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新型コロナワクチン、2回目接種者の方が未接種者より感染しやすい? 厚労省が出しているデータの落とし穴

新型コロナワクチン2回目接種者の方が未接種者よりも感染しやすい? 一見そんな風に見えるデータが厚労省から出されていたことがわかり、波紋を呼んでいます。問題はどこにあるのか、専門家に聞きました。

新型コロナワクチン2回目接種者の方が、未接種者よりも陽性率が高い?

一見、そんな風に見えるデータが厚生労働省から出され、ワクチンの効果に疑念を抱かせる材料となっている。

新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードに提出されているこの資料を、構成員の一人で、感染症の統計に詳しい国立感染症研究所感染症疫学センター長の鈴木基さんはどう見ているのだろうか?

鈴木さんらが厚生労働省のアドバイザリーボードに出した資料をもとに、解説してもらった。

厚労省が毎週出している接種歴別の新規陽性者数の表に二つの問題

問題となっているのは、厚労省が毎週、数字を更新しながらアドバイザリーボードに出している「ワクチン接種歴別の新規陽性者数」という表だ。

コロナの感染者情報を登録するシステム「HER-SYS」に入力されたデータを元に、厚労省が集計・計算して出している。

これについて、2つの問題が指摘されてきた。

1つは、接種歴が不明な人も「未接種」に加えていた問題。専門家の指摘を受けて厚労省は5月11日のアドバイザリーボードから集計方法を修正した資料を出している。

もう1つは、2回目接種者の方が、未接種者よりも10万人あたりの新規陽性者数が多く、ワクチンの効果がないかのように見える問題だ。ワクチンに反対する人たちの格好の批判材料になっている。

これは一体どういうことなのだろうか?

厚労省が「空欄」を「未接種者」に計上

——この表で指摘されている問題について、先生はどう考えていますか?

厚労省が作っている資料とは別に、感染研は陽性者のワクチン接種歴の資料を会議に出してきました。だから厚労省の資料にそこまで注目が集まっているという認識はありませんでした。

少しさかのぼって背景を説明しましょう。そもそも昨年12月1日から「HER-SYS」におけるワクチン接種歴の入力の仕方が変わりました。

入力画面には接種回数ごとに「接種あり」「接種なし」「不明」という3つの選択肢があるのですが、画面の最初の状態(デフォルト)が「接種なし」になっていたのです。だから入力する人が何も確認せずに、その項目を入力しないでいると、自動的に「接種なし」として計上されることになっていました。

単に接種歴を確認していないだけなのに、「接種なし」となるので、当然「未接種者」の数が過大になってしまいます。

この問題については、私たちは当初からずっと指摘していて、厚労省の担当者と議論して、12月1日から、最初の状態が空欄(未入力)になるように設定を変えてもらいました。

これで入力する人は「接種あり」「接種なし」「不明」のいずれについても、積極的に選択しなければならなくなったのです。

そして私たちデータを分析する側は「接種あり」「接種なし」「不明」「空欄」の4つの値を手に入れることが出来るようになりました。

それ以降、感染研は「不明」と「空欄」を「接種歴不明」にまとめて毎週のアドバイザリーボードの資料として出していました。

一方、厚労省の資料では、「不明」は「接種歴不明」としてカウントする一方、「空欄」については「接種なし」と一緒に「未接種者」に計上していたようです。これは厚労省が説明するように、入力方法が変わったのに集計のやり方を変更していなかっただけでしょう。

その後、感染研のデータとの食い違いについて指摘があり、厚労省はこのやり方が不適切だったとして、5月11日からは集計方法を変えています。ここまでが1つ目の論点の経緯です。

そしてこの新しい集計の結果が出るようになってから、2回目接種の方が未接種よりも感染リスクが高いのではないかという2つ目の論点が注目されるようになったのです。

厚労省の集計でワクチンの効果が評価できない理由 

※ここからは、7月13日のアドバイザリーボードに提出された鈴木さん、京都大学の西浦博さん、東京都北区保健所長の前田秀雄さん、東北大学の押谷仁さんが分析した資料を見ながら質問している。

——最新の厚労省の集計を見ても、2回接種者の方が未接種者よりも10万人あたりの新規陽性者数が多い年代がありますが、なぜこうなっているのでしょうか?

