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「教えて!ドクター」SNSでのタイムリーな医療発信で全国区に 多言語対応も

長野県佐久市の子育て支援事業として始まった「教えて!ドクター」プロジェクトは、SNSでの発信を始めて全国で知られる存在となりました。災害や新型コロナでも頼られる存在になっていますが、今後目指す方向は?

厚生労働省の第2回「上手な医療のかかり方アワード」で最優秀賞の厚労大臣賞を受賞した、一般社団法人佐久医師会 (教えて!ドクタープロジェクト)。

中心メンバーの小児科医、坂本昌彦さんのインタビュー後編では、災害や新型コロナウイルスに関するタイムリーな発信、外国人などマイノリティーへの発信へと活動を広げていった狙いについて聞きました。

「子どもは静かに溺れます!」でバズり、全国区に

ーーTwitterを使い始めてから知名度が全国区になり、情報が幅広く届くようになりましたね。いつ頃から知られるようになったのでしょう。

確か、「子どもは静かに溺れます!」がきっかけですね。あれで色々な人が知ってくれるようになりましたね。

ーーあれがきっかけだったのですね! とても話題になって、BuzzFeedでも取材させてもらいましたが、情報を1枚のカードにして見せる手法が新鮮でした。あれは誰の発案だったのですか?

あのフライヤーはイラストデザイナーの江村康子さんのアイディアですね。

冊子を最初に作ってアプリにする過程で、最初は冊子のデータをスクショしてSNSに貼り付けていたんです。それなら1枚版にして見やすい形にした方がいいということで、フライヤーを作り、今のスタイルになったのですね。

ーーこれをシェアする人が増えて、教えて!ドクターが知られるようになっていったのですね。

SNSとフライヤーという見せ方の組み合わせが大きかったですね。

ーー「静かに溺れる」というテーマも水遊びが増える夏にタイムリーだったと思うのですが、このテーマは先生の発案ですか?

テーマに選んだのは私ですが、私が考えついたものではありません。たまたま溺水などの事故予防について調べていたときに、アメリカ小児科学会の女医さんが自分のブログで「子どもは静かに溺れる」ということを発信していたことを知ったのです。

静かだから近くにいてもわからない。ブログには静かに溺れる根拠となる文献などが紹介されていました。個人的にも、言われてみると思い当たることがありました。

他の人はどれくらい知っているのだろう、とまずチームのメンバーに聞いてみると、多くが「そういえばうちもそうだった」と言っていたんです。ちゃんとまとめて情報発信しようとやってみたらバズりました。

災害、新型コロナ、いいかげんな情報が出回る前にタイムリーに

ーーその他、色々バズった情報発信が思い浮かびます。子どもの誤飲事故の啓発もそうですね。どうやって毎回のテーマは考えるのですか?

チームメンバーでの世間話のようなものから作る場合もあります。僕はしょっちゅうチームのFacebookメッセンジャーに泣き言を入れているんです。「もう僕、ネタがない」って。

そうすると、メンバーが「そういえば便秘はどうだろう?」とか、歯ブラシの事故の話をしてきて、そうか、そういうのを知りたいのかと、そこから調べて記事にするのです。

ーーメンバーはみんな子育て中なのですね。

ほぼみなさん子育て中ですね。今は僕も含めて6人が中心メンバーですが、最近は災害関係の発信を重視していて、アウトドア防災ガイドのあんどうりすさんにも監修していただいています。また、アプリチームにも新たに強力なサポートメンバーが加入しました。より手厚い発信ができればと思っています。

ーー新型コロナが流行り始めると、その予防法を発信したり、災害が起きたら災害での対処法を出したり、タイムリーな情報提供が特徴ですね。

災害については熊本の震災をきっかけに災害関係のコンテンツを作った方がいいよねということで作りました。

災害が起きた直後はいいかげんな情報がたくさん出てきます。それがいたたまれなくて、とにかく最初にちゃんとした情報を出して、「これを見て!」としたかった。災害の時の情報発信は時間勝負。最初に見た情報に引きずられるので、なるべく早いタイミングで出して安心してもらおうと思いました。

新型コロナも色々な人がいいかげんなことを言うのですね。僕がコロナの話をしてもいいのかは今でもずっと悩んでいます。感染症の専門家ではないですから。ただ、感染症の専門家の先生が全員適切な発信をしているとも限りません。

最初は及び腰だったのですが、手を洗おうという話だったらできるかなと思いました。また日本小児科学会が発信を始めていたのに、あのページをみんな見ない。それをわかりやすくイラストを入れてわかりやすく伝えたら読んでくれるかなというところから始めました。

ーー情報発信をする時に、表現方法で気をつけていることは何かありますか?

「安心させるような」「分かりやすい」表現を心がけています。医療情報を求めている保護者は不安なことが多いので、まずは安心してもらうことから入ります。

人は感情で判断する生き物なので、不安な感情を受け入れてもらったという実感を得て安心できないと、せっかく大事な話をしても届かないからです。上から目線で圧の強い表現は避けるようにしています。

次に分かりやすい表現、ですが、分かりやすい表現は、理解を促すだけでなく、その情報への信頼(好感度)を上げ、行動変容にも繋がりやすいとされているためです。

多言語での発信も

ーーこうした発信をSNSで行い、全国区になったわけですが、それだけではなく、日本語を母語としない人たちに向けても様々な外国語での発信も始めていますね。どういう思いで始めたのですか?

