Twitchのゲーム実況で生計を立てる。英の人気配信者たち

「どうせゲームをするんだから、配信しているほうがいい」

    Twitchのゲーム実況で生計を立てる。英の人気配信者たち

    「どうせゲームをするんだから、配信しているほうがいい」

    長い1日の終わりには、ただひたすら、「PlayStation 4」で何時間でもゾンビ退治をしたいと思うかもしれない。だがあなたが、ゲームプレイをオンラインで実況配信(ストリーミング)している数千人に上るゲーマーのうちの1人なら、同時にウェブカメラを起動して、ゲーム専用配信サイト「Twitch」にもログインするだろう。

    Twitchが何であるかを説明するには、同じくらい人気がある世界的な娯楽、サッカーをたとえに使うほうが簡単かもしれない。

    あなたがサッカーファンであるとしよう。サッカーのヒーローといえば、リオネル・メッシやロナウド、イブラヒモビッチといった選手だ。毎日、彼らといっしょに過ごし、彼らのトレーニング風景を見て、タッチラインから試合を見守ることができるとしたらどうだろうか。質問し、冗談を言い合うこともできる。メッシから、チームメイトのネイマールやルイス・スアレスとのサッカー練習に誘われたと想像してみよう。

    ゲーマーの場合は、こうしたことを想像する必要がない。Twitchがあるからだ。メッシやロナウドの代わりに、どこか小さな町の控えめな少女がスーパースターだ。この少女には世界中に何千人もの熱狂的ファンがいる。ファンたちは、少女がプレイするたびにチャンネルを合わせる。少女とチャットしたり、そのチャンネルに登録したり、彼女がもっといい機器を購入できるように、資金集めを始めたりもできる。いっしょにゲームをしようと、少女から誘われることもある。

    Twitchでは毎日、大勢のゲーマーたちが自分のゲームプレイを実況配信している。世界で最も人気があるビデオゲームの世界最高峰プレイヤーたちが集まっているのだ。視聴者たちは何百万人もいる。彼らは、スマートフォンやノートPC、テレビでチャンネルを合わせ、自分たちのヒーローが敵チームをぶちのめしたり、王子を助けたりするのを見守っている。

    こうした人気により、2011年に初配信したTwitchは、2014年、「ピーク時のネットトラフィック・ランキング」で4位にランクインした。そして2015年には、10億ドルでAmazonに買収された。

    ゲーマーでなければ、Twitchについて聞いたことはないだろう。聞いたことがあっても、なぜそんなに人気なのか理由がわからないかもしれない。我々はその理由を知るために、英国に住む配信者(ストリーマー)3人に会ってみた。

    「視聴者とのやりとりを楽しんでいる。ゲーム生活がはるかに面白くなりました」。エセックス州出身の28歳のTwitch配信者ターニャ(ハンドルネーム「TankRacerGirl」)は、こう語る。

    ターニャは長年のゲーマーだったが、友だちに勧められて、2014年に配信を開始した。

    「当時、友人のヘイリーが『バトルフィールド4』を配信していました。私は家に行って、彼女の配信中にいっしょにゲームをしていたのです。自分で配信しようと決めたのは、彼女とそのTwitchコミュニティが理由」と、ターニャは語る。

    「Twitchで配信を始めて世界が変わりました。ゲーミングがもっとソーシャルになり、すばらしい友人も何人かできました。私のコミュニティは大家族のようなもの。彼らを『Tankheads』と呼んでいます」

    ターニャは日中、小売チェーン「マークス&スペンサー」のロンドン店で美容アドバイザーとして働いている。コミュニティが時々、少額の「ドネーション(寄付)」をしてくれるので、新しいモニターを買うのに十分な額を貯金できた。彼女といっしょにプレイしたいファンから、ゲームが送られてくることもある。ゆくゆくは、TankRacerGirlを本職にしたいと考えている。

    「そうなれたら、すばらしいと思います。配信の時間が今は十分とれません。いろいろゲームを持っているけれど、1日に使える時間が十分ないので、仕事と両立させながらゲームを全部やることはできません」

    Twitchでの配信が、実際に仕事になる場合もある。世界には約1万7000人のTwitchパートナー(サブスクリプションを通じて収益を上げられる配信者)がいるが、そのうち、プロに転向するのに十分な収益を上げているパートナーは、ごくわずかにとどまる。

    クレイグ(ハンドルネーム「OnScreen」)は、英国中部、ウィラル半島に住む29歳のTwitch配信者だ。2年ほど前に、フルタイムでTwitchに取り組むためにロイヤル・ダッチ・シェルでの仕事を辞め、プロとして配信を行っている。

    「IT関係で、すばらしいキャリアを築いていました。でも、サブスクライバー(配信者の会員)が1000人に達したら仕事を辞めると、いつも言っていました。2015年初めにサブスクライバーが1000人に到達し、その後に退職を申し出ました。上司との気まずい会話を今もまだ覚えています」

