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良い支援とダメな支援の違いとは?荻上チキさんに聞く

「まだボランティアなんて必要なの?」と思っている、あなたに

まもなく東日本大震災から5年を迎える。あのとき、ボランティアに行った、行こうと思った人は少なくないはず。ボランティアの数は減っているが、ニーズはまだまだ残っている。どんな支援がよくて、どんな支援がダメなのか。大災害とボランティア活動の教訓をまとめた『災害支援手帖』(木楽舎)を出版した評論家の荻上チキさんに聞いた。

被災地ボランティア 減った人員、 無くならないニーズ

「神奈川から福島県南相馬小高地区に行きます。継続して、毎月一回を家屋の片づ け、家財の搬出、草刈などのお手伝いをさせて頂いています。 まだまだ、多くの方の力を必要としています」(NPO法人ボランティアインフォより)

2016年3月、東日本大震災から5年を前に、実際に募集されているボランティア情報だ。全国社会福祉協議会によると、被災3県のボランティアは震災直後、2011年5月をピークに大きくしている。しかし、実際にはニーズはなくなっていないことがわかる。

ボランティアなんていまでも必要なの?

荻上チキさんはこう語る。

「東日本大震災からまもなく5年ですが、まだ様々なボランティアのニーズがあります。震災直後は多くの方が駆けつけました。でも、時間が経つにつれ、現地に行く人は減りました。『もう東北は復興したし、ボランティアなんて必要なの?』と思っている人も多いのではないでしょうか」

現実には復興はまだ途上だ。地域ごとにバラバラのニーズが存在している状態が続いている。震災5年は通過点でしかない。

「ニーズが減った面もありますが、ボランティア募集サイトでは、今でも多数の書き込みがあります。がれき処理など、震災直後のようなニーズが依然として残っている自治体もありますし、除草ボランティアや漁業支援などもあります。関心を持って『普通の支援』を続けるだけで、誰かの助けになれる状況が残っているのです

「善意」だけではダメ

この本の中で、荻上さんは具体的な事例をもとに、支援ノウハウの共有を目指した。なぜか。

「どのような支援が効果的だったのか。あるいは困ったのか。もう一度、可視化する必要があると思ったのです。キーワードは『善意は善行にならず』。よかれと思ってしたことでも、やり方を誤れば迷惑になることがあります」

「まずは、支援をしたいと思った対象のニーズを確認する。現地で活動している団体の情報発信を調べ、それを支援するのが妥当ですが、それすらできていないケースがあったのです」

荻上さんは被災地の自治体職員や、支援団体の証言を集めた。その中には、こんな話もあった。

震災直後の混乱が続いている最中に、「視察をさせてほしい」「支援をしたいから被災者を集めてほしい」などと被災地の自治体職員や支援団体に頼み込む。装備や泊まり先、交通手段の確保なども含めて、現地で迷惑をかけないことがボランティアの大原則だ。大きな災害が定期的に発生しながら、こんな基本すら共有されていない現状が浮かび上がってくる。 

中途半端なまま現地に行っても、かえって邪魔になってしまう。ゴミ出しや、食料の確保なども含めて自己完結できないなら、行かなくてもできる支援を考えたらいいのです」

情報発信だって支援になる

「僕が一番最初に入ったのは、東日本大震災の翌日、3月12日に起きた地震被害が甚大だった長野県栄村でした。津波災害、原発事故が注目された時期でしたが、栄村の地震被害も大きい。この様子をまとめて、ブログで発信すると『やっと栄村の被害が取り上げてられた』という声をもらいました」

「僕は災害支援の専門家ではないので、震災直接は何ができるかわからなかったし、迷いました。栄村にいってわかったのは、大きな災害になればなるほど、<発信される地区>と<発信されない地区>に差が出てくるということ。どんな小さな声でも情報発信をすることで、次の支援につなげることができます。ブログやツイッターで適切な情報発信をするというのもまた、支援なのです」 

物資は賢く送る

支援物資を送ることも有効な支援策だが、方法を間違えると、ここでもかえって被災者を困らせる。

具体的な事例で考えてみよう。衣類が足りないという情報を目にして、服を送りたいと思ったとする。家の中でいらないものを整理する「ついでに」送るものを選び、婦人服、子供服、男性ものをまとめて、家庭にあるだけ送る。

