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中国の原因不明の肺炎で1人死亡 最新情報を冷静に分析しました

中国の武漢市で発生している原因不明の肺炎で1人死亡したというニュースが流れました。最新情報を分析すると、感染力はそれほど強くないことがわかります。

NHKで中国湖北省の武漢市で発生している原因不明の肺炎について、以下のような報道がありました。

『中国 武漢 原因不明の肺炎で61歳男性死亡 初の死者か』

この肺炎による初の死者がでたというニュースです。亡くなったのは61歳の男性で、他に7人の重症者がいるそうです。

このようなニュースがでると不安に思う人が多くなってくるのは当然のことです。亡くなった男性は、他の基礎疾患があったとの情報もあるのですが、それでも死亡することがあるという情報はインパクトがあるからです。

このような時こそ、少ないながら、現時点でわかっている情報を冷静にみる必要があります。

(1)現時点で患者数は41人と報告されている。

この原稿を書いている1月12日時点では、患者数は41人となっています。当初は59人と発表されていました。原因不明の肺炎ということで、よりしっかりと診断していくことで除外例がでてきたことが想像されます。

(2)原因のウイルスについて、「新種のコロナウイルス」との報告がある。

あくまでも現時点での情報であり、どこまでウイルスが同定されているのかという報告はありません。コロナウイルスは人の風邪ウイルスのひとつとしても有名です。

しかし、人が経験していないコロナウイルスが、新たに動物などから人に感染することがあります。これまでにも、新型ウイルスとしてSARS(サーズ)やMERS(マーズ)の流行がありました。

(3)死亡者が1人、その他に7人の重症者がいる。

コロナウイルスによるSARSの死亡率は約15%、MERSが約35%とされています。ちなみにウイルスの種類は異なりますが、1918年に世界で流行したスペイン風邪と呼ばれたインフルエンザの死亡率は約2.0%と報告されています。

現時点での報告数をみると、41人のうち1人が死亡ということは、死亡率2.4%ということなります。したがって、これまでに流行したSARSやMERSと比べれば致死率は低いことがわかります。

ただし、まだ重症例が7人いることから、この数値は上昇する可能性が残っています。

その一方で、今回診断された人が、感染者の全てかどうかはわかっていません。もしかすると、初期の段階では、軽症例が見落とされている可能性があるからです。そのような軽症例が存在していたとすると、死亡率はさらに低下することもあるのです。

(4)家族や医療者からの感染者が報告されていない。

今のところ、家族や医療者などの接触者への、持続したヒトーヒト感染(人から人への感染)は報告されていません。

この感染症が発生した当初は、新たな感染症という意識がなく、家族や医療者が接触しているはずです。そのような中で、家族や医療者からの感染者がないということは、ヒトからヒトへの感染が起こりにくいということを示しています。

ただし、ヒトからヒトへの感染を起こすことが全くないかどうかについては不明です。たとえば、ウイルスを多く排出している患者から、ごく稀に限定的なヒトーヒト感染を起こす可能性は否定されていません。

(5)1月3日以降は新たな感染者が報告されていない。

今回の肺炎が、新たな感染症の可能性があると判断された時点から、患者に接触した人に対しての「接触者調査」が開始されているはずです。

しっかりと接触者調査を行っているならば、その後は接触した人からも新たな感染者が発生していないことがわかります。このことも、ヒトーヒト感染が起こりにくい感染症であることを間接的に証明する事実となるでしょう。

(6)現時点で感染源は不明である。

患者の中には、同じ市場を利用した人が多くいることが発表されています。このことから、市場で扱っている動物や鳥などが感染源であった可能性があります。しかし、現時点では感染源に関する新たな報告はありません。

(7)直接の治療薬やワクチンはない 手洗いや咳エチケットは有効

今のところ原因となっているウイルスも、新種のコロナウイルスが疑われているという状況です。一般的にはコロナウイルスに対する直接の治療薬はありません。

また、原因特定されていない状況であり、ワクチンもありません。

しかし、「手洗い」や「咳エチケット」という日常的な感染対策の基本については、この原因不明の肺炎に対しても有効です。日頃から「手洗い」や「咳エチケット」を身につけておくことが、いかに大切かということを、この機会に学んでいただけたらと思います。

感染力は決して強くないとみられるので冷静に

以上、これまでに発表されている情報の見方・考え方をまとめてみました。このように、今のところは中国・武漢で発生している肺炎の感染力は、決して強くはないと考えられます。

また、一般の人が日常的な対策としてできることも限られます。報道側は過剰に煽ることなく正しい情報を発信し、それを見る側の人も冷静に内容を確認していくことが大切だということを、改めてお伝えしたいと思います。

【今村顕史(いまむら・あきふみ)】がん・感染症センター 都立駒込病院 感染症科部長

石川県出身。1992年、浜松医大卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。駒込病院感染症科のウェブサイトはこちら