見かけの数字がそうなっているのは事実です。ただ、そもそも接種回数別の人口10万単位の報告数を比べるだけで、ワクチンの有効性は評価できません。このことは度々、アドバイザリーボードでも指摘してきました。

感染研でも同じ生データを使っていますが、こういう示し方はしてきませんでした。

——厚労省の集計と感染研の集計では何が違うのですか?

感染研が示しているのは、あくまで新規陽性者数に占めるワクチン接種回数別の数だけです。

これに対して厚労省の資料では、人口におけるワクチン接種者数を分母として、陽性者数を分子として10万人あたりの陽性者数を計算しています。

要因1.接種歴の不明者が非常に多い

——厚労省のやり方でなぜワクチンの効果は評価できないのでしょうか?

実はここには疫学では典型的なバイアスに関係する問題があって、そのせいで、本当のワクチンの有効性が見えなくなってしまうのです。

大きく4つの要因が考えられます。

まず1つ目が、「接種歴の不明者が非常に多い」ということです。特にオミクロンが流行し始めた第6波以降、「不明」と「空欄」を合わせた接種歴不明がどんどん増加して、現時点で全体の3割以上がワクチン接種歴不明です。都道府県によっては半分近くが不明になっています。

この「接種歴不明」の中には当然ながら、未接種者も3回接種者も2回接種者もいます。それぞれが実際どれぐらいずつ含まれているかは全くわかりません。

接種回数別の報告率を計算して、その大小を単純比較しようとするとき、この全体の3割以上を占める「接種歴不明者」を分子から除外することになります。

しかし、それが意味を持つのは、この人たちの本当の接種回数の割合が、接種歴がわかっている人たちと全く同じであるときだけです。

しかし、残念ながらそんな都合のよいことはおこらない。実際に、接種歴不明の人たちと、接種歴がわかっている人たちの特徴を比べると、年齢分布も、診断時に症状があるかないかも、大きく異なっています。これで両者の接種回数の割合が同じであるとは考えるのは無理があります。

それにもかかわらず、それが同じであると仮定して3割以上ものデータを除外して計算してしまうと、結果にバイアスをもたらしてしまうことになります。

この影響で未接種者よりも接種者の報告数が多くなることもあり得ます。

さらに東京都北区保健所のデータを見ると、HER-SYSとVRS(ワクチン接種記録システム)の接種歴データには少なからずズレがあります。患者や家族の記憶に頼ったHER-SYSの接種歴には、どうしても限界があることに注意が必要です。

要因2.接種後の時間経過が考慮されていない

2つ目の要因は、「接種からの時間経過」です。

この要因は、特に2回目接種について関わります。2回目接種後、ワクチンの感染予防効果は数ヶ月程度は維持されますが、半年以上経過すると大きく低下します。

でも、このデータでは2回接種したということしかわからず、いつ接種したのかがわかりません。実際のところ、2回接種をした人の大半はすでに半年以上が経過しています。感染予防の効果がほとんどなかったとしてもおかしくありません。

——それにしても未接種者よりも2回目接種の方が新規陽性者が多いというのは解せないですね。

極端な話、全員が2回接種して1年後で、ほとんどワクチンの効果が期待できないとしても、陽性者は未接種とほぼ同じぐらいになるはずですよね。おっしゃる通り、逆転するのはそれだけでは説明できません。

いずれにしても接種後の期間について全く考慮されていないので、接種からずいぶんと時間がたった今、両者を見比べてもワクチンの有効性はわからないということは確かです。

要因3.未接種者と接種者の特徴や行動パターンが違う可能性

3つ目の要因は「未接種者と接種者の特徴や行動パターンが違う」ということです。これも、1つ目の要因と並んで未接種者と2回目接種者の報告数が逆転し得る要因になります。

