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60年前の「桜を見る会」残されていた名簿が教えてくれること

「マルチ商法」としてのちに行政処分を受けたジャパンライフ元会長や、反社会的勢力が招待されていたことが明らかになっていることから、批判が高まっている「桜を見る会」。2019年の招待者名簿が直後に廃棄されていた一方、60年以上前の名簿が国立公文書館に残されていた。

様々な批判を受けている安倍晋三首相主催の「桜を見る会」。

2019年の招待者名簿が直後に廃棄されたとして注目を集めるなか、国立公文書館には、いまから60年以上前の「桜を見る会」の名簿が保存されていることがわかった。

その保存期間は「永久」だ。歴史を紐解くと、いったい何が見えてくるのだろうか。

安倍政権下で参加者の数や予算が急増していたことから、批判が高まっていた桜を見る会。首相による地元後援者の招待や、安倍昭恵夫人の推薦枠や自民党枠などが存在したことから「私物化」の指摘もあがっていた。

そのなかで注目されているのが「招待者名簿」だ。

過去には「マルチ商法」を展開しのちに行政処分を受けたジャパンライフ元会長も参加していたほか、今年は反社会的勢力が招待されていたことも明らかに。野党側は2019年分についても開示を求めている。

しかし、「桜を見る会」の招待者名簿は、各省庁などの取りまとめをする内閣府が保存期限を2018年4月にそれまでの「1年」から「1年未満」へと変更した。

そのため、2019年4月13日に開催された招待者の名簿が5月9日に破棄されており、安倍首相はデータについても復元ができないと主張している。

国立公文書館に1950年代の名簿が

そもそも「桜を見る会」は、1952年に当時の吉田茂首相が戦前に開催されていた「観桜会」を参考に始めたものだ。

国立公文書館には、1953(昭和28)年からの資料のほか、56年(昭和31年)とその翌年の招待名簿など、関連資料が複数存在していた。インターネット上で閲覧できるものもある。

1956年4月18日(水曜日)の「桜を観る会」の名簿によると、鳩山一郎首相(当時)主催の同会で招待をされたのは、4400人。

その半分が、招待者の「夫人」という数え方をしている。つまり実質的な招待者は2200人で、そのほとんどが男性ということだ。

招待範囲は「外交団、皇族、元皇族、各大臣…」とはじまり、最高裁判所長官、衆参両院議長、国会議員や認証官(天皇の認証が必要とされる国家公務員。検事総長や侍従長、特命全権大使など)が並んでいる。

さらに、国立国会図書館長や、警察を管理する国家公安委員、内閣官房長官および各政務次官、法制局長官などの政府関係者が。

いまは官房長官が招待者の最終決定者であり、かつ自らの招待枠もあったことが明らかになっているが、当時は官房長官は招待される側だった、ということがわかるだろう。

その後は、衆参両院事務総長や公正取引委員会、土地調査委員会、学士院、芸術院の関係者、特殊銀行会社の社長、東京都と隣接県の知事や議会議長、さらに横浜市長ーーそして「各界代表」と続く。

肥大化した「桜を見る会」

現代の「桜を見る会」の招待範囲は、政府答弁によると以下の通りだ。

《皇族、元皇族、各国大公使等、衆参両院議長および副議長、最高裁判所長官、国務大臣、副大臣及び大臣政務官、国会議員、認証官、事務次官等および局長等の一部、その他各界の代表者等》

概ね主要の部分の招待者に当時との違いはないが、問題視されているのは、「各界の代表者等」とされる欄だ。

2019年は「各省庁推薦の功労者ら」が6000人。このほかに、以下のような割り当ても存在する。

▽安倍首相1000人▽副首相、官房長官、官房副長官1000人▽自民党関係者6000人▽国際貢献や芸術文化などの特別招待者や報道関係者、公明党関係者、元国会議員など1000人

