マイナス金利がわかる! 詳しい人に聞いてきた。

    「ジャンキーにならないように監視が必要」

    新聞に踊る「マイナス金利」の見出し。わかるようで、わからない。 

    だったら、専門家に教えてもらいましょう。日銀の政策に詳しい東短リサーチ社長の加藤出さんに、経済について全く知識のないBuzzFeedの嘉島が聞きに行ってきました。

    <はなしの要点>

    マイナス金利だと、お金を預けると利息を取られる。けど、わたしたちの預金が減っていくことはなさそう。

    目的は、お金を借りやすくして、景気をよくする。でも経済の基礎をよくしないと限界がある。あくまで「痛み止め」。ジャンキーになったらまずい。

    マイナス金利とは?→お金を借りると利息がもらえる。


    「マイナス金利」ってよくわからないんです。私、27歳なんですけど。


    そうですか……。一般的に「金利」は、お金を借りる人が払って、貸す人がもらいます。ただ、マイナス金利になると、借りる人が利息をもらえます。


    えっ。お金を借りて、さらに利息をもらえるってことですか? おいしすぎません?


    そういうことを起こす政策です。借りる人はメリットがありますよね。ただ貸す人は損します。不思議の国のアリスのような倒錯した世界です。

    貯金したら減るの?→減りません。

    お金を借りると利息がもらえることはわかりました。そういえば、マイナス金利って何をマイナスするんですか?


    銀行が日銀の口座に預けているお金の一部分にマイナス0.1%という金利がつきます。一般の銀行が日銀から金利をとられちゃうんです。でも、一般のお客さんに対する金利もマイナスにするかどうかは、各銀行が判断します。

    わたしの銀行預金も減っちゃうってことですか?


    銀行に預けているお金がマイナスになると、一般的には「速攻、下ろす」っていう人が多いはず。すると銀行からお金が流出しちゃうので、個人のお客さんの預金金利はまずマイナスにはしないと思います。

    そんなことしたら、デモします。

    ただ、銀行の収益は圧迫されるので、いろんな手数料を始める可能性があります。手数料がかかる時間帯がのびてるぞとか、あまり投資信託買ってくれてない人からは口座持ってるだけで年いくらか手数料をとる、なんてことがありえるかもしれませんね。

    それって、実質、目減りするってことですよね? やっぱり金庫買いにいったほうがいいんですか? もう貯金なんてしない。

    金庫って何万円もするから。例えば、口座管理手数料が年間数千円だったら、どっちが得かな。

    なぜマイナス金利が必要なの?→景気をよくするため。

    わたしの貯金が減らないなら安心です。じゃあ、マイナス金利って何が良いんです? 効果ってあるんですか?


    単純にいえば「だったらお金借りよう」と思わせる効果です。日銀は景気を良くしたいとき、金利を下げます。


    金利が下がったほうが、たくさんお金を借りれて、大きな買い物ができる!

    企業も投資しやすくなりますね。日本銀行は銀行の親分。日本銀行は一般の銀行に対して、お金を貸したり預かったりする金利の水準を上げ、下げします。それを受けて、一般の銀行がみなさんの預金金利や企業に貸す金利も上げ下げします。魚なら築地市場の価格の動向が、小売店の魚の価格に影響するようにですね。

    なぜ、いま?→円安に戻すため。

    そっかぁ景気をよくしたいんですね。でも景気対策ってずっと前から言ってる。なんで今マイナス金利なんですか?


    今年に入って円が高くなってきました。このままの円高が続くと、輸入する物の値段が下がってきます。日銀は物価をあげたいのでまずいぞと。どうも流れがよくないなということで、日銀は1月に、もっと金利を下げなきゃという判断をしたわけです。

    (身を削ってるように見える)


    個々人の預金はマイナスにはならないとすると、そんなに景気刺激効果はないわけです。「マイナス金利なら金借りて家買うぞ」まではいかない。じゃあ、なぜやっているかというと、一番の隠れた狙いは、通貨の為替レートを安くしたい。日本なら円安。

    なんで円安がいいの?→輸出産業がもうかるから。

    円安にしたいのは、輸出が……増えるから?
    (円が安くなって、ドルが高くなる。海外の人にとって日本のモノは安くなるので買いやすくなるはず)

    おお、そうですね! ま、ここも問題があって、2013年春と比べるとすごい円安になりましたけれども、輸出はそんなに増えていない。


    日本のモノで売れる商品ってなさそうです……。私、Apple大好きだもん。


    おっしゃるとおり。海外の消費者にとって魅力的な商品がない。それと、もう工場が外国に移っているので、輸出はそんなに増えないんです。また、日本の企業は輸出している物を値下げできるんですけれども、あまり値引きしてなくって。

    ケチ!


    いやいや(苦笑) 値下げしちゃうと、為替レートは上がっちゃうかもしれないから。まぁ、ある程度下げているんですが、円安ほどは下げていない。なので、もし同じだけ売れていれば、利益は厚くなります。だから、日本の多くの企業はバブル期を上回る過去最高収益をあげています。

    円安で輸出が増えてみんなハッピー?→そうでもない。

    円安で企業がもうかることはわかりました。でも、景気回復は実感ないです……。


    日銀がやってきた緩和策で、円安が起きて、過去最高収益の大手輸出企業が増えたというのは事実です。けれども、問題はその利益が広く日本全体になかなか広まらない。

    私のところまで利益が全然回ってこないんですが! ちょっと怒ってます!


