」をテーマに与えられてから、なんです。

産婦人科医である私がこれですから、多くの女性たちは自分の体に関連付けてピンとくるように教えてもらっていないはずだよなぁ、どうやったらそれが伝わるかなぁ?と、私の試行錯誤が始まりました。

膣から血が出る=生理(月経)ではありません

月経は、日本産科婦人科学会の定義では「約1ヶ月の周期で起こり、限られた日数で自然に止まる子宮内膜からの周期的出血」とされます。

まず、そもそも、この「定義」からして問題があるんじゃないかと思うようになりました。

「膣から血が出る=生理」と表現する女性は意外と多く、医師がそれを額面通りに受け取ってしまい話が混乱することは、よくあります。

例えば、「生理がきたから妊娠はしてないと思う」と言って受診された方が診察したら子宮外妊娠だったという例。また、「生理中は妊娠しないんでしょ?」と信じ込んでいたら、その出血は「排卵出血」でばっちり妊娠!という例も結構あるのです。

なお、正常月経は、初経(初めての月経がくる)年齢は10~14歳(平均12.5歳)、周期(月経が始まった日から次の月経がくる前日までの)日数は25〜38日(変動±6日以内)持続(出血が続く)日数3〜7日(平均4.6日)、月経血量(1周期に出る出血量)20~140mlが正常とされています。

大切なのは、なぜ、だいたい月1回、決まった日に、決まった出血量が決まった日数で出ては止まるのかです。その「仕組み」について考えてみましょう。

注目すべきは「出血」ではなく「排卵」

月経というと、多くの人がどうしても出血に注目してしまうのですが、そもそも、妊娠に備えるための仕組みです。出血は「妊娠しませんでした」というサインにしかすぎません。

妊娠は、自分の遺伝子を子供に伝える仕組みであり、自分の遺伝子情報を載せている卵子が出せるか出せないか、すなわち「排卵」に注目することが重要です。月経は排卵した卵子が妊娠できなかった場合に、準備していた子宮内膜を剥がして「リセット」し、新たな妊娠に備えるスタートと考えるとよいでしょう。

男性は思春期以降、毎日新しい精子を死ぬまで作り続けられます。20歳前後をピークにその能力は低下するものの、ゼロにはならないのと対照的に、女性は胎児期(7〜800万個)をピークに出生時には約200万個と決まった数の卵子の元(卵母細胞)を持って生まれます。

思春期に入る頃には既に30万個ほどに減っているのですが、その頃に身長が一気に伸び、体脂肪が一定レベルを超えると、脳(視床下部)からの指令で毎月1個の卵子を排卵する準備ができます。

そして、平均50歳(45~56歳の間)で卵子が無くなる=閉経(生理が上がる)まで、毎月、卵子を選んで妊娠に備えようとしているのです。

中高生への性教育講演でも使っている図を見ながら排卵に注目して月経の仕組みを見直してみましょう。

子宮は鶏卵大、その両側に伸びた卵管の先に少し離れて左右の卵巣が親指大で存在し、その表面に卵子が眠っています。月経が始まると、司令塔である間脳の視床下部はその下の下垂体からFSH(卵胞刺激ホルモン)を分泌させ、それが卵巣に届くと卵子を選び始めます。

選ばれた卵子の周囲には「卵胞」と呼ばれる水風船状の袋が作られ、その中から1個(主席卵胞)だけが大きく育っていきます。卵胞の表面の細胞(顆粒膜細胞)からは女性ホルモンの代表であるエストロゲンが分泌され、子宮内膜を厚くしていきます。

主席卵胞が2.5㎝程になると十分に子宮内膜が厚くなり、エストロゲンが十分増えたことを感知した視床下部は、下垂体からLH(黄体化ホルモン)を一気に分泌させ(LHサージ)、卵胞が破裂して卵子を押し出します。これが排卵です。

排卵が終わると、破裂した卵胞の跡には黄色い塊「黄体」がその穴を塞ぐとともに、そこから「黄体ホルモン(プロゲステロン)」を分泌し、子宮内膜に受精卵が着床することや、妊娠の維持を助けます。

しかし黄体の寿命は約2週間と決まっており、排卵から2週間経っても妊娠しなければ黄体がしぼんでホルモン分泌が止まります。そして、子宮内膜は維持できなくなって出血として剥がれ落ちます。これが月経です。

ちなみに、自分自身で排卵できたかを知る方法として最も有名なのが基礎体温です。排卵後に分泌されるプロゲステロンに体温を上昇させる働きがあるのを利用したものです。

また、最近テレビCM等でみられるようになった「排卵判定薬」は、尿中のLHを検出するもので、LHサージが起こると36時間以内に排卵する理屈を応用したものです。

また、月経が遅れたときに使われる妊娠判定薬は、尿中の「ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)」を検出するもの。hCGは、受精卵が着床するとき子宮内膜の中に根のように伸ばしていく「絨毛」から分泌され、黄体の寿命を延長させるホルモンです。

