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婦人科かかりつけ医のススメ

婦人科って病気になった時に受診するものだと思っていませんか?

10年くらい前のこと。当時勤めていたクリニックに突然、高齢とおぼしき女性から電話がかかってきました。

「うちの娘の財布からお宅の診察券が出てきたんです! まさかうちの娘、婦人科に通うような『やましいこと』はしていないですよね?」

それはもう、すごい剣幕で!

もちろん我々には守秘義務がありますし、個人情報保護法に基づいても、その方が通院されているかどうかすらお答えすることはできません。丁重に説明してなんとか電話を切っていただきました。

その方が娘さんとおっしゃる方のお名前をカルテで調べてさらにびっくり。なんと20代後半!社会人の娘の婦人科通院をそんな風に思う母親がまだ存在するのかと驚きました。

婦人科にかかるのはやましいこと?

これは極端な例かもしれませんが、大学生の時、母の付き添いで産婦人科に行った妹は「〇〇ちゃんは妊娠したらしい」と噂を流されたそうです。

また、私が開業しようと物件を探しているとき、「婦人科なら、人目に触れないよう、一本裏通りの方がいいんじゃない?」と当然のようにアドバイスを下さる人は何人かいました。

最近でもツイッター界隈では「制服で産婦人科に出入りすると変な目で見られるから抵抗がある」とかいう書き込みを見たばかり。産婦人科受診をなにか「秘すべき、やましいこと」のようなイメージを持っている人は、まだまだ少なくないようです。

そういう私も産婦人科医になるまで、産婦人科を身近に感じたことはなく、「妊娠した時か、不正出血やおりものなど困った症状があるときに仕方なく行くところ」というイメージを確かに持っていました。

約20年前、1996年に産婦人科医となった私の大学病院での研修は、病棟の点滴当番から始まりました。朝に夕に子宮や卵巣のがん患者さんに手術前後や化学療法(抗がん剤)の点滴をして回るのです。

患者さんは母や祖母の世代の方ばかりではなく、自分とそう年齢が変わらない方も結構いらっしゃいました。当時は産婦人科に女性医師が少ない頃。点滴しながら他愛ない雑談をすることも多かったのですが、よく患者さんが寂しそうにつぶやく言葉がありました。
「こんなことなら、あんなに我慢せず、もっと早く病院に来ればよかった」

予防・早期発見が可能ながんなのに

彼女たちの多くが、気になる症状がありながら何ヶ月も我慢して、ようやく重い腰を上げて婦人科を受診し、がんと診断されていたのです。その時にはかなり病状が進行しており、治療はとても長く、つらいものになりました。

もちろん元気になられる方もいらっしゃいましたが、治療の甲斐なく、数年以内に亡くなる方もおられます。その中で、幼い子供を遺して逝く若いお母さんの病名は、ほとんどが「子宮頸がん」でした。

当時、子宮頸がんの原因がHPV(ヒト・パピローマ・ウイルス)であると判明したばかり。行われていた子宮頸がん検診は、1983年から施行された「老人保健法」に基づくもので、40歳以上が対象でした。

2002年に根拠法が「健康増進法」に変わり、性交開始年齢の若年化に伴う子宮頸がん患者の若年化を考慮して、2003年から対象が20歳以上(隔年実施)に引き下げられました。

そして、2006年には海外で特にリスクの高い型のHPV感染を予防する2種類のワクチンが開発され、2009年にサーバリックス、2011年にガーダシルが日本でも承認、2013年からは、公費でワクチンを接種する定期接種化され、「ついに子宮頸がんは早期発見だけでなく予防も可能な癌になった」と我々産婦人科は希望を見い出し、期待したものです。

しかし、我が国における子宮頸がん検診受診率はOECD(経済協力開発機構)加盟30カ国で最低の42.1%(2013年)にとどまります。

HPVワクチンにいたっては、2013年4月に定期接種化されてすぐ、6月には接種後に起こる痛みなどの副反応のリスクを危惧した厚生労働省から「積極的な接種勧奨を差し控える」との見解が出され、接種を受ける方がほとんどいなくなったまま4年以上が経過。非常に残念な事態です。

