オルタナ右翼が愛する電子音楽とは

    白人至上主義者の電子音楽「ファッショ・ウェイブ(fashwave)」

    2015年11月に電子音楽専門プロデューサーのCybernaziが「SoundCloud」に投稿した最初の楽曲「Galactic Lebensraum(銀河生存圏)」は、リブート版ハリウッド映画の音楽バージョンと言える。いわば、真新しい型に古い思想を流し込んでいるような感じだ。

    「Galactic Lebensraum」に歌詞はない。だが、「東方生存圏」獲得を目指すアドルフ・ヒトラーのドイツ領土拡張政策を想起させるタイトルであり、「ネオナチ系音楽」に分類されている。ネオナチ系音楽とは、1970年代後半~1980年代の「Oi!」パンクやRAC(ロック・アゲインスト・コミュニズム)のようなジャンルに端を発するもので、『アメリカン・ヒストリーX』や『グリーンルーム』といった映画で、スキンヘッドがモッシング(興奮した観客が密集し無秩序に体をぶつけあうこと)している場面で流れる音楽だ。

    だが、レトロなシンセサイザーのリズミカルな音で構成された「Galactic Lebensraum」の場合、サウンド自体は、そうしたジャンルと似てはいない。重複ジャンルを手がけるほかの同好アーティスト数人の作品とともに、「ファッショ・ウェイブ(fashwave)」と呼ばれるインストゥルメンタルにほぼ属する。ファッショ・ウェイブは、新時代の白人至上主義者たちの実質的なテーマ音楽として出現した。「ファッショ・ウェイブ(fashwave)」という単語は、「ファシスト(fascist)」と「シンセウェイブ(synthwave)」(ビデオゲームや80年代のアクションスリラーに見られる、熱狂的な音高のノスタルジックな電子音楽)の混成語だ。音楽的には、黒人刑事と白人刑事のコンビではなく、ホロコーストが事実だとは考えていない白人刑事コンビが登場する昔の映画のサントラにやや似ている。

    YouTubeでこの動画を見る

    youtube.com

    ファッショ・ウェイブは、米大統領選でドナルド・トランプ氏を積極的に支持したオルタナ右翼の掲示板で人気を得ている。「Daily Stormer」や「Right Stuff」、「National Policy Institute」といった掲示板だ。オルタナ右翼たちの、それほど仰々しくなくて、いささか皮肉なトーンを直感的に音楽で表現しているからだろう。ルーツは、ネット界の主流から外れた、白人至上主義の若者に人気の画像掲示板やビデオゲーム、SFだ。オルタナ右翼は、実質的に組織化して政治的ビジョンを示し、主流の観測筋を驚かせた。それと同じようにファッショ・ウェイブは、文化の一新および、独自のものと言える音楽シーンを軸とした統合やプロモーションを目指している。

    BuzzFeed Newsによるインタビューを拒否したCybernaziは、ファッショ・ウェイブ分野の最も人気があるアーティストで、「YouTube」でのストリーミング再生回数は30万回前後に上る(以前のジャンルタグはそのものずばり、「ヒットラー・ウェイブ(hitlerwave)」だった)。だが、トランプ時代に浮上してきたファッショ・ウェイブのアーティストはほかにも数人おり、数十曲の楽曲やプレイリストが現在、オンラインで公開されている。YouTubeやSoundCloud、「Bandcamp」で広まるこうした音楽は、自分たちの時代が来たと信じるストレートの若い白人男性たちにとってのテーマ音楽となっているのだ。

    Galactic Lebensraum」と、4月20日(米国時間)にBandcampでリリースされたCybernaziの同名アルバムは、誕生したばかりのジャンルであるファッショ・ウェイブの枠組みをかたちづくった。ファッショ・ウェイブは、シンセウェイブのレトロフューチャーを模倣しながらも、現代のナチス支持者や白人至上主義者たちが書く二次創作小説のテーマやイメージを融合させている。アルバム収録曲のタイトルは、「Right Wing Death Squads(右翼の暗殺部隊)」や「~ ∆ R Y ∆ N 卐 F V T V R E ~(アーリア人の未来)」、「Cyber Kampf(サイバー世界の闘争)」などで、戦前の支配民族思想を想像上の結末に結びつけている。

    多くの白人至上主義者たちは、「アフリカ的なリズム」と感じられる音楽を否定し、エレクトロニック・ダンス・ミュージック(EDM)に対しては、「退廃」音楽だとして眉をひそめる。「退廃」というのは、ヒトラーの芸術統制からオルタナ右翼が拝借した用語で、「憎む者と負け犬たち」(訳注:haters and losersは、トランプ氏がよく使うスラング的表現)に対して使える軽蔑語だ。

    ファッショ・ウェイブは環境音楽であり、ダンス・ミュージックではない。ほとんど歌詞がないので、ソーシャルメディアの検閲を避けられる。また、ポップカルチャーに何十年も前から存在してきた白人男性の空想を思わせるメロディーだけを選んでいる。映画『ハロウィン』、『ニューヨーク1997』のサントラ音楽で有名な作曲家ジョン・カーペンターや、ドイツのロック/シンセサイザー音楽グループ「タンジェリン・ドリーム」が電子音で表現した夢のような超現実的情景(映画『卒業白書』、『恐怖の報酬』のサントラでも有名)、ドイツのバンド「Kraftwerk」の技術崇拝、8ビット・アーケードゲームのチップチューンがもたらす興奮状態、映画『ドライヴ』のサントラが思い出させる、ブラックライトに照らされたロマンスといった具合だ。