    「仕事を辞めて配信で生計を立てたい、という人を大勢見てきました。だが自分としては、配信は趣味にするようアドバイスします。最終的に生計を立てるのに十分な収益を上げられるようになったら、そうすればいいのです。ただ、生計を立てることを配信の主眼にすべきではありません。金のためではなく、楽しむために配信してほしいのです」と、クレイグは言う。

    Twitchは、視聴は無料だが、人気チャンネル向けにTwitchパートナープログラムを提供している。Twitchパートナーは、自分のページにサブスクリプション用ボタンが表示される。ファンたちはそのボタンを通じて、月4.99ポンド(約700円)で配信者のチャンネルをサブスクライブできる。この収益は、配信者とTwitchで山分けされる。

    クレイグはこう語る。「私の『仕事』全体が、コミュニティを拠り所にしています。私の配信を視聴するのに金を払う必要はありません。サブスクライブやドネーションをする必要もないと思っています。でも、何千人もの人がそうしてくれるのは、私の配信を楽しんでいるからです。私自身も、30人を超える配信者をサブスクライブしています」

    チャンネルの規模が大きいので、クレイグは、自社製品を宣伝してほしいブランドからのスポンサーシップによる収益も得ている。また、Twitchの広告主数社と接する機会もあり、レッドブルのような企業のスポンサー付き配信に登場している。

    実入りのいい立場にあるが、クレイグは、他の要因と同じくらいタイミングと運も影響していると考えている。

    「私が配信している主なゲームは、『Counter-Strike: Global Offensive』です。配信を始めたときは、今ほど人気があるゲームではなかったが、人気が高まるにつれて、私の配信も増えました。最初に手がけた数少ない幸運な配信者の1人だったのです」とクレイグは言う。

    「Counter-Strike: Global Offensiveは人気が高く、配信者が多いので、今になって配信を開始したとしても、これほどの視聴者を引き付けるのはかなり難しいでしょう」

    リー(ハンドルネーム「LeahLovesChief」)は、ハンプシャー州に住む23歳のTwitch配信者だ。1年半前に、フルタイムで配信するために、フリーランスのビデオ撮影の仕事を辞めた。

    「いろんな人と会って、やりとりするのが楽しいです。それに、体験を完全に共有できる。反応を見て楽しんでもらえると、ゲームがもっと面白くなリマす」とリーは語る。

    リーは2015年に「Destiny」を配信し始め、Destinyファンの視聴者層を確立した。すぐにTwitchパートナーになり、サブスクリプションやスポンサーシップ、チップから収益を上げるようになった。

    「Twitchコミュニティが成長していったため、配信にもっと時間を注がないといけなくなり、ビデオ撮影の仕事を徐々に減らしていきました。今はだいたい、配信に毎日4~7時間費やしています」とリーは言う。

    Twitchでたちまちスターの座にのし上がったが、リーは、オンラインでの名声に付きまとう負の側面にも対処しなければならなかった。この数年間、かなり恐ろしい荒らしの被害に遭ってきたのだ。執拗に絡んでくる男たちに対して、自身のチャンネルへのアクセスを禁止したところ、彼らは直接会いに来た。また、米国の匿名掲示板「4chan」で、特に悪意ある者たちの注目の的になり、それが「Twitter」や掲示板に広まったりもしている。

    「あらゆる侮辱の言葉を投げかけられ、ひどい荒らしにも遭ってきました。でも、大勢の非常にすばらしいモデレーターがいます。それに、私のコミュニティは、とても思いやりがあって心が広いのです。ほとんどの場合は、そうした不快な経験を補ってあまりあると思っています」と、リーは語る。

    Twitch配信者は、ビデオストリームの横に表示されるチャットモジュールを通じて、ファンたちとやりとりする。すべてのコメントシステムやチャットシステムと同じく、Twitchでも荒らしはよくある。他のソーシャルメディア・チャンネルや、現実の生活にまで波及する場合も時々ある。そのためTwitchでは、チャットチャンネルのコメントを削除したり、繰り返し荒らす者をアクセス禁止にしたりする役割を担う「モデレーター」を配信者自身が指名できるようになっている。また、配信を少なくとも24時間フォローしていなければ、新規アカウントはチャンネル内でチャットできないシステムも導入しようとしている。

    「問題画像を削除するのに24時間以上かかるTwitterと違って、Twitchは、いくつかの実際に役立つ対策ツールに取り組んでいます」

    配信者の初期費用はさまざまだ。ターニャの場合は、PS4とウェブカメラ、ノートPCというかなりシンプルな道具でスタートした。その後、ドネーションを元手に、90ポンド(約1万2000円)で中古のPCモニターを手に入れ、座り心地の良い椅子も追加した。現在は、高性能PCのために貯金中だ。そのPCに配信を担当させ、PS4のCPUを開放してゲームに集中させる予定なのだ。