また、「私人」とされている昭恵夫人からの推薦枠もあったという。

一方の1956年はどうか。「各界代表」は382人(割り当ては400人)で、この概数は「大体昨年桜を観る会のときの概数とする」とされている。

長年の歴史を経て、「桜を見る会」が大きく肥大していることがわかるだろう。

名簿を開いてみると…

それでは、1956年当時の名簿を開いてみよう。名前が出ているのは、国会議員と各界代表、さらに報道関係者の1679人分だ。

国会議員の欄には、衆議院では4年後に刺殺される日本社会党の浅沼稲次郎氏や、参議院では女性参政権運動に尽力した市川房枝氏の名前もある。参加を実際にしたかは不明だが、与野党問わず招待されていることがわかる。

「各界代表」はどうか。これは各省庁がそれぞれ選出していて、各省別の内訳も存在する。

一番多く割り当てられていたのは通産省(いまの経済産業省) の65人。招待者は60人でやはり、一番多い。

丸紅飯田株式会社(丸紅の前身)の社長がトップに名を連ね、そのあとはトヨタ自動車や日清紡績、松坂屋、AIUジャパン、キヤノンなどの社長らが並ぶ。業界団体や電力会社の名前もあった。

総理府が招待していたのは?

次に割り当てが多かったのは60人の総理府(いまの内閣府)と文部省(いまの文部科学省)。

招待者は総理府が58人だ。原子力委員会や各審議会、全国知事会や都道府県議会議長会、中央選挙管理委員会などの役職のほか、当時の世相を伝える以下のような団体の人たちも呼ばれている。

《売春対策審議会会長、沖縄祖国復帰促進協議会、琉球政府駐日代表事務所主席代表、小笠原帰郷促進連盟副委員長、奄美諸島復興新議会委員》

また、総理府はもともとの割り当てとは別に94人のマスコミ関係者も招待していた。

各社の記者だけではなく、新聞社やテレビ、ラジオ局など各マスコミの社長・会長、編集局長の名前もあった。

戦後処理関係の役職も

一方の文部省は55人。文化勲章などの受賞者のほか、教育委員会や大学関係者、宗教関係者などが招待されている。

割り当てよりも多く招待している省もある。厚生省(いまの厚生労働省)だ。45人の割り当てに対し、47人を招待している。

日本医師会や歯科医師会など医療関係者、民生委員協議会や社会福祉法人のほか、戦後10年ほどしか経っていないことを感じさせるような、以下のような人たちの名前もあった。

《在外同胞帰還促進全国協議会会長、引き揚げ擁護愛の運動中央協議会委員長》

予算は30万円だった

では、予算はどうか。

また、「経費関係その他は昨年4月催した桜を観る会の例と同様とする」とされており、経費は大体30万円だ。内訳は設備費、印刷物費が12万円。茶菓費(出席率80%とみた場合)が18万円と計算されている。

なお、開催要項については1953年から確認できるが、招待者3600人(半分が夫人)で予算は50万円。翌54年は4400人に招待者が増えている一方で、予算は30万円に削減されている。

一方で2018年の予算は、5229万円だ。

5月13日の決算行政監視委員会で内閣府が公表したデータによると、支出総額がここ数年で1.7倍と、年々増加している。2020年度予算では5700万円が計上されていた

もちろん、当時といまではお金の価値が違う。

とはいえ、消費者物価指数をベースに考えても、1956年の物価は2018年の6分の1ほど(2015年を100とした場合、1956年は17.0で、2018年は101.3)。

やはり予算は、大きく増えていると言えるだろう。

歴史に残らないということ

60年以上前のデータや名簿といまを比較することができるのは、当時の資料が公文書として残されていたからだ。なお、その保存期間は「永久」とされている。

一方の現代では、招待者名簿は個人情報であることや、量が膨大であることを名目に、「1年未満」に廃棄されてしまっている。今年に関しては、開催からわずか1ヶ月ほどでシュレッダーにかけられていた。

公文書管理の面から、この事態を憂う声は少なくない。安倍首相は保存期間の見直しも検討する考えだが、2019年分については「復元できない」としている。

つまり60年後の人たちは、いまの「桜を見る会」について、この記事のような分析ができない、ということを意味する。

先日鬼籍に入った中曽根康弘元首相は、「自省録」で以下のように記している

「政治家の人生は、その成し得た結果を歴史という法廷において裁かれることでのみ、評価される」