【Update】堕ちたアイドルのあまりにも残酷な謝罪会見 日本バドミントン界の異端児は、黒髪・黒いスーツで現れた

    髪は黒く、同系色のスーツとネクタイで揃える……

    UPDATE

    NTT東日本は4月11日、田児賢一選手を解雇、桃田賢斗選手を出勤停止30日とする処分を発表した。あわせて、男子バドミントン部は半年間の対外活動自粛とすることも発表された。

    日本バドミントン協会は田児選手は無期限の登録抹消処分、桃田選手については無期限の競技会への出場停止処分とすることを発表している。桃田選手のリオデジャネイロオリンピック出場できないことが決まっている。

    絶え間ないフラッシュにさらされる瞳に、涙が浮かぶ。記者からの質問に絶句し、声を震わせる。堕ちたスターへの追求は厳しい。派手な外見と言動が注目を集めた日本バドミントン界の若きホープ桃田賢斗、田児賢一両選手の謝罪会見は、あまりにも残酷だった。

    違法カジノに出入りしていると報じられた両選手は、同じNTT東日本バドミントン部に所属している。4月8日、2人は会見を開いた。

    桃田選手は世界ランク2位、リオデジャネイロオリンピックの出場が確実視されていた。愛らしいルックス、笑顔で知られる人気選手。髪の色も明るい茶色に染め上げ、ストリート系のブランドを颯爽と着こなす。男子バドミントン界に現れた若い「アイドル」として、今後の活躍が期待されていた。

    会見場に現れた桃田選手の髪の色は黒く、身を包んでいたのは黒の2つボタンのスーツだった。合わせたのは白いシャツ、ネクタイもスーツと同じ色調だった。

    田児選手は1000万円、桃田選手は50万円負けていた

    NTT東日本の調査で明らかになった事実関係から整理する。

    田児選手は2014年10月から2015年3月にかけて、報道されている東京都墨田区の闇カジノ店に月10回ほど通っていた。発端は飲んだ帰りにキャッチセールスのように声をかけられたことだ。この闇カジノ店が警察に摘発されると、同じ経営者による別の闇カジノ店に通うようになる。横浜にあるその店には、2015年5月から2016年1月にかけて月数回通っていた。その姿は「常連」そのものだ。

    カジノでは1回に数万〜数十万円賭けていた。負けた金額は総額約1000万円。NTT東日本のバドミントン部内でも借金を重ね、社内調査によると、借金の総額は1150万円に達する。すでに約650万円分は返済したというが、まだ500万円残っている。

    桃田選手を誘ったのは田児選手だった。田児選手は桃田選手にとって、憧れの選手であり、先輩だ。田児選手は「カジノ賭博に対しての認識が薄かった。遊び感覚で誘った」と話す。桃田選手は2014年10月〜2015年1月、同じ墨田区のカジノに計6回通った。桃田選手の負けた額は50万円だった。

    田児選手も桃田選手も海外遠征でカジノを知った。海外で大丈夫なら、日本でも……。そんな思いから、のめり込んでいったという。

    闇カジノの雰囲気は「自分の印象では穏やかだった」(田児選手)。桃田選手はこう語った。「いけないことだとは分かっていたけど、入ってはいけないところに入る好奇心だったり、少し楽しんでいる自分もいた」「自分もスポーツマン、勝負の世界で生きているので、ギャンブルの世界に興味があった。やめることができなかった」。

    口調は冷静で、落ち着いていた。表情も変えずに質問者のほうを向き、声も荒げない。

    「派手な生活をしたい。いい服を買いたい。それに“ガキんちょ”があこがれてバドミントンを頑張ってもらえたら」「プロ野球と張るような収入が欲しい」(サンケイスポーツ)。そんな発言をしていた選手とは別人のようだ。

    「桃田に対して申し訳ない」

    止める人はいなかったのか?

    会見中盤に出た、この質問に、田児選手は言葉をつまらせた。「(10秒の沈黙)本来なら、自分が止めないといけない……」。ここで声が震える。さらに4秒間、言葉がつまる。「立場で、そういった責任があったと思うんですけど…」。右手でマイクを持っているが、その手はかすかに震えているように見えた。

    言葉を継ぐのに、さらに15秒かかった。「桃田や…後輩のことを巻き込んでしまったのは全部僕なので……自分が賭博をしていて、言うのもあれなんですけど、本当に申し訳なく思いますし…」。ここで一息、吸い込む。「桃田が行こうとしていた時点で止められなかった。彼に対して、申し訳なく思います」。桃田選手はこの間、ずっと下を向いていた。

    「自分を止められない弱さがあった」

    司会を務めた広報室長が「では、桃田のほうからも」とマイクを持つように促す。

    利き手の左手でマイクを持ち、14秒の沈黙。

    「えっとこんなに…」、言葉を詰まらせる桃田選手にカメラマンがシャッターを切る。顔をあげる。「周りの人には、あんまり言わなかったので……(15秒の沈黙)。社会人として、自分で気づいて、正しい行動をしないといけないはずなのに…自分を止められない弱さがあった」

    続けて質問が飛ぶ。「一番の目標は東京オリンピックの金メダルだと聞きます。4年後の自分にかけたい言葉はありますか?」

    言葉がでるのに18秒かかった。「正直、いまはこの先どうなるかわからなくて…正直、4年後なんかまったく見えない」

    田児選手は時折、白いハンカチで涙を拭うが、桃田選手の口調にはあまり変化はないように思えた。しかし、質問に答えるとき以外は伏し目がちで、顔をあげると目は潤んでいるように見える。言葉を継ぐのに時間がかかるようになっていた。

    野球賭博「解雇報道が怖くて、誰にも言えなくなった」

    3月25日、桃田選手は野球賭博問題で揺れる巨人の今シーズン開幕戦で、始球式を務めた。この始球式も、発覚の恐怖とともに臨んでいたことが明らかになる。

    ジャイアンツのようにファンの皆さまから愛され、応援し続けて頂ける選手を目指し頑張っていきます。そして、リオデジャネイロ、さらには東京五輪で頂点を掴みとりたいと思います。(巨人のホームページより、桃田選手のコメントを抜粋)

    「自分も野球賭博の報道をみたときは…」。言葉を切る。マイクを持つ左手の指が少し、緩んだように見えた。19秒間、言葉が途切れる。左手に力が入った。

    「……他人事ではないな、というのが正直な感想で、解雇されたという報道をみたときは、怖くて、誰にも言えませんでした」。

    予定された1時間を超えても、挙手は続く。

    今後について問われた田児選手は、声を震わせながらいう。「自分の立場でいうのもおかしいですけど…」、ここで一度、言葉を切って呼吸を整える。「もう一度、桃田にチャンスを与えてほしい」。

    終始、自分をかばいつづける田児選手の言葉を聞きながら、桃田選手は下を向き、ぐっとくちびるを噛んでいた。

    手元の時計で16時11分、2人は席を立ち、ドアの前で一礼し、会見場を後にした。集まった報道陣は100人超。ドアが閉まっても、シャッター音は鳴り続けていた。