それは僕自身がネパールにした時に、自分がそこではマイノリティだった経験が大きいです。現地に赴任した日本人の子育て中の家族は現地の医療機関にかかるのに不安を抱えていました。そんなお母さんたちの相談にものっていたんです。

海外にいる日本人も支援が必要だったわけですが、逆に日本に帰ってきたら、日本にいる外国人の人たちには情報が届くのが一番遅い。そこにもなんとか届けられればいいなと思いました。

SDGs(持続可能な開発目標)の考え方の中に「No one will be left behind(誰一人取り残さない)」というものがあります。そういう意味でも在住外国人への支援も大事だと思っています。

ただ言うのは簡単でもなかなか難しい。私は英語はできても他の言葉はわからないし。多言語対応には翻訳者が必要でお金がかかるのですね。

ーー今は何か国語対応できているのですか?

新型コロナの手洗いとマスクのポスターは13言語にしています。

実は「教えて!ドクター」の冊子の英訳を決めて、SNSで協力者も集めて、分担も決めて作業を始めていました。ところがコロナで忙しくなったこともあり、なかなか作業が進みませんでした。とりあえず、冊子の全英訳以前に手洗いとマスクのことだけ多言語で出そうということになりました。

「外国人の従業員がなかなかマスクをしてくれない。周知したい」という声も聞いていたので、多言語での情報発信はニーズが高いのだなと思っていました。

共通言語でき始めているか? 

ーーこの6年間の活動で、保護者と医療者の間に共通言語を作るという目標は達成できていますか?

少なくとも佐久地域の医療機関は、夜間や休日に電話相談を受ける時、相談に答える時のアンチョコとしてこの冊子を使っています。お母さんたちも手元に冊子を持ちながら相談しているんです。共通の資料でしゃべっているので話が通じやすい。

佐久地域では「あの黄色い冊子」を使って救急の相談をする人は増えています。

そういう効果をデータで示すことができないのが僕たちの弱みなので、なんとかしたいという思いもあって、この4月から公衆衛生の大学院に進むことにしました。

ーー発熱で受診した保護者616人にアンケートをして、教えて!ドクターのアプリを使用している人たちでは、発熱への不安や病院受診のタイミング、解熱剤の使用方法についてより正確な知識を持っていたという結果も出されていましたね。

不安が強い人の割合がアプリを使用した人では低いと言う結果が出て、日本小児科学会などで発表しています。

ーーそうした効果測定を学術的にもしっかりできるようにして、効果的な情報発信を広めようということなのですね。

そうですね。3年間博士課程でしっかり学びます。佐久から東京に通います。

ーー今後、どのように教えて!ドクターを発展させたいですか?

他の地域でも同じような活動が広まってくれるといいなと思っています。「子育て相談窓口」のページは僕たちの推しのページなのですが、佐久地域限定なんです。

子どもの預け先の候補とか、一時保育、病児保育、DV(家庭内暴力)・虐待についての相談とか連絡先が一覧になっているページです。そこを押すとそのまま電話がパッとつながるので便利です。

佐久地域ばかりなのですが、北九州だけ知人に入れたいと相談されて入れています。これを全国に広げたい。

これも公的な機関の情報を入れるだけならそんなに難しくはないのです。でも本当に役に立つ情報や組織は必ずしも公的機関だけではありません。地元で活動している民間団体の情報を入れたいのですね。市役所で聞いても「公平性の原則」で教えてもらえなかったりする。

そこまでたどり着けない人が困った時に官民一体の情報が1か所にまとまったものがあると便利なのですが、それがなかなかありません。

他の地域でもこうした情報をまとめてアプリに入れられたらいいのですが、それぞれの地域のみなさんの協力が必要です。制作や維持にはお金もかかりますが、佐久市が資金を出している事業なので、他の地域の情報をどこまで載せられるかバランスも難しい。

悩みは尽きませんが、うまく仕組みを作って、本当に全国版で役立つアプリに育てていけたらと思います。

ーー今後、扱いたいテーマはありますか?

最近では災害が中心的なテーマだったのですが、出したいのに出せないものは「アレルギー」と「発達障害」なんです。ニーズは高いけれど、専門性も高いので発信するにはもっと勉強しないといけません。また、僕の専門は元々小児救急なので、事故予防(傷害予防)をもっと根拠を示しながら伝えていきたい。

攻めの姿勢を忘れずにアンテナを常に張って、ニーズのある情報、そしてニーズがなくても大事な情報をバランスよく発信できるようにしていきたいと考えています。

【坂本昌彦(さかもと・まさひこ)】佐久総合病院佐久医療センター・小児科医長

2004年、名古屋大学医学部卒。愛知県や福島県で勤務した後、2012年、タイ・マヒドン大学で熱帯医学研修、13年、ネパールの病院での小児科医勤務を経て、14年より現職。

専門は小児救急、国際保健(渡航医学)。日本小児科学会では小児救急委員、健やか親子21委員。

小児科学会指導医、PALSインストラクター。15年から保護者の啓発と救急外来の負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクトの責任者を務めている。同プロジェクトは18年にキッズデザイン賞及びグッドデザイン賞、19年に健康寿命を伸ばそうアワード優秀賞、21年「上手な医療のかかり方」最優秀賞を受賞。

ヨミドクター医療コラム担当、Yahoo!個人オーサー。BuzzFeed Japan Medicalでも医療記事を書いている。現在帝京大学公衆衛生大学院博士後期課程在籍中。


※筆者の岩永は厚労省の「上手な医療のかかり方アワード」の審査員を務めていますが、謝金は一切受け取っていません。