    それとは対照的に多額を費やしているのがクレイグだ。彼は自身の設備について、一から購入しなければならないとしたら6000ポンド(約83万円)ほど掛かると見積もる。内訳は、3台のモニターと2台の高性能PC(ゲーム専用が1台、配信用が1台)、その他のハイエンドな周辺機器だ。その多くは平均的な配信者には不要だ、とクレイグは認めている。だが、1日に6~7時間配信し、それが唯一の収入源なので、プロ仕様の設備を持っていることが大事なのだ。

    リーの設備は、ターニャとクレイグの中間くらいだ。リーも、ハイエンドのゲーム用PCで配信を行っているが、ほとんどの設備と同様に、ASUSとのスポンサー契約に従って提供されたものだ。グリーンスクリーンもある。これはハリウッドの映画制作で用いられるちょっとした技術で、Skype通話のように画面上に長方形の画面を重ねるのではなく、画面の最下部に上半身だけを表示できる。必須アイテムではなく、多くのトップ配信者は利用していないが、リーはグリーンスクリーンを好んでいる。

    「よりプロらしく見えると思います。大きなウェブカメラの画面に邪魔されたくないので満足しています。おかげで視聴者はゲームプレイにもっと没頭できるはずです」とリーは言う。

    Twitchは世界的に人気だが、まだ「YouTube」や「Netflix」ほど有名ではないので、どういうものなのか人に説明するのが難しい場合もある。

    「私が何をしているのか人に説明するときには、YouTubeに似ているけれど、ライブなのだと言っています。ずっと私をサポートしてくれた父以外、家族は理解していません」とクレイグは言う。

    ターニャはプロではないし、他のゲーマーとライブで協力したりもしていない。友人や家族は、ターニャのゲームプレイをオンラインのライブ配信で視聴したがる人がいることを、少し奇妙なことだと思っている。

    「でも、配信する時間については支えてくれています。私が配信を楽しんでいるからです。Twitchを私に紹介した友人のヘイリーは、私の配信をいつも視聴していて、初日から励ましたり支えてくれたりしました」とターニャは語る。

    Twitchの魅力と成功を話題にすると、3人は常に「コミュニティ」に話を戻す。クレイグは、年月を重ねるうちに、長年の支持者数人と親密な関係を育み、ゲームイベントで直接会ったりしている。「最大のドナーは男性で、これまでにたぶん7000ポンド(96万円)くらい寄付してくれました。イベントで会うのは奇妙な感じだった。『やあ、ありがとう!』と声を掛けました」

    クレイグの家を訪問すると、デスクトップは、ボブ・ロスの画像にクレイグの写真を合成した画面になっていた。米国人の画家でテレビ番組の司会も務めるロスは、Twitchのミームのような存在になった。Twitchには、24時間ぶっ通しで彼の番組を配信する専用チャンネルまである。クレイグによると、「Adobe Photoshop」を使って彼の日常の顔写真を有名人の上にペーストした画像が、コミュニティから送られてくるのだという。

    「これまでに数百枚の画像をもらいました」とクレイグは笑いながら言う。「最高のコミュニティの1つに違いありません。イベントに参加して、様々な人たちに会うけれど、皆とてもいい人たちなのです」

    成功しているチャンネルを運営する醍醐味の1つは、双方向でフォロワーと協力できるチャンネルにすることだ。多くのゲームや環境、カスタマイゼーションがあるので、配信者がコミュニティと楽しく過ごす方法は無数にある。

    クレイグはサブスクライバーたちに対して、いっしょにCounter-Strike: Global Offensiveをプレイしようと誘いかける。これはこのゲームのファンにとって、ロナウドとサッカー練習をするのと少し似ている。ターニャは、それとはちょっと異なるエンゲージメント戦略をとっている。

    「毎週金曜日に、誰でも参加できる、『Grand Theft Auto V』に同梱の『GTAオンライン』をプレイしています。この配信は『ピンク・フライデー(Pink Friday)』と呼ばれています。できるだけピンク色を使ってキャラクターや車を飾り付けるのです」(ターニャ)

    配信の未来に何が待ち受けているのかは、誰にもわからない。Twitchとしては、ゲームの配信だけでなく、もっといろいろなものを配信できるようにしたいと考えている。2015年には、絵やゲーム、料理の制作過程などを配信する「Twitch Creative」を開設し、最新の最高傑作を制作中のイラストレーターや画家、ミュージシャン、作家を観たり、やりとりしたりする機会を視聴者に提供した。

    さらに2016年12月には「Twitch IRL」を開設。日常生活の中で配信したいものを何でも配信できるようにした。

    今回インタビューした配信者3人は、慎重に構えながらも楽観的だった。「Twitchが破綻する可能性もあるし、私の配信の人気が下がる可能性もあります」とリーは言う。「今の私の状況は信じられないほど幸運です。これが永遠に続くわけではありません。だから常に新しいチャンスを窺っています」

    クレイグは現実的だ。「今の状況は永遠には続かないと思います。でもさしあたりは、どうせゲームをするんだから、配信しているほうがいいと思っています」


    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan