「休まないよ。だってお客さんが来るんだもん」新宿・ゴールデン街は今日も元気に営業中

    火事には負けません!

    4月12日午後、激しい火災が起きた新宿・ゴールデン街。休むお店が多いと思いきや、12日夕方から続々と店が開き始めた。この街に店を出して33年、バー「シャドウ」の名物店主、志野哲寛さん(63歳)は豪快に話す。

    「このくらいじゃ休まないよ。だって、お客さんが来るんだもん」

    午後5時過ぎ、規制線が解除されると同時に、ゴールデン街の一角、バー「シャドウ」の鍵を開ける志野さんの姿があった。アルバイトの女性従業員も続々と駆け寄る。志野さんは「いや〜、大変だったね。知り合いのお店も被害にあったんだよね。うちはやりますよ」

    4月12日、10分遅れの開店

    本来の開店時間は午後5時。翌朝午前6時まで営業する。1月1日から12月31日まで、年中無休である。この日の開店時間は5時10分。普段より、10分遅れただけで、開店した。せっかくなので、私たちはこの日一番のお客となって、ビール片手に話を聞くことにした。お酒が飲めない志野さんはオレンジジュースだ。

    開店準備で従業員が動く。「マスター(志野さん)、きょう電気なかったらどうしようかと思った。冷蔵庫の中身が心配じゃん。でも大丈夫だね。よかった」

    志野さんは「停電するかもしれないな」と思い、ろうそくを大量に持ち込んでいた。

    10人も入れば満席の店内、椅子に座りながら志野さんは語る。一報を知ったのは、自宅だった。近所の人からゴールデン街が火事だと聞かされた。場所はすぐにわかった。

    「僕は根っからの左翼だからさ、簡単に会社勤めなんかしないぞって思って、フランス行ったり、アフリカで通訳の仕事をしていたの。日本に帰ってきて、開けたのがこのお店。もう33年になります。知り合いも多いんですよ」

    火災に遭ったとみられるお店も顔なじみがいるという。

    5時19分、私たち以外ではじめてのお客さんがやってきた。若い男性だ。

    「きょうやってる〜?」

    「やってますよ〜」

    そう答えた志野さんはこう言った。「ねっ来るでしょ」。この後も、続々とお客さんがやってきた。

    ゴールデン街の魅力は「自由であること」

    シャドウの売りは年中無休なことだ。志野さんは笑いながら話す。

    「だってさ、会社に行けないって人もお店には来るんだよ。『具合が悪くて、会社に行けないけど、お店には行きたいな』『ここで話したいな』って。居場所がない人も来るんだ。ぼくは、お店にきて、元気になるならいいと思うんです。そんな場所が、簡単に休んじゃいけないでしょ」。

    志野さんにとって、ゴールデン街は生活の場であり、文化の発信地であり、何よりすごく楽しい「おもちゃ」だ。いつも、お店には演劇人や出版関係者が集まり、夜な夜な答えのない議論を交わしてきた。

    「この街の魅力はいろんな人が集い、自由であること。だから、ここは面白いの」