    結局、もうかったお金は広くあまねくドンドン循環していかない。将来の不安もあったりして。だから、今もうかっている金を大盤振る舞いしないで、抱えちゃうわけですね。

    マイナス金利で円安に戻しても意味ないじゃん?→限界がある政策。

    なるほどぉ、マイナス金利で円安になると、企業がもうかると。でも、わたしたちにお金が回らないと、景気って回復しないですよね? 日銀のがんばりを無駄に……


    そうです! イソップ物語に「北風と太陽」という話があります。この間、読み直したんです。

    (経済のプロはイソップ物語を愛読しているのか)


    北風と太陽がどちらが強いか自慢し合う。通りかかった旅人が服を着込んでいるんで、「あの服を脱がせたほうが勝ちにしよう」と決めます。北風が風を吹かせたら、彼は逆に寒がっちゃって、着込んじゃった。太陽が温度を上げていったら、脱いでいった。経済でも「金利が低いんだから何かしろ。早くものを買え」と北風を吹かせても、将来に不安がある人たちは買わない。無理やり金利を低くして、消費や投資をしろといっても、経済の基礎的な部分に対するイメージをよくしていかないと限界はあるわけですよね。

    なぜマイナス金利だけで景気回復しない?→少子高齢化という問題。

    マイナス金利には限界があると。じゃあ何が問題なんです?


    企業はあまり日本に投資しようとしない。日本は働く年齢の人口がドンドン減っていきます。消費のパイが縮むわけです。輸出企業を中心に空前の利益だけど、海外企業を買収したりとか、外国に投資しているんですね。

    日本国内は眼中にないってことですね。つら……。


    そういうことですね。日本は人口が減っていく厳しい状況です。人口増やすのは難しいですけども、人口が減っていく悪影響を和らげていく対策も必要ですね。アメリカは、ミレニアル世代(1980~2000年生まれ)が人口の塊としてベビーブーマー世代よりも2割ぐらい人口が多い。ここが消費の中心になってきています。世界の企業が関心はそこの消費をどう攻略するかにあり、積極的に投資するわけですね。

    景気回復に必要なのは?→本質的な構造改革。

    少子高齢化はやばいですね。マイナス金利だけじゃどうにもならない気がしてきました。


    あくまで全体の政策のサポートで、もっと本質的な構造改革が必要だということでしょうね。


    アメリカは移民も受け入れてますよね?


    その通りですね。しかも、シリコンバレーは世界中から一番優秀なIT技術者をがばがば抱えて、世界選抜でやっている。日本はそういう人は来ないから、オールジャパンでがんばっても差がついちゃう。


    日本も移民に対してもっと積極的になればいいのに。


    一つではありますね。「一億総活躍」するにもある程度必要だと思うんです。とくに女性に対して「働いて産め」っていうのは負担が異様に大きい。香港、台湾にいくと、東南アジアからお手伝いさんの移民を受け入れて、家事をやってもらって、共働きしている。せめて、そういうのもないとね。場合によっては、ロボットの活用もあります。

    景気回復に必要なのは?→起業しやすくする。

    経済全体をよくするには、移民やロボットが必要かもしれないんですね。ほかにも大事なことは?


    日本は会社を起こそうとすると、まだ規制が多い。金利だけは低いんだけど、若い人が新しいビジネスをやりやすい環境になっていない。例えば、私の学生のころの人気就職先ランキングと去年のランキングを比べると、ほとんどメンツが変わらない。アメリカだったら、全然違うわけね。


    GoogleとかApple!


    とかFacebookとかいるわけで。日本はやっぱり新陳代謝が低くてね。


    若者の活躍が阻まれている!


    ははは(笑)構造改革っていうのは、利権をもっている人に打撃を与える面もある。だから、収益が悪化したり、失業者が出たりするセクターもあるわけです。マイナス金利政策みたいな徹底した緩和策が、経済の構造改革をする痛みを和らげるならいいんです。会社を起こしやすくして、新しい会社が失業した人を吸収できるための金融緩和策ならいいと思うんです。

    マイナス金利には副作用がある?→モルヒネかも。

    企業を新陳代謝させて景気をよくするにはマイナス金利も役立つってことですね。でも、副作用ってないんですか?


    最悪なケースは、日銀は国債(国の借金の証書)をいっぱい買っているし、マイナス金利なので国は借金をすると利息をもらえるという状態になってきた。そうすると「じゃあ、このままでいいじゃん」っていう話に段々なってくる。

    麻薬みたいですね。


    おっしゃるとおり。金融緩和策は痛み止めのモルヒネなんです。モルヒネを打ちながら改革を進める規律が働けばいいんだけれども、ただモルヒネを打ってると……


    ジャンキーになってしまう。

    そうそう、モルヒネの効きが悪いから、もうあと3本打ってみたいなジャンキーの世界。結局、若い世代につけが回されるので、それはよくないですよね。

    まとめ

    というわけで、マイナス金利政策は、みなさんの預金がマイナスになるわけじゃなく、慌てて金庫を買いにいかなくてもいいということでした。

    マイナス金利は、景気をよくするためにやっているけど、根本的な治療にはならないそうです。マイナス金利の一本足打法じゃなくて、少子高齢化の対策をしたり、起業がしやすいようにしたり、地道な努力が必要だとわかりました。

    マイナス金利のモルヒネを打ち続けて、日本経済がジャンキーにならないように、みんなで、しっかりと監視、議論をしていかないといけませんね。