ワクチン接種に慎重になるなら、せめて検診受診率がもっと上がらなければならないのに、この4年で急激に上がったという印象もありません。

子宮頸がん検診は、全身の各臓器のがん検診の中で最も有効性が高いと世界的に認められています。子宮頸部の細胞を採取し、顕微鏡で診断する「細胞診」により、「前がん病変(がんになる手前)」で見つけることができるからです。

最近は、自治体によってはHPV感染の有無も一緒に調べる「HPV併用検診」も行われるようになり、検診の精度がさらに上昇する(見落とし、見逃しがさらに減る)ことも注目されています。

不正出血には産婦人科医もヒヤヒヤ

がんの「一歩手前」の状態(いわゆる「子宮頸がん0期」)を「上皮内がん」と呼びます。上皮とは皮膚の表面を覆っている血管が走っていない層。そこにがん細胞がとどまるうちに治療をすれば、子宮頸部の表面をレーザーで焼いたり、一部を切除(円錐切除術)したりするだけで治癒が期待できます。

病変が上皮内に留まれば出血はないはずなので、不正出血があった時点で、「上皮を越えてがん化しているかもしれない」と考えるわけです。しかも、血液中にはがんを発育させる栄養があり、がん細胞は血管やリンパ管を伝って他の臓器に転移するので、上皮を越えると一気にがんは進行します。

上皮内に病変がとどまるうちに発見する=不正出血などの自覚症状がないうちに検診を受けることが重要であること、お分かりいただけるでしょうか?

子宮頸がんはこの上皮内がんで発見が可能な、数少ないがんなのです。ですから、「検診を何年も受けていない」という患者さんが不正出血で受診されると、患者さんはもちろん、我々産婦人科医も結果が出るまでヒヤヒヤ肝を冷やすことになります。

「妊娠して初めて受診」では遅い

検診を受けたことがなく妊娠して初めて産婦人科を受診する、という人は、残念ながら今でも少なくありません。でも、それでは遅いのです。

日本人女性の初産平均年齢は2011年に初めて30歳を超え、2015年には第1子出産時の平均年齢は30.7歳となっています(内閣府少子化社会対策白書)。

一方、性交経験率は19歳で50%、22歳で70%を超えるとされ(日本家族計画協会「第8回男女の生活と意識に関する調査(2016年)」)、妊娠するまで検診を受けなければ、多くの人が性交を経験してから10年近く経過することになります。

妊娠の喜びと同時のがん宣告、赤ちゃんをあきらめるのと同時に子宮を失う、という悲劇は、もう見たくありません。そして、もちろん出産が終わっても、閉経しても、子宮や卵巣がある限り、がんのリスクはあります。

子宮頸がん検診は、先ほど書いたように「健康増進法」により各自治体(市区町村)20歳以上の方は少なくとも隔年(2年に1回)で受けられます。

実施の方法は各自治体(市区町村)によって異なり、自己負担の金額も無料から2000円程度まであったり、受診券が個別に届かなかったりするので、インターネットで「〇〇市(区) 子宮頸がん検診」と検索して確認しましょう。

職場の健保組合で検診を受けられる方はそちらで受けてもよいでしょう。もちろん、性交経験がない方は受診不要です。

「定期的に市区町村や職場で『子宮がん検診』を受けているから、私の子宮や卵巣は大丈夫!」と思っている方も多いようですが、残念ながら「子宮頸がん検診」しか行われていないこともお分かりいただけたでしょう。

季節のように移り変わる女性の体の一生

当然、それ以外に月経の悩み、避妊法の相談、性感染症の心配、更年期障害など、女性特有の体の悩みはたくさんあります。

2010年4月9日「子宮の日」に開院した私のクリニック。四季という名前の由来はいくつかありますが、小児科で診てもらえる子供時代を過ぎると、女性は思春期、性成熟期、更年期、老年期を経て人生を終えます。

