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三浦春馬さん出演ドラマめぐり「憶測」が拡散。TBSは「事実無根」事務所もデマに警鐘

なかでも広がっているのは監督や演出家から「パワハラ」や「ガスライティング」(心理的虐待)があったというものだ。TBSテレビ側は「事実無根」と否定。所属していた事務所のアミューズも、ネット上の「誹謗中傷」や「デマ」に警鐘を鳴らしている。

7月に亡くなった俳優・三浦春馬さんの最後のドラマ作品となった『おカネの切れ目が恋の始まり』(TBS系)をめぐり、「パワハラ疑惑」などの様々な根拠不明の憶測がネット上に飛び交っている。

TBSテレビ側は「事実無根」と否定。所属していた事務所のアミューズも、ネット上の「誹謗中傷」や「デマ」に警鐘を鳴らしている。いったい、何が起きているのか。

「おカネの切れ目が恋の始まり」は、三浦さんが亡くなる前日まで撮影が続けられており、遺作ドラマとなった。

ドラマは9〜10月、計4回にわたって放送されたが、その前後から、ネット上には作品をめぐる様々な憶測が拡散していた。

なかでも広がっているのは監督や演出家から「パワハラ」や「ガスライティング」(心理的虐待)があったというものだ。要約すると以下のような内容になる。

  • 「猿渡」という役名など、「サル」が多く用いられている。「サル」は韓国や中国で日本人を侮蔑する表現
  • 「骨」など死を想起する小物を多く設置しており、痩せていた三浦さんを揶揄している
  • ドラマの随所に「反日小道具」が置かれている。三浦さんは芸能界を牛耳る在日コリアンにいじめられていた
  • 演出家が過去作品の撮影時に三浦さんにパワハラをしていた


いずれも、根拠は示されていないか、断片的な情報を推測をもとにまとめている「陰謀論」に近い情報だ。また、特定の人物の出自への言及や人種・民族に対するラベリングをもとに憎悪を煽る行為は、ヘイトスピーチに当たるおそれもある。

こうした情報は三浦さんが亡くなった翌月の8月ごろからネット上に広がり、ドラマ放送後にさらに拡散。劇中の三浦さんの姿が以前より痩せているように見えたことも、憶測につながっているようだ。

10月28日夜には「#TBSに説明を求めます」という「Twitterデモ」が開かれたことを機に、トレンド入りしたことで多くの人が知るところとなった。

TBSテレビ広報部は、拡散している情報を列挙したBuzzFeed Newsの取材に対し、「事実無根」と以下のようにFAXで回答した。

当番組に関連してパワハラがあったなどとする情報は、事実無根です。誹謗中傷など事実に基づかない悪質な書き込みに対しては、厳しく対処する所存です。

「厳しく対処する」ことが法的措置であるかどうかについては、明言を控えた。

事務所は「誹謗中傷」「デマ」に警鐘

一方、所属していた事務所のアミューズは同様のBuzzFeed Newsの取材に対し、10月20日に同社の公式サイトで発表した「インターネット上における誹謗中傷、デマ情報について」文書などを改めて示した。その文書には、以下のように記されている。

当社所属アーティストやその関係者(アーティストの家族、親族や当社従業員であるマネージャー、関係スタッフを含みます。以下「アーティスト等」といいます。)への度を超えた誹謗中傷、デマ情報の拡散、過度な憶測記事の掲載、アーティスト等になりすます行為が、インターネット上で多く存在しております。

こうした情報の流布は「信用毀損もしくは名誉毀損に該当」するとして、警察にも相談を進めているという。

アミューズ側はどのような情報が該当するか明言していないものの、「根拠のないデマ情報をもとにしたWebサイトの一部」として上述の「パワハラ」や「ガスライティング」「他殺説」をまとめたサイトを名指ししている。