これでは迷惑になる確率が高い、と荻上さんは指摘する

「理由は単純です。まず、なにもかも一緒に詰めて送ったら、現地で仕分けをするコストが発生します。最低限、子供は子供、大人ならサイズ別にまとめて送ることが大事です。また、忘れてほしくないのは『整理ついで』に送られてくるような着古されたもの、個性的なデザインのものは、被災者も着るのを避け、余ってしまうことが非常に多いことです。古いレースクイーンの衣装を送られて、何を考えているんだろう、という声もありました。これでは、『支援ゴミ』を増やして、余計な負担をかけてしまいます」

【拡散希望】も要注意

ツイッターで流れたデマで、『【拡散希望】この自治体が支援物資を求めてます 住所は××』というものがありました。住所として書かれていたのは、被災した自治体です。被災自治体に直接、個人が物資を送ることは、仕分けのコストを増やすため推奨されません。実際、その自治体は、個人からの物資を受け入れていませんでした」

笑えない迷惑物資

「ある音楽係者が人気バンドのTシャツを大量に送った結果、その避難所ではバンドTをみんなで着ることになったという話もありました。送られた人は笑いながら話してくれましたが、あまりに個性的な服が『かぶる』のは、恥ずかしいかもしれません」

ある自治体には「りんご3トン受け取って」という要望もきたという。大量に送ること=善意という気持ちはありがたいが、生鮮食品は腐りやすく、りんごを詰めるダンボールは金具で留められているため、カッターではあけにくい。仕分けの手間も増えるし、送られたところで、現地で無駄なコストを発生させる原因になってしまう。

「ニーズにあわないものを送るのではなく、食品なら、腐りやすいものは避ける。古着ならまとめて支援地でバザーをして、その売上を寄付するといった形での支援を考えるのもいいでしょう。優先すべきは送る側の都合ではない。まずは現地のニーズを把握することが大事だという教訓を導けます」

大きく減った募金

ボランティアとともに減っているのが、募金だ。募金本来の目的はお金で支援すること。もっとも身近で、手軽にできる支援のはずなのだが…。

募金の集まりにもピークはあるのは仕方ないことではありますが、ボランティアと同じように、お金のニーズも5年が経ったからといって減るわけではないのです

どのように募金先を選べばいいのだろうか。

「被災した人に届けたいのか、特定のプロジェクトを支援したいのかで、募金のやり方は変わります」

「前者なら、日本赤十字社への義援金は、時間こそかかりますが被災した人に直接、配られるのでおすすめできます」

「後者なら、本当は自分もやりたいと思っている活動を展開しているNPOなどに支援金を送るのがいいでしょう。自分の関心にあわせて、ひいきの団体を作るのがポイントです」

一つの判断基準になるのは、活動実績とともに、受け取ったお金の使い道を公開しているかどうか。もらったお金の使い方を適切な方法で開示するということは、実務能力が高く、情報公開度にも積極的な団体だと判断できます」

「こうした団体に支援金を送ると、活動報告なども送られてきます。自分が寄付したお金がどう使われるかという楽しみができる。寄付も立派な支援なのです」

「現場の常識」は知られていない

「災害支援手帖」を作る過程で、災害支援に関わるNPOや研究者から何度も聞いた言葉がある。「有効な物資の送り方や困った支援、ボランティアニーズの把握なんてことは、どこでも書いてあることだし、目新しくない」

荻上さんは、この言葉に疑問を持っている。

確かに専門家の間では『常識』かもしれないけど、素人の僕には目からウロコ、この震災で初めて知ったことも多かった」

「なぜ、東日本大震災で支援したい側と受け入れ側で、これだけミスマッチが発生したのか。現場の常識が社会の常識にまでなっていないことがあるからではないでしょうか。具体的な事例から、もっと教訓を共有する必要があります」

ほんとうは大事な「普通の支援」

この本は、次の大災害が起こった時点で、ウェブ上に全文公開することが決まっている。

とかく現場の声として語られがちなのは、専門家も驚く『すごい支援』。でも、それは誰もができることではない。この本に集められているのは、みんなができる『普通の支援』です。変わったことは書いていません」

「だからこそ、まだまだニーズが残っている東日本大震災の被災地でも実践できるし、確実にいつかは起こる次の大災害でもヒントになる。小さな実践の『まとめ
』が、どこかで必ず役に立つと思います」