現在薬局で購入できる妊娠判定薬は医療機関で使われているものと同じ感度なので、月経が遅れて妊娠の可能性があるときには、まず使ってみることをお勧めします。

なお、この排卵と月経の仕組みについては、一般社団法人女性アスリート健康支援委員会で私も作成に関わったパンフレット「女性アスリートの今と未来をまもる―月経とスポーツについての健康情報」に詳しくイラスト付きで書かせていただいたので、ぜひ参考にしてください。

無月経、月経不順が問題になるのは、主に2パターン

このように、排卵を挟んで前半はエストロゲン、後半はそれに加えてプロゲステロンという2つのホルモンによってコントロールされているのが月経の仕組みです。それぞれのホルモンには表のような働きがあります。

月経が止まる原因には以下の2つのパターンがあり、それぞれ将来的に起こる健康リスクが異なります。

1)エストロゲンが分泌されないタイプ

月経を起こす(=子孫を残す)ほどの体力的、栄養的な余裕がない場合、または卵子が存在しないか、あっても刺激に反応せず卵胞が作れない場合。専門的には「第二度無月経」とも言われます。

女性の体を守ってくれるエストロゲンの働きがなくなるので、骨が脆くなるなど、本来閉経後に起こり得る健康問題が若いうちから起こり得ます。

例)体重減少性無月経、運動性無月経、早発閉経など

治療の基本は、エストロゲンそしてプロゲステロンの補充(カウフマン療法)ですが、体重減少が著しい(標準体重の70%を下回る)場合はまずは体重を回復させることが優先されます。

2)エストロゲンはある程度あるのに、排卵が起こらずプロゲステロンが分泌されないタイプ

エストロゲンには子宮内膜を厚くする働きはあるものの、排卵してプロゲステロンを浴びないと、子宮内膜を維持したり、月経としてしっかり剥がしたりする力がありません。

専門的には「第1度無月経」とも言われ、月経が不順になるほか、子宮内膜が厚くなりすぎて大量出血を起こすことや、破綻出血と呼ばれる不正出血が起こることもあります。その状態が長期に続くと子宮体がん(子宮内膜に起こるがん)のリスクが上がります。

また、完全な無排卵ではなく「不定期に排卵する」ので「月経不順だからどうせ自分は不妊だろう」と思い込んでいると予期しない妊娠をする場合もあります。

例)多のう胞性卵巣症候群、高プロラクチン血症、ストレス等による一時的な無排卵など

治療の基本は排卵が起こらない時に黄体ホルモンを投与して消退出血(月経様の出血)を起こすこと(ホルムストローム療法)です。不定期に排卵・月経が起こるので月経痛が強い場合や避妊の必要性がある場合は、低(中)用量ピル(エストロゲン・プロゲステロン合剤)を投与し、排卵を抑えることもお勧めします。

積極的な妊娠希望がある場合は、排卵誘発剤を使用することも考慮します。

このどちらに当たるのかは、主に血液検査で各ホルモンの値を評価すること、また超音波検査で子宮内膜の厚みや卵胞の育ち具合を確認することにより、ある程度の判断が可能です。

その結果により、いますぐの妊娠希望があるのか、むしろ避妊したいのかなども加味して治療法を選択していくことになります。

以上のことを踏まえて、私は、

  1. 15歳を過ぎても初経(初めての月経)が来ないとき
  2. 3ヶ月以上の無月経が続くとき
  3. 月経周期が乱れがちで不正出血があるとき
  4. 確実に避妊をしたいとき、または妊娠したいとき

には産婦人科を受診し、自分の無月経・月経不順の原因がどのタイプであるのか、ちゃんと調べてもらい、納得がいく説明を受け、治療を始めていただきたいと思っています。

そして、「婦人科かかりつけ医のススメ」で書かせてもらったように、「困ったときに慌てて探す」のではなく、定期的に検診を受け、何か気になることがあればすぐに相談できる産婦人科のかかりつけ医を作ってほしいな、と思っています。

【江夏 亜希子(えなつ・あきこ)】  産婦人科専門医、日本体育協会公認スポーツドクター

1970年宮崎県生まれ。1996年鳥取大学医学部卒、2002年同大学院修了。鳥取大学医学部附属病院および関連病院での勤務を経て2004年より上京。東京大学大学院教育学研究科身体教育学講座でスポーツ・健康医学を学び、2010年4月東京・日本橋人形町に四季レディースクリニック開業。女性の健康・スポーツ医学を専門とし、診療の傍ら学校性教育などの講演・執筆活動にも力を入れている。