三浦さんをめぐっては、このほかにも根拠不明な陰謀論がネット上に数多く飛び交っている。「CIAの陰謀で殺された」「宗教団体に他殺された」などの憶測も少なくない。

こうした情報をもとに、「再捜査」や「説明」を求める動きも活発だ。実際、インターネット署名サイト「Change.org」では、警視庁宛のふたつの署名に計2万筆近くが集まっている。今回の「Twitterデモ」も同様の動きだと言える。

著名人の死が相次ぐなか、「悲しみ」をもとにした心理的な作用が働くことが、陰謀論が拡散する背景にあるとの見方もある。

J-CASTニュース(10月25日)は、経営コンサルタントで心理学博士の鈴木丈織氏の「『埋めることが出来ない疑問点』というのは心理的に大きな負担となります」「『悲しみ』という負荷がかかると、人間はその『悲しみ』を『驚き』に変えて負担を軽減しようとします」とのコメントを紹介している。

収益狙いのサイトも

一方でそうした心理に乗じて、広告収入目的で根拠不明の情報をまとめているサイトも存在する。

アミューズ側も先出の声明で「閲覧されることによる収益を目的としたものもあります」と指摘している。すべてではないが、実際にそうしたサイトは多く見られるのが現実だ。

とりわけ目立つのが、検索エンジン対策(SEO)に長けた「トレンドブログ」だ。ユーザーが検索しそうなキーワードを先回りして記事化し、検索からページビューを得ることで、広告収入を稼いでいるとみられるブログ群を指す。

今回も三浦さん関係の陰謀論をまとめたトレンドブログが多数公開され、検索エンジンでも上位にヒットするようになっている。また、YouTubeにも同様の狙いの動画が数多く確認できる。

過去の事件においては、こうした憶測をまとめたサイトを拡散(リツイート)する行為が、民事訴訟の対象となった例もある。

憶測が死を誘発するおそれ

また、情報の拡散が新たな死につながるおそれもある。著名人の自殺に関する情報が「別の自殺を誘発」することは多く指摘されている。

実際、6月までは減少傾向にあった自殺者数が、7月以降増加に転じた理由のひとつには著明人の自殺報道があったとの分析結果が出ている。

厚生労働大臣の指定を受けて自殺対策に取り組む「いのち支える自殺対策推進センター」の緊急レポートによると、7月18日〜24日の1週間における自殺者数は457人で、2019年の同期間の384人と比較すると、73人(19%)増となった。

特に、10代〜20代の若年層への影響が大きく、10代は4人→20人、20代は41人→68人(いずれも2019年→2020年の比較)と大幅に増えている。

この背景にはメディアによる自殺報道のほか、「その芸能人がどのような理由から死を選んだのか憶測を呼ぶ内容」も影響を与えている可能性がある。

自殺の実態調査や自殺予防の活動を行う国立精神・神経医療研究センター・薬物依存研究部長で精神科医の松本俊彦さんは、BuzzFeed Newsの取材に対し、こう語っている。

「憶測の物語を伝える方は当てずっぽうなことも多いでしょう。ですが、そのような憶測で伝えられた悩みを抱えている人は必ずどこかにいます。その時、悩みを抱える人たちにとって『自殺』がひとつの解決策のように提示されてしまうことは、死へと背中を押してしまいかねません」

根拠不明の憶測は、誰かの信用や名誉を傷つけるだけではなく、誰かを死に追いやることにつながるおそれもある、ということだ。

また、今回拡散している情報には、先出の通りヘイトスピーチにつながりかねないものもある。改めて、情報の拡散には注意が必要だ。


いま思い悩む人に向け、先出の松本さんはこうも語っている。

「もしも今、死にたいぐらいしんどい気持ちの中にあるのなら、そのつらさや苦しさを自分以外の誰かにも知ってもらうことは意味があると伝えたい。一番の孤独は自分一人で悩むことですから」

「いのち支える自殺対策推進センター」が掲載している全国の相談先窓口リストはこちら

自殺予防いのちの電話:0120-83-556
よりそいホットライン:0120-279-338