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このまるで「四季」のようにダイナミックに変化する女性の一生を、より健やかに自分らしく生きられるようなサポートをしたい、というのが、この名前に込めた思いです。開院から7年半が過ぎようとしていますが、先日、とても嬉しい出来事がありました。

開院当初に母親に連れられて外陰部のかゆみで受診された小学生。産婦人科といえば、内診がイヤ、と思われる方も多いのですが、内診は必要な場合にのみ、ご本人の同意を得て行うのが基本です。この方の場合は外陰部の状態を確認する必要があることを説明し、内診台ではなく普通のベッドで拝見し、塗り薬を処方したらすぐに良くなりました。

その数年後、中学生になってHPVワクチンを受けにこられ、半年間で3回の接種を完了。当院ではHPVワクチン接種時、必ずみなさんに「いつか、性交を経験したら、子宮頸がん検診が必要になりますよ。性感染症のリスクもあるし、生理痛とかも我慢しないで早めに相談してね」とお話しすることにしています。

すると先日、高校3年生になった彼女が「彼氏ができたし、生理痛が心配だから」と一人で受診されたのです。きっと彼女は今後、月経困難症の治療で通院されながら、区の子宮がん検診を受け、妊娠希望の時には必要な検査をするでしょう。

めでたく妊娠したら妊婦健診に送り出し、産後もまた検診や避妊の相談、更年期障害の相談で来られるかしら? その間に彼女のお子さんも来るかもしれないし、お引越しされない限りはお付き合いできるのかなとすごく楽しい想像をしました。

「いや、私が何歳まで現役で頑張れるかしら? 元気で長く頑張らなくては!」と思いを新たにしたところです。

彼女のように、初経(初めての月経)を迎える頃から「かかりつけの産婦人科医」がいて、その時その時に必要な検査がスムーズに受けられるのが当たり前になると素敵だと思いませんか?

「私のかかりつけ産婦人科医」はどう探せばいいの?

とはいえ、どこの産婦人科を受診したらいいのかが分からない、という声もよく聞きます。

日本産科婦人科学会では、従来から注力してきた周産期医学(妊娠・出産を扱ういわゆる「産科」)、生殖内分泌学(不妊症や女性ホルモン関連疾患)、婦人科腫瘍学(婦人科がんなどの腫瘍)の3つの柱に加え、4つ目の柱に注目するようになってきました。

それは、「女性医学」、すなわち女性のQOL(Quality of life生活の質)の維持・向上のために、女性に特有の心身にまつわる疾患を予防医学の観点から取り扱うという専門分野です。

そして、その志を持った全国の産婦人科医を集めて、2014年から「女性ヘルスケアアドバイザー養成講座」を開催しています。

講座の内容は一般的な月経関連疾患の診断、治療から、性暴力・DV被害者、性別違和を抱える方の支援など多岐にわたる分野を網羅し、まる1日みっちり缶詰めの講義を年間5日間受講し、最後には確認試験も受けなければなりません。

2016年度までの3年間に457名の産婦人科医が受講を修了し、今年度も講座は続いています。修了者は学会HPでも確認できるので、受診先の参考にされてはいかがでしょうか。

産婦人科は「困った時に慌てて探して受診するところ」ではなく、「かかりつけ産婦人科医がいて困る前に対処できるのが当たり前」に、近い将来変わっていくことを切に願っています。


【江夏 亜希子(えなつ・あきこ)】  産婦人科専門医、日本体育協会公認スポーツドクター

1970年宮崎県生まれ。1996年鳥取大学医学部卒、2002年同大学院修了。鳥取大学医学部附属病院および関連病院での勤務を経て2004年より上京。東京大学大学院教育学研究科身体教育学講座でスポーツ・健康医学を学び、2010年4月東京・日本橋人形町に四季レディースクリニック開業。女性の健康・スポーツ医学を専門とし、診療の傍ら学校性教育などの講演・執筆活動にも力を入れている。


※この記事はBuzzFeed JapanとYahoo! JAPANの共同企画に加筆修正を加えたものです。

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