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「若者は重症化しない」わけじゃない。医師の“まとめ”が話題、伝えたい危機感とは

ネット上で話題となったのは、米ジョージタウン大学内科助教で米国内科専門医の安川康介さんのつくったイラストだ。デルタ株の影響などから急速に感染が拡大している新型コロナウイルス。「中等症は自宅療養」という政府方針が一時注目された時期にも重なり、このスライドは拡散した。「13.5万いいね」を集めている。

新型コロナウイルス感染症をめぐり、医師が持つ「軽症、中等症、重症」のイメージと、一般的なイメージの違いを描いた画像が注目を集めている。

作成したのは、実際に治療の現場に立つなかで、「新型コロナウイルスの恐ろしさを肌で感じてきた」という医師だ。

「30〜40代でも苦しい思いをしている人をみてきた。現場の医師の感覚が伝わっていない」との危機感を持つ。思いを聞いた。

イラストでは、上に一般的と思われるイメージを、下に医師の持つ実際のイメージをまとめている。「風邪程度」と認識しがちな軽症は、「酸素は要らない」になる。「息苦しさはでそう」と思ってしまう中等症は「今までで一番苦しい」という状況。そして重症は「入院が必要だろう」ではなく、「助からないかもしれない」という深刻な状況になる。

ネット上で話題となったのは、米ジョージタウン大学内科助教で米国内科専門医の安川康介さんのつくったイラストだ。

「『若者は重症化しないからワクチンは必要ない』と言う人がいます。日本の『重症』の定義は人工呼吸器や集中治療が必要な状態です。30代、40代でも中等症になる方はそれなりにいて、僕も多く診てきました。軽症や中等症といってもピンとこない方もいるので、スライドを作ってみました」

デルタ株の影響などから急速に感染が拡大している新型コロナウイルス。「中等症は自宅療養」という政府方針が一時注目された時期にも重なり、このスライドは拡散した。「13.5万いいね」を集めている。

フリー素材「いらすとや」を使ったイラスト。安川さんが「僕に確認をせず使用していただいて構いません」と発信したこともあり、多くのメディアも取り上げた。

安川さんがこのイラストを発信した背景には、「ワクチン接種」がより進んでほしいとの思いがあった。BuzzFeed Newsの取材にこう語る。

「新型コロナワクチンに関する情報発信していると『高齢者や基礎疾患のある人でなければ重症化しないから、ワクチンは打たなくても良い』という意見をいただくことがありました」

「ただ、基準のうえで『重症』にならなくても、感染したことで相当辛い経験をされる『軽症』や『中等症』の方が多くいること、そうした感染から自分を守っていただく意味でもワクチンを検討していただきたいという思いがありました」

20代でも「目の前で苦しそうに息を…」

日本の重症度は『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き』(厚生労働省、第5.2版、7月30日発行)では、上のように分類されている。安川さんはいう。

「たしかに、日本で報道される重症者の数は、海外などと比べて少なく感じるかもしれません。ただ、日本の重症の定義は『集中治療室に入室』もしくは『人工呼吸器が必要』状態とあります」

「意外と知られていないのは、日本の『重症』はたとえば米国の『重症』よりも、さらに重症だということです。米国の『重症』の基準は、酸素飽和度が94%未満や、呼吸数が30回以上などなので、日本で高度医療が必要とされる『中等症2』に近いのです」

酸素飽和度は、血液中の酸素の割合を示す値。日本では93%以下は酸素投与が必要とされている。また、呼吸数は通常1分で12〜20回程度だ。

安川さんは、アメリカ・ワシントンDCの病院で働いており、実際に新型コロナウイルス治療の現場で働いてきた。見てきたのは、日本の基準では「中等症」にあたる人たちだった。

「一時期は常に約200人の感染者が入院していました。退院させてもどんどん新しい感染者が入院してくる、という状況です。私が診てきたのは主に酸素が必要なくらい肺炎が広がってしまった、日本の重症度の定義でいえば『中等症2』にあたる人たちです」

「比較的若い30、40代、そして20代の方もいました。レントゲンでは肺炎が全体に広がり、目の前で苦しそうに息をされている、そんな方と接してきて新型コロナウイルス感染症の恐ろしさを肌で感じてきました」

若い世代でも…

「現場の医師の感覚が伝わりにくいのではないか」。そう感じたという安川さんは今回のイラストのなかで、「重症」について「助からないかもしれない」という、かなり強い表現を用いている。

「本当に『助からないかもしれない』ので、そのような表現をしています。厳しい表現かもしれませんが、非医療従事者に分かってもらうにはどのような表現にしたら良いのか考え使用しました」

「ここまでの新型コロナ感染症になると致死率は非常に高いです。人工呼吸治療を要した人のうち約2割が、ECMOが必要だった人の約3割以上が亡くなるという日本のデータもあります」

そして、若い世代がそうした重い症状にならないというわけでもない。

安川さんによると全国的なデータはないが、大分県のデータでは、酸素が必要となる「中等症2」になる30代は25人に1人、40〜50代は10人に1人になる。また、高知県のデータでも、中等症になる20代は1%、30代が4%、40代は11%(さらに重症が1%)だった。

死亡例もある。今回の5波でも、30代でも自宅療養中や、帰省中に亡くなった人がいると報じられている。

「実際に感染し、相当苦しい思いをする若い世代の方はそれなりの割合でいるのです。また、発熱や咳が続いても、肺炎がなく酸素飽和度が96%以上なら『軽症』と分類されますし、嗅覚障害・味覚障害や倦怠感、息苦しさが続いたりするいわゆる『後遺症』も報告されています」

「さらに、無症状で済んだり、咳や発熱などが短時間で軽快したとしても、自分がうつしてしまった誰かが重症化したり、場合によっては亡くなったりしてしまうこともあります。自分は発熱が1、2日あった程度で済んだが、自分から感染して親が亡くなってしまったという方もみてきました」

自分、そして大切な人を守るため

安川さんは、ワクチンに対する正しい知識を発信するための専門家によるプロジェクト「こびナビ」で幹事も務めている。

感染が大きく広がるなか、自分を、そして大切な人を守るために、「基本的な感染対策」の大切さと、「ワクチン接種」の重要性を改めてこう呼びかけた。

「報道でみる死亡者、重症者の数だけではよく分からないのが、新型コロナウイルス感染症です。自分は感染しないだろう、大したことがないだろうと、実際に感染してしまうまでそう思う方は多いのかもしれません」

「自分を守り、周りの人を守るためにも、手洗い、マスク、距離、換気、体調が少しでも悪ければ他の人と接触を避ける、などの基本的な感染対策を行ってもらいたい。また、非常に高い予防効果のあるワクチンについて、正確な情報を得て、検討していただきたいと思います」