    Daily Stormerの開設者であるアンドリュー・アングランは、「The Official Soundtrack of the Alt-Right(オルタナ右翼の公式サントラ)」というタイトルの8月の投稿で、ファッショ・ウェイブを「ミレニアル世代の子供時代の精神」や「われわれの革命の音」と呼んでいる。アングランはBuzzFeed News宛のメールで、ファッショ・ウェイブは「ムーブメントを支える皮肉な感情にぴったり合う」、旧世代のネオナチ音楽はもはやクールではない、と述べている。

    「今の時代、パンクやハードコアくらい"ぶっ飛んでない"ものは考えにくい」とアングランは書いている。

    アンドリュー・「ウィーヴ」・アウエルンハイマーは、ハッカーにしてネット荒らしであり、「コンピュータ詐欺および不正利用防止法」(Computer Fraud and Abuse Act:CFAA)に基づき2013年に収監されて悪名を馳せたファッショ・ウェイブ・ファンだ。そんなアウエルンハイマーは、トランプ時代にファッショ・ウェイブが勢いを見せていることについて、別の説明をしている。「われわれの勝利だ。これはお祝いの音楽だ」とTwitter経由でBuzzFeed Newsに直接メッセージを送ってきたのだ(アウエルンハイマーのTwitterアカウントはその後停止された)。


    Xuriousは、SoundCloudに30曲の楽曲を公開しており、平均再生回数は各曲約3000回となっている。10月にリリースされたアルバム「Rise of the Alt-Right(オルタナ右翼の台頭)」は、スペンサーがデザインしたオルタナ右翼の公式ロゴをアートワークに使用している。スペンサーにコメントを求めたが、回答はなかった。だが、9月に行われた記者会見では、ファッショ・ウェイブに対して親近感を抱いていると語っていた。星空をバックに幾何学的な「AR」――「オルタナ右翼(alt-right)」の略――の文字を描いたロゴは、「シンセウェイブのノスタルジックな音」にヒントを得たという。


    XuriousとCybernaziはいずれも、2015年11月にパリ同時多発テロが起きた直後に、初めて楽曲をオンラインに投稿した。XuriousのSoundCloudアカウントで最も古い曲「Requiem for Paris(パリのためのレクイエム)」は、パリ同時多発テロについてはっきりと言及している。3月に「Nationalist Public Radio」ポッドキャストで行われたThe Right Stuffの長いインタビューで、Cybernaziは、ボイスチェンジャーを使用したうえで、自分の音楽はパリ同時多発テロに対する憤りに刺激されたと述べた(Xuriousのソーシャルメディア・アカウントにコメントを求めるメッセージを送ったが、返事はなかった)。

    だが、ファッショ・ウェイブが音楽ムーブメントとして完全に結晶化したのは、トランプ氏が米大統領選へ立候補したのがきっかけだった。世界中の白人至上主義者が、移民送還やイスラム教徒の米国入国禁止といったトランプ氏の政策に喝采を送るなかで、アングランやスペンサーのような者たちは、白人しかいないユートピア的未来という喜びに満ちた空想とともに、ファッショ・ウェイブを受け入れた。ソーシャルメディアには、さらに多くのファッショ・ウェイブ専門プロデューサーが出現した。

    とりわけ頻繁に取り上げられたのは、Stormcloakや、Stereo Balilla、DJ兼グラフィックデザイナーのGenosaviorだ。彼らは、アートワークにたびたびトランプ氏の画像を使用し、80年代のSF関係の印刷物から盗用したネオングラフィックの横に並べた。Genosaviorは最近、ふざけたタイトルの代表的なコンピレーションアルバム「Fashwave: New Clear Don(ファッショ・ウェイブ:ニュークリアなボス)」(訳注:nuclear=核は、new clearと重ねている)をTwitterで紹介した。カバーは、星空に向かって打ち上げられようとしている2基のスペースシャトルの間で、トランプ次期大統領が目からビームを出しているデザインだ。

    ピックアップできるアーティスト陣がまだ少ないので、オルタナ右翼のファッショ・ウェイブ・ファンはふだん、ありふれたシンセウェイブを聴いたり共有したりしている。そして、ミーム「Pepe the Frog(カエルのぺぺ)」や単語「cuckold(寝取られ男)」のように、シンセウェイブはオルタナ右翼独自のものとされてきた。

    Daily Stormerに繰り返し掲載される特集「Fashwave Fridays」には通常、80年代のファッションや技術を設定を変更して描いた写真やGIFのTumblr風フィードとともに、Power GloveやPerturbator(白人至上主義との関連は不明)のようなシンセウェイブ・アーティストのYouTubeの埋め込み動画数本が含まれている。白人至上主義者のオンラインラジオ局「Black Sun Radio」は、7月から毎週金曜日と土曜日の夜に、普通のシンセウェイブと真正ファッショ・ウェイブを切れ目なしに織り交ぜて流している。

    もちろん、シンセウェイブ・コミュニティの皆がオルタナ右翼とのつながりを快く思っているわけではない。30万人以上のフォロワーがいるレコードレーベルのYouTubeチャンネル「NewRetroWave」は、オルタナ右翼や白人至上主義者と明らかなつながりはない。それなのに、Fashwave Fridaysで特によく取り上げられ、Twitterでは「fashwave」のハッシュタグ付きで表示されることが多い。「Ten S.」と名乗る28歳のNewRetroWave開設者は、BuzzFeed Newsとのインタビューで、「われわれの動画に、こことここが『ファッショ』だと書かれたメッセージが投稿されているのに気付いて、とても心配している」と述べた。

    Ten S.は対策として、様々な文化を表現した動画をもっと数多く投稿して、悪用されにくくするつもりだ。「人として、前進したり、愛したり、いっしょに働いたりすることを目指すべきだ。偏見やヘイトには反対だ」とTen S.は語る。


    (この記事は英語から翻訳されました。翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:中野満美子/BuzzFeed Japan