中国の湖北省武漢市で発生している原因不明の肺炎。同市の衛生当局によると、1月5日までに原因不明のウイルス性肺炎を発症した59例が報告されており、そのうち7人は重体になっているとのことです。
現時点でわかっている情報を整理してみましょう。
人から人への感染は報告されていない
外務省も、この原因不明の肺炎の発生に対する注意喚起として、1月8日付けでスポット情報を出しています。
現時点でわかっているポイントをまとめると以下となります。
- 中国の同一地域で、原因不明のウイルス性肺炎が発生しはじめた。
- これまでの検査で、これまでに流行のみられた鳥インフルエンザやSARSなどは否定。
- 現時点では原因ウイルスの特定については発表されていない。
- 家族や医療者などの接触者に継続的なヒト-ヒト感染(人から人への感染)は報告されていない。
- 発生地域の海鮮市場を利用した人が多く含まれている。
SARS(重症急性呼吸器症候群)は、2002年に中国で発生したウイルス感染症で、アジアを中心として大流行を起こしました。また、鳥インフルエンザA(H7N9)は、2013年3月から中国において患者が報告されています。
2015年には、韓国でMERS(中東呼吸器症候群)の流行が起こり、186人が感染して38人が死亡しています。この韓国の事例では、院内感染が多く起こっていたことがわかっています。
このような、過去に流行を起こした、検査が可能なウイルス感染症については、現時点で否定されているとのことです。
時事通信の報道によると、新型のコロナウイルスを検出し、SARSやMERSもコロナウイルスを原因としますが、この二つとは違う種類のウイルスだそうです。
新たなウイルス感染症の可能性を考えて、原因ウイルスの解明をすすめているところです。
「春節」休暇での観光客 冷静な対応を
中国は、これから「春節」の期間を迎えます。「春節」は日本のお正月にあたり、1月24日~1月30日が春節休暇となるため、多くの観光客が来日することが予想されます。
今回の原因不明の肺炎が発生している武漢市だけでも、その人口は1100万人となります。そのため、外務省からも、注意喚起の情報が出されているのです。
繰り返しますが、継続的な人から人への感染は今のところ確認されていませんから、冷静な対応が必要です。
可能性としては、基本的にはヒト-ヒト感染はしにくいと考えられますが、中には感染者から多くのウイルスを排出する場合が稀にあるかもしれず、限定的に感染する可能性も捨て切れません。
一方、この原因不明のウイルス肺炎の、今後の流行拡大については注意してみていく必要があります。また、発生地からの渡航者や帰国者が発熱や咳などの症状を発症した場合には、医療機関で肺炎がないかを検査することも必要です。
現在の日本国内はインフルエンザの流行期となっているので、入国後のインフルエンザ感染の可能性も高くなるでしょう。冷静に見分けることが必要になります。
ウイルスの感染経路もいまだに不明
また、この肺炎の原因となっているウイルスが、どこで感染しているのかも判明していません。
SARSの時には、ハクビシンという動物との関連が疑われました。MERESはラクダが保有しているウイルスです。
また、鳥インフルエンザ(H7N9)については、市場の鶏がウイルスを保有していたことがわかっています。
これらの例のように、なんらかの動物や鳥がウイルスを保有している可能性もあります。いずれにしても現時点では、今回の肺炎については、まだまだ明らかとなっていない情報が多く残っているのです。
現時点では感染力はそれほど強くないとみられる
この数日、徐々に報道でも取り上げられる機会が増えているようです。短期間に多くのニュースが流れると、それに伴って不安に思う人も増えていきます。今のところ、家族や医療者などの接触者へのヒト-ヒト感染は報告されていません。
このことは、感染対策としては非常に重要なポイントとなります。ヒト-ヒト感染が起こりやすい状況であれば、感染したヒトに接触したヒトへと感染が広がり、大きな流行となる可能性が高くなってしまうからです。
現在の報告からは、感染力は決して強くはないと考えられています。過剰な不安を煽ることのないように、報道側も注意する必要があると思います。
そして、ニュースを見る側の人も、冷静に正しい情報を確認していくことが大切です。この感染症の流行については、引き続き新しい情報をお伝えしていきたいと思います。
【今村顕史(いまむら・あきふみ)】がん・感染症センター 都立駒込病院 感染症科部長
石川県出身。1992年、浜松医大卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。駒込病院感染症科のウェブサイトはこちら。