この1年で人口の9割以上が2回接種を終えているわけです。そのなかで接種していない残りの1割の人は当然、接種した9割と比べて、さまざまな特性が違っているでしょう。

リスクのある社会活動をどう取るか、症状が出たときにちゃんと受診するのか、濃厚接触者と見なされた時に検査を受けるのかなどで、行動パターンが違う可能性があります。

もしかすると接種をしていない人たちは、2回接種をした人に比べるとハイリスクな行動を取るかもしれない。

一方で、接種していない人たちは症状があっても受診しないかもしれない、あるいは検査しないかもしれない。いろんな理由で医療保健システムにアクセスできない、あるいはしない人たちは、ワクチンも受けないし、検査を受けないかもしれない。

そうすると未接種で感染しているとしても、検査も受けないから感染が見えてこないことがあり得ます。

——「未接種者」は信念としてこのワクチンは害を与えるからうたないという人もいれば、免疫の問題などでうちたいのにうてない人もいると思います。ワクチンに懐疑的な人は病院や検査も行かないかもしれませんが、逆にうちたいのにうてない人は慎重に行動して感染しない可能性もあるでしょうか?

その通りだと思います。

——逆に2回目を接種した人は、ワクチンをうったことに安心して行動が緩んで、感染しやすくなったという可能性についてはどうですか?

可能性はあると思います。ただし、あり得るというだけで、このデータからは「なんとも言えない」というのが正確なところです。

ここで先ほどの2つ目の要因と、この3つ目の要因を合わせて考えてみましょう。

接種してから少しずつワクチンの効果が減弱していく一方で、未接種者は医療機関を受診する可能性が低いことが考えられます。

こうした仮定の下、シミュレーションをすると、最初は確かに接種者の方が未接種者よりも陽性報告が少ないのですが、時間と共にお互い近づいてきて逆転することもあり得ることがわかります。

日本でこうだということを証明したわけではありませんが、デンマークでは実際、未接種者の方が検査受診率が低いことが報告されており、あり得ないシナリオではありません。

要因4.未接種者の方が既に感染して、免疫を獲得している可能性が高い

4つ目の要因は、「感染による免疫の影響」です。

未接種の人は感染するリスクが高い。感染した後どうするか? ワクチンをうつかと言えば、おそらくうたないでしょう。

そうすると未接種者の方が、接種者よりも過去に感染している可能性が高くなります。未接種者の中には感染経験がある人が多くいるということです。

実際に厚労省と感染研で分析した血清疫学調査の結果でもその傾向が見られます。ワクチン接種者と未接種者を比べると、未接種者の方が過去に自然感染している人の割合が高いのです。

そして、この人たちは感染によって免疫を獲得している可能性が高い。

この図は、自然感染によって、強く次の感染から守られている人たちが一定割合いるのに、それを考えないと未接種者の本当の感染リスクを過小評価してしまうことを示したものです。

——ワクチンよりも強い免疫なのでしょうか?

再感染を防ぐ効果はワクチンよりも強い可能性があり、それが半年から1年程度続くと言われています。

ただ、オミクロンについてはデルタ以前に比べると再感染する可能性が高くなっているようです。それでも2回接種して半年以上経っている人と、未接種で2週間前に感染した人を比べたら、後者の方が感染から守られているでしょう。

——それならワクチンしないで感染したらいいじゃないかというあわてんぼうがいそうですが、まず感染で苦しむし、後遺症も残っているかもしれない状態を経た上で「感染による免疫で守られている」ということですね。

そういうことです。特に、今流行しているオミクロン株のBA.5系統は過去に感染していても再感染する可能性があります。それに1回目の感染よりも再感染の方が死亡や後遺症のリスクが高いという最近の米国からの報告もあります。「感染を繰り返すことが良い」というような考えはやめた方がいいです。

ワクチンの効果を見るデータを出せ、という圧力

以上のように挙げた要因を全て合わせると、厚労省の表だけを見て、未接種と接種者を比べてワクチンの有効性を評価することは適切ではない、という結論になります。

——それがわかっているのに、こういうデータをアドバイザリーボードで毎回厚労省が出していることについて、専門家として「誤解を招くのではないか」とか指摘しないのですか?

実際、この表を出し始めた頃から、私や一緒に資料を提出した西浦博先生、東北大の押谷仁先生は注意しなければいけないと指摘しています。我々疫学者にとっては、これは大学の講義で話をするような典型的な問題なので、言わずにはいられません。

——専門家からの指摘はあったのに出し続けていて、実際に誤解を招いているわけです。計算して出している厚労省も問題ですが、こういうデータしかない日本の統計システムの問題もあるわけですね。

わかりやすいデータを出そうとするのはよいのですが、あたかもワクチンの有効性を計算できるかのように見せていたのは、もう少し慎重であるべきだったと思います。

確かに1年前なら、ワクチン接種が始まって間もないから「接種歴不明」も少なく、効果も強く、自然感染で免疫を獲得した人も少なかったので、多少のバイアスの影響があっても未接種者より接種者の方が報告数は少なかった。

それが、時間とともにデータの問題と方法論の限界から次第にバイアスの影響を大きく受けるようになってしまったということです。

ただ厚労省の立場を考えると、メディアや国会などから「ワクチンは効いているのか?」という質問が常に投げかけられているわけです。特にワクチンに懐疑的な人たちからの声に対して、「わかりやすいデータを出さなくてはいけない」というプレッシャーがかかっているのではないかと思います。

そのプレッシャーから、とりあえず手元にあるデータを使って、こういう表を出さざるを得なかったのではないでしょうか。

もちろん我々研究者も何もせずに手をこまねいているわけではありません。私が関わっているもので言えば、感染研でもきちんとした研究デザインで新型コロナワクチンの有効性を検証していますし、前任地の長崎大のチームでもコロナワクチンの有効性を評価して、成果も出しています。つい最近も、感染研と西浦先生との共同研究の成果を発表しています。

ワクチンの効果について議論するときは、これらを参考にしてほしいと思います。

ワクチンの接種歴を管理し、活用するシステムが日本にはない

——そもそも日本に欧米のようなきっちりしたワクチン接種歴やその後の経過を集めるシステムがないことが問題ですよね?

おっしゃる通りです。この件で厚労省を批判しても何も解決には結びつきません。むしろそれで本当の問題が覆い隠されてしまうことの方が問題です。

結局、ちゃんとしたデータがないことが問題の根源です。医療現場でワクチンの接種歴を確認するときに、本人や家族の記憶に頼るしかないという今のシステムでは、「接種歴不明」は今後さらに増えていくでしょう。そういうデータしかないにもかかわらず、あたかもそれが有用であるかのように出さざるを得なかったことの方が問題なのです。

そもそも、日本にはワクチンの接種記録を体系的に管理して、活用するシステムが存在しません。各自治体に予防接種台帳があって管理はされ、9割以上電子化も進んでいるようですが、自治体別に管理されていますから管理方法が標準化されていません。

個人の識別もマイナンバーだったり、健康保険のIDだったり、氏名・年齢だったりして、バラバラな形で管理されています。自治体別に管理され、横のつながりは全くありません。

それを病院で確認することもできないので、結局、接種歴は本人の記憶に頼るしかない。新型コロナの患者データに、確実な形で接種歴を結びつけるシステムが存在しないのです。これが最大の問題です。

——マイナンバーカードも抵抗感のある人が多い中、日本ではさまざまなデータを統合して管理するシステムを構築しづらい。なかなか難しいですね。

ワクチンの有効性だけでなく副反応でもずっと議論されていますが、一向に進みません。

日本では接種後に、何らかの症状が見られたら医師が届け出るシステムはあります。

しかし本当は、ワクチン接種記録を全て登録し、接種後に症状が現れたら全て紐づけてデータベース化しておかないと、ワクチンと症状の因果関係を確認することができません。日本では個別の研究班や個別の自治体でやっているところはありますが、日本全体ではまだできていないのです。

大きなデータベースを国全体として作らないと、また今回のようなことになるでしょう。

もちろん個人情報についてはきっちりと守りながら、それ以外の情報は積極的に活用すべきであるし、それが結局は自分自身の利益として戻ってくるのだということを我々、国民一人ひとりが認識を深める必要があるのだと思います。

個人情報を安心して預けるには国家への信頼感が欠かせません。政府の主導的な役割が期待されるところです。

【鈴木基(すずき・もとい)】国立感染症研究所感染症疫学センター長

1996年、東北大学医学部卒業。国境なき医師団、長崎大学ベトナム拠点プロジェクト、長崎大学熱帯医学研究所准教授などを経て